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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫
一章 純愛編

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五十七話 強くなればいいというものでもない

「ただ、問題が何もないわけじゃないわよ」


 よほど近くにいない限りは僕の気配だけでアリサのように惹かれることはない。それが確認できてほっとする僕にしかしマナカは水を差すように言った。


「えっと、問題って?」

「アキはさ、強くなる気があるんでしょう?」

「…………それはまあ」


 色々と横道にそれたせいでまだ全然できていないが、島の外へ出るためにも僕は強くならなければならないとは考えていた。ノワールさんにはチート能力を貰った他の転生者に追いつくのには膨大な時間がかかるとは言われたが、それでもやらないよりはいい。


 魔王には挑めないにしても、そこらの魔物から自衛できる程度には強くなっておくべきだろう。


「正直に言えば私もアキには多少なりとも強くなって欲しいとは思っていたわ。私やノワールが守るにしてもある程度自分で自衛できる方がいいには決まってるしね」


 僕がどれだけ努力しても転生者や魔王にすぐに並び立つことはできない。結局は二人に守ってもらうしかないのだけれど、本当にどうしようもない相手以外は自衛できるなら二人の負担だって減るのだ。


「うん、お兄ちゃんはちょっと強くなった方がいいとアリサも思うよ…………だって今のお兄ちゃんならアリサでも勝てちゃうもん」

「え、まさかそこまで弱くは…………」

「残念だけどその通りよ」

「え」

 

 アリサを肯定するマナカに僕は固まる…………え、僕って十歳くらいの女の子にも勝てないくらいなの? 確かに僕は戦闘の訓練なんかしてないけれど、日頃の農作業とかで体力とかはあるし、訓練してないのはアリサだって同じはずなのに。


「弱くても、いいのよ?」


 助けを求めて視線を向けたノワールさんに僕は止めを刺された。


「…………強く、なろう」


 それで覚悟を固める。他にやるべきことがあったからとか言い訳はしないで一日に訓練する時間をとろう。マナカだって僕が強くなった方がいいと言っているのだし、どういう訓練をすればいいかはアドバイスしてくれるだろう。


「それなんだけど、却下ね」


 それなのに、なんだか理解できない単語がマナカから放たれる。


「え、却下……って?」


 それは僕が強くなることが却下という意味だろうか? 他に解釈しようがないからこそ理解できない。


「僕は強くなっちゃだめってこと?」

「その通りよ」


 念のために確認したが即答された。


「な、なんで?」


 僕にはその理由が全くわからない。


「さっきの話に戻るけど、アキはその気配だけで相手を惹きつける可能性があるのよ」

「それはわかってるけど…………今のところ問題ないって話じゃ」


 気配……魔力感知で探るのは基本的に大きな魔力を持つ者からで全ての魔力を精査するなんてことはないらしい。だから僕のような小さい魔力の人間は他の一般人と紛れてしまうからアリサのように距離が近くない限りは意識されることがないはずだ…………あ。


「もしかして…………僕が強くなるってことは、魔力が強くなる?」

「その通りよ」


 まさかと思ったがマナカははっきりと頷く。


「この世界で強くなるっていうのは魔力を高めるということなの。もちろん筋力トレーニングとか体力作りも必要よ? でもそれらを結局は魔力を使って強化して戦うというのがこの世界の常識だわ」


 それは以前に説明されて僕も覚えている。魔術使いでない戦士であっても魔力で戦うのは変わらないのだと。彼らは魔術を使う代わりに魔力で身体能力を強化する。だから強化元である基礎能力を向上させることにも意味はあるが、同じくらい魔力を伸ばすことも重要であるとマナカは言っているのだ。


「でもアキが魔力を伸ばすということは相手に見つかりやすくなるってことよ」


 そう、そうなのだ。僕が遠くからであれば魔力感知で見つかることないというのはあくまで僕の魔力が一般人と変わらない程度であることが前提だ。僕が強くなってその他多数から飛び出てしまうと魔力感知で精査されるようになり…………もしも相手が僕に惹かれる条件も満たしていればアリサのように会いに来てしまうだろう。


「え、じゃあ…………どうすれば?」

「どうもこうも」


 思わず尋ねる僕にマナカはきっぱりと告げる。


「アキは今のままでいるしかないってことよ」


 つまり僕は強くなってはいけないのだ。


「…………えぇ」


 僕は思わず呻く。おかしい、僕がやろうとしたことはなぜ実行する前に潰えていくんだ。島を出ようとすれば出るべきではないとなり、強くなろうと思えば強くなるべきではないという結論が突きつけられる…………ここ最近自分でやるべきと決意したものが全て頓挫するどころかマイナスになっている。なんだこれ。


「ええと…………アキ君が本気で強くなりたいなら、強くなればいいのよ?」

「それが駄目って話を今したばかりじゃないですか…………」


 慰めるようにノワールさんは言ってくれるが、それは駄目なのだ。


「それで変な虫がいくら寄って来ても、お姉さんがどうにかするわ」

「どうにか、って…………」


 そりゃあノワールさんならどうにかできるだろうけど、そのどうにかの内容が問題だ。意見を求めるようにマナカを見ると彼女も静かに頷く。


「まあ、どうしても強くなりたいなら私もどうにかしてあげるわ」


 だからそのどうにかってどうするんだというのが聞きたいんだけど。


「アリサもどうにかするよ!」


 意味がわかっているのかわかっていないのか、アリサも手を挙げて元気に叫ぶ。


「だからその、どうにかっていうのは…………」

「どうにかは、どうにかよね」

「どうにかするってだけよ」

「どうにかするの!」

「…………」


 答えてくれないのに三人とも笑顔だ。三人とも…………いやアリサはまだよくわからないけど少なくともノワールさんは一貫して僕に嫌われない対応をとっている。

 だからこそ彼女はマナカにこの島に入ることを許したし僕が襲われた時も殺さずに取り押さえて説得する選択をした…………そんな彼女も僕に明言を避ける方法をとると言っているのだ。


 それはつまりやって来るのが一人二人で済まないから手段を選んでいる余裕はない、ということだろう。冷静に考えればマナカやアリサのように延々と僕の周りに異性を増やしていくわけにはいかないのだから。


「ええと、僕は当分弱いままで…………います」


 我ながらこの宣言はなんなんだと思うけれど、他に選択肢がなかった。


 どうやら僕は島を出ることも許されず、強くなろうとすることすら許されなくなったらしい。


 お読み頂きありがとうございます。

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