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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫
一章 純愛編

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五十五話 立ち止まってくれれば話は通じる

「あなた、家族は好き?」


 まず私はそうアリサに尋ねた。


「…………好きだよ」

「そう」


 その答えは嘘ではないだろう。町長や彼女の両親と話した印象でもアリサは大切にされている。それに加えて町一番の権力者の孫娘ということもあって多少わがままに育ってしまっていたようだが、それでも他者を傷つけるほど自分のわがままを通すほどではなかったようだ。


「そんな好きなはずの家族に対してあなたはほんの少し前にどんな感情を抱いていたかは覚えてる?」

「…………」


 アリサは押し黙って答えない。思い出せないのではなく思い出したからこそ答えることができないのだろう…………つまりそういうことだ。


「誰かを好きになる感情っていうのはとても強いわ」


 アキに対してのそれは普通の感情とは桁違いではあるがそれは口にしない。


「それは強すぎて別の感情を押し隠してしまう…………でも、今あなたが気づいたようにその感情が無くなるわけではないの」


 アキに会いたいという一番強い感情を邪魔されれば腹も立つだろう。そしてそれはすぐに積み重なって殺意へと変わりその感情のまま行動に移る…………しかしこれまで家族と過ごしていた記憶がそれで無くなるわけではない。


 冷静になれば家族が自分を大切にしてくれていたことを思い出すだろうし…………後悔するだろう。


 もっともそれで後悔できないような人間であれば幼かろうが殺すしかない。


 私だってできればアリサを殺したくはないけれど、一方的な感情のために自分の家族を殺してしまえるような奴はもはや怪物だ。それもアキという存在に出会ってしまった故のことといえばその通りなのだけど、出会う前に戻れない以上は他にしようはない。


「後で取り返しのつかないことになりたくなかったら、その感情を抑えることを学ばないと駄目よ」


 それでも公開できるならマシで、感情に呑まれればどうなるかは私自身で体感している。歯がゆいけれどあの時ノワールに留められることがなかったら、私は死んだ仲間たちのことすらどうでもよくなっていただろう。


「我慢、できない」

「するのよ」


 私は有無を言わせず告げる。


「出来なければあなたはアキに嫌われる」


 そして一番効くであろうと単語を口にした。


「!?」


 それにこれまでで一番の衝撃を受けたようにアリサが目を見開いた。


「当たり前でしょう? 自分の感情を優先して好きだったはずの家族を殺すような女をアキが好きになるわけないじゃない」


 そんなものアキに限らず大抵の男が好きになるわけがない。


「…………お兄ちゃんに、嫌われたくない」

「そうね、でもさっきも言ったようにあなたはもう彼に嫌われるようなことをしてしまっているの。アキは優しいからそれでもあなたを嫌っていないし受け入れるつもりではあるけれど…………それに甘えるだけでは好きにはなってもらえないわ」


 それに付け加えるならアキは身が固い。それは一般的な良識を持っているからなのだけど、私が食い込むためにはそれを捨ててもらわなくてはならない…………本当は嫌だけど。


 どうにか彼を独占したい気持ちは私にもあるけど、ノワールという壁が強大すぎるのだ。


「それでだけど、あなたに必要なのは相手を思いやる気持ちよ」

「…………思いやる?」

「アキのことが好きなんでしょう?」

「うん」

「だったら彼の嫌がることをするべきではないのはわかるわよね?」

「…………うん」

「ならそれを守ればいいだけよ」


 言葉にしてしまえばたったそれだけなのだ。自分の感情を優先せずにアキが嫌がらないことを優先する。それだけで大抵の無謀な行動はできなくなる。


「できる?」

「…………わかんない」


 尋ねる私にアリサは首を振る。


「今は大丈夫、だけど…………お兄ちゃんに会ったら、抑えきれないかも」

「それが自覚できたならまず一歩前進よ」


 感情に流されるだけではなく、冷静にそれを見る自分を作れたということだ。


「大切なのは想像力を働かせることよ。そのまま行動すればどうなるかを常に想像することを心掛けるの…………そうすれば自然と理性が働くわ」


 まあ、私はそれができなかったのだけど。


「頑張る、けど」

「まあいきなりやれと言っても難しいわよね」


 ただでさえ子供というのは感情の抑えが効きにくい。多少の冷静さなんて膨れ上がった感情にすぐにかき消されてしまうだろう。


「だからこれから私の力であなたの中の理性や冷静さというものを固定するわ。そうすればあなたはどんな状況でも冷静さを失うことはない」


 それは私自身がやっていることだ。


「それなら」

「ただし」


 すぐにでもと口にしようとしたアリサを私は遮る。


「ただそれは失わないだけで感情を完全に制御できるわけではないの。感情が強ければ結局冷静さが残っていても押し流されてしまう」

「…………じゃあ、意味ないんじゃ」

「それでも冷静さが残っていれば持ち直せるわ」


 そのままであれば感情のまま終わりまで突っ走ってしまうだろうが、冷静さが残っていれば何かをきっかけに止まれる可能性がある。


「大事なのは自分の中にある冷静さを常に意識してその先を想像すること。よりよい未来を掴みたいならよりよい選択をすることが必要よ…………アキのための、ね」


 自分ではなくアキのため。その意識が肝要だ。


「当面はアキに嫌わないためにはどうすればいいか、それだけを考えておきなさい」

「…………わかった」

「素直でよろしい」


 多少話して落ち着いたのか、アリサの私に対する態度も多少は和らいだように思える。


「ああそうだ」


 私はひとつ重要なことを思い出す。


「これだけは絶対に守らなくてはならないってことが一つあるわ」

「…………それはなに?」


 尋ねるアリサに私は自分自身への自戒も込めて答える。


「ノワールには逆らうな」


 お読み頂きありがとうございます。

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