四十七話 当て馬にされて終わるような女ではない
「状況を整理しましょうか」
僕はマナカによってノワールさんと彼女に二股するように要求されている。しかし僕はマナカの案によってノワールさんを意識してしまいそれに抵抗を覚えた…………そんな僕の様子に彼女は状況を再確認しようと口にする。
「まず、私たちの目的のためにはノワールを篭絡する必要があるわね?」
「…………そうだね」
マナカは仲間の仇を討つためにも魔王を討伐したい。そして僕も彼らに対する罪悪感からそれに協力したいと考えている…………その為にはノワールさんの協力が必要なのだ。
自由に力を使うのには制限のある彼女だけど、それでもなおどうにかできるだけの力をノワールさんは持っているというのがマナカの見解だ。そしてノワールさんもそれを否定はしなかった。
ただ問題はノワールさん自身にはその気がないということ。だから彼女の協力を得るために唯一説得の可能性のある僕のことをより好きになって貰おうというのが今回の話だ…………改めて言葉にしてみると最低としか言いようがない。
だからこそせめてノワールさんに対する気持ちだけは本物でありたいとマナカの提案に乗って…………それがうまくいったからこそ二股に対して抵抗が生まれたのだ。
「だけど私もあなたに一目惚れしてしまって…………ただ目の前で二人が仲睦まじい姿を見せられるだけとなればどうなるかもわかるわよね?」
「…………わかって、いるけど」
もちろんマナカの方も構わなければ彼女が嫉妬に狂って暴走してしまう可能性は理解している…………理解しているのだけど僕の中の常識がそれを拒絶する。
「まあ、そんなあなただから私も彼女も好きになったんだとは思うけどね」
「それなら…………」
「ただ、アキはひとつ勘違いしているわよ」
「えっ」
なにを、と疑問を浮かべる僕にマナカは人差し指を突き付ける。
「あなたが二股を嫌がるのはつまるところノワールに申し訳なく感じるからなのよね?」
「…………まあ」
ノワールさんに対する罪悪感を覚えるのだからそういうことではあるだろう。
「それはつまり二股を知られたらノワールが嫌がるってことよね?」
「…………普通は嫌だと思うけど」
二股を認めるほうが稀だろう。
「だから間違ってるのよ…………ノワールは普通かしら?」
「…………」
普通ではない。普通ではないが、いやしかし…………あれ、でも思い出してみたら似たような話をノワールさんともした気がする。あの時は確か別の女の子を好きになってもいいというような話をされたのだ。最後に自分のところに戻ってくれさえすればいいからと。
「心当たりがあるみたいね」
そんな僕の顔色を読んだのかマナカが僕をじっと見る。
「というかぶっちゃけて話しちゃうけど私との二股に関してなら本人から許可が出てるわ」
「は?」
「だから私があなたと男女の関係になってもいいってノワールから許可を貰ってるの」
「!?」
強い衝撃を僕は受けた。本人から似たような話をされていても実際に許可を受けたと言われるとなんだかノワールさんから突き放されたような感覚を覚える。彼女の中で僕の価値が独占するほどでもないのかと思えてしまったからだ。
「そういうところがノワールにはわかってないのよね」
そんな僕の反応を見てマナカが冷ややかに言う。
「多分だけど、ノワールは私のことをちょうどいい例になるとでも思ってるのよ」
「…………ちょうどいい例って?」
「アキは今不老不死になってるのよね?」
「不老不死っていうか…………不老だけって感じらしいけど」
不死ではなく年老いないだけで死のうと思えば死ねるとノワールさんは説明していた。ただ老いなくなり寿命で死ぬことがないだけだと。
「つまりあなたがノワール以外の誰と恋仲になったところでその相手はあなたよりも先に老いて死ぬの…………そうなればショックよね?」
「…………」
そりゃあショックを受けないはずもないと思う。
「そんな傷心のあなたにノワールは言うわけよ…………自分ならあなたを置いていくこともなくずっと隣にいられる、ってね」
つまりノワールさんは寿命の差による悲哀を僕に体験させることで同じ永遠の命を持つ自分の価値を僕に実感させる心づもり…………で、あるらしい。
それはやり方を間違えれば決定的な決別を招きかねないが、適切にタイミングを選べば確かに僕はノワールさんをかけがえのない存在として受け入れるだろう。
そしてノワールさんはそのタイミングを待てるはずだ。
「つまり、ノワールさんはマナカがどうせいずれ僕より先に死ぬから許したってこと?」
「そうなるわ」
「…………でもマナカも寿命はないようなものだったんじゃ」
確か年齢を固定していると言っていたはずだ。実際に彼女の見た目は転生した十年前から変わっていないという話だった。
「そうね、でもノワールから見れば完璧じゃないってことじゃない? いずれ自分たちより先に私が死ぬことを多分確信してるのよ」
だからどうせ先に死ぬ存在として許した。
「でも、それって短いわけでも……ないよね?」
少なくとも普通の人間の寿命よりも遥かに長くマナカは生きるはずだ。それこそ普通の人間であれば百年そこらで済むことを、マナカを選べばその何十倍とノワールさんは待たされることになる。
「その方が効果的って思ってるんじゃないの? それこそ私ならアキはいつか私が死ぬなんてことも意識しないくらい一緒に生きるわけでしょ? それくらい一緒に生きてから私が死んだ方が喪失感は大きいわ」
そしてその喪失感の大きさはそのままノワールさんに対する感情になる。
「そこまで、するかな」
「するわよ」
思わず口にした僕の疑問にしかしマナカは断言する。
「普段は私たちに合わせてるけれど、結局のところ彼女と私たちの感覚は違うのよ。ノワールにしてみれば百年待つのも数千年待つのも大差ない…………より長く待った方が効果は高いならそっちを選ぶわけなの」
それこそ永遠に生きる存在であるからこその感覚だ。
「で、長々と話したけど重要なのはただ一つ…………私の存在をノワールは認めているという事それだけよ」
自分が寿命を持つ人間の儚さを僕に教えるための例題と扱われながらもマナカは全くそれを気にしていないようだった…………むしろ好都合とすら考えているのがその表情には現れている。
そしてそれには明らかにノワールさんに対する挑戦的な感情が含まれていた。それに僕が気づいたのがわかったのかマナカはニっと笑う。
「あの女には私がただで死ぬ女じゃないといつか教えてやるわ」
それがどういう意味でのことなのかは僕にはわからない。単純にその予想を覆して生き続けてやるという意味なのか、死ぬ前にノワールさんに痛い目を合わせてやるという意味なのか…………自分が死ぬときに僕を道連れにして目論見を崩してやるという意味なのか。
「まあ、頑張ってね…………」
僕には他に言えることはない。
ただ願わくば、前世のトラウマを持つ僕としては道連れだけはやめて欲しいなと思う。
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