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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫


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三十七話 やりたいことと望む結果が結びつくとは限らない

「まず確認しておきたいのだけど、アキはこれからどうしたいのかしら」

「これからっていうと…………」

「大きく分けるならこの島を出たいのか出たくないのかということね」


 具体的にそれが何を指しているのか迷う僕にマナカはそう提示する。


「昨日私はあなたを勧誘しようとしたけれど、それは私へのノワールの態度に対する反発でもあったしあなたの目的を探る意味もあったわ…………まあ、後者に関しては私の勘違いだったわけだけど」


 昨日の昼にノワールさんを勧誘しようとした際には、マナカはずいぶんとノワールさんにやり込められていた。

 だからそれに反発する気持ちはわからないでもないし、あの時は僕が彼女を洗脳しようとしているのではと疑われていたから反応を探るというのも納得できる。


「つまるところ私はあなたの事情を考えることなく誘った形ね…………だからまずその辺りを確認しておきたいの」


 そういえば僕が答えあぐねている間にノワールさんが口を挟んでうやむやにしてしまったから、僕は自身の意思を何も口にしていなかった。


「だからまず尋ねるのだけど、外の状況とか転生者の使命とかを抜きにしてあなたはこの島を出たいと思っているのかしら?」

「それは……………」


 僕は考える。正直なところ僕はこの十年で島を出ることを考えたのはつい最近のことだ。もちろんそれは外への興味を失うようにノワールさんが魔術をかけていたのもあるだろうけど、そうでなくとも外に行きたいとは思わなかったように思う。


 ノワールさんの魔術が解かれて転生者たちの現状を聞いたことで僕は島の外へ行かなくてはならないと考えたけれど、それは死んだ転生者たちに対する罪悪感からのものであってこの島を出て外で暮らしたいと思ったからじゃない。


「…………出たいとは、思っていないと思います」


 僕にとってこの島はとても居心地がいい。前世に比べれば不便ではあるけれど自給自足の生活は僕に合っていたようだ。

 トラウマから立ち直った今になっても外へ出ていろんな出会いをしたいとは思えないし、ノワールさんもいるから今後も島の生活で困ることもないだろう…………彼女に甘えすぎと言われればその通りで何も言えないけれど。


「僕はノワールさんが説明してくれたように神様からの使命も力も拒否しました。それは僕の前世の死因もあって人から注目されるようなことをしたくなかったからです」

「その気持ちは理解できるわ」


 マナカは僕が友人だと思っていた人たちに殺されたことを聞いている。だからそれであれば僕が今世で隠遁を選んだことも仕方ないと思ってくれているようだった。


「でもノワールの話だと最近あなたは島を出ることを考えていたのよね?」


 ノワールさんから聞いていたのかマナカが尋ねる。


「はい…………魔王討伐に挑んだ転生者たちが全滅してしまったと聞いて、それで僕もやっぱり何かできることをするべきなんじゃないかと思って」

「つまり罪悪感に囚われたのね?」

「…………そうです」


 その生き残りであるマナカからすれば腹が立つようなこともかもしれない。僕は使命を受けることもなくこの島で安穏と暮らしていて、彼女たちが全滅したことを聞いて初めて恵まれた立場の自分に罪悪感を覚えたのだ…………つまり僕は世界のためとか死んだ転生者たちのために行動しようと思ったわけじゃない。

 自分の中にある彼らに対する罪悪感を打ち消したいだけ、つまり全部自分のためなのだ。


「まず言っておくけれど、私たちが使命を果たそうと魔王に挑んだのは私たち自身の意思によるものなの。あなたがあなたの選択をしたように私たちは私たちの選択をしただけ。あなたの選択が私たちに影響を与えたわけではないのだから、そのことであなたが罪悪感を抱く理由は無いわ」


 僕がどこで何をしようがマナカたちは同じ選択をした。だから気にすることなどないのだと彼女は言う。


「でも」

「必要以上に私たちをあわれむのは、それこそ私たちの覚悟を侮辱する行為よ」

「……………」


 当事者であるマナカからそういわれてしまうと僕にはもう何も言えない。


「ノワールにはいろいろ言われたけど、私たちは使命を果たさないという選択肢もあったうえで自ら果たすことを選んだの。その覚悟は最後その瞬間まで変わらなかったわ…………だから私たちの行動に罪悪感を抱かないで。私たちは私たちの意思で行動して敗北したの。そこにあなたという要素は関係ない」


 僕がもしもあの時ああしていたらという考えは、マナカの誇りを侮辱ぶじょくする行為にしかならないのだろう…………確かにそうだ。そんなことを後から言われたところでマナカからすれば怒りしかわかないだろう。


「…………ごめん」

「気にしないでって言っているでしょう?」


 そのことで僕が気に病むそれ自体が侮辱になる…………難しい。どうしてもマナカに対する申し訳なさが僕の胸には湧いてくる。


「まあ、簡単ではないわよね」


 するとマナカが苦笑するように僕を見る。


「一度抱いてしまった罪悪感ってそう簡単に消えるものじゃないわ…………私が仲間たちに託された思いを果たしたいのだって、一人生き残った罪悪感によるものだもの」

「…………マナカ」

「だからそれを消すために行動したいっていうあなたを止めるつもりはないわ。私や仲間たちに自分が何もできずに死なせてごめんとか言い出したらぶん殴るけど」

「…………言わないよ」


 流石にそれは無神経に過ぎる。


「それで話を戻すけど…………アキは島の外に出て魔王討伐に協力したいってことでいいのかしら?」

「…………ええと、はい」


 改めて尋ねられて僕は頷く。昨日は躊躇ってしまったが気持ちの整理ができたからなのか今度はきちんと頷くことができた。

 神様から力を貰わらなかった僕に何ができるかはわからないが、それは外の状況を知るマナカを相談すれば見つかるかもしれない。


「つまり私が島の外に戻る時に一緒に行きたいってことね?」

「そうなります、ね」


 現状で僕は自力で島の外に出る手段がない。ノワールさんは協力しないと明言しているし、彼女の機嫌を損ねたくない町の人たちも協力してくれないだろう。そうなると自力でこの島にやって来ることのできたマナカに頼むほかはない。


「わかったわ」


 マナカはそれに頷き


「断固として拒否するわね」


 きっぱりと断って来た。


「え、ええぇ」

「驚くような話じゃないじゃない」


 梯子はしごを外されたような表情をする僕をマナカは見つめる。


「あなたを外に連れて行くってことはいつ爆発するかもわからないような爆弾を連れて行くようなものよ? そのことは私自身が証明してしまっていると思うのだけど」

「…………そうです、ね」


 それはノワールさんからも指摘されていたことだった。外で多くの人と接触することによってマナカのようなことが何度も起きれば迷惑なんて話ではない。

 それこそ魔王を討伐するための組織がその行動の前に崩壊してしまう可能性だってあるだろう…………僕のせいでそんなことが起こるなんて信じたくはない。信じたくはないのだけれど。


「そういう意味では、あなたはこの島にいることが一番の貢献になるわね」


 危険物は無暗に外に出ないのが周囲の安全に貢献する。


 それは事実かもしれないが僕としては暗澹あんたんとした気分にならざるを得なかった。


 お読み頂きありがとうございます。

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