三十六話 そういうものだと受け入れるしかない
「えっとそれはマナカさんの言っていたような洗脳能力があるわけでもなく、ですか?」
僕が特定の異性を惹きつけるという魅力。改めて尋ねたそれを肯定されたにもかかわらず確認してしまったのは、改めて考えて見るとやはりその僕の魅力というものが納得しがたいものであるからだ。
前世の彼女たちやマナカを思い出すとやはりその反応が苛烈すぎる。もちろん人が愛憎によって過激な感情を発露させることは理解しているけど、それにしたってその反応があまりに大きすぎるだろう。
前世の彼女らは幼馴染でありその長い時間で育んでしまったのだと理解できるけれど、マナカに至ってはほぼ初対面の状態なのだ。
自分が洗脳されたと疑った彼女の気持ちも理解できる。
「ええ、アキ君本来の魅力、なのよね」
しかしそれはただ純粋に僕自身の魅力なのだとノワールさんは断言する…………駄目だ、納得できない。
「納得できない、かしら?」
心境を見透かしているようにノワールさんが尋ねてくる。
「…………はい」
僕はそれに素直に頷いた。何というか理不尽に思えるのだ。
「奇跡の造形、とあれはアキ君のことを表現していたのだけど…………つまるところ、それだけのことなのよ?」
僕は偶然特定の異性をものすごく惹きつけてしまう顔で生まれて来ただけ。そもそも生まれた時から美形であるかそうでないかの違いのようなものでしかないのだとしたら…………やはり何とも言えない理不尽さを覚えてしまう。
「ああ、これはマナカにも言ったことだけれど…………別に外見の話だけでは、ないのよ?」
付け加えるようにノワールさんが言う。
「奇跡の造形というのはアキ君外見だけではなく内面やそれこそ魂の色や形なんかすらも含めての話、なのよ? そういう外見以外の部分も含めてアキ君という人間を一目で感じ取れるのが必然的に能力の高い異性になる…………と、言うだけの話なの」
「えっと、つまり?」
「お姉さんもマナカもアキ君の外面だけを好きになったというわけじゃないの。アキ君のいいところはその内面も含めてきちんとわかっていて、その全てを好きになってしまったというだけ、なのよ?」
「そう、ですか…………」
それを聞いてすっと胸の中に渦巻いていた感情が少し薄れた様に感じられた。僕を外見だけで好きになって、僕のことを何の理解もしないままあれだけのことをされたと思えばものすごく理不尽に思えるが…………そうでないのなら多少は納得できる。
許容できるかどうかはまた別の問題ではあるけれど。
「答えとしては適切、だったかしら?」
「はい、ありがとうございました」
完全ではないにせよ胸のもやもやも多少は安らいだ。問題はその事実を完全に受け入れると僕が島の外へ出ることは難しいと理解するしかなくなることだけど、まず現実を受け入れなくてはその対策だって考えることもできないだろう。
僕はその為の気力を得るように、まだ残っているエッグトーストへと齧りついた。
◇
「こんにちは」
昼になるとマナカが再びノワールさんの家へとやって来た。ノワールさんと朝食を一緒にしていた時にそれは聞いていたので、僕も昼前にはノワールさんの家へといって待機していた。
「こんにちは」
「こんにちは、よく来たわね」
ノワールさんもそれに応じてマナカに椅子を勧める。
「ありがとうございます」
礼を言って椅子に座るマナカのその表情にノワールさんに対する敵意はないように見えた。話し合いは穏便に済んだとノワールさんは言っていたが、その言葉通りお互いに納得して話を終えたのだろう。
別にノワールさんが嘘をついていると思いはしていなかったが、こうしてその結果を目で確認すると安心する。
「…………」
「…………」
「…………」
しかしマナカが席に着くとしばしの沈黙が起こる。僕はそもそも話を聞きに来た立場でしに来た立場ではなくそれはノワールさんも同様だ。だから話を始めるならマナカからだろうと思っていたのだけど、そのマナカも口を開くタイミングを計っているようだった。
「話を始めて、いいのよ?」
そんな彼女へと促すようにノワールさんが尋ねる。
「では」
それにマナカが頷く。どうやらマナカはノワールさんの許可を待っていたようだ。昨日訪ねて来た時はかなりぐいぐいと迫っていたのに、昨日の話し合いで完全に二人の間の格付けができてしまっているようだった。
「まずはアキ、あなたに謝罪します…………昨日は本当に申し訳ありませんでした」
マナカは立ち上がると僕に深々と頭を下げた。
「え、ええと」
「勝手な決めつけであなたを殺そうとして本当にごめんなさい。本来であればこんな謝罪で済むような話ではないけれど……………今の私には他にできることが無いわ」
「…………」
そういえば僕は昨夜マナカに殺されそうになったのだ。ノワールさんが僕を守って誤解を解いたから何事もなく済んだけれど、彼女がいなければ彼女は止まることはなかったかもしれない。
それを考えればまず謝罪をするのは当然の流れだ。
「もちろん私にできることがあればなんだってする…………体を求められるのならそれも当然受け入れるわ」
「えっ!?」
覚悟の決まった表情でマナカは僕を見ていた。
「それは罰というよりご褒美に、なっていないかしら?」
「…………否定はしません」
窘めるようにノワールさんが言うとマナカはバツの悪いような表情を浮かべる…………否定はしないのか。
「それにそもそもアキ君はそんなことしても喜ばない、わよ?」
「ええ、それはまあ」
僕は頷く。確かにマナカは美人だしスタイルもいいとは思うけれど、お詫びで体を差し出されても正直申し訳なさが前に出る。素直に受け入れられない。
「そうですか、やはり正攻法のほうがよさそうですね」
「はい…………はい?」
なんだか予想とは違う返答をマナカが口にした。
「では私の謝罪は受けて頂けないということでよろしいのでしょうか」
「えっ…………あ、それは違います」
僕は慌てて首を振る。
「その、謝罪の印として体とかはいらないけど昨日のことの謝罪であれば受け入れます。あれは誤解があってのことだしその誤解が解けたならもういいです…………その、もう僕を殺そうとしたりしないと誓ってくれれば」
「それはもちろん誓います」
慌てて並び立てた僕の言葉にマナカはしっかりと頷いた。
「では謝罪も済んだのでこれからの話をしましょう…………私たちの今後について、の」
ノワールさんに目配せをして、切り替えたようにマナカはそう言った。
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