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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫


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二十九話 好かれることが喜ばしいとは限らない

 僕を殺した彼女たちとは幼少期からの友人だった。もちろん僕も男だから彼女たちと過ごす間に友人以上の関係になりたいと思ったことはあったのだけど…………その全てをそっけなくかわされてしまった。

 だから僕は彼女らとはただいい友人関係でいようと決めて、決して期待を抱くようなことをしなくなったのだ。


 そのまま僕らは友人関係を続けたまま成長して、やがて高校大学を卒業して僕は就職した。幸い僕はそれなりにいい会社に就職することができて新しい生活に希望を抱くことができたのだった。


 環境が変われば人間関係も変わる。彼女たちとは結局友人止まりだったけれど、新しい人間関係の中で新しい出会いがあるかもしれないと僕は思っていた…………その矢先に僕は彼女たちに殺されたのだ。


「距離が離れてしまったのが契機、だったのでしょうね」


 思い返す僕にノワールさんが告げる。


「多分、アキ君のいう彼女らは抜け駆けさせないようにお互いに牽制し合っていたのだと思うわ。だからアキ君が好意を寄せようとしてもそっけない素振りを取るしかなかった…………けれどアキ君との距離が変わってしまってそのバランスが、崩れたのね」


 その結果が僕を巡ったあの大惨事ということなのだろうか…………信じたくない話だ。


「いやでも、本当にそんな素振りとか全くなかったですよ?」

「それはアキ君が気づかなかっただけ…………それだけ彼女らがうまく隠していた、ということでしょうね」

「…………」


 それでは僕がただものすごくぼんくらなだけではないか。


「別にアキ君が悪いわけではないわよ? 私が自分で言うのもなんだけれど、多分アキ君にかれる異性は能力が高くても性格に問題がある人がほとんどだと、思うのね」

「それ、ものすごく嫌なんですけど!」


 好かれて喜ばしくなさすぎる…………前世の例でいうなら手に入らないなら殺してしまえと思うような性格の異性に好かれやすいということなのだから。


「…………その理屈で言うとノワールさんも?」


 自分で言うのもなんだけど、と彼女自身が口にしている。


「私は尽くすタイプ、なのよ?」


 にっこりとノワールさんは僕へと微笑みかける。心なしかそれが誤魔化しているように思えて仕方がない。けれど深く尋ねるのもそれはそれで怖かった。


「なんの、話を! して、いるのよ!」


 そんな僕らのやり取りにマナカが割り込んで叫ぶ。僕自身の過去のトラウマの話題になっていたせいか完全に彼女の存在を忘れていた。


「アキ君が前世と同じように感情の制御できない…………そう、ヤンデレというのだった、かしらね? ヤンデレ女に殺されそうになっているという話を、しているのよ」

「っ!?」


 マナカが絶句したような雰囲気が伝わってくる。ヤンデレなんて単語がノワールさんから出てきたことに少し僕は驚くが、この十年彼女と雑談を交わしたことは数えきれないくらいあるわけで、その中で話したことがあったのかもしれない。


「私はっ、ヤンデレじゃない!」


 衝撃から立ち直ったのかマナカが叫ぶ。そりゃまあ誰だってそんな風に見られれば否定したいと思うだろう。ことさら彼女は自分を律している雰囲気もあったし。


「まともな人間は問答無用で相手を殺そうとは、しないものよ」

「問答無用なんてしてない! ちゃんと確認はした!」

「相手の否認を受け入れるつもりがない確認に意味なんて、ないんじゃないかしら?」

「…………っ!」


 マナカはそれを否定できない。確かに彼女はいきなり僕を殺そうとはしなかったが、洗脳の力なんて使っていないと否定する僕を信じもしなかった。

 それこそ問答無用で殺したわけではないという体裁を整えるためだけに尋ねていたように思える。


「確かにそれを認めたくないあなたの気持ちも、わからなくもないわ」


 マナカは死んでいった仲間たちの思いを継いでいる。その思いが僕への好意で塗り潰されたというのならそれは確かに認めるわけにはいかないし、僕が何か洗脳のような力を使ったのだと思いたくもなるだろう。


「でも、それで何の罪もないアキ君を殺したとして、それこそあなたの大切な仲間たちはどう思うの、かしらね」

「っ!?」


 死者の思いを継いでいるからこそ、ノワールさんのその指摘はマナカの心の深いところへと突き刺さったように思えた。


「わ、私は…………」


 頭が真っ白で何もわからないという声だった。僕を殺しても殺さなくても今のままでは彼女は仲間たちの思いに答えることができない。それに気づかされてしまった故に。


「アキ君、彼女と二人きりで話させてもらって、いいかしら?」

「えっ」


 不意に提案するノワールさんに僕は一瞬迷う…………けれど僕がこの場にいればマナカが冷静でいられないのは確かだろう。ノワールさんの言葉が全て正しいのであれば僕自身に意図がなくても僕の存在はマナカを惑わせる。


「彼女を、殺したりはしないですよね?」

「それは約束するわ」


 念のために尋ねるとノワールさんははっきりと頷いた。


「付け加えるならそれこそ洗脳とか彼女の精神を歪めるようなこともしないと、誓うわね」

「…………はい」


 そうか、そういうこともやろうと思えばノワールさんはできるのだ。しかし約束した以上彼女はやらないだろう。ノワールさんは僕に隠し事はするが嘘は吐かないのだから。


「えっと、僕は家に戻っていればいいですか?」

「そうね、でもこちらも場所は移すつもりよ」


 それはまあ、必要だろう。聞き耳を立てるつもりはないがここは僕の家の裏庭だ。声を荒げれば家の中まで聞こえてしまうかもしれないし、実際は聞こえなくても聞こえるかもと意識してしまうと腹を割った話し合いもしにくいだろう。


「じゃあ、おやすみなさいね」

「あ、はい。おやすみなさい…………」


 マナカとの話し合いがどう転ぼうと、とりあえず今夜ノワールさんに戻って来るつもりはないらしい。まあ、夜も更けてきているし常識的な対応ではあると思うのだけど、明日まで僕は二人の話し合いがどうなったか気になることになってしまうらしい。


「それじゃあ、ね」


 そんな僕をよそにノワールさんは背を向けて去っていく…………それに追随するように木の根の牢が移動していく。マナカを解放するにしても僕から離れたところでするつもりなのだろう。


「…………とりあえず、ご飯にしようかな」


 ノワールさんを見送って僕は呟く。正直に言えば色々あり過ぎて食欲はあまりない。


 しかし明日からのことを考えれば、精を付けておくべきだと僕には思えた。


                ◇


 アキ君の家から少し離れて開けた場所で私はマナカを解放した。彼の家からそれほど距離をとる必要はない。最低限距離を離れてしまえばここで何が起ころうとそれをアキ君に気づかせないようにできる力が私にはある。


「何を話すつもり?」


 解放されたマナカは幾分か落ち着いた様子だが、まだ目の奥にくすぶった感情を抱えているようだった。頭では理解しても感情が納得できていない。

 だから私を倒す隙があればそれで何もかも聞かなかったことにしてしまいたいのだろう…………だけどそれは困る。返り討ちするのは簡単だが、私はアキ君にマナカを殺さないと約束しているのだから。


「もちろん、私たちとアキ君とのこれからについて、なのよね」


 だから私は力を解放する。それまで私の中で完全に制御されていた魔力を表へと溢れ出させる。どれほど鈍感な人間であってもその実力差を把握できるように。


 まず私はマナカとの格付けをはっきりとさせた。


 お読み頂きありがとうございます。

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