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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫


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二話 なっていても意外と気づかない

 僕がこの異世界に生まれ直したあの日から気が付けば十年が経っていた。ノワールと名乗った長命種の女性はあの少女の神様の言った通りに僕の保護を約束してくれて、自身の領域であるという森の一角を僕の住居として提供してくれた。

 そこはどうやら深い森を抜けないと人里のある場所には辿り着けないような場所らしかったけれど、人との関りを断ちたい気分の僕としては好都合だった。


 それからはひたすらに住む場所の環境作りだった。最初に最低限の家はノワールさんが魔術で建ててくれたけれど、恵まれた現代社会で暮らしていた僕からすれば足りないものだらけだった。その全てを再現することは当然不可能だけど、今の自分にできる限りをそろえていく作業はとても楽しいものだった。


 もちろん僕は身一つで放り出されて生きていける人間ではない。しかし保護を約束したノワールさんは困りごとがある常にその解決策を示してくれた。逆にそうでない時の接触は最低限で、一人の環境で心を癒したい僕に対してちょうどいい距離感を保ってくれていたのだ。


「うん、今日も良く実ってるな」


 庭の裏の畑というか、果樹園に足を運んで僕は呟く。生きていくには食料が必要で、けれどその継続的な確保は文明社会を離れるととても難しい。しかしノワールさんがくれた果樹の種はそれをあっさりと解決した…………もっとも正直これを果樹と呼んでいいのかはわからない。

 僕の果樹園に生い茂るそれらの木々は、様々な種類の果実を実らせるだけではなく野菜まで実る。しかも生命力豊かで、世話もほとんど必要ないのに年中豊富に実るという冗談のような代物だった。


 僕はそれでも一応木々の様子を一通り確認し、それらに問題がないと判断するとトマトのような実を二個ほどもいで家へと戻る。

 僕の自宅は小さな山小屋くらいの大きさで、ノワールさんの魔術で作られたから木がそのまま家の形になったような外見をしている。それでいて内部はきっちり平面の壁で形作られた空間があるのだから魔術というものはすごい。


「確かハムとチーズがまだあったはず」


 裏口から家に入り、台所に移動して冷蔵庫を開く…………そう、この世界には冷蔵庫があるのだ。この世界には特殊な加工によって継続して魔術を発動する魔術刻印というものが存在しており、それを組み込まれた冷蔵庫やコンロなどが普通に流通しているらしい。

 同様に湯沸かし器なども存在しているので、こんな森の中でも毎日お風呂に入ることができていた。


「よしできた」


 三日ほど前に焼いた最後のパンにハムとチーズとトマトを挟む。パンとトマトは自家製だがハムとチーズはノワールさんに頂いたものだ。森の外にあるという人里とノワールさんは定期的な取引があるらしく、それで手に入れたものらしい。


 僕も彼女も牛やヤギのような家畜は飼っていないし、この森にはウサギやシカのような野生動物は生息しているようだけど僕の行動範囲にはほとんど入ってこない。だからこれは貴重な動物性たんぱく質だ…………まあ、あの果樹から取れる果実はその見た目以上に栄養豊富なようで、それが主食でもこの十年の間に体調不良になったことはないのだけど。


「…………」


 とはいえ、何の違和感もないわけではなかった…………というかある。僕はサンドイッチを平らげて何もなくなった手の平を見つめた。十年前と変わらない年若い手の平がそこにある。


「やっぱり、成長してないよなあ」


 僕はその事実を自分に実感させるように口にする。僕の前世での享年は二十二歳だったがこの世界には十五歳前後の状態で転生させてもらった。


 あの少女の神が提示した転生には二通りの方法があって一つはこの世界の人間として生まれ直すこと。そしてもう一つが元の姿でこちらの世界へ転生することだった。

前者であればこちらの世界の人間に生まれるから両親が存在する。成長するまでは両親の庇護も受けられるし当然それにちなんだ身分を得ることができるだろう。


 逆に後者だと自身の慣れ親しんだ姿で新しい人生を続けることができるけど、こちらの世界での肉親もおらずそれに伴う身分もないからまず身の証を立てることから始めなければならない。


 つまるところその二択であれば基本的には前者が望ましいのだけど、僕はあえて後者を選んだ。僕は一人で静かに生きるのが望みだったし、正直今の自我を保ったまま赤ん坊からやり直すのはしんどいように思えたからだ…………それなのに少しばかり若返っているのはあの少女の神にそのほうがいいと勧められたからである。


 僕の前世の年齢そのままではこちらの世界で生活環境を整えている間に中年に差し掛かってしまっただろう。だから若すぎず動くのに十分な力のある年齢を勧められて僕は十五歳前後の姿でこちらの世界に転生した…………の、だが。


「背も変わってない」


 ふと自分が成長していないのではと気づいたのは昨年のことだ。その時に壁に付けた背丈の傷と今比べても一致している…………気づくのが遅すぎると思うかもしれないけれど、自分の体というのは日頃から客観的に見るものでもない。

 僕はこちらの世界に来てから鏡を入手していないので、水桶に写る姿くらいしか顔も見ていないせいもあっただろう。頼めば入手できたかもしれないけれど、人との関りが薄いせいか必要に思わなかったのだ。


「うん、おかしい」


 僕がここにやって来たのは十年前で当時その体は成長期にあったはずだ。それが十年経っても何の成長もないというのはおかしい…………もちろん全く成長していないということもなく動いた分だけ筋肉は付いているのだけど、本来あるべき肉体的成長がないのはやはり異常だ。


「あの神様は僕が不老不死になるとかそんなことは言ってなかったはず」


 それこそチート能力の領域だし、成長していないだけで僕は不死ではないはずだ。僕も怪我はするしその直りだって普通に時間はかかる…………それで不死ってことはないだろう。


 そうなると他の要因、例えば僕は元の世界では人間だったがこの世界では寿命が長い種族になっている可能性…………そういえばあの少女の神は転生する際に僕の体の年齢以外のことには触れていなかった。

 それであれば同じような見た目をした別の種族の者に変えられている可能性もゼロではないだろう…………もっともこの世界の種族なんて僕はノワールさんの長命種くらいしか知らない。

 わかるのは少なくとも僕の見た目は前の世界と同じであることくらいだ。


「ノワールさんに聞いてみるしかないか」


 この世界に関する知識はこの十年の間も全くと言っていいほど培われていない。つまり自分で考えたところで結局結論は出ないのだ。


いつも通りノワールさんに聞きに行くしかないだろう。


                ◇


 ノワールさんの家は僕の家から五分ほど歩いたところにある。あまり近すぎても落ち着かないだろうと彼女は少し離れたところに僕の家を建ててくれたのだ。

 実際隣り合うように家を建てられていたら最初の数年で僕は引き籠っていたかもしれない。表面上は取り繕えても密接な付き合いをするのも当時は辛い精神状態だったからだ…………正直に言えば前世での死因は未だに引きずっている。

 この場所ではノワールさん以外の人に出会うことはないけど、仮に出会ったら心の中で身構えて警戒してしまうことだろう。


「それで、今日はどうしたのかしら?」


 僕が訪れるとノワールさんは温和な笑みですぐに家へと招き入れてくれた。ノワールさんの家も僕の家と同じく樹がそのまま家の形になったような作りだ。違いと言えば彼女の家は正に大樹によって作られているということだろうか。

 あまり広い家を僕が望まなかったのもあるけど、僕の家に比べればノワールさんの家は豪邸だ。内部も常に清掃が行き届いていて見た目も格調高い家具がそろっている…………それが全て彼女の魔術によるものなのだというから驚きだ。


「えっと、実は昨年くらいから疑問に思っていることがありまして」


 本来であれば世間話の一つでも挟むべきなのだろうけど、僕は率直に本題を切り出した。


「昨年から…………一体何を疑問に思って、いるの?」


 首をわずかに傾げてノワールさんが僕を見る。


「あの、僕ってこの十年全く成長していない気がするんです…………というかしてませんよね?」


 考えてみれば頻度は高くないとはいえノワールさんとはこの十年顔を合わせている。そんな彼女であれば僕の以上に気づいてもおかしくないのではないだろうか。


「そうねしてない、わね」

「!?」


 やっぱりそうなのかと僕は思うが、同時にそれならなんで教えてくれなかったんだと疑問も浮かぶ。それは間違いなく異常なことなのに。


「でもそれが何か問題なの、かしら?」

「えっ?」


 続けられた言葉に僕は驚く。


「だって歳を余分にとっているならともかく、歳をとっていないのよね? それならむしろ人間にとっては喜ばしいことじゃないの、かしら?」

「そ、それはそうかもしれませんけど…………」


 言われてみれば確かにこれは異常であっても害ではなくむしろ益だ…………いや、そうじゃない。今わかっている範囲では益になっていてもその原因がわからない以上はいつ隠れた害が牙を剥くかもわからない。


「原因がわからないと怖いですよ」

「あら、それなら答えは簡単、かしら」


 そう不安を口にした僕へとにこやかにノワールさんは言った。


「だってアキ君を不老にしたのは私、だもの」


 お読み頂きありがとうございます。

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