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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫


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二十六話 勘違いでも思い込んだら本人には真実

 洗脳系の力が最悪なのは両者の実力に大きな差があっても有効であることだろう。もちろん強者であれば精神面の防壁も完璧に構築しているものだ…………けれど能力者側はその防壁に針の先ほどの穴を空ければ付け込める。

 その僅かな隙間を通しさえすれば、そこからは相手自身の力すらも利用して洗脳を完全なものへとしてしまうところが恐ろしいのだ。


 そうして精神の内側へと入りこまれたなら、後はどれだけ完全に洗脳されるまで粘れるかだけであり敗北はほぼ確定。洗脳され切る前に仲間が能力者を倒してくれることを期待するしかないのだ。


 けれど今の私に仲間はいない。


 私が私であるうちに元凶を消し去るしかないのだ…………だから全力でこの胸の内から湧き上がる感情を抑え込む。それは全て偽物だ。彼から植え付けられた感情に過ぎないと強く意識する。


 だけどやはりその影響を完全に抑え込めてはいなかったのだろう。本来であれば即座に殺さなくてはいけない彼に猶予ゆうよを与えてしまった…………そしてその猶予で洗脳済みの長命種がやって来て彼を守られてしまっている。


「あなたは彼に洗脳されているのよ」


彼女は私でも勝てるかどうか想像のつかない強者だ…………できれば自分の違和感に気づいて抵抗して欲しいと願う。


「あなたは勘違いを、しているようね」


 けれど無駄だった。哀れむようにノワールが私を見る…………彼女はすでに完全に洗脳されているようだ。彼をどうにかしない限りその洗脳が解けることはないだろう。


「勘違いなんてしてないわ!」

「そう」


 叫ぶ私をますます哀れな存在というように彼女が見る。哀れなのはあなたの方だと叫んでやりたいが意味もその余裕もない。


「いずれにせよ私はアキ君を守る、だけかしらね」


 彼女方は完全にやる気だ。自身を洗脳した彼を守るべき対象と認識し、それを殺そうとする私を排除しようとしている。しかし今ならまだ間に合う可能性はある。


「ぁああああああああああああああああああああああああ!」


 湧き上がる感情を振り払うように叫んで私は全力を右手に込める。完全に固定されたその右手はこの世のあらゆる物質よりも固い。彼を守るように覆っている樹を貫いて殺せるはずだ。


「っ!?」


 しかし私の右手は樹の表面で弾かれた…………信じられない。神様に貰った力で固定された私の右手は魔王の体にすら傷をつけることができたのに。


「アキ君を殺したところでなにも、解決しないわよ?」


 そんな私をさとすようにノワールが言う。


「それはあなたが洗脳されてるからそう思うのでしょう」

「…………困ったわね」


 呆れるように彼女は息を吐く。


「言っておくけれど万が一にもあなたが私に勝つ可能性はないのよ? アキ君を守るのは私の意思でもあるけれど義務でも、あるからね」


 義務、それが彼の持つ洗脳の力によるものだろうか? いずれにせよ彼女を行動不能にしない限り彼を殺すことは出来そうにない…………そう、殺すのだ。彼を殺さなくては私もいずれこの植え付けられた感情に飲み込まれるだろう。


 そうなれば、魔王と戦い散っていった彼らに私は顔向けできなくなる。


                ◇


「な、なにがどうなってるんだ…………」


 守られているとはいえ樹の中では状況が全くわからない。わかっているのはなぜだかマナカは僕が彼女とノワールさんを洗脳していると勘違いして殺そうとしていることと、その彼女からノワールさんが僕を守ろうとしてくれていることだけだ。


 いや本当、なんで?


 なんでマナカはそんな勘違いをしているのかがわからない。僕と彼女は今日あったが交わした会話もわずかだ。そんな疑いをもたれるようなことをした覚えがない。

 それで疑われているというのなら、洗脳系の力持ちというのはそんなちょっとした会話でも相手に能力を使えるものなのだろうか。


「そ、そんなことより…………ノワールさん!」


 僕は叫ぶがノワールさんもマナカもその声が聞こえている様子はない。しかしこのまま放置していてはノワールさんがマナカを殺してしまう可能性がある。


 あちらから手を出さなければ何もしないとノワールさんは約束したが、今はマナカから手を出してしまっている…………純粋にマナカが僕を殺そうとしているのなら仕方ないとも思えるけれど、何かしら誤解がある状況で彼女を殺させるわけにはいかない。


「何とか、何とかノワールさんを止めないと」


 僕は必死で考えて…………ふと気づく。僕の声は向こうに伝わらないのになぜ外の音は聞こえるのだろうかと。


「…………ノワールさん!」


 僕は叫ぶ。


「僕の声、聞こえてますよね!」


 マナカが反応しないから外に僕の声は聞こえてないと判断したが、それでノワールさんも聞こえていないというのは成立しない。なにせこの樹は彼女の魔術によるものなのだ。外の音をちゃんと僕に届けているように、ノワールさんにだけは僕の声を伝えている可能性は十分にある。


「…………聞こえている、わね」


 少しバツの悪そうなノワールさんの声が樹の中に響く。やっぱりちゃんと聞こえていたのだ。それなのに聞こえないふりをしていたのは僕に止めさせないためだろう。


「マナカさんを殺しちゃだめですよ! 絶対に!」


 だから僕は全力でノワールさんを止めた。


 お読み頂きありがとうございます。

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