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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫


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二十一話 とてもゆうこうてきな初顔合わせ

「今なにか森のほうですごい音がしませんでしたか?」

「まるで大きな生き物が思い切り吹っ飛んだみたいな音、だったわね」

「やけに具体的ですね」


 そこまで詳細な答えが返ってくるとは思わなかったが、ノワールさんのことだから実際にその現場も見えているのかもしれない。


「まあ、続くような音もないし片は付いたんじゃ、ないかしら」

「…………けしかけたんじゃないですよね?」


 僕は思わず尋ねてしまう。するとノワールさんはきょとんとしたような表情を浮かべた。


「まさかそんなこと、しないわよ?」


 それがとぼけているのか本当なのか、僕には判断付かなかった。けれどノワールさんは僕と末永い付き合いをするために誠実に対すると宣言している…………あの言葉は信じられると、思う。


「ただ魔物を遠ざけたりも、しなかったわね」

「…………ノワールさん」

「けしかけてはいないから運の問題、よ?」


 妨害はしないけれど守るつもりもない、ということらしい。


「僕と会わせてくれるって、話でしたよね?」


 ここにやって来る転生者の存在を教えた時点で僕が会おうとするのは間違いない。ノワールさんとしてはそれは好ましくはないけれど、僕に対して誠実に接すると決めているから教えないわけにはいかなかったのだ…………けれどせめて安全のために自分の立会いの下で転生者と会うようにとお願いされた。

 僕としてもそこまで配慮されてノワールさんに不義理するわけにもいかずそれを承諾した。


「だからここに呼び寄せた、のよ? でもその途中で事故に遭ったなら、しょうがないわよね」

「…………」

「そんな顔、しないで。この島まで単独でやって来られるような転生者が事故になんて、遭わないわ」


 それがわかっていたならいっそ道中の安全を確保したほうが相手の印象は良くなりそうだけれど、それをしなかったということは友好的に接するつもりまではないというノワールさんの意思表示なのだろう。


「喧嘩腰はやめてくださいね」

「私からは、しないわ…………ただ相手が無礼ならその限りでは、ないけれどね」


 うふふ、と微笑むノワールさんはそれを期待しているようにも見えた。だからこそあえて森の魔物を抑えることはしなかったのかもしれない…………転生者がそれに遭遇して意図的なものだと勘違いすれば、ノワールさんに詰め寄る可能性もあるだろうから。


「僕は止めますよ?」

「それで止まるなら、なにもしないわ」


 あくまで相手に比がある前提でしか動かないとノワールさんは確約する。


 頼むから短慮をしないでよと、まだ見ぬ相手に僕は願った。


                ◇

 

 転生者であるという少女がやって来たのはそれから十五分ほど経ってからだった。

 

「まずはご招待に感謝します」


 その少女は笑みを浮かべて丁寧な挨拶をしながらも友好的な雰囲気はまるでない。臨戦態勢というか玄関を通されてリビングに案内されるまでも、表情そのものは穏やかでありながら威圧感とでも呼ぶべきものを彼女は発し続けていた…………それに何よりもその右手に持っているものが異彩を放っている。


「これは手土産です」


 ユグドさんの前の木のテーブルへと彼女はそれを放り投げた。それは甲殻質の板? のようなものだった。緑色で形状は菱形ひしがたに近い…………しかしそれの何が怖いかってところどころ血にまみれていたことだろう。


「グリーンドラゴンの逆鱗です」

「手土産にしては、物騒なものね」


 困ったようにノワールさんは眉を顰める。


「あらそれはすみません。森でわざわざ飼っているようでしたのでてっきりその素材を重宝されているのかと」


 わざとらしくきょとんとしたように彼女が答える。つまり彼女はここに来るまでにグリーンドラゴンに遭遇したらしい。僕はグリーンドラゴンを見たことはないが名前からすれば緑のドラゴンなのだろう…………そんなものと戦っていたならここまでその戦闘音が響いていてもおかしくはない。


 そしてどうやら少女はそれをノワールさんの仕業だと判断したようだ。それでその意趣返しとして引っぺがしたグリーンドラゴンの逆鱗をそのまま持ってきたらしい。


「そんな危険な生き物飼ったりするわけ、ないわよね? ただ森の中は瘴気が溜まりやすい場所もいくつからあるから…………そういう大物が生まれる可能性も、あるわ」


 それに動揺する様子も見せずにノワールさんは穏やかに答える…………しかし僕がここ十年暮らしてきてグリーンドラゴンなんて代物を見たことは一度もない。だ

 から多分ノワールさんは意図的にそれが発生しやすい環境を整えたのだろう…………確かに彼女は僕により強力な魔物が森に発生するようにはしないと約束をしていない。


「そういう意味では安全を確保しくれたお礼を、言うべきかしらね?」


 そんなことをおくびにも出さず、笑みをたたえままノワールさんは少女を見る。


「いえ、あくまでこれはお招きいただいた手土産なので」


 それに対して少女も表情を崩さず、ただにこにこと二人は互いに笑みを張り付かせたまま見つめ合う。


「自己紹介、しましょうか」


 それに耐えきれなかったわけではなく、あくまで年長者の余裕を持ってノワールさんが提案する。それは多分傍から見ている僕をおもんばかってのことだろう。互いに笑みを浮かべながらも有無を言わせないあの雰囲気に僕は口を挟みづらかったから。


「そうですね、初対面だというのに失礼しました」


 それで少し冷静になったのか少女も息を吐いて気持ちを整える。


「私はイサナ、マナカ。いわゆる転生者と呼ばれているものです」

「私はノワール。あなた方の言うところの苗字は、ないわね」


 以前聞いた話だと長命種にも苗字というか一族を示す名乗りはあるらしいのだけど、ノワールさんは神の代行者となった時にそれを捨ててしまったらしい。そんなことを考えているとノワールさんの視線がこちらに向く。


「自己紹介、よ?」

「あ、そうですね」

「はわ!?」


 僕もしなきゃと思ったその瞬間に奇矯な声が聞こえた。驚いてそちらを見て見るとマナカと名乗った少女が僕の方を見ていた…………もしかしたら彼女は今初めて僕の存在に気付いたのかもしれない。


 彼女はやって来た時からグリーンドラゴンをけしかけた相手と思うノワールさんを強く意識していて、その隣でちょこんと静かにしていた僕が目に入らなかった可能性は高い。


「あ、あなたは?」

「えっと僕はアサガ、アキ。あなたと同じ転生者です」

「え、でも何の力も…………」

「あはは、それはまた後で話すということで」


 どうやら僕の余りの非力さに認識されていなかったらしい。ノワールさんもマナカが近づいてきただけでその存在を感じ取っていたし、やはり強者は別の強者の力を感じ取る能力を持ち合わせているようだ。


「それじゃあ自己紹介もできたところで…………お話、しましょうか」

「はい」

「そ、そうね」


 僕の存在でいい意味で気が抜けたのか、あっさりとマナカは承諾して席についた。


 お読み頂きありがとうございます。

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