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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫


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二十話 無駄とわかっていてもやりたいからやるのが嫌がらせ

 ノースエンドという名のこの町は基本的に他者の来訪を想定していない。もちろん難民などこの島まで辿り着いた人間を受け入れてはいるようだけど、それは恒久的な滞在で一時的なものではなかった…………つまるところホテルという商売がこの島には存在しないのだ。


 それは私がこの島で泊まる場所がないということでもあり、それなら野宿でもしようと私は思ったのだけれど、見かねた町長さんが自分の屋敷の部屋を提供してくれた。邪魔はしないが協力もしないと言っていた割には甘い人だ。


 コンコン


 数日海の上を歩いて疲労した体も一晩ゆっくり眠ってずいぶんと回復した。ぼんやりと朝の目覚めにまどろんでいると扉をノックする音が響く。


「はい」

「朝早くから失礼いたします。よろしければ朝食をご一緒しないかと旦那様がおっしゃっておりますが」

「…………わかりました。少ししたら伺います」

「承知いたしました」


 私の返事を受け取ると使用人さんが遠ざかっていくのを感じる。部屋だけでも結構いい部屋を提供してもらったのに朝食までご馳走してもらえるらしい。


「とりあえず、着替えようかな」


 私は起き上がって貸して頂いた寝巻に手をかけた。


                ◇


「朝食のお招きありがとうございます」

「いえ、ちょうどあなたにお話もありましたので」

「話、ですか?」


 感謝を述べる私に町長さんは頭を振って答える。話なら昨日したばかりではないかと思うのだけれど、何か急報でも入ったのだろうか。


「実は、あの方からあなたへ招待が届いております」

「えっ!?」


 流石に私は驚いた。町長さんから協力を拒まれてどう接触しようか今日考えようと思っていたのだ。それがまさか寝て起きて解決しているとは思わなかった。


「あの、もしかして…………」

「いいえ、私は何もしていません。まだあなたのことをあの方に伝えてもおりませんでした」

「……………」


 それはつまり知らされずとも私のことは把握できているということ…………しかしそれは驚くような話ではない。私自身力を隠してこの島にやって来たわけではないし、この島を楽園として維持できるほどの存在が私に気づかないはずもないのだ。


「…………イサナ様」

「なんでしょう?」

「私はあなたに協力するつもりはありませんが、一つ忠告はさせて頂きましょう。あの方はあなたを招待されましたがそれは決して好意的なものとは限りません…………あえてその招待を受けずに帰るというのも選択肢の一つです」


 それは紛れもなく町長の善意の忠告だろう。これまでの反応を見る限りあの方というのは善人とも悪人とも判断できない…………町長のそれに対する印象はそれこそ神様とでも相対しているかのようだ。


 上位者は人間のような下位存在は感情を向けることすらない。行われるそれに悪意も善意もなく、どれだけの理不尽であろうが諦観と共に受け入れるしかないのだ。


 だから一番いいのは最初から関わらないこと…………それを町長は理解している。


「それでも、私はこのためにこの北の果てまでやって来ましたから」

「…………そうですか」


 けれどここで諦めるなら最初から私はここに来ていない。


「お心遣いには感謝します」

「いえ、出過ぎた真似だったようです」


 それ以上は言うまいと町長さんは言葉を収める。


「それでは話はここまでにして朝食をいただきましょう」

「はい」


 私は頷いて目の前に並べられた朝食にようやく目を向ける。


 それはとても美味しそうで…………実際に美味しかった。


                ◇


「ここから道なりに進んでいけばあの方の住居に辿り着けます。森の中には魔物も徘徊していますが…………まあ、恐らくあなたであれば問題のある相手ではないでしょう」


 本人からの招待があったからか町長さんは町の外まで私を案内してくれた。確かに彼の言葉通り森のほうからは魔物発生の原因となる瘴気の気配が感じられる。

 この島全体には瘴気の気配は感じられないから、恐らくは町民が森に近づかないようにあえてそこだけ瘴気を残しているのだろう…………恐ろしい技量だ。


「それではお気を付けて」

「ありがとうございます」


 町長に頭を下げて私は森へと足を進める。奇跡的に楽園となっているこの島に変化をもたらしかねない私は彼にしてみれば疫病神のようなものだろう。それなのに邪険にすることなく応対してくれたのだからありがたい限りだ…………できる限りこの島の平穏を崩さないようにしなければと思う。


「まあ、それはそれとして時間は短縮しないといけないわね」


 町長と門兵二人の視線が切れたのを確認して私は魔術を使う。大層なものではなくただの身体強化ではあるが、一般人からすれば目にも止まらぬ速度で動いているようには見える。

 せっかく友好的な関係で収まってくれたのだから、下手にそれを見せて威嚇と思われても困るというだけだ。


「よっ、ほっ」


 とんとんと軽く地面を蹴るだけでみるみるうちに森が迫る。転移ができれば一番楽だったのだけど私にそこまでの魔術の才はなかった。

 おかげでこの北の果てまで歩いてくるハメになったのだから神様ももう少し便利な力をくれればよかったのにと思う…………いや私が貰った力も十分にチートではあるのだけど。


「んー、このくらいの濃度なら今のままで十分かな」


 森の入り口から瘴気の度合いを測って私はそう判断する。出現する魔物の強さは基本的にその場の瘴気の濃度に比例する。もちろん同じ場所でも瘴気の溜まりやすい穴や洞窟などがあって他よりも強力な魔物が出現するということもある…………ただ、それは稀なケースに近く多少の幅はあっても大体現れる魔物の強さは一定だ。


 これまでの私の経験からすればこの森に現れる魔物の強さは今の私の状態でも片手でワンパンできる程度だろう。これ以上の強化をかける必要もないので余計な消耗はしなくて済みそうだった。


 なにせ私のチートがあれば強化のような一定時間効果が続く系の魔術はその効果が終わることがない。魔術系のチートを貰ったかつての仲間の一人には効率が良すぎてずるいと文句を言われたものだった。


「いけない、余計なこと考えて油断しちゃダメなんだから」


 強い魔物が現れないからと気を抜いてはいけない。この森の魔物は大したことないかもしれないが、そこに住むあの方という存在は私以上の強者である可能性が高い。招待されたと言ってもその意図がわからない以上は油断しては駄目だ。


「…………つまりこれは嫌がらせかな」


 気を引き締めて森に入った私は思わずそう呟く。この森の瘴気濃度なら大した魔物は出ないはず…………それなのに早速遭遇した魔物は明らかに想定と違っていた。というかドラゴンなんて前線でもそうめったに遭遇するレベルの魔物ではない。


 しかし瘴気を自由自在に操作できるのならその濃度を意図的に高めることだってできるだろう…………つまりはそういうことだ。


「ふう」


 私は息を吐いて拳を固める。とりあえずそこで硫黄臭い息を吐きながら私に敵意を向けてくるトカゲをぶっ飛ばす。


 その後は、この歓迎のお礼をしてやると私は決めた。


 お読み頂きありがとうございます。

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