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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫


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九話 正直に話した方が正解のこともある

 一晩経つと昨日の衝撃的な情報も幾分か落ち着いて呑み込むことができた。確かにあの少女の神のことについてはショックだったけれど、直接干渉を禁じられている以上は容易にこちらに何かできるわけでもない。

 というかだ、そもそも問題を安易に解決できるようには助けないというだけで別に妨害してくるわけでもないのだ…………前世の時と同じように、その実在関係なくただ見守られているだけのものと思えばいい。


 問題はこの森の外に起きている魔王軍の侵攻に対抗する手段だった。神様からの助けがこれ以上見込めないのなら今いる者たちで何とかするしかない。そしてその主力となるのはやはり転生者たちだろう。


 ノワールさんによると僕のように一から生まれ直さないことを選んだ転生者の半数が魔王に挑んで全滅したらしい。逆に言えば半数は生き残っているということになるし、一から生まれ直すことを選んだ転生者たちも全員生きているはずだ。


 今はまだ幼いであろう彼らだが、現状戦線が膠着こうちゃくしているというのなら成長して戦力となるまでの時間はあるだろう。


「…………」


 そこまで考えたところで僕は自己嫌悪に顔をしかめる。転生者に与えられた魔王討伐という使命は義務ではなく努力目標のようなものだ。それを果たすかどうかは自由だとは他ならぬ使命を与えた少女の神自身が言っていて、本人以外の誰かが強制するようなものじゃない。


 恐らくだけど魔王討伐に参加しなかった半数の転生者たちは戦いを恐れるとか好まない人間なのだろう。今はまだ幼いであろう転生者たちの中にだってそんな人間は多いはずだ…………安全な森の中で隠遁している僕がそんな彼らにだけ危険を冒せと期待するのは恥知らずもいい話だ。


「やっぱり、僕も何かできることをしないと」


 僕は転生する前から使命を放棄した身ではあるが、知ってしまった以上はこのまま安穏と暮らすことはやはりできない。


 もちろん僕は本当の最後の最後にはノワールさんが全てを葬り去ってどうにかしてしまうことを知っている…………でも知っているからこそ、外で起こる悲劇に目を瞑って自分だけ安穏としていることには耐えられそうにない。


「だからとりあえずは近くの人里に行ってみようと思ったんだけど…………」


 ノワールさんは聞けばなんでも教えてくれるがそれは一つの意見でしかない。別に彼女を信用しないわけではないけど、情報というものはいろんな角度から見ることが大事なのだ。

 それにノワールさんが知らないようなことが人里では聞ける可能性もある。


「…………なんだかずっと同じところを歩いてる気がする」


 しかしどうにも雲行きが怪しい。僕は人里の場所を知らないが、僕の家からノワールさんの家まで以外の方向へと伸びる道があることは知っていた。それは意図して整備された道であり僕の知る限り他の道は森に存在しない…………つまりそれが人里へと続く道である可能性は高かった。

 これまで僕はなぜだかその道に対して何の興味も抱いていなかったが、それも恐らくノワールさんによって外への興味を失わされていた結果だろう。


 ともあれ僕は昼下がりにその道を進んでみることにして…………ずっと歩き続けているのが現状だった。その道は迷うようなものではなくずっと一本道だ。それなのにかれこれ一時間ほどは進んでいるのに周りの景色に一切の変化がない。


 最初は森だからどこも似たような景色に見えるんだろうと思ったけれど…………あの木の傷には見覚えがある。ほんの数分前にも見かけたばかりで、よくよく思い返してみれば歩き始めた最初の頃にも見た覚えがあるのだ。


 つまり、僕はまっすぐ進んでいるはずがどこかでループしているのではないだろうか?


 そしてそんなことが起きる原因の心当たりが僕は一つしかない。


「ノワールさん…………またですか」

「呼んだ、かしら?」

「っ!?」


 名前を口にしたとたん背後からその声が聞こえて、僕の心臓は大きく跳ねた。


「な、な、なんでここにいるんですか!」

「それはずっと見守っていた、からかしらね」


 振り向いて叫ぶとノワールさんはとぼけるように首を傾げる。


「散歩は楽しかった、かしら?」

「楽しいわけがないでしょう!」


 流石に僕もいきどおって返す。何の景色の変化もないところを延々と歩き続けて楽しいはずもない。


「ノワールさんに悪気がないのは知っていますが、こういうことが続くと流石に僕だって疑いたくなりますよ!」


 しかも僕が同じ道を繰り返し歩く所をずっと見ていたわけだから猶更なおさら性質たちが悪く思える。


「え、えっと…………ごめん、なさいね」


 僕が珍しく怒って見せたからか、ノワールさんは狼狽ろうばいしたように戸惑った表情を浮かべた。


「この道って、ループしてますよね?」

「一定以上進むと、起点の場所に転移するようになって、いるわね」

「どうしてそういうことをするんですか!」

「だってアキ君が勝手に外に行ってしまったら、困るから」


 つまり明確に僕を森に閉じ込めるためにそういう仕掛けをしてあったのだ。


「で、でもね…………アキ君が言ってくれたら、解除したのよ?」


 謝罪から一転、とがめるようにノワールさんが僕を見る。


「先に私に言ってくれたら魔術も解除したし、人里まで案内、してあげたのに…………どうして聞いてくれなかったの、かしら」

「それは…………」


 それこそ僕がノワールさんは反対するし許してくれないだろうと最初から決めつていたからだ。 彼女に悪気がないのはわかっているけれど、ノワールさんがかなり過保護なのは明らかだ。

 それこそ子供に危険なものを扱わないように教えるより、そもそも危険なものの存在を隠して教えないような対応の仕方をするように思えたのだ。


「僕が人里に行くことに反対しなかったって、ことですか?」


 しかしそれは僕の思い込みだったのだとノワールさんは頷いて見せた。


「だって、外のことが気になるのよね?」

「…………それは、はい」


 隠す必要もないことなので僕は素直に頷く。


「お姉さんはアキ君には安全なこの森でずっと暮らしていて欲しいけれど、アキ君が外のこと気になる気持ちもわかるつもりなの…………もうお姉さんが色々隠していたことは気づかれてしまったし、妥協するべきところはするべきだと、思うのね」

「だから僕が人里に行っても構わないと?」

「本当は、これまで通り森の中だけで暮らして欲しいと思って、いるのよ?」


 本音はそれでもまず人里までは妥協してくれるということらしい。


「…………わかりました、信じます」


 ノワールさんの力であれば僕に再び外への興味を失わせることだってできるだろうし、もしかしたらこれまでの記憶そのものを消すことだってできるかもしれない。


 けれどノワールさんはそんな安易な手段をとらずに妥協してくれると言っているのだ…………それならばまずはその誠意をありがたく受け取るべきだろう。


「ノワールさんを信じずに勝手な行動をした僕も悪かったです…………でも、できれば他にこういうことがあるなら今の内に教えておいてください」


 いくら僕を守るための行動と言えど、後から発覚すればノワールさんへの信用が下がっていくのはもう間違いない。


「え、えっと…………もう多分ない、はずなのよ」

「なんでそんなに自信がないんですか」

「アキ君を守るために張り切って色々やったから…………あの時はアキ君に一目ぼれしてすごく気持ちが昂っていたし、よく覚えていない部分もあるのね」

「…………できるだけ早く、全部思い出してください」


 僕としてはそうとしか言えない。


「う、うん…………お姉さん、頑張るね」


 ノワールさんは決意したように僕へぐっとこぶしを握って見せる。頑張らないと駄目なくらい何かした可能性があるのかと僕は思ったが、今は信じるしかない。


「ええとそれで、話を戻しますけど僕は人里に行っていいんですね?」

「うん、このままお姉さんが案内、するわね」

「…………」


 それに僕は少し迷う。ノワールさんが同行すると例えば彼女が僕に聞かせたくない情報は遮断される可能性もある。しかし考えてみれば僕はこの世界に置いて何の身分証明も持たない人間で、そんな人間がいきなり訪ねて来て歓迎されるかという話もあった。


 魔術刻印を使った道具など前世の世界に迫るような一面もあるけれど、魔術の絡まない部分では中世レベルの文化という話だったから余所者には厳しいだろう…………ましてや魔王軍に脅かされているような情勢では尚更見知らぬものは疑われる。


「お願いします」


 それであればやはりノワールさんに同行してもらって身分を保証してもらうのが一番だろう。


 単独で人里に行って情報を集めるのは、そうして僕の顔を覚えてもらってからでいい。


 お読み頂きありがとうございます。

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