プロローグ 受け入れるとは限らない
「あの、僕はこの十年歳をとってないように思うんですが」
「それはお姉さんが君に不老長寿の妙薬を飲ませた、からね」
「近くの村に行ってみようとしたらここに戻って来たんですが」
「それはお姉さんがこの辺りを結界で封じてるから、だからわね」
「この十年僕が外について全く興味を抱かなかったのはなんでですか?」
「それもお姉さんが認識阻害の魔術を君にかけていたから、じゃないかしら」
「…………なんで深夜の僕のベッドにいるんですか?」
「それはお姉さんが君に夜這いをかけに来たから、じゃないかしら」
「なんで夜這いしに来てるんですか」
「それはもちろん君と愛し合うために決まって、いるわね」
「どうしてこうなったんですか!」
「あの愚神に目を付けられたからじゃ、ないかしら」
◇
ゆっくりと意識が薄れていくときはこれで終わりなんだと思っていた。眠るのとは違う目覚めの約束されていない意識の途絶え。どうしてこんなことになったのかもわからないまま僕は死ぬのだと思いながら…………僕は死んだのだ。
「それなのにこれはどういうことだろう」
気が付けば僕は目覚めていた。けれど意識があるだけで世界は暗闇だ。目は開けないし何も聞こえず体を動かす感覚もない…………これはもしかして本当に意識があるだけなのだろうか。僕は今病院のベッドに寝かされていて、目を空けることすらできない体の状態で意識だけ戻ったのかもしれない。
「いいや、お前は死んでいるよ」
不意に声が聞こえた。年若い少女の声。しかし聞き覚えのあるものじゃない。それが誰のものであるか確認しようとしたけれど、僕の目はやはり開かなかった。
「目を開く前にまずそこに目があるのだと意識しろ。同じように自分の体がそこに確かに存在するのだと思い込め…………今この場においてお前の体は当たり前には存在しないのだから」
少女の言っていることの意味が理解できたわけではない。けれどそんなことを言われれば誰だって自分の体を意識はするものだ…………そして不思議なことに、たったそれだけのことで僕の視界は開けた。
「なかなか筋がいい」
そこは洋風の一室だった。木そのままの色合いを活かした家具が立ち並び、天井にはほどよい強さの光を照らすシャンデリアがぶら下がっている。そんな部屋の中央にソファと小さなテーブルが置かれ、そこに少女がひとりティーカップを手に腰掛けていた。非常に見目麗しい少女だった。あまりにもその容姿は整いすぎていて、現実に存在しているような印象まるで感じられないくらいだった。
「き…………あなたは?」
君、と口にしようとして半ば無意識に訂正する。それは間違いなく少女の姿をしているにもかかわらず、そう目上の人間として扱うのが正しいように思えたのだ。
「ふむ、本能で感じ取るか…………それになるほど、奇跡の造形とはよく言ったものだね」
興味深げに少女が僕の顔をじっくりと見つめる。奇跡、というのならそれこそ少女のほうではないかと僕は思うのだけど…………なぜだかわからないけれど少女のそれは奇跡ではなく当然なのだと確信が浮かぶ。
「まずは君も腰掛けるといい。許す」
「!?」
気が付けば僕の横に椅子が置かれていた。少女の言葉に従うのは当然のように思えて僕はそれに腰掛ける。
「さて、単刀直入に言うが私は神だ」
僕は少女の言葉に驚かなかった。むしろこれまで浮かんだ疑問が全てそれですとんと納得がいった。
「しかし私は正確には君の世界の神ではない…………君から見て異世界となる世界を管理する神になる」
「あの、つまりこれは僕を異世界に転生させるとかそういう話ですか?」
「その通りだ」
少女は頷き僕に説明する。生物が近縁で婚姻を結び続けて血が濃くなると様々な障害が起きるように、魂も同じ世界だけで循環を続けるのはあまりよくないらしい。だから他の神と示し合わせて定期的に別の世界の魂を交換し、それを自身の世界の魂の循環に組み込む…………その今回の交換した魂の内の一つが僕だったらしい。
「でも、それならこんな風に話す必要はないのでは?」
魂を循環させるだけなら輪廻転生の流れに僕の魂も加えればいいだけだ。具体的にそれがどういうものなのかを実際に僕は見ていないけれど、普通に考えればある程度流れ作業でこんな風に一人一人神様が面談するみたいなことはないはずだ。
「それはその通りなんだが、神といっても色々と制約が多い。こういう機会を無駄なく利用しなければならないのだよ」
「…………こういう機会と言うと?」
「間接的に自分の世界に干渉する機会さ」
「自分の世界に?」
そんなもの自由に干渉すればいいのではと僕は思ったが、その後少女が説明するにはどうにもそうできない理由があるらしい。なんでも神々の間での決まり事で例え自分の生み出した世界であっても直接的な干渉は禁じられているらしいのだ。
一口に神々といっても千差万別。人から見て善神もいれば悪神もいる。中には他人の世界にちょっかいをかけるのが趣味のような神もいて、それが原因で神同士の争いに発展することも多々あったらしい。
もちろんそれであれば他の神の世界への干渉を禁じればいいだけなのだけど、自分の世界の生物を苦しめる神に対して正義感の強い神が止めようとするケースもあったらしい…………それで結局は自分の生み出した世界への干渉も禁じられることになったのだと。
「だが直接的な干渉は禁じられても間接的な干渉ならできる。例えば今回のような他の世界との魂の交換の際に転生者と直接相対して力を与え、その力を使って自分の世界に起こっている問題を解決してもらう形であれば問題はない…………この場所は全ての世界の外側にある狭間の空間であるからな」
だからこの場所にいる転生者に力を使って干渉しても禁止事項には引っかからない。そして直接自分で干渉できずとも、力を与えた転生者に使命を与えて送り出せば間接的に干渉することができるのだ。
「つまり、僕にいわゆるチート能力を与えて何か使命を果たさせたいってことですか?」
例えばそれは魔王の討伐であったりとするような。
「まさに今私の世界を悩ませているのは魔王だ。だから転生者には君の言う通り特別な力を与えてそれを倒してもらうつもりなのだ…………ついでに私の世界に変革をもたらしてくれるのも期待している」
問題を解決し、ついでに異世界の記憶と知識を持った人間が異世界の文化などに刺激を与えることを期待しているらしい…………僕からすればそれは必ずしも良い結果にはならないと思うのだけど、神様はそれでいいのだろうか。
「それで構わない、悪い結果になり過ぎたなら保険が利くようになっている」
そう言って少女の姿をした神様は薄く笑う。それは目の前の少女がただ優しいだけの存在ではないのだと理解するには十分なものだった。
「そんな心配せずとも私は君にこのうえなく好意的だよ…………もちろん君の方から敵対してくるならば話は別になるが」
「…………そんなつもりはないですよ」
流石に僕だって蟻が象に挑む愚かさは理解できている。それにそもそも僕には今のところ目の前の少女の姿をした神様へと悪感情を抱く理由もない。
「では話を進めるが、君に望むのは今しがた説明した通りそれを果たすに足る能力を与える代わりに私の世界の問題ごとを解決して欲しいというものだ…………受けてくれるか?」
「断ります」
ただ、それはそれとして僕の返答は決まっていたのだ。
異世界で勇者とか…………ごめん被る。
今更ながらですが異世界転生ものを書いてみました。異世界転生してモテモテになる話です。テーマとして異世界転生を扱ったものは書きましたがちゃんと異世界転生してるやつはこれが初めてのはず。ちゃんと私なりのお話になっていると思いますので継続して読んで頂ければ幸いです。
それではお読み頂きありがとうございました。
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