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「わたくし、悪役令嬢!!」「僕、悪役令息!!」

作者: 久遠れん

 私の通う魔法学院にはちょっと変わった生徒がいる。


 それは。


「わたくしは悪役令嬢!!」

「僕は悪役令息!!」


 教室の真ん中でどこからともなく響き渡るファンファーレと共に堂々とよくわからないポーズを決めているのは、アイリーン・カタルド伯爵令嬢と、ミケーレ・アウレンティ伯爵令息の二人組。



 今時貴族でも珍しい金髪縦ロールなザ・お嬢様であるアイリーン様と、常に薔薇の花を一輪手にしているミケーレ様はお似合いの婚約者同士だと思う。


 お二人は我が学園きっての変人コンビだ。


 たとえば、どんなところが変わっているのかというと。




▽▲▽▲▽




「……お昼のお金がない……」


 そういってしょぼくれていた私のクラスメイト。


 平民出身のソフィアさんは特待生として貴族ばかりが通う魔法学園に入学したのだけれど、学園の特待生としてお金が出るのはあくまで授業に関することだけ。


 ランチ代なんてくれるはずもない。


 貴族が通う学園だから、ランチ代はまとめて先払いをしている人も多いのだけれど、ソフィアさん曰く我が学園のランチ代を一か月分纏めて払うと平民の一年のお給料になってしまうとか。


 だからソフィアさんは毎日手作りのお弁当を持参されているのだけれど、今日は朝寝坊をして忘れてしまったらしい。


 食堂に誘ったのは私だし、一度くらいならランチ代を出してあげてもいいかな、と思った。


 けれど、私が声をかけるより早く、何処からか現れたアイリーン様とミケーレ様が、ファンファーレを背後に流しながら、お決まりのよくわからない口上とポーズを決めてこう口にしたのだ。


「わたくし、悪役令嬢! 推参!」

「僕、悪役令息、参上!!」


 縦ロールをなびかせたアイリーン様と、気障に薔薇の花を一輪手にしているミケーレ様。


 お二人の登場にソフィアさんが驚いた顔をする。私も驚いた。


 突然どうしたのだろう。


「おほほほほ! お金がないと困っていると聞きましてよ!」

「ふはははは! ならば、これを使うがいいさ!」


 そういって二人は声高らかにお金をソフィアさんの頭上にばらまいた。


 ちゃりんちゃりんと床に落ちるお金にソフィアさんが唖然としていると、さらにアイリーン様が続ける。


「平民らしく、跪いて拾うがいいわ!」

「平民は平民らしく、むせび泣きながら使うといい!」


 おーほっほっほ! あっはっはっは!


 と高笑いを響かせ、お金をばらまくだけばらまいて二人は去っていった。


 なにをしに食堂にやってきたのだろう。


「……このお金、使っていいのかな……?」

「……いいんじゃないかしら……?」


 ばらまかれた金額は貴族の私からすれば大したことのない金額だけれど、ソフィアさんにとっては貴重なお金だと思う。


 周囲の生徒は「またあの二人か」と呆れていて、お金を拾う気配もない。


 私はソフィアさんと一緒にお金を拾って、嬉しそうにランチを注文する姿を見守るのだった。




▽▲▽▲▽




「貴方と結婚なんて願い下げだわ!」

「こっちもだ!! 婚約なんて破棄だ破棄!」


 次の教室に移動しようとしていたら、クラスメイトが中庭で言い争っていた。


 マヌエラ男爵令嬢とエドアルド子爵令息だ。


 二人は婚約者同士なのに、度々喧嘩をしてはクラスメイトが仲裁に入るのが日常だった。


 私は仲裁に入るなんて面倒だし、そのままスルーしようとした。


 二人もこちらには気づいていないようだったし。


 なのに、また。響き渡ったのは聞き覚えのあるファンファーレ。


「おほほほほ、わたくしは悪役令嬢!」

「ふはははは、僕は悪役令息!」


 またしてもアイリーン様とミケーレ様が現れる。


 やっぱり揺れている金髪の縦ロールと薔薇の花。


 私はお二人の登場に興味がそそられて、少し隠れてその場を伺うことにした。


「婚約破棄だなんて、物騒ね! とっても楽しそうだわ!」

「婚約破棄とはただならない! しかしとても楽しそうだ!」


 喧嘩をしていたマヌエラ様とエドアルド様はお二人の勢いに負けて目を白黒させている。


 あの二人の喧嘩は日常茶飯事だけれど、同じく日常茶飯事な頓珍漢婚約者コンビに仲裁をされるのは初めてなのかもしれない。


「以前からわたくしたちはお二人の婚約破棄について考えていましたの!」

「婚約を破棄するならば、次の人が必要だとね!」


 ああ、なるほど。アイリーン様とミケーレ様は、マヌエラ様とエドアルド様の『夫婦喧嘩は犬も食わない』的な婚約破棄騒動を真面目に解決しようとしていらっしゃるのか。


 ……真面目かな。あのお二人は楽しんでいるだけかもしれない。


 脳裏をよぎった疑念を頭をふって振り払う。


 私はいつもどおりにハイテンションなアイリーン様とミケーレ様が、喧嘩をしていた二人がたじたじになる勢いでまくし立てているのを聞いていた。


「マヌエラ様にはわたくしが侯爵令息を紹介いたしましょう!」

「え? いえ、私は、その……」

「エドアルド様には僕が伯爵令嬢を紹介しようと思う!」

「は?! いや、私は、別に……」

「「感謝しなくてもよくってよ!(いいんだよ!)」」


 ああ~、完全に押し負けている。


 そしてマヌエラ様とエドアルド様は爵位が上のお二人に完全に言い返せずにいる。


 これは今度こそ本当に婚約破棄になるのだろうか。


 好奇心が疼いてちょっとだけ身を乗り出す。


 私の視線の先で慌てているのは、本気で婚約を嫌がっているわけではないマヌエラ様とエドアルド様だ。


「いえ、その、お気持ちだけで……!」

「そう、そうです! 私たちも話し合いますので……!」


 どうにか穏便にすませようと頑張っているお二人の前で、アイリーン様とミケーレ様はいつも通りの独特のテンションで、持論を展開している。


「でも婚約を破棄したいといつも仰っているではありませんか!」

「僕たちも心を痛めていたんだ! 悪役令嬢と悪役令息とはいえ、隣のクラスとはいえ級友には仲良くしててほしいからね!」


 お二人の仰っていることは、いまばかりはどこまでも正論だ。


 きっとマヌエラ様とエドアルド様はぐうの根も出ないに違いない。


 案の定、二人は項垂れてしまった。


「では! 顔合わせの日程はこちらで調整致しますわ!!」

「もちろん! きちんと婚約を破棄したのを書面で確認してからだけど!!」


 そういって高笑いと共に去っていった、嵐のようなお二人。


 そっと私はマヌエラ様とエドアルド様に視線を戻す。


「これからは、喧嘩は止めましょう……」

「そうだね……。少なくとも、人目のある場所は止めておこう……」


 二人はしょぼくれながら話し合っていた。


 自業自得の面もあるけれど、これで喧嘩がなくなるといいな~と思いながら、私は面白いものを見学できた満足感でその場を後にした。




▽▲▽▲▽




「私は聖女なのに……聖女の肩書が重すぎて……もう頑張れないわ……」


 なぜか私は罪の告白を受ける神父になっていた。


 それというのも、我が学園に在学中の聖女であるジュリア様が放課後にぽろぽろと泣きながら学園の裏庭のベンチに座っていたのを目撃したからだ。


 私は少し迷ってから話を聞くために近づいた。


 ジュリア様は話しかけた私に涙ながらに「重責にもう耐えられない」と打ち明けたのだ。


 しかし、それを話されたところで私が解決策を持っているはずもない。


 ジュリア様は聖の魔力をもつ聖女だ。


 数百年に一度生まれるかどうかと言われる聖なる力をもっているジュリア様はまごうことなく聖女であり、本人の気持ちは置いてけぼりに周囲からの期待を一身に背負っている。


 重圧だと感じるのは仕方ない。


 しかし、あくまで一貴族である私にはどうしようもない。


 うーんと私が返答に迷っていると、高らかに響くファンファーレ。


 あ、と思った瞬間には目の前に颯爽と現れる人影が二人。


「おほほほ! わたくし悪役令嬢が華麗に登場!」

「ふははは! 僕、悪役令息が美麗に出現!!」


 登場はともかく出現はなんだかちょっと意味がずれてないかな。


 いや、出現で間違ってはいないんだけども!!


 脳内で思わず突っ込んだところで、アイリーン様が美しく微笑む。


 ミケーレ様もまたアイリーン様に負けず劣らずのきらきら輝く金の髪を見せつけるように、ふぁさとなびかせた。


「聖女の重荷に耐えられないというならば!」

「聖女など止めてしまえばいいと思う!」


 無責任なお二人の言葉に、けれどジュリア様は目を輝かせる。


 私はどう話が転ぶのだろうという好奇心と、巻き込まれたくないなぁという葛藤の狭間で遠い目をしてしまった。


「わたくしたちのように『悪役聖女』になればよいのですわ!」

「そう! 『悪役聖女』ならば、人々を助ける必要はない!!」


 極論に走った! お二人は『悪役』とつければ大抵のことは解決すると思っていませんか?


 脳内で突っ込む私を置き去りに、ジュリア様が勢いよく立ち上がる。


「悪役聖女……!」

「おほほほほ! そうです! 悪役となっておしまいなさい!」

「ふはははは! そうだ! 悪役となって世界を裁くのだ!」


 きらきらと目を輝かせているジュリア様はそれだけ追い詰められているのだろうが、さすがに止めないと危ない気がする。


 いままでの二件とは色んな意味でレベルが違う!


「お待ちください! ジュリア様は聖女です……!」


 勇気を振り絞って口を開いた私に、アイリーン様がすっと目を細める。


 普段のふざけた言動で印象が薄れがちだが、整った顔をされているのですごまれると流石に怖い。


 ひえ、と喉の奥で言葉が絡む。


 黙り込んだ私の前で、アイリーン様がにこりと笑われる。


「貴族の令嬢だって悪役となれるのです! 聖女がなれない道理などあるわけがありませんわ!!」

「その通り! 世界のトレンドは悪役なのだ!! 一緒に世界の頂点を目指そう!」


 アイリーン様とミケーレ様のちょっとよくわからない説得の言葉に、ジュリア様は嬉しそうに頷いている。


 あ、ダメだこれ。私の手には負えないわ。




▽▲▽▲▽




「おーっほっほっほ! わたくし、悪役令嬢が皆様のお悩みを華麗に解決!」

「ふははははははは! 僕、悪役令息が悩める子羊たちを導こう!!」

「うふふふふふふふ! 私、悪役聖女が女神様に代わって説教をしましょう!」


 我が学園の変人コンビが変人トリオになった。


 聖女であるジュリア様の参加には流石に学園全体がざわっとしたけれど、三日もすれば元々耐性のあった生徒たちは慣れていたようだった。


 私はと言えば。


(聖女様が加入するのは流石にまずいんじゃないかな――?!)


 と思いつつも、口に出す勇気はないのであった。





読んでいただき、ありがとうございます!


『「わたくし、悪役令嬢!!」「僕、悪役令息!!」』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?


面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも


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