恐ろしいことが起こる
僕の住んでいる小さな町のはずれには、一つの苔むした石碑があった。
「その石碑に刻まれている文章を声に出して読んではいけない。恐ろしいことが起こるから」
昔からそんなことが言われている石碑だった。
ある日の小学校からの帰り道、僕はその石碑の前に立っていた。
恐ろしいこととは一体なんなのだろうか。一体、なにが起こるというのだろうか。
僕は好奇心を抑えることができなくなり、その石碑に刻まれている文章を指でなぞりながら唱えた。
そして、唱え終わると同時に……。
「なあんだ、なんにも起きないや」
僕は、僕が、僕の体が勝手にそんなことを言うのを、そして僕の体が勝手に家へと帰る道を歩いていくのをただ眺めていた。
それ以来、僕はずっとこの石碑のそばにいる。誰にも気が付かれないまま。