看護師天使、奈落へ一直線
「さて、君達を召喚した間にもドリップ達は動き出している。
これに後れを取るわけにはいかない」
「あの、私達さっき自己紹介したばかりで、
戦いのこと何にもわからないんですけど」
恵と紗耶香が顔を見合わせ困ったように笑う。
「何を言っている、君達はSSR卵から生まれている。
元からステージで声援を送っていた天使たちの誰よりも強いのだ」
ガウは順番に天使達に近づいていく。
「紗耶香、君のゆるやかに広がる茶色の髪は複雑なアートのようだ」
「きゃはっ、そんなことないですぅ」紗耶香は照れ笑いしながら、
髪を指先でくるくるといじる。
「君の能力は幻視・幻覚を主としたデバフ。神器の弓とあいまって
後衛アタッカーに相応しい」ガウは隣に目線を移した。
「恵、君のショートボブの髪型と包容力のある微笑は
おじさん達の心に刺さるだろう」
「もっと幅を広げていただけるとありがたいんだけど」
「君は神力回復のバフだ。神聖加護ナース・ヴェールは全員の守備強化も出来る
神器の鞭と合わせてやはり後衛アタッカーだな」
「夏樹、君の茶色のショートカットは見ているこちらが元気を貰えそうだ」
「バレーやってたんです。髪は邪魔だったから」
「君は近接アタッカーでタンク兼任だ。神器『グランリフレクト』は
すべての悪を退けるシールドバッシュが使える。
今の神力だと二回だ。考えるのが苦手なら、
まずは敵に飛び込め。君の勇気は味方を鼓舞する」
「はいっ」
「志津香、君の大和撫子のような容姿と、
うさぎのような可愛らしさはどこか二面性を感じるな」
「愛想がなくてすいません。初対面の男性とあまり話したことないので」
志津香は視線を伏せながらも、背筋はまっすぐだった。
「君も近接アタッカーだが、豊富な技と素早さは中距離でも
十分応用可能だろう。神気があふれ出るほど強いから制御を忘れないように」
「承知しました」
最後に、ガウは佐和子の前に立つ。
「佐和子──君の紫の、なめらかな髪は……夜空を吸い込んだ湖のようだ」
「私のことは、お構いなく」
佐和子は静かに言い、視線を逸らす。
「君は結界術、空間魔術、近接もすべてこなすオールラウンダー。
位階も高く、看護師天使というよりは……まるで婦長──」
「ヒジリ様、お口がなめらかになっているようですわ」
佐和子が微笑みながら、ぴたりと釘を刺す。
ガウは咳払いを一つして、姿勢を正した。
「これだけのメンバーで送り出すのだ。勝利以外は考えられないだろう」
「でも、実戦もまったくないのに…」
神器の維持すらままならなかった恵が、不安げに呟く。
「私が結界でフォローするようにします」
佐和子がそっと恵の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「君たちには、これから“奈落”に落ちてもらう。
魔素が濃くなっていくから、十分注意するように。
人間なら──一息で即死するだろうからな」
ガウが静かに告げたその言葉に、場の空気が凍りつく。
澄んだ神殿の空気が、まるで鉛のように重くなる。
「えっ、もう戦いに行く話になってるんですか……?」
夏樹が目を丸くして言う。
「そうだな。演出が必要か」
ガウは顎に手を当て、少し考える素振りを見せた。
「──先ほどのポーズを、もう一度決めてみようか」
佐和子と紗耶香は両サイドで片足を膝まで上げ、腰に手を当てる。
「そこ、二人はもっと中央に寄るように」
ガウが細かく指示を飛ばす。
恵と志津香は一歩前に出て、両足を広げ、腰を突き出し、目元にVサインを作る。
センターの夏樹は、巨大な注射器を抱えたまま、
やや戸惑いながらもポーズを取った。
その瞬間──
上空から、白い液体が五人に降りかかってきた。
「ちょ、体が固まって動けないんだけど!?」
夏樹が叫ぶ。
「大丈夫。息はできるようにしておこう」
ガウは微笑み、一歩身を引いた。
五人が石膏のように固められたまま、
ステージごとゆっくりと沈み込んでいく。
まるで神殿の床が開き、彼女たちを地の底へと送り出すかのように。
「敵に遭遇したら、その石膏は崩れるようにできている。
安心して──奈落に落ちていってくれたまえ」
五人は、もはや返事をすることすらできなかった。
──こうして、前途多難な中、
看護師天使達は任務へと送り出されることとなった。
ステージであれだけ持ち上げられた彼女達。チートなのは間違いないが、
果たして実力はどうなのか、答え合わせの時間がやってまいりました。
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