SSR天使、ただいま準備中
黄金の階段がステージから四方に伸び、雲海の向こうまで続いている。
「天使達よ。ここが、ここが新たなる始まりの地だ」
荘厳な声とともに、ステージの上に大天使が姿を現す。
六枚の翼を広げ、ステージのライトがゆっくりと照らされていく。
佐和子は一度四人のあっけにとられた天使達を舞台の幕間にひっこめる。
ガウが話し出すまでにだんだんと歓声が静まっていく。
そこはまるで神々が見守るオペラ劇場のようだ。
「地上で新たな盟約が結ばれた。今回召喚された選抜天使たちは地上に癒しを与え
魂を救い、そして…悪を断つ。
砂時計の神たちよりも早く、勝利を掴もう。
それが、我が名にかけた使命だ」
その声は天界の空に反響し、観客席は再び歓声に包まれていく。
ステージの幕間に放り出された四人は佐和子から簡単な説明を受けると、
こそこそ雑談を始めていた。
ステージ上でガウがさらに演説を続けているが、誰も聞いていなかった。
肝心の佐和子が注意しないからだ。
(――あの観客。SSRのはずれ達だわ。転生もさせず、こんなことの為に囲い込むなんて)
「ねえ、恵さんは彼氏いるの?」と紗耶香が聞く。
「若干…」と恵が曖昧に答えた。
「若干?」と紗耶香が言った。
「若干、約二名」と恵が言った。
「若干?」と紗耶香が言った。
「若干」と恵が言った。
「ふむふむ」紗耶香はにやりと笑う。どうやら、
この子とは気が合いそうだと直感した。
調子に乗って、今度は一人で自分の体を丹念に確かめている少女に声をかける。
「志津香ちゃんは、そういうの、まだ早かったかなー?」
「いえ、許嫁はいました」
「えっ、すごいお嬢様だったりする?」
「少し古風なだけだと思います」
「佐和子さんは聞いちゃってもいいかな?」
「あまり詳しくは話せないけど、いましたよ」
「あんたは?」先ほど一人だけ卵に戻された夏樹に対しては雑に問いかける。
「まって、そういう攻め方するの良くないと思う」
夏樹は眉をひそめ、少しむくれたように言い返した。