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崩壊しそうな世界で看護師天使になって救済します  作者: ふりっぷ


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天界は味方に非ず

議場の空気は、張り詰めた糸のように硬直していた。


「――では、異世界に幽閉された男神テレノア様に協力を仰ぐというのは?」


ミリアムの声は震えていた。けれど、それでも言葉を絞り出した。


「ちょうど佐和子が彼の領域に接触している。


今なら、交渉の余地があるはず……!」


ガウは微かに眉をひそめた。


「テレノア……」


その名を口にしただけで、場の気が微かに軋んだ。


「……無理だ」


ガウの声は低かった。しかしその確信に満ちた語調が、


ミリアムをさらに追い詰める。


「無理とは……なぜですか。彼はかつて我らと共に天魔を退けた英雄です!」


「だからだ」


「……え?」


「ヤツの父神を葬ったのは、私だ。


あの戦の裏で、私が命じた。必要だった」


ミリアムは言葉を失った。


「テレノアが私に協力するなどあり得ない。


いや――それどころか、佐和子を引き抜こうとする可能性すらある」


「佐和子を……引き抜く……?」


ミリアムの喉が引きつる。


ガウは静かに頷いた。


「テレノアは理に従う男ではない。彼は感情を持つ。


父の敵が天界にあり、天界の天使が目の前にあれば、どちらを取るか――明白だ」


ミリアムは一歩後ずさった。胸に激しい波が押し寄せる。


「……あなたが、あなたは一体どれだけの“切り捨て”を積み上げてきたのか……!」


「天界を保つためだ」


「それで、誰が残るというんですか!?」


彼女の叫びに、光輪の柱が一瞬、軋んだように光を乱した。


ミリアムの瞳が揺れる。涙がこぼれそうになった。


――だんだんすべての元凶が、あなたに思えてきました。


「佐和子は雑魚狩りがしたいと言った。


ダンジョン最奥にいるテレノアに遭遇することはないだろう。


それに、あのダンジョンは少し特殊で、


ただ雑魚狩りをするのであれば決して先には進めないはずだ」


「SSR看護師天使であれば攻略不可能なダンジョンなどーー」


ミリアムは、気づけば言葉を止めていた。


「ドリップ達の向かった大海獣ゲーラスはセーレの支配下にあるが神聖属性だ。


天使達には手が出しにくい」


「元が天界の守護獣ジュラス様ですし、本体がご存命ですから…」


「なんだ。拗ねたのか。神獣ジェラスがいなくとも


私には佐和子と契約を結ぶ前に生み出していた“恐怖の創造”がひとつ残っている。


万が一の際は世界を再構築してしまえばよい。


天界が負ける未来は三千世界にひとつとして存在しない」


ガウは歌うように言葉を紡いだ。


――私は天界の蔵書を整理し、地上の新しい発見に天使達も学び、


新たな天界術式を研究する。アバやケイトとお互いの成果を提示し、


気晴らしに飲みに行く。そんな今の世界がたまらなく好きなのです。


天界ガチャもそうして生まれたのではないのですか。


ミリアムは溢れる言葉を飲み込んだ。


「大海獣ゲーラスには海難事故で亡くなったすべての魂が収納されているが、


これまで手が出せなかった。仮に大海獣ゲーラスが倒され、


この魂が放出されれば看護師天使達の浄化の力で再び天界ガチャを回すことが可能だ。


SSRは無理でも大悪魔ラウムに対抗できる軍勢は出来上がるはずだ。


これをそのまま看護師天使に率いさせ、


ラウムを奈落に追い返せればゲームの勝利も確定する」


「はい…」ミリアムは泣き笑いのような表情を浮かべた。


「看護師天使達が帰ってくる前に、武雄の始末をせねばならん。


放っておけば、ドリップ達と合流し、志津香の魂魄を奪いに来るのは明白だ」


「はい…」


「ミリアム。お前の、精霊たちの危険性についての進言を受け入れようと思う」


「はい…」


「―――天国の階段を準備する。手伝ってくれ」


「はい…」ミリアムは静かにガウの後に付いていった。


言えば言うほど、届かなくなる――


そんな感覚が、胸の奥にじわりと染みてくる。


目の前の大天使は、まるで結界そのものだった。


冷たいわけではない。


だが、決してこちらに踏み込ませようとはしない。


語りかければかけるほど、意思の届かぬ高みに引き戻される。


(……話しているのに……話せていない)


その時、ふと脳裏に浮かんだのは、佐和子の声だった。


――「ヒジリ様、次の指示を」


そうだ。佐和子は、ガウのことを決して「ガウ」とは呼ばなかった。


親しみのある呼び名を使う天使が多い中で、


彼女は常に「ヒジリ様」とだけ呼んでいた。


当時はただ、形式的な礼儀だと思っていた。


しかし今になって、ようやくわかる。


あれは自らの心を守るための“距離だったのだ。


無理に近づけば、砕ける。


触れようとすれば、押し返される。


――そういう存在なのだ、この大天使は。


ミリアムは目を伏せた。言葉が喉で崩れていく。


怒りも悲しみも、理屈も正義も、届かない。


それでも、自分は正しかったのか。


それすら、わからなくなるくらいに。


* * *


一方、ドリップ一行はマリアナ海溝の深部を目指していた。


前回の接触時大悪魔セーレに狙いを定め、


大海獣ゲーラス拠点の位置を突き止めていたのだ。


砂時計という実体を持つドリップと雷撃が拡散してしまうラウルは本来の力を発揮できない。


『飛び込む』という行為に特攻を持つユキが深海を先導していく。


「何もない。でも、この海域が拠点のはず」


周囲の潮流、魂の波動も乱れている。


結界で隠されていると辺りはつけるが、痕跡がつかめない。


海流によって結界の演算形式が変わっており、この海域全体に及んでいるからだ。


「さすが、大悪魔セーレね、私じゃ解呪出来ないかも」


能力を使って強引に「飛び込む」ことは出来るかもしれないが、


へたすると魂ごと絡めとられそうだ。


「ボォォォォォォ」貨物船の汽笛のような低い唸り声が振動と共に伝わってくる。


「ドリップ、この間の霊木は残ってないの?」


「霊木は残っていないが、代わりのものならある」


そう言ってドリップは黒い塊を取り出した。


塊からは泥のように小さな手が現れては消えている。


「きしょ」ラウルが思わず距離を取った。


「大悪魔グレモリーの魔核だ。こいつに俺の砂を纏わせて海流に乗せていく」


――神聖属性には効くぜぇ、こいつは。ドリップは悪い笑みを浮かべた。


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