看護師天使、ただいま降臨中
ガウは早々に天界へ戻ると、佐和子に静かに告げた。
「──もう、誕生するぞ」
その瞬間、天界の大広間に張り詰めた空気が震え、
視界を覆い尽くすほどの真っ白な光があたりを満たした。
まるで世界そのものが一度塗り潰されたかのように。
荘厳な鐘の音が、天の空に三度鳴り響く。その音は耳ではなく、
胸の奥に直接響くようだった。雲が裂け、天空に巨大な黄金の魔法陣が
ゆっくりと回転しながら姿を現す。
「SSR召喚──大天使の祝福、発動」
魔法陣の中心から、無数の翼根のような光の鞘が天空に舞い上がり、
細かな粒子となって渦を巻いた。
やがてその粒子が凝縮し、四つの卵の形に収束する。
その卵は透き通る薄膜に覆われ、中で小さな光の魂が脈動していた。
「全員SSR以上じゃないですか!不正を疑われますよ」佐和子は思わず叫ぶ。
「私はちゃんと献身的な天使を選ぶと言っておいた」
「後で問題が起きても知りませんからね!」
佐和子は半ば呆れたように息を吐き、一つ一つ卵を割っていく。
卵が割れるたび、ステンドグラスを砕いたような色とりどりの光が天に散り、
花びらのように舞い落ちた。
最後の卵はやけに硬く、佐和子は眉をひそめた。
「これだけ、妙に頑丈ですね」
右手に神気を纏わせ、軽く拳を握ると、勢いよく打ち抜いた。
硬質な音とともに卵が砕け、中から茶髪ショートの少女が、
両手をばんざいしたまま倒れ込む。
「ほげぇ」
「おやめなさい。美しくない」ガウは顔をしかめて指を軽く弾くと、
少女は宙に浮かび、卵の欠片ごと再構築され、元の卵の中に戻っていく。
「やり直しです」
「えぇぇええ!?ちょ、待っ──」
少女の声もかき消され、空間が再び光に満たされた。
その瞬間、天界全体が震え、大音響とともに光のスタジアムが現れる。
遥かな天の座から、万の天使たちの歓声が響き渡った。
佐和子を中心に、五本の光の柱が天を貫き、その中から静かに、
四人の少女たちのシルエットが現れる。
「今日ここに──新たな看護師天使が誕生した!!」
宣言と同時に、彼女たちは一斉に姿を現した。
ピンクのナース服に身を包み、頭上には黄金の光輪が輝き、
背には透き通るような白い翼。
「これが、私の選んだ子たちだ。佐和子、任せたぞ」
ガウは微かに目を細め、ようやく柔らかな笑みを浮かべた。