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崩壊しそうな世界で看護師天使になって救済します  作者: ふりっぷ
第四章 迷宮探索テレノア編

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ちび天使の反抗と迷宮攻略ミッション

荘厳な玉座の間に、ひときわ小さな佐和子の姿がぽつんと残される。


ガウは口元を押さえて吹き出した「どうした、その恰好は?」


神力を使い果たした佐和子は子供のように小さな姿になっていた。


「転移に巨大な力で妨害が入った。大悪魔の仕業だと思う」


笑われたちび佐和子はむっとして答えた。


「三戦目はマリアナ海溝に潜む『大海獣ゲーラス』これを不戦敗とする。


ドリップらはもう海底に向かっている」


ガウは気を取り直して告げた。


周囲の天使たちがざわめく。


「では、大悪魔の捜索を」


佐和子が一歩前に出る。


「それも不要だ。大悪魔探索にはこちらも第六位天使を充てる。


君と同格だから不満はないだろう。捜索だけならルール違反とはならないからな」


「今からでも海底に向かう」


ちび佐和子は強く進言するが、ガウは手を振った。


「無理だ。海上でのドリップの強さは桁違いだ。


特にあのマゼラン航路にいる時は…無敵と言っても過言ではない」


その声にはどこか苦々しさすら滲んでいた。


「失礼ですが、ドリップ殿がそこまでの力を持つに至ったのは、


その執着のせいでは?」


傍らで会話を記述していたミリアムが控えめに口を開く。


「……何故、そう思った?」


ガウが興味を示し、振り返る。


「私が思うに、あなたはこの天界でも最も力のある神。


最高神と因果がからめば、道理として近いステージまで引き上げられるのも必然」


「然り」


ガウは芝居がかった仕草で額を叩いた。


その仕草は軽妙だが、目には隠せぬ疲労と諦観が宿る。


「まったくその通りなんだ。このままだと、


次の惑星の管理者があの男になってしまうくらい、


私の頭の大半を占めてしまっている」


ふっと微笑んだその瞬間、


ガウはすっと佐和子の背後に回り、柔らかく抱きしめる。


佐和子は咄嗟に身を強張らせたが、すぐにその力を抜いた。


「この惑星に限っての話だ。君には別に…ちゃんと見返りを用意している」


耳元で囁く声は甘やかで、それでいて何かを含んでいた。


佐和子は薄く笑みを浮かべながら、その言葉の意味を静かに探る。


「ここでドリップが勝ったとしても、まだ2勝1敗。次に負けてもイーブンだ」


ガウは涼しげに言いながら笑みを浮かべようとしたが、奥歯がぎり、と鳴る。


その圧に、周囲の天使たちの顔が青ざめていく。


「ちょこちょこ威圧を飛ばさないで。周りの天使たちが怖がってる」


ちび佐和子は冷たく言い放ち、頭に回されていた腕を雑に振りほどく。


ガウの目にわずかに驚きが浮かんだ。


「あなたは…前々世と前世の私に介入した」


「前世の記憶を持って転生させただけじゃないか」


ガウは肩をすくめ、まるで些事だとでも言うように笑う。


「……地上で流行ったゲームを知ってる?」


ちび佐和子の声は鋭く、しかし冷静だった。


「勇者が魔王を倒すストーリー。けど、レベル1の勇者が魔王に挑んでも勝てない」


「それは違う」


ガウは指を立てた。


「勇者が魔王を倒す因果律があるのなら、


レベルは関係なく、対峙した瞬間に魔王は倒れるのだ」


その言葉に、ついに彼女の我慢も限界を迎えた。


「……人が優しくゲームに例えて話してるのに!」


声を荒げると、ちび佐和子は拳を握りしめた。


「二度も無茶なミッションを押し付けて!


大天使だからって何でもしていいわけじゃないよ!じゃあ、はっきり言う」


息をつき、拳をぐっと突き上げる。


「雑魚狩りがしたいの!雑魚狩りしてレベル上げて、


休憩もして、それから次の戦いに挑みたい!


ヒジリ様の見返りなんて恐れ多くて受け取れない、


それを報酬としてくれればいい!」


空気が凍り付く。


周囲の天使たちが恐る恐るガウの顔を伺う。


しばしの沈黙ののち、ガウはふっと息を漏らし、笑った。


縮んだ姿を愛でていたが、


ようやく、佐和子の怒りが本気だと理解したのだ。


「はは…了解した。特別ミッションだ」


ガウは芝居がかった仕草で右手を掲げる。


「第六位天使・佐和子に命じる。


第八位看護婦天使を連れ、クレタ島地下迷宮を攻略せよ」


「期限はドリップたちが四戦目を制するまでだ。


存分に雑魚狩りでも何でもしてくるがいい」


ちび佐和子はにやりと笑い、踵を返した。


「その言葉、忘れないから」


* * *


執務室には紙の擦れる音と、遠くの鐘の音だけが響いていた。


佐和子は大天使の霊廟で神力を回復させると、


山のように積み上がった報告書の中から、一通の書状を手に取った。


それは、精霊の動きが活発化している報告だった。


しかも、どちらかと言えば天界に敵対する方向で動き始めている。


でも、アンブラフォールで見かけた鯖の精霊は


むしろ私達をかばってくれたようにも見える。


ラウムの後ろに控えていた悪魔も以前の恋人とよく似ていた。


だが、それは前世の話だ。そんなわけはない。


(ミリアム、ごめんね)


机の上の書類をまとめて脇に避けると、


佐和子は意を決したように志津香を呼び出した。


志津香の光輪は厚みを増し、古代文字が浮かび、


背中の翼は一回り大きくなっている。


「存在進化は完璧に終わっているわね。さすが選抜天使だわ」


佐和子は志津香の目をじっと覗き込む。


その瞳は以前よりもずっと澄んでいて、


未練も迷いもほとんど残っていないように見えた。


(これから心話で並行して話をするから、ついてきてね)


「はい。自分ではわかりませんけど、力が溢れてる気がします」


「そうね。外見も随分変わったわ。頭の光輪もただの光じゃない、


金属のような光沢の輪。あなたの意思の強さを表しているのね」


佐和子は微笑み、声では穏やかに、心話では鋭く切り込む。


(あなたの言っていた許婚は、地上で叫んでいた武雄君ね)


(はい、そうです)


(天使になる時、未練は本来すべて消えるもの。


外から強い因果の干渉がなければ、ね)


志津香の顔にわずかに翳りがさした。


「これから存在進化の肩慣らしよ。迷宮探索の許可が出たの。


みんなが目覚めたら出発するわ」


志津香はようやく、年相応の笑みを浮かべた。


(…それと、あなたにはうさぎの精霊が付いている。心当たりは?)


(あります)


(そのことは他言無用。武雄君には別れを告げる機会を作る。


あなたはもう、別次元の存在だもの。…早い方がいいかも)


(…別れなければ、いけませんか?)


(いずれ別れることになる。経験上ね)


佐和子は静かに、しかしどこか悲しげに微笑んだ。


「神器も確認しておいてね。存在進化で形状も変わることがあるから」


「わかりました」


志津香は硬い声で返事をし、ドアの前でふと振り返った。


「あの……下がすーすーすると思ったら、


スカートの丈、短くなってません?存在進化ってそういうものなんですか?」


佐和子は苦笑いしながら、にっこりと微笑んだ。


「絶対見えない仕様になってるから、安心して」


思わず、二人の間に小さな笑いがこぼれた。


「佐和子さん、先程のお姿とっても可愛いかったです」


この束の間のやりとりが、これから待ち受ける激しい戦いと別離の予感を、


ほんの少し和らげた。


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