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あなたの相手は──私です

残酷な描写が苦手な方は飛ばして下さい。

「あなたの相手は──私です」


静かな声。だが、奈落を満たす瘴気すら揺らし、確かに響く。


次の瞬間、佐和子はラウムの目前へと踏み込み、


盾で志津香と恵をかばい、そのまま両腕を抱え上げる。


身体が宙に浮き、空気が裂ける。


──速い。


誰もその軌道を目で追えない。


気づけばラウムの死角、左下から無数の神気を帯びた針が襲いかかる。


ラウムが咄嗟に身を捻り、間一髪かわした瞬間──


視界が闇に閉ざされた。


佐和子の足がラウムの頭部を踏みつけていたのだ。


そのまま跳躍。奈落の空間を裂くように飛翔し、


いつの間にか佐和子の手から離れていた黒槍が宙を舞い、


背後からラウムの脇腹を抉った。


「……ッ!」


刺突と同時に瘴気の壁が割れる。


神気を纏ったそれは、悪魔の肉体すら容易く貫き、深紅の血煙が舞った。


「さあ、悪魔は弱ってきたわ」


佐和子は微笑み、夏樹の方へ目を向ける。


『佐和子さんひとりで全部やってますよね……』


賢明な志津香は飲み込み、唇を噛む。


ラウムは怒りの咆哮を発した。


顔に六つの目が現れ、異様な光を放つ。


「お前のような者がいる以上、もはや手加減せぬぞ」


瘴気の濃度が一気に跳ね上がる。


紗耶香と恵の手にしていた神器が、一瞬で霧散する。空気がひび割れ、


奈落の空間が歪む。


そして──ラウムの姿が掻き消えた。


上空から、黒い触手の奔流が襲いかかる。


「誰か、紗耶香と恵ちゃんのフォローを!」


ラウムの行方を捜しながら、佐和子が怒鳴った。


空はすでに漆黒の触手に覆われ、出口のない殺戮の空間へと変わろうとしていた。


鋭い刃を備えた触手の群れが、五人を包囲するように襲いかかる。


夏樹は巨大な盾でいくつかを弾きながら、


紗耶香と恵のもとへ駆け寄ろうとするが──数が多すぎた。


「ぐっ……くそっ!」


盾をすり抜ける一本の触手が、紗耶香の腕を裂く。


そのまま絡みつかれ、戦闘服が紅に染まっていく。


「紗耶香!」


恵もまた足元を取られ、触手に絡まれ引きずられる。


奈落の闇に消えかけたその瞬間──


「縮地!」


志津香が低く呟き、影のように滑り込みながら


二人の絡まる触手を小太刀で鮮やかに断ち切る。


細い体躯からは想像もつかない鋭さだった。


「ありがとう……!」


佐和子が一瞬目を逸らした、まさにその刹那。


地面を裂く瘴気の波紋が現れる。


ラウムが、手にした曲刀で佐和子の脇腹を薙ぐ。


だが佐和子は、不意打ちにも関わらず紙一重でかわし、


そのまま逆手に黒槍を握り、ラウムの喉元へ突きを繰り出した。


「まだだ」


ラウムが曲刀に瘴気を込めると黒い光が佐和子の右手を貫通する。


瞬間、痛みを殺し、左手で浄化の神気を送り込み、


刃を食い止めると、距離を取る為に跳躍した。


「佐和子さん! 二人とも気を失ってます!」


志津香の声が響く。


紗耶香と恵は血塗れのまま、意識を失っていた。触手はまだ蠢いている。


「……事前情報と全然違う。強すぎる。一度撤退するわ」


佐和子は胸元から淡い光を放つ宝玉を取り出し、虚空にかざす。


宝玉が空間を裂き、五人の姿が霧のように揺らぐ。


「逃がすかよ!」


ラウムが怒声を上げ、足元から四本の触手が爆発するように飛び出した。


空間に開いた亀裂へかぎ爪を突き立て、転移の術式に干渉を始める。


転移の空間が捻れ、結界がきしむ。


「くっ……誰か、時間を稼いで!」


佐和子の額に汗が浮かぶ。


「夏樹! お願い!」


佐和子の声が、空間の歪みにかき消されそうになりながらも、確かに届いた。


「いまだ!」


その瞬間、夏樹の身体に宿る神気が一気に沸き立つ。


巨大な盾を握る両手に力がこもり、羽根の意匠が淡く輝く。


「──シールドバッシュ!」


叫びと共に、夏樹が全身の力を込めて盾を突き出す。


空気が裂け、雷鳴のような轟音とともに、


ラウムの足元から伸びる四本の触手がまとめて弾き飛ばされた。


「なっ──!」


ラウムの目が驚愕に染まる。


その隙を逃さず、五人の天使たちの姿が空間の裂け目とともに


光の粒子となって消えていく。


──転移、完了。


奈落の闇には、風の音だけが残った。


微かに残る神気の残滓と、弾け飛んだ触手の残骸。


しばしの沈黙の後、ラウムは弾き飛ばされた触手を見下ろし、口元を歪めた。


「……お前の転移術式――覚えたぞ」


ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。

10話目にして、ひとつの大きな山を越えました。


今回登場した大悪魔ライムですが、イメージとしては「魔界村」のレッドアーリマンを黒く、

人型に進化させたような存在です。

槍を投げて倒すのが正しいやり方のはず……が、今回は強すぎました。


もし楽しんでいただけたら、評価をいただけると励みになります!

ここまでの10話通しての評価でも構いません。

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