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大天使の訪問

 喫茶店では一人の男が気難しい顔でコーヒードリッパーを睨めつけ、


 抽出の一滴一滴に全神経を注いでいる。


 カウンター席では少女がにこにことその様子を眺めていた。


 奥の席では青年がこれも気難しい顔で絵を描いている。


 ドイツのフォッカー社製戦闘機だと思われるが、型式まではわからない。


 店内にはジャズのピアノが流れ、


 入れたてのコーヒーの香りが空間を満たしていた。


 その穏やかな空気を破るように、喫茶店の扉にノックの音が響いた。


 金属ではなく、まるで天上から降る鐘のような、澄んだ音だ。


 入り口には、背の高い男女二人の天使が立っていた。


 男の天使は銀白の髪を肩まで垂らし、


 背には六枚の大きな翼をたたんでいる。


 女の天使は紫の長髪をなびかせ、


 足元まで垂れ下がる四翼を静かに揺らしていた。


 男の方の天使が囁くように言う。


「この世界はそう遠くない未来に崩壊します」


 その声は小さかったが、店内の全員が自然と耳を傾けていた。


「並行世界は三千を遥かに超え、私の手も及ぼなくなっていますから」


 喫茶店の男はドリップメーカーから顔を上げ、ため息をつく。


「日本にも大きな危機が迫っています。私達には格好のゲームとなるでしょう」


 青年のペン先は止まり、描きかけの戦闘機の尾翼が、


 まるで現実と重なるように見えた。


「俺がゲームに参加するメリットは?」


 男はドリップを止めずに言った。湯の細い糸が静かに螺旋を描き、


 コーヒーの香りが濃くなる。


「万一、崩壊した世界でもマゼラン航路を保証します」


 銀髪の天使は、淡々と答えた。


「おい、いつまで根に持っているんだ」


「さあ、何のことだか」天使は小さく微笑んだが、


 その笑みは人間のそれとはどこか質感が違った。


 温度のない、美しいだけの表情だ。


「ドリップ、相手にすることないよ」カウンター席の少女は口を挟んだ。


「ゲームにはあなた自らプレイヤーとして参加して構いません。


 私はここにいる佐和子と下級天使4名を予定しております」


 銀髪の天使は視線を佐和子に向けた。


「まだ決まってないのか?」


「はい、そろそろ揃うはずなのですが、一番献身的で上からの指令に


 逆らわない民族に限定して集めております」


 佐和子がガウの裾を引っ張った。


「ヒリジ様、あまりいい気分がしないです」


「おお、すまない、君は別格だ」天使は、小さく肩をすくめた。


 佐和子は小さくため息をつくと、裾を離した。


 「ちょっと時間をくれないか?」ドリップはカウンターから


 奥にいた青年も呼び、三人で声を落として話始めた。


 「銀髪の天使は俺の古い馴染みでガウという大天使だ。


 俺も神と言われているが、神格は比べ物にならない程高い」


 「この喫茶店は隠れ家にもならなかったな」金髪の青年は冷笑しながら、


  手元の紙ナプキンに意味もなく線を引いた。


 「そういうな、いきなり戦闘にならなかっただけでも見っけもんだ」


 ドリップは肩をすくめ、カウンター越しにちらりとガウの方を見やった。


 ガウは相変わらず無表情で、店内の壁に飾られた古い航海図を眺めていた。


最初は連続投稿します。よろしくお願いいたします。

看護師天使が早く見たい!という方は3話目からでも大丈夫です。

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