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序章

 孤児院で暮らすアスールは、偶然トエルノ王国の第五王子セリオン、その友人で貴族のカリマと出会う。

 セリオンに請われてその従者となり、カリマと共に気楽な三人旅をしていたが…。

 突然の凶事に翻弄されながらも、それぞれの思いを貫くお話しです。

 一応ハッピーエンドではありますが、ハードな部分もあります。苦手な方はご容赦を。

 BL要素はありますが、濃い絡みはありません。


※エブリスタ、アルファポリスにも記載しております。

 幼すぎて覚えていない過去の記憶。

 俺は炎の中から助け出されたのだという。あとになって引き取られた孤児院で聞かされた。

 トエルノ王国の近隣で起こった戦。それに巻き込まれ焼かれた村があった。そこの住人だったらしい。

 逃げ遅れた母親が俺を抱きかかえたまま、炎に巻かれ命を落とした。その腕にいた俺も同じ運命を辿るはずだったのだが。



「子どもの声だ」


 村を偶然、通りかかったトエルノ王国の騎士が泣き声に気づいた。被害の状況を知るため、戦に巻き込まれた村々を巡回していたのだと言う。

 騎士には今年三歳になる息子がいた。その息子とそう変わらない幼い子供の泣き声を、そのまま見過ごすことはできなかった。


「この辺だが…」


 騎士は部下と共に、すっかり焼け落ちた家屋の間を声の主を求めて歩き回る。と、兵士の一人が声を上げた。


「いました! あの家の中です。しかし──」


 兵士が指さした方向にはまだ炎を上げる家屋があった。半ば焼け落ちている。


「まだ行ける。井戸の水をよこせ。行ってくる」


「危険です! 私たちが──」


「いい。寄こせ」


 そう言って、部下が止めるのも聞かずに、用意された水をかぶり焼け落ちた家に飛び込んだ。程なくして家の中から子どもを救い出してきた。

 子どもは軽い火傷を負った程度で済んだ。騎士にも大きなケガはなく。その後、子どもは途中の孤児院に預けられたのだ。

 騎士は去り際、子どもに名前を与えた。灰褐色の瞳に、浅黒い肌を持つ子ども。アスールと名づけた。

 本当は息子につけたかった名前なのだという。しかし、妻の意見でもう一方の名前となった。このまま、息子が生まれなければつける機会もない。せっかく考えた名前を失くしたくはなかったのだと言う。

 そうして、孤児院の院長に取り敢えず持ち金すべてを渡すと、子どもを託し騎士は去った。


 それが、俺が後に知らされた過去の話。

 騎士は名前を明かさなかったという。男は白銀の髪を持つ、穏やかな眼差しをした人物だったとか。

 当時、応対した院長も年を取り、俺が成長する頃には亡くなってしまい、詳しい話を知るものはいなくなった。

 その人物は今も孤児院に寄付をしていたのだが、当時の俺は知る由もなく。老院長が亡くなった為、寄付の理由を知るものはいなくなっていたのだ。

 だから俺を預けた礼に寄付が続けられているとは誰も知らず。その主を知るのはまだ先の話しだ。

 俺は孤児院からほど近い、丘の上に登った。一日の日課が全て済むと、必ずそこへ来て景色を眺める。

 そこには樹齢五百年をゆうに越す巨木が鎮座していた。年中葉を落とさないそれは、青々とした硬い葉を風に揺らしている。

 ここはお気に入りの場所だ。ここに来るとこの地域一帯が見渡せる。広々とした視界に晴れ晴れとする。狭い箇所に押し込められるように生きている俺にとって、それは心が解放される場所でもあった。

 遠く霞んで見える黒々とした森の向こうに王宮があるらしい。その手前、孤児院の側の湖近くに、立派な屋敷が建つ。何でも王家の別荘らしい。孤児院の裏庭と接しているそこは、時期になると王妃が子供らを連れて休みに来るのだとか。

 俺には関係ないけれど。

 くれぐれも、そちらに行くなと釘を刺されている。言われなくとも行くつもりはなかった。自分とはかけ離れた世界に住む人々。まるでおとぎ話の世界。王や王妃と言われても現実味がなかった。

 頬を心地よい風が撫でていく。大きな幹に背を預け目を閉じる。まるで自分が樹の一部になったように思えた。

 この樹の様に何百年も生きたら、どんな世界が見えるのだろう。

 幼い俺にはそれが途方もなく魅力的に思えた。いつか誰かに、将来なにになりたいかと聞かれたら、この樹になりたいと答えようと思った。

 これが、俺の幼い頃の記憶だ。

 


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