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ホームレスに対する思い出

作者: 天本有泉

今から50年も昔。昭和50年代。貧しかった日本も、高度経済成長を経て豊かになりつつあった時代、私は、小学生だった。名古屋市内の都心部に生まれ育ったが、市内のあちこちには、空き地が広がっていた。

その空き地の一画に、近所の小学生の遊び仲間と、「秘密基地」を作ったわけだ。「秘密基地」という名称だけど、特に秘密にもしておらず、親達や近所の人たちは、小学生たちが、掘立小屋のようなものを作っているなあと思っていたようだ。

秘密基地を作った空き地の道路に面した側には、縦は3~4mはあろうかと思われる広告看板が横幅20mくらい並んでいた。この広告看板を壁に利用して秘密基地作りは進められていった。広告看板を支える支柱や、空き地に不法投棄されたトタンなどを材料にして、屋根や壁を作り、雨でも困らないようにして、地面には家から持ってきたゴザをひいた。

いい感じで出来上がったところで、ジュース、お菓子、おもちゃ、漫画などを持ち込んで、メンバーはいつもの小学生仲間だけどパーティをした。楽しかった。

遊び疲れたときの休憩場所にもなるし、自分一人で来てくつろぐこともできるし、最高だった。


ところが、ある日、秘密基地に行くとなんとホームレスが住み着いているではないか?!


小学生一人では無力だ。仲間に知らせた。秘密基地には、漫画やらおもちゃも置いていた。

小学生仲間全員で、「ここは僕たちの秘密基地であること。勝手に使わないで欲しいこと。漫画やおもちゃは返して欲しいこと」などを述べた。

ホームレスにとっては、小学生などものの数ではない。我々を威嚇して、臭い息を吹きかけ、殴らんとするばかりだった。小学生にとって、大人は、怖い存在だ。「ここは俺の家だ」と平気で嘘をつく、「いや、僕たちが一生懸命に作ったんだ。」というと、暴力に訴える。我々は、半べそ状態で、逃げ出し、親に助けを求めた。


親は当てにならない。


「あそこに、あんなもん作るからいけない。いつかホームレスが棲みつくと思っていた。あんなホームレス呼び寄せて困ったもんだ。」逆に説教される。


小学生仲間で相談することにした。他の小学生仲間の親たちも、大同小異、同じようなものだった。

「空き地に基地を作る方が悪い。ホームレスを呼び寄せた責任を取れ。漫画やおもちゃは諦めろ。」

楽しかった思い出は、暗黒の思い出になり、ただただ悲しかった。

でも、悲しいだけでは済まず、やることができてしまった。

私たちは、責任を取ることにした。

自分たちの大事な秘密基地を壊してしまうこと。

ホームレスが不在になるのを待ち、一気に壊した。

仕方がない。責任取る必要があるのだから。

ホームレスは、自分の家が壊されているのを見つけたようだったがあとの祭りだ。

我々小学生は、逃げ足は早い。半分酔っ払いなんかに負けやしないで逃げおおせた。

家を再建するかと、思ったが、それはせずに、いなくなった。

ホームレスに、取っちめられるかもと怯えなくて済んだわけだった。






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