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ファミリー異世界マート  作者: ハシバミの花
異世界転移
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テナントビル保全業務

「これ、建物ごと転移してますね。元の世界、どうなってるんだろう」

 不安そうにキョロキョロする鬼城さん。

「ふしぎだよねー。一回シフト入ってなかったときに見物いったら完全に更地。で腰ぐらいの高さから上のところまっ黒の煙がただよってんの」

「こわい! その時に入っちゃった人とか、いるんです?」

「片足入れてみたけど、なんか引っぱられてやばかった!」

「笑ってるし!」

「南さんなんか敷地入ってずっと待ってたもん笑。しかも警察通報されたし笑」

「本当にやっちゃいけない事全部してくるし! 石動さん大ウケだし!」


 裏にまわり、周辺を警戒しつつ監視カメラのチェック。

「宅配キッチン023(オニイサン)……あ、系列のお店なんですね」

 宅配キッチン023はうちの店のフランチャイズが事業展開している宅食デリバリー。

 10年ほど前にドーンと事業展開を目指したが、さして注文ものびずさりとて需要がないわけでもなく、地味に生きのこっている関連事業。

 それが宅配キッチン023。

「ちなみに女性ドライバーもいます」

「お、お兄さんなのに……?」

『高齢化社会見込んでコンビニフーズを売りこもうとしたけど想定ほど顧客つかめなくて、コロナ禍でもウーバーみたいなフレキシビリティを発揮できなくて、ラインナップもバリエーションも売りがない、保守的な首脳陣がリスクにビビって冒険的な事業をスポイルした、思い切りの悪い業態』

 とバッサリ切りすてたのは店長の嫁、都留凛さん。

 店長の講習につきあった夜、諏訪夫妻に酒をおごってもらった席で聞いた話。

 まあ半分グチ。

『あんな古くさいもんさっさとつぶしてウーバーでもパクればいいのに、そんで社員にブラック労働させてどうにか採算取ってる部分でフード部門のリサーチとかってバカじゃない? 思わない?』

 実際的なご意見でした。

 そして連れてってもらった炉端焼きのお店は酒もつまみも高くておいしかった。

「あれれ、シャッター開いてますよ石動さん」

「えー、あー本当だ開いてるね」

 これやばいなーと、体をかがめてヒザまで開いてるシャッターの中をのぞく。

 内部はガレージ。

 灯りはおちていたけど、そのむこうのアルミのドアの窓、ライトがついた通路からこっちのぞく店長の顔。

 透明樹脂の窓をゴンゴンたたいて開けろアピールしてくる。

「な、中になにかいましたか? ゴブリンは無事侵入してますか?」

 侵入したら無事じゃない。

「あー大丈夫。オークみたいな店長がドアドンしてるだけだし。鬼城さんも入ってー」

 シャッターを少しあげて、大きいお尻の彼女を先に中にまねく。

「……わわわ、物がおおくて、影いっぱいで暗い。わ、私目がわるくて、明かり、明かり……」

「店長の動く遺影みたいになってるドアの横、スイッチあるよ。ついでに遺影の額縁ドア開けてあげて」

「うええ、あ、ハイ」

 ジョークまじりの指示だけど、鬼城さんは迷いもせずに実行。

 元引きこもりなのに取捨選択できててわりと有能。

 たぶん長いこと就業経験ある人よな。

 こっちはシャッターをおろして完全にとじ、灯りがつくの待機。

「ちょっと石動くん、誰が動く遺影だよ! アクリル窓をのぞいてる僕をそんな最先端の葬儀業者のサンプル動画みたいに言わないでよ!」

 灯火に浮かびあがる、整備用の真っ赤な工具棚と車両。

 天井にキャリアのついたライトバン、ホンダのNーVAN(エヌバン)とジャイロキャノピー。

 車体のサイドにベタっと貼られた宅配弁当屋のカラーロゴ。

 そのNーVANの運転席。

「ぎゃああっあっ……あああっ……!」

 肺活量の弱っぽい、でも野太めの悲鳴をあげたのは鬼城さん。

「な、中に人が……しんで……しんで!」

 運転席で白目をむいて意識を失っている男性。

「ああ死んでない死んでない。その人まだ生きてるから安心してー。土鳩どばとさーんおきてー。朝ですよー夜ですよー」

 ゴンゴンサイドガラスをたたいて呼びかけると、

「ンゴォ!」

グゴって痙攣して、宅配023の四輪ドライバー土鳩さんが目をさます。そしてよだれをたらす。

「ああ、石動くんおはよ」

「土鳩さんよだれたれてます」

「これはサービスだよ」

「そのサービスはいらないかなー」

「サービス抜きでも金額同じだよ?」

「じゃーもらっときまーす」

 土鳩さんはここ宅配キッチン023の社員で、配送からいくばかのメカニックまでを主業務としているオタクである。

 配達のユニフォームのまま寝てたし、たぶんお店もどって駐車してそのまま気絶したのだろう、ブラック企業こわい。

 オタクってこんな働き方する人多いよね。みんなおふろ入んないの。

「土鳩さんおはようございます。また居ねむりですか? シャッターの施錠がされていないの、困ります」

「あ、トウジンさんおはっすー。いやー寝ちまいましたなあ! ここんとこまいんち16時間労働だったから!」

「なにかのコピペみたいな発言やめてよ! あとトウジン呼びもやめて! 新しいバイトさん入ったんだから!」

「ええ? あのシャーク界隈でも著名な、トウジンさんが? 新しいバイトが入ったぐらいで、その対応ですって?」

 ローカルCMみたいなねちこい演技と発音で返事をする土鳩さん。

 二人は同サーのメンバーらしい。

 社会人なのにサークルとか、どんな活動内容か知らないし知りたくないし本気で一生知りたくない。

「シャーク? え、まさか……あのシャーク映画評論超第一人者の……スーパーシャーカー⭐︎トウジンさんなんですか?」

 鬼城さんが演技たっぷりに割りこんでくる。

「……バレてしまっては、仕方ない。でもだよ、僕は、世間で言われているような、サメ映画会社からのキックバックなんて、一切受けとってないんだ。それだけは、理解してほしい」

「私のハンネは『オニキス』、あなたの庇護者です。その点は確認をすませておりますのでご心配なきよう」

「ああマジかオニキスさんご降臨かよ! こんな油くさい車庫で目玉つぶれそうな歴史的名場面じゃん、あざす! あざーっす!」

「オニキスさんやばい神々しさ。これは歴史だわ来世紀に語り継がれるわ人類史にのこるわ」

 よく分からないが自分以外のメンツでなんらかの共通理解(コンセンサス)は得られたもよう。

 三人はおたがいにだけ分かるやりとりで、心のギャップを埋めて親睦を深める。

「キャアアアアアアアアアアー!」

 シャッターの外で肺活量のおおそうなカン高い悲鳴がとどろいたのは、その直後であった。

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