クリアデータをセーブしますか?
ダンジョンから脱出すると、地上はもう明るかった。
朝日がでっかいお城のりんかくをふちどって光らせてる。
「ハレーションっつーんですよハレーション。あのフチ光ってんのハレーションっつーんす」
周防くんがウザめに説明する。
「うわ、水ないよ!」
店長がおどろく。
見ると運河にほんとうに水がなかった。
「あー周防くんがレバーこかしてぬいたやつだ」
「そなんだー。それがなかったら川わたれんし、たすけにこれんかったよ」
「ファインプレーっつーんですよファインプレー」
「うざ笑」
川底をてくてく歩いて向こうにいくと、土鳩さんがまっててくれた。
ぼくらはNーVANに乗りこんで旅のおわり、すなわち帰り道へと出発した。
「なんでドバッシー姿けすし。ぼくらあのあと大変だったんだよ」
「いやーまってたんだけど、頭ウネウネでめちゃキモなモンスターわいてきてさ、逃げたらアップルさんがいて」
「や、ドバッシーがもどってきただけだし」
「ニョロスキーね。ニョロスキーっつーんですよニョロスキー。それニョロスキー。あ、ドバッシーこれカメラ。だけど途中で川に流されたから、たぶん壊れてますよ」
周防くんが土鳩さんにカメラをわたす。
「まじかー。どうにかメモリーだけでもサルベージできないかなー」
「フラッシュメモリなら、乾燥させれば復活することもあるよ」
「まじすか。だったらいいなー」
店長のアドバイスにしたがって、土鳩さんがメモリぬいて制服のおなかでキュッキュこする。
みんなで車にのりこみ、車が発進する。
運転席土鳩さん、助手席店長。
二列目に鬼城さんとアップルさん。
テールゲートひらいたまませまい後部座席をフラットにして、うしろむきに足ブラしてすわる俺と周防くん。公道走ったら道交法違反。
「それでニョロスキーからは逃げられたんだけど、今度は火の玉撃ってくる顔色悪いのがいて」
「魔術士ね。魔術士っつーんすよそれ」
「石動さんボクのギャグパクらないでくださいよ」
「いやもうウザいから、周防くんが使えないようにダサくしてやろって思って」
「そいつらをアップルさんに蹴ちらしてもらって、ついでに置いてきたキャノピーの収納手伝ってもらって」
「したら川、ざざーって水抜けたし、だったら行かなきゃっしょ。それでドバッシーにここでまっててもらって、デモキンんところいったの」
「デーモンキングの島、よくわかったね」
「そらわかるし。めっちゃ燃えて空まで光ってたもん、アレてオニキスっちのマホっしょ?」
「……たすかりました……アップルさんに、ババア下着見られなかったことだけが、すくいです……」
げっそりと鬼城さん。
「うちも足みられてっし。あいこじゃん?」
アップルさんが鬼城さんの肩に頭をおくと、鬼城さんがアップルさんの頭にほっぺたをあずける。
長年の友だちのように、二人がほほえんでよりそいあう。
「今回は失敗おおかったね。やっぱ仲間を一人にしちゃーいかんかったわ」
「ボクら、南さんのテツたらふくふんでましたね」
一、異世界では一人で行動しない
一、異世界では勝手な行動をしない
一、異世界では仲間を大事にする
勝手な行動はしてないつもりだけど、のこり二つは完全やっちゃってる。
「……ほんとだよ……あんまうちさびしがらせんな……」
弱音をもらしたアップルさん。
今どんな顔してるんかな。
背中むいてのぞきたい。
ラジオからパチパチと空電がはいり、聞きなれた声が流れだす。
USEN。
いつものイケボだ。
「だれでしたっけ、デビッド・カッパー……」
「クリス・ペプラーっすよ鬼城さん。デビッド・カッパーフィールドは、イリュージョンのヒトです」
「でしたねー」
周防くんの知ったかがそのまま流される。
鬼城さんも、この店の会話リズムになじみつつあるようだ。
「そういやデーモンキングがたおされたんだから、王女は助かったのかな?」
店長が聞くとはなしにしゃべる。
「あー。出るときふり返ったら、三人の賢者が合体して、女の人になってましたよ。あれが王女じゃないのかな」
「なんて名前だっけ」
「え、ヘンネ王女しょ」
アップルさんだけがおぼえていた。
『今夜はほんとうにありがとう。おかげでわがフォーゲルヘイムはすくわれました』
急に女性の声が聞こえる。
姿は見えないのに、車内で話してるみたいにはっきりした声。
「うわびっくりした! なんですかこれ、なんなの?」
「ちょ、ドバッシー運転あぶないて」
びびった土鳩さんが一瞬ハンドルをこねたので、乗員全員がシェイクされた。
『私はヘンネ王女。みなさんに、お礼をさしあげたいと、今魔法ではなしかけています』
接客やビジネス敬語みたいなくどさのない、好ましい丁寧語。
「お礼って、なんかくれるの?」
『私にできることであれば、なんなりと』
って言われても、パッと思いつかない。
「……あの、今日使ったこの武器とか防具は、このままもって帰ってもいいんでしょうか」
鬼城さんがおずおずとたずねる。
『もう、デーモンキングは滅んだので、無用となりました。どうぞさしあげます。ほかの武器もいりますか?』
「あ、もらえるならありがたいです!」
店長がのっかる。
『では、ライオンの剣と魔法のランプとシラカバの盾、見通しのブレスレット、そして悪魔を退治する聖十字架をさずけましょう。周防、なんで笑ってんだ』
「やっぱブラウじゃん。ポンコツトリオの集合体うけるー」
『うけない。あーもー私こんなじゃないのにお前のせいだ周防ー。もー』
「名前笑、変ね王女笑」
『だまれもー』
周防くんがえんりょなく笑うのでヘンネ王女がぐだってくる。
思いかえすと、二人のやりとり、たのしかった。
「三人の賢者は、分離させられたヘンネ王女だったんですね」
「ふーん。ギムっちと結婚するの?」
『それはひみつ。えへ☆』
する気まんまんだろ。
「ギムさんイイ人だもんな。とっぽいけどイケメンだし」
「ああー、変な王女にだまされて結婚しそうっすねー」
『うっせー石動周防、私がしあわせにするわ。ほかになにかある? ないならバイバイみんな元気でね』
「あ、まって。ひとつある」
俺は手をあげた。
「え、もう十分じゃない? 数時間で魔法のアイテム5つだよ? こんな釣果ないでしょ」
「なんすか石動さん。まだなんかあるんです?」
「次俺が死んだら、アップルさんにマウストゥマウスしてもらえるようにして」
「またバカゆって」
あきれたみたいに言ってるけど、アップルさんはわらってる。
『わかった。できるようにいのっとく』
「いのるだけかー」
「だったらボクには、石動さんが死んだら口にうんこつめた店長を用意しろ」
『自分で用意しろ。じゃあ、みなさんのご武運をいのります』
ヘンネ王女の気配がきえると、車内に光の塊があらわれる。
「わ、なんでしょ」
光はゆっくりこっちにやってきて、シート三列め、俺と周防くんのあいだにガシャっておちた。
「音が金属っぽい? あ、ライオンの剣だ」
「あとはあれか、魔人のぬけたランプとあやしい数珠。それと十字架」
「ライオンの剣すっげえ切れてたよね。店長いります?」
店長は助手席からふりかえらずにこたえる。
「あんまりいい刃物だと自分の手を切りそうでこわいから、石動くんどうぞ」
フラミンゴヘルムから引っこぬいたシラカバの盾ももらってるんだけど、まあラッキーと使わせてもらおう。
「十字架は鬼城さんかな?」
「チェーンつけて首にさげたらオニキスっち似あうとおもう。ぜったかわいい」
「いっすねー巨乳強調されてさらにいっすねー」
「ババア下着ですがね……」
「ランプはずっと光きれないんだっけ、やっぱカンテラいらんかったっすわ」
「使うから! それ一つでなんでも出来るわけじゃないから!」
「あやしい数珠は周防くんだよねー」
「やった。大学内ハビってる宗教団体に高値で売ってやろ」
「業務上横領だよねー」
「売れたらサイゼおごりますよ」
「やった。エスカルゴ以外の食べようず」
「いやーあの味のないワインにエスカルゴとアロスティーニは外せませんわー」
「バーカ笑。二人しんじゃえ笑」
鳥のさえずりが聞こえる。
前方から、見なれたコンビニが近づいてくる。
クリス・ペプラーがイケボで今日もミュージシャンの悪口をこぼしてる。
もうすこしこのままバカ話をしていたいと思いながら、ぼくらは旅のラストシーンをゆっくりかみしめた。
クリアデータをセーブしますか?
▶はい
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おしまい




