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ファミリー異世界マート  作者: ハシバミの花
最後の旅路
33/34

エースの中のエース

 まず見えたのは、顔の高さで横むきにつきだしたブーツの右足。

 それからこんがりして張りのあるすてきなモモ肉。

 つぎにその足をおろして2歩、その人がついに姿をあらわす。

 小柄なのに長い手足。

 ブーツとガントレットが、魔力発動してキラッキラに発光している。

「アップルさん、来てくれてさんきゅ」

「クロムっち。飛ぶから」

「おけまる」

 俺は走って店長のそばに投げの構えをセットした。

 それは、一時期やってたハンマー投げの投擲フォームを工夫した、異世界では何度も使った合体技。

 器用貧乏の俺が開発した、そもそもアップルさんのための技だった。

「店長準備は?」

「万端さ。さあこい!」

「フォッ」

 格闘家っぽい息吹をひとつ、ぼくらを踏み台にしてアップルさんが舞いあがる。

 体重が軽くてキックがつよいから、最高到達点がすごく高い。

 デーモンキングよりも体ひとつ分高い。

 10メートル近くある天井に、手をのばせばとどきそうだ。

「シュウッ!」

 ジャンプの頂点で、ヒザがかわいいおデコまでくるほど蹴りあげる左のティップ(前蹴り)、からの腰をひねってあげた脚を蹴りおとすテッカンコーサイ(左まわし蹴り)をはなつ。

 おそいかかる二軸の斬波。

「クッ!」

 とっさに両手で顔をかばうデーモンキングだが、ねらいは本体じゃない。

 魔法の防具から発せられた斬撃線は、急角度の"ヘ"の字をえがいて、デーモンキングの両翼を斬りおとす。

「グアア!」

 どうにか墜落をまぬがれて両足で着地するが、斬られた背中の痛みにデーモンキングがのけぞる。

「シュウッ!」

 そこで休ませないアップルさん。

 みずからの着地と同時に、うしろにためた右足のテンカウ(ヒザ蹴り)からの、あげたつま先を腹に蹴りおとすティップ。

 一撃めでガードの両手をガラスでも割るかのように粉々にし、二撃めを腹のまんなかに命中させる。

「グボッ」

 デーモンキングが後方にはじきとばされ、まっ黒な血を吐く。

「きをつけて! デーモンキングはやみのマホウで、すぐにサイセイするの!」

 ブラウの声だ。

 デーモンキングの腕と翼がジワジワと再生している。

「させんし。てんちょ、クロムっち、うごきおさえといて!」

「がってん!」

「ガード入りまーす」

 俺と店長の2人で、アップルさんの左右をかためる。

「全力でいくし。手かげんとか、ないやつ」

「まっぷたつにしてやってよ」

「心えた!」

 古風な返事も超決まってる。

 デーモンキングが治りかけの腕で、両側からはさみうちにする俺と店長を攻撃する。

 バシンと盾ごしに全身をうつ衝撃。

「ウッ!」

 歯を食いしばってうけとめる。

 視界のはんぶんが一瞬まっ赤になり、鼻血がでる。

 足どめしたデーモンキングのま正面から、アップルさんのタッマラーからのテッサイがぶちこまれる。

 若かりし日のあの酔っ払いのアゴとアバラをぶち割った、父親ゆずりの必殺コンボ。

 カラテ道場じこみの、そらせたつま先がアバラに刺さる凶悪なテッサイ。

「ヴッ……ァッ!」

 ヒジでコメカミを打ちぬかれて発したうめき声が、二発めの蹴りでつぶされる。

「アップルさん、すごい……」

 鬼城さん、うっとりとした声で。

「対ヒト型なら、アップルさんにかなうわけないんすよ」

 周防くんがニヤリと笑う。

「だからあの人が、ボクらAチームのエースなんだ」

 そしてアップルさんのフィニッシュ、全力の魔力をこめた右のティップが、デーモンキングを広間ごとタテにぶったぎった。

 ズシンと衝撃。

 天井が割れて、上から陽光がこぼれだす。

「アアアァ……」

 デーモンキングが光を浴び、焼けのこった灰を吹きちらすように全身が粉々になってゆく。


「フッ」


 顔の高さに両腕をあげるムエタイのかまえをとき、両の手をゆるりとおろし、アップルさんが滅んでゆくデーモンキングをながめる。

 すこし乱れた前髪がひたいにかかる。

 勝利したときのアップルさんはおそろしくカッコよくて、だれよりもセクシーだ。

 やんなるよな。

 競技やってて、こういうやついるんだ。

 一番いいとこもってく人。

 ほか全員を、ただのモブにしちゃう人。

 どんだけ免許とって、武器防具そろえて、なかまを叱咤激励してがんばっても、さいごはみんなその人だけを見て、ぼくらのハートをもってく。

 スター選手とか、エースの中のエースとか、そういう人種。

 腹たつほどかっこいい。

 そして、見とれるぼくらに彼女は言った。


「外もう朝だよ。やばない?」


 全員がわれにかえる。

「やべえ。店の品出し間にあうかな」

「まあ朝シフトの作業ならぼくら関係ないし」

「ひどいよ石動くん! 君だけでも残業してよ!」

「いやっす。シフトラインのばされても全力で粉砕してあがります」

「そのエネルギーで働いてよ!」

「おことわる!」

「ちょっもー二人あそんでないでもう帰ろて」

 ラストでわちゃわちゃになりながら、ぼくらは広間をあとにした。

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