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ファミリー異世界マート  作者: ハシバミの花
あらたなる冒険の地へ
25/34

賢者・緑のパパガイ

「ぐったり」

 賢者はぐったりしている。

 二匹めの賢者はグリーンでおーいお茶っぽかった。

「石動さん賢者を匹で数えるのはやめてください。その方は賢者の一人『緑のパパガイ』です」

 ギムさんがもどってきて、水をなみなみ満たした水筒をくれる。

「ギムさん水ありがとう。鬼城さん、水どうぞ」

「あああっああっ」

 鬼城さんがのどをグビグビならしギムさんの水筒を飲みほす。

 口のはしからこぼれた液体が、胸元をぬらす。

「この姿、とっておきたいエロさっすねー」

「周防くん正直な感想は時と場所を選んでねー」

 あははとぼくらは子どものように純真に笑う。

 息をあらげた鬼城さん、こっちも見ずにしばらくぼーっとしていた。

 たしかに色っぽい。

 ちょっと見とれた。

「あ、この子が二人目の賢者ですね。よしよし」

「のおお……」

 目を回している二人めの賢者をそっとかかえ、鬼城さんがヒザにのせて介抱する。

「こっちの子は、少しおとなしそうですね。かわいい」

「わたしもかわいいわよ!」

「そうね、ブラウマイスも活発でかわいいよね」

 ハンカチを水にひたし、グラウンドにライン引く石灰みたいな胞子まみれのパパガイをぬぐう鬼城さん。

「はた目にはお人形遊びをするアラサーに見える」

「冷徹に言葉で印象をスケッチするのはやめてください。傷つきます」

 しかられた。

「でも色っぽくて目をうばわれたよ」

「アップルさんにチクりますよ」

「なんでだ。なにをチクられるんだ。なんて言ったら正解だったんだ」

「石動さん正直な感想は時と場所を選ばなきゃダメなんですよ」

「まじか初耳だは」

 口調に周防くんがうつってる。

 さて、賢者なんだっけ、パパガイが息をふきかえすのをまって話を聞く。

「たすけてくれてありがとう。わたしはこのそらにすむものたちのさと、フォーゲルヘイムのさんけんじゃのひとり、ミドリのパパガイです」

 ひらがなばっかりでむずかしいたんごしゃべられるとわかりづらい。

「『アルジャーノンに花束を』の原作、最初ぜんぶ大文字なんだよね。それでたどたどしさとかを出してるんだ」

 有名な古典小説を原書で読んでる意外なインテリの店長。

「それで、次の目的地は?」

「ヌマチでたからばこをとるの。スケルトンがいっぱいだからこわいよ」

 ヌマチって沼地か。

 スケルトンってあのスケルトンか。

 どっちも不潔そう。

「ちな強いの?」

「まーまー。バンピアーデーモンよりはちょっとよわい」

「あれよりちょっとだけ弱いのがいっぱいかー」

「ぜったいしんどいやつだ。賢者のくせに虫っぽくてむかつくし帰りましょうか」

「スオーしね!」

「しねなんてゆっちゃだめ!」

「しおしお」

 二人めパパガイにしかられて、ブラウマイスがしおしおする。

「青とか緑とかついてるし、名前も長くなって呼ぶときめんどうだなあ。略称はないんですか?」

「賢者様は尊き存在ですので、僕にはとてもそんなこと……」

「じゃあブラウマイスが『ブラウ』、パパガイが『パパ』な」

「なにーしつれいだぞー」

「じゃあ『つるべ麦茶』と『おーいお茶』な」

「ブラウでガマンする」

「いいこいいこ」

 パパがブラウをいいこする。

 パパっつって女の子だけどな。

「こっちにすすむのです」

 案内のとおりに運河にそって南下すると、その先に湖を発見。

「わー。島がある。城っぽいのもある。もしかして?」

「ええ、あそこが四番目の陸地フィーアラントと、デーモンキングの居城です」

「大タコがいなきゃなあ」

「コングリーダもいるので気をつけて。デビルフィッシュほどではありませんが、かなりの強敵です」

 ギムさんが言うと信憑性がある。

「店長コングリーダってなんです?」

「アナゴ」

「まじですか。倒して焼いたらうまいかな」

「大きくてまずいです。脂っぽくて臭いです」

「まじかー」

「すしネタには使えなさそう」

「まずお酢と砂糖とコメがないとねー」

「どっちもありますよ」

「マジすかギムさん。ここにスシローひらけんじゃん」

「いやモンスターはまずいので」

 ぼくら男子は食べものの話題でスキップし、ウフフと乙女のように笑いあった。

 ウフフ。

 スキップで湖畔を西へすすみ、岩山のふもとをすこしあるいた。

 つきあたり南側にまたダンジョンの穴。

「これ入んの?」

「うん」

「入るとどうなんの?」

「ながされゆ」


 入った。

 すっご流された。

「ガボガボガボ。運河。ダンジョン穴めっちゃ運河直通便」

「すごい水洗トイレ感。虫賢者たちを漬けてやりたい」

「もうついてるブクブク」

「プクプクプクプク」

「どお、ど、どおおっ」

「すすんで! みんなすすんで! うしろでコングリーダが僕をつついてる! キバむいてるキバむいてるんだよォー!」

 うける。

 うけつつしばらく川の流れに身をまかせると、新木場みたいなつくりの、岸壁のひくい堤がみえた。ああ新木場は夢の島ね。

「みんなあそこまで泳ぐんだ!」

 声をかけて、みんなで泳いだ。

 近づくと川底が浅くなってて、かんたんに岸にあがれた。

「どおお! どおおおお!」

 揚陸するなり、鬼城さんが四つんばいで号泣する。

「私泳げないんです! どおおおお!」

 悪いことした。

 でもやさしくしたらアップルさんになんかチクられそうなので周防くんに目線で救援を乞う。

 周防くんは親指をバッチーン立てて笑顔で言った。

「鬼城さん。ボクがついてますよ!」

「いっさい信用できません!」

 鬼城さんは滝壺みたいな音をたてて慟哭した。

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