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ファミリー異世界マート  作者: ハシバミの花
あらたなる冒険の地へ
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ツバイラントの岩山

「ここはにばんめのリクチ、ツバイラント! このヤマをひがしにおりるのよ! そこに、もうひとりのケンジャ、『ミドリのパパガイ』がいるわ!」

「え、お前みたいなのがもう一羽いんの? いやだたすけたくない」

 周防くんがぐずりだす。

「だまるのだスオー。おりるのだスオー」

「周防さん羽があるとはいえ、賢者を数えるのに一羽はおやめください」

「だってえー」

 まー周防くんがむずがるきもちもわかる。

 出てきたら背中に運河、あとは全方位急な崖。

 道がやたらけわしくて、しかも人間大のコブラがジャラジャラ這ってる。

 ヘビか。

 やだなあ。

「安全なダンジョンもどろっか」

「だめ。わたるの!」

「ちなおりるのに何分かかるの?」

「ゆっくりあるいたら、さんじゅっぷん」

「走れば10分弱か。なら走っちゃおう」

「まってください。29歳の引きこもり明けわがままボディに、そんなムチャはできない」

「30歳オーバーのマジカルフルアーマー店長にもムリだよ。二十歳ネイキッド体育会系の君たちとはつくりからちがうんだ」

 アラウンドサーティズがなんか弱いこと言ってる。

「ほっていこっか」

「鬼城さんはつれてってあげましょうよ」

「そだねー新人だもんねー」

 歩きかー。

 めんどい。

「ドバッシーのところにもどって、車だしてもらおっか」

「この岩山があるのは第二の陸地、ツバイラントです。運河でへだてられた、別区域なんです」

「あちゃー」

「行きましょう」

 ぼくらは岩山にふみたした。

「あちゃー」

「うわーめんどくさ」

 すぐにコブラがワラワラよってきて、崖の上から下からたえまなくおそってくる。

「うわカッテー。本気でなぐると手がしびれる」

「自分がいきます!」

 思いもよらなかったヘビのウロコの固さに手間どってると、ギムさんがライオンの剣でサクッと片づけてくれた。

 斬れ味すっご。

「わあー落ちる! 落ちるよー! 僕は高所恐怖症なんだ!」

「ひええっ、お、落ち、落ち落ちますうっ……」

 垂直のガケに、人ひとり分の幅しかない道というマンガみたいにアスレチックな難所もあった。

「中国の観光地みたいっすね」

「中国ってこんなところなんだねー」

 なんでも鑑定団に出品される、中国の古い絵とかを思いだすよねー。

 あの垂直の棒みたいに立ってるウソみたいな山の絵。

 6体のコブラを倒し、7体目をうっちゃってぼくらはどうにか岩山のはしからまろび出た。

「あーゆっくり降りてタルかった。ところでまろび出たって表現、なんかみやびくない?」

「どういう意味なんです?」

「さあ。店長に聞いて」

「まろぶは転ぶの古語だよ。転がりでるってこと」

「あーぼくらまさに岩山からまろび出だったわ」

「でしたわー」


 コブラは岩山から出られないようだった。

 スライムが平原から出られないように、バルドフントが森から出られないように、神殿のバンピアーデーモン、城のニョロスキーがそれぞれの場所から逃げられないように、この世界のモンスターには、そういう几帳面な習性があるようだった。

「岩山つかれました。のどかわいた……」

「かわいたねー。自販機さがす?」

「ないっしょ。店長これどうすんの」

「責任おしつけてもなにもまろび出ないよ」

「うまいこと言われても、心のかわきも体のかわきもうるおいません……」

「あの、運河の水でよけれれば、くんできましょうか?」

 ギムさんがもうしでてくれる。

「おねがいします」

 ぼくらがまろび出たせまい平野のすぐトイメンに、運河はあった。

 どこにでもあんなこの運河。

「石動さん、それよりも」

「石動くん、それよりも」

 めずらしく店長と周防くんが同調する。

「今なにも聞きたくないかなー」

「なんかこのキノコ、動いてません?」

「動いてるよね。てか歩いてるよね」

 目の前でなにかあっても、リアクションしたくない現実がある。

 それはたとえば流しにペヤングぶちまけたときとか、授業の10分前にレポート提出完全に忘れてたときとか、岩山をえっちら下山したら小屋ぐらいあるキノコが歩いてたときとか。

 まあそういう。

「どうしろと?」

「どうします石動さん」

「どうしよう石動くん」

 なんで俺に聞くの?

「時間帯責任者だから、いざとなったら責任押しつけるから」

「周防くんは自分にだけ正直だなあ」

「あざす。でどーします?」

「さあ。ギムさん待とう」

「このキノコのどれかに、ワタシのなかまがいるの! すくいだして!」

 ブラウマイスがまたさわぎだした。

「まーたキノコにかくれてんのかよ。お前らぜったいキノコの汁吸う虫じゃん」

「ムシじゃない! スオーしね!」

「グンタイアリ、やだなあ」

「すね。あいつらめっちゃ怖い」

「二人、僕を見るのやめて! もう違法投棄する産業廃棄物みたいに投げないで!」

「それはだいじょーぶ。ここはアリいない」

「まじ? じゃーいきますかー」

「あーめんどくせ。虫賢者ぶつけようず」

「スオーまじめにはたらけ!」

 ぼくらは歩くキノコ類をせっせとつっついた。

「ひゃいいっ」

「あ、いた」

 ヒダからちいさいシリが見える。

 手をのばして胴体をガッとつかむとそいつは、

「はあのおおおっ」

と声をあげた。

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