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ファミリー異世界マート  作者: ハシバミの花
ようこそファミリー異世界マートへ!
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閉店作業

 閉店まぎわに入店しようとした酔っ払いが、不機嫌そうに声かけてくる。

「あー、こういう日もあるんすよ。またのご来店お待ちしてまーす」

 なるべく丁寧にお引きとりねがったつもりだが、それですまないのが酔っ払いだ。

 変な鉄板のついたキャップをかぶってて、よく見れば着ているジャージはバッドボーイズで、近所のキックボクシングジムのロゴがある。

 この店でもたびたび問題を起こす、練習生の教育のなってないジムのやーつ。

 その年でまさか練習生ではなかろうから、ジムの雇われトレーナーかなとあたりをつける。

「なんだコラその口のききかた、俺をバカにしてんのか? こっちは客だぞ!」

 お客様をバカに仕上げたのはお客様自身じゃないっすかねーというケンカ販売用語を口にしかけたが、冗談きかなさそうな四十路男に披露するのはさすがにひかえる。

 トレーナーなら元選手だろうしなんか腕とか太いし。

「クロムっちーてんちょ呼んでるー」

 アップルさんがドアから首だす。

「すんせん、今お客さまに説明中でーす」

「おい、酒買うからどけってんだよ」

 まだごねてる酔っ払いを、アップルさんがにらむ。

「あん? よっぱらい? つっかおめどっかで見たぞ……あ、むかし親父に半殺しにされたやつだ」

 軽量級銀河最強と言われたアップル父は全盛期、たびたび来日してら当時のボクシングとキックの上位ランカーをすべてぶちのめしたレジェンド格闘家。

 親子関係も良好で、アップルさんはたまに父親の若かりし日の動画をながめるという。

「ああ? 半殺し? なんだ姉ちゃんケンカ売ってんのか? 俺がだれだかしってんのか!」

 きたない四十路はやっぱり元格闘家のもよう。

「あ?」

 アップルさんがキレる。

 次の瞬間変なキャップがナタの一閃みたいにするどいヒジでま上に跳ねとばされ、次にくりだされた蹴りで車道の暗がりに飛んでった。

「ウッ……!」

 二発目の蹴り足が、ガラ空きの右わき腹にビタッと止められる。

「だれにむかってねーちゃん呼びだし、あ? コラタココラ。あしはおめーが世界挑戦したチャンプの娘だコラ、おめーがあんとき食らったとーちゃん直伝のタッマラーからのテッサイ入れたろーか」


▶おとこ はにげだした


「『ひっ、お助けください』って泣きながら逃げる人間初めて見ました」

「『銀河系最強(ギャラクシー)は勘弁してください』って、どんな負けかたしたんだろうね」

「フィニッシュのコンボでジョーとリブいっぺんに折ったゆってた。動画みたけどキャンバスころがってイモムシみたいに悶えった」

「……1コンボで二カ所骨折とかムエタイこええすぎる」

 ちなみにタッマラーは横からの肘打ち、テッサイは左ミドルキックだムエタイ対角コンボこわい。

「ちなケンカんなったら、わるかったらクロムっちアゴ割られてたかもだよ。パンチ力って年取っても落ちないんよねー」

「やっぱりかー東京こわい」

「東京かんけーなくない? 油断しったら今日も歯とかなくすしまじしらんよ」

 前回の異世界では、この店が数百体ものゴブリンに囲まれた。

 こりゃ今回のバトル長くなるなーと省エネ営業で与ダメをアタッカーのアップルさんまかせにしてたら、棍棒投げつけられて前歯を三本折られた。

「ゲームだとゴブリンそんな攻撃してこないから油断するよねー」

「ボク見えてたからうしろから警告したのに。『石動さーん右右遠距離きまーす』つって」

「聞こえてたんだけど、まだ余裕あるだろって油断したんよ」

「え、それで石動さん、歯が折れたんですか? じゃあ今の前歯、インプラント?」

「回復魔法使ってもらったよ。意識飛んでボコされてたから細かくはおぼえてないけど」

 鬼城さんがおどろく。

「回復魔法、ですか? そんなの使えるんですか?」

「むこうにいるうちだったら、周防くんとかがね。もどってから治したら治療費かかるし、歯医者行かなくてすんで助かったよ」

「その魔法、ケガも病気も治るんです?」

「ビョーキはどーだろね、ていどによるね。ガンとかは無理そうだけど、風邪ぐらいなら治ったよ。外傷も治せる限度あって、このコンビニが変な世界に転移しはじめた初期に巻き込まれた住所不定無職の南さんは、残念ながら天に召されたし」

「死んでるし!」

「死んだし笑!」

「笑ってるし!」

「いやー南さんは俺たちに多くの教訓を残してくれたよ。一、異世界では一人で行動しない。一、異世界では勝手な行動をしない。一、異世界では仲間を大事にする」

「いい人……だったんですね」

「いやーそれ全部南さんが犯したミスなんすよねー笑」

「でないと死なんよねー笑」

「笑ってるし! こわいこわい!」

 ぼくら三人のほがらかな笑顔に鬼城さんがおののく。

「ところで南さん、本名南春郎(みなみはるお)って知ってました?」

「えまじ? なんか耳で知ってる」

「『お客様は神様です!』の演歌歌手でしょ? 20世紀少年に出てた」

「なにそれ。ドラマ?」

「映画す。古田新太(ふるたあらた)激似の人」

「それは"春波夫(はるなみお)"! 三波春夫をモデルにした、古田新太が演じてるキャラだよ! 三波春夫はだいぶ前に亡くなってるよ!」

 ユニフォームに着替え終わってようやく店長が姿を現した。

 中身がデカすぎて、サイズXXLなのに全体ピチっている。

 買お? XXXLサイズの制服。フランチャイズ本社に発注しよ?

「冬コミ店長おはようございまーす」

「はよーっす」

「てんちょはよー」

「お、おはようございます……」

「おはよう。誰が冬コミだよ石動くん! 冬の神と書いてトウジと読むんだ!」

「てんちょそろそろブッコあけてー。でないとクロムっちがバールのようなものでロッカーこわすって」

「壊さないでよ石動くん! 武器用ロッカー高いんだから! ちゃんとカギあるんだからそれで開けてよ!」

 店長がカギ束からディンプルキーを見せてくるけど、それ今の今まであんたの手にあったでしょ。

「いやーせっかくバールのようなものが手のとどくとこあるんだし一回使ってみたいし?」

「永遠にやめてほしいし!」

「てんちょブッコ!」

「その前に閉店作業! また来店されて一般人が犠牲になったら……あ、えーと、新しいバイトの……」

「あ、鬼城です」

「そうそう鬼城さん、臨時だけど閉店作業のやり方教えるから! 浅生くーん、トレーニング手伝ってー!」

「はーい」

「えーブッコ先でいーじゃーん」

 さっさと戦闘モードに入りたい吉田アップルさんが座ったままブーイング。

 ローライズのショートパンツの後ろが開いて派手カラーのぱんつがチラ見えする。ありがとう。

「クロムっちエロい顔バレてんよ」

 冷蔵庫のガラスに顔が反射してた。

「吉田アップルさーんのかわいらしいお尻のせいだよおー」

「歌ってるしきっしょいし笑」

 アップルさんはいいお尻をしている。

 というかいい足もしている。

 もう下半身全部いい。

 どういいかというと、太ももがデカい。

 ウエストぐらいある。

 ヒザもしっかりしてて、ふくらはぎなんかプリッとしてて子持ちシシャモみたいだ。

 下半身フェチが昂じて陸上部に入った自分には、大変な目の保養です。


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