賢者ほぼ昆虫説
「きゅううっ」
賢者は目を回してぐったりしている。
「死んだかな? 虫なら余裕でつぶれるぐらいガブってつかんじゃったし」
「生きてます。この世界に魔法があるかぎり、賢者は不滅の存在ですから」
「でも気絶はするんだ」
「そりゃ気絶くらいしますよ」
さも当然のように言うけど、その当然がぼくらにはわからないのだ。
「しっかしリアルだなーこれ。ばーちゃんちの母親の部屋にこういうのあってさー」
「めちゃクオリティたけえ。海洋堂超えてね?」
「おなかのここ押すとさー、キューキュー音だすのよ」
「きゅうううっ、きゅうううっ!」
「そーそーこんな音鳴らすの」
「脱がしたらぱんつの中身精密にできてるのかな?」
「ぎゃあぎゃあ!」
周防くんが下着をひっぺがそうとしたところで二人ともペーンと頭をはたかれ、
「もー男子いいかげんにしなよ!」
アップルさんに本気めでおこられた。
「すんません」
「した」
ぼくらはすなおにあやまった。
のびたチビ賢者は女子たちが介抱した。
具体的には鬼城さんがひろげたタオルに寝かしつけた。
「はたからは、お人形遊びをするアラサーに見えます」
周防くんがグリってつっこむ。
「やめてください、心にきます……」
「ほめてるんですよ」
どう考えてもほめてはない。
「とりあえず賢者一匹確保しましたけど、次の予定は?」
「匹で数えるのはやめてください……そうですね、この賢者――青のブラウマイス――が知ってるはずなのですが、今はごらんのとおりなので、目をさますまでのあいだ、この世界をかんたんに案内します」
なんか仰々しい名前で呼ばれてんだなあ、このつるべ麦茶。
「案内って、そんな時間ないでしょ」
「すぐに終わります。このクルマという乗り物があれば、一時間もかからないかと」
ウソでしょ?
「一時間かからずに案内できるなんて、小さな国なんですね」
「ギムさん国じゃなくて世界って言ってない?」
鬼城さんとヒソヒソする。
「いや、世界ですけど、そんなにふしぎなことですか?」
僕らは顔を見あわせる。
思案するぼくらに、土鳩さんが提案した。
「とりあえずさあ、もどって原付つかわない? NーVAN一台だとせまいでしょ」
そうしよう。
「ちょっと! 僕を忘れないでよ! 関節刺されそうになってたのに、なんでだれも助けてくれないんだよ!」
あやうく店長を置きざりにしかけた。
ざんねんである。




