第六話
あれから三日ほどたった。
魔力を自覚するという特訓はかなり上達出来た気がする
最も完璧とまでは言わないが。
でも少しでも自覚できるようになったって言うのは成長したってことだ
これは祝福でもしないとな、自分の心の中で
「おし、今日もやるか」
今日も俺はこの山に来て練習をしている。
何だかんだこれをやるのが楽しいんだ
日々の積み重ねが嫌いな俺でも何故かこれだけは真面目に出来る
これは自分がこういう摩訶不思議な技を使えるのを楽しみにしているからなのだろう
だが、治癒魔法というファンタジーではあまり影の薄い技なのだが
魔術が使えるだけで大満足だからいいとしよう。
それに鐙が言うには治癒魔術は間接的に不死身になれる魔術とか言ってたし
楽しみだ。
「一、二、三、四‥‥今回は四つだけ触覚で自覚出来たな」
今日の結果はどれだけ感覚を振り絞っても四つだけ、初日は零だったから成長した。
これで終わりだな今日は流石に大学行って帰って、ここまで連れて来てもらって三時間ほど修行する。
これは疲れてくるし、毎回ここまで連れてってくれる
成島さんに迷惑だ。
戻ろう、そしてさっさと帰ろう。
しっかしまぁ、よくここまで出来るな、自分でも驚きだ
元々好きな事やってみたい事には全力で取り組むタイプだったから、
当たり前なのかもな
「すいません、いつもありがとうございます」
「いえいえ、これも私の仕事ですから」
なんか自分に合わない敬語を使うと違和感半端ない気がする。
だが、敬語は大切だ、目上の人に対しては絶対なのだからこれは崩さないように努力しよう。
成島さんはいい人だな、こんな送り迎えを嫌な顔をせず受け持ってくれるなんて
成島さんもこういうのが好きなのかとは思うが流石に有り得ないだろう
俺みたいなオタクが憧れるようなファンタジーを夢見る人じゃなさそうだし
これは偏見か流石によくないな。
気になるな、なんで成島さんは鐙の言うことも俺の送り迎えも嫌な顔せずやってくれるのか
とても気になる。
あんなちんちくりんやガキみたいな俺を相手してくれるのか。
今は車の中だし、二人しかいないし聞けるだろう
言ってくれるかどうかは分からないが、
「成島さん」
「はい、何でしょう?」
「成島さんは、どうしてこんな面倒くさいことを嫌な顔一つせずやれるんですか?」
素朴な疑問だった。
成島さんはそうですね、と唸り声を上げて考えていた。
聞いちゃいけなかったか、仕事で渋々やっていたとかなら申し訳ないな。
「そんな、申し訳なさそうな顔しないで下さい。私がこうやって出来るのはですね。鐙さんが命の恩人だったから微細な助力をしたかったんですよ」
あの鐙が、命の恩人ね
見えねぇ
「お恥ずかしながら私、アニメとか大好きですし、超能力とか好きな質なんですよ。でも鐙さんのようにはなれないですから、私はこうやって鐙さんや今後被害者を出さないために尽力する貴方達を微細ながらご助力したい、そう思うからこそ私はこうやって出来るんですよ」
やはり、見た目で判断してはいけなかったな。
しかし、聞く限り成島さんは本当に良い人だな、正義感もある。
こんな人が政府の人間だとは
もうちょい捻くれているかと
これも偏見か
でも、こういう人が居たら魔術師をやっていけるって言うものなのだろう
鐙もたまにいい仕事してくれるな
風華が師匠と慕う人間だしそれは当たり前かもな。
「いつもありがとうございます」
「いえいえ、お気をつけて」
「はい」
———
山を下りて俺は家へと戻ってきた。
三日連続で続けるとは思わなかったが、やればできるんだな俺って。
「つっかれた」
「あ、吟切。」
いつも通り疲れを感じながら階段を上り自分の部屋の前まで来ると風華が丁度のタイミングで外へと出ていた
疲れの表情は一切ない、流石俺より先輩の魔術師なだけあるな
「お疲れ」
「おう」
風華と俺は短い応答を経て、俺は玄関のカギを開ける。
帰ってからやることはあるが、明日に丸投げだ。
しかし、晩飯どうしようか、作るのめんどくさいな
「吟切」
「んだよ」
自分の部屋に入ろうとすると横から風華が声を掛けてくる
俺はため息を付きながら風華の方へ目線を向ける
鐙とあまり変わらない身長、白い髪、青い目そしてエプロン姿で髪を結んでいる
ドストライクな奴が結構いそうな佇まいだ。
俺も結構好きだ。
オタクなめんな、まぁそれは置いておこう。
「で、なんだ?」
「晩御飯食べた?」
「食べてねぇよ、今から食べるところだ」
「そっか」
風華がそう言うと、風華は俺の手を掴んで
部屋へと引きずり込もうとする
「おい、なにすんだ」
無言で引き込もうとする風華に精一杯の力を振るうが力敵わず
そのまま、引きずり込まれた
「晩御飯食べていないなら、一緒に食べよ」
「は?」
部屋に引きずり込まれて開口一番に風華にそう言われた。
まず、そう言われたとき喜ぶ奴はいるだろう
こんな美少女の手料理食べられるんだ。
嬉しいことだろうな
まぁ、嬉しいな晩飯作るのはめんどくさかったし
お言葉に甘えよう
「まず、カギ閉めてくる」
「うん」
―――
一度部屋の前に戻り鍵を閉めて戻ってきた
部屋のリビングに通され、座ってと促されて床に座る
「いきなり呼んで飯を囲むって一体どういう了見だ?」
風華が作った飯を摘みながら疑問を零す
ちなみに今日の晩飯は鍋らしい、秋の時期だし鍋はありだが
何故、鍋なんだ。
こんなの友達とかと一緒に食べたりするもんだろ
一人で食べたりなんかしないはずだ
まぁ、今日は俺がいるが
風華も同様に鍋の具材を食べながらその問いに対して答えを出す。
「師匠が新入り来たんだから親睦を深めろとか言ってたから」
鐙経由か、風華がこんな事言い出す奴だとは思っていなかったし
納得は出来る。
だからか、だから今日は鍋にしたのか
宴会やら親睦を深め合うなら鍋ってことか
これも鐙の差し金のように思えるが
気に留めないでおこう
「なるほどな、んで、その言い出しぺ。肝心の鐙はどこだ?」
「師匠は書類とか大変みたいだったから置いてきた」
可哀想に、こんな親睦会にこれない鐙
どうせ、大雑把な奴のことだろう書類とか言ってたやつは
過去に貯めてしまった奴を、納期が来て急ぎで片付けてるみたいなことだろう
ざまぁないな。
しかし、鍋美味いな汁が美味いし
ちゃんと具材も汁の味を吸い込んでる。
「美味いな、鐙が絶賛するのも納得だな」
「ありがと」
よくもまぁ、こんな料理上手になれたもんだ
誰かに教えてもらったとかそういうところだろう
差し詰め、親、母親とかに教えてもらったものだろう
独学でやっていたらそれもそれで凄いな
俺は風華の料理の料理の美味さを感心しながら平らげた。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
美味かったな、久々にこんなうまいもの食った気がするな
料理は俺はそこまで出来ないし
やり方も適当だったから失敗ばっかりで自分で美味いと思えるもの作ったことないしな
暇な時あれば風華に料理教えてもらうのもありだな
料理が上手くなって不便になることもないし
一人暮らしするとなれば必要な事だ。
「料理振舞ってくれたしな、洗い物は俺がする」
「うん、ありがと」
俺はそこまで非常識な人間じゃない
今は人間かどうか怪しいところだが
くれた恩を仇で返すような奴ではないからな、ちゃんと返そう
こんなちっぽけな恩返しじゃ意味なさそうだが
やることでも少しは意味を持つはずだ。
とは言っても洗い物は少ないみたいだがな
ちゃんと真面目な奴だ。
きちんと整理整頓やらやることをやっている。
これが出来る女って奴かな
「ありがとな、晩飯振舞ってくれて」
「うん、親睦会だから」
「でも、親睦深めるような会話してないが?」
「うん、してない。だけど料理には自信がある」
会話の筋が通ってない気がするが
これが風華が出来るこれが精一杯の親睦を深め合う行為だったのかもしれない
会話の数も少ないし、話すのが苦手なのだろうしな
だから、厨房で立って料理することしなしないのだろう
でも、厨房に立たなきゃいけない理由もあるだろうな
最も鐙のせいでもあるが
「んまっ、今度はこっちからご馳走させてくれ料理じゃなくてファミレスとかお店だがな、だが、これは俺が正式に魔術師になったらやらせてもらうぞ、晴れて魔術師になれば風華は俺の先輩だしな、宜しく頼むぜ」
「うん、分かった。吟切の手本になる先輩になる」
「おう」
一瞬目を輝かせた風華を見た気がしたが、気のせいだろう
あんな、無表情娘に表情が出るということは多分有り得ないだろうな。
しかし、先輩と呼ばれるのはそれだけ風華にとって嬉しいことなのだろうか
どのみち、風華は俺が来る前は下、後輩の立ち位置にいたんだ
先輩みたいなのに憧れるのだろう
まぁ、これは推測だがな
さて、腹も満たせることができたし
ちゃっちゃとやること終わらせて眠りに付こう
大学、終わったら魔術を使うための修行と色々立て続けにやることが舞い込んできたんだ
自分がやりたいからやったことなのだがな
疲れも溜まっているし、さっさとやること終わらせて眠りに付こう
今日は多分ぐっすり寝ることが可能だろう
俺はそのあと、ベッドにダイブした結果
一気に寝落ちして、明日の朝大変な目に遭ったのであった。
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親睦会擬きも終わり、あれから一週間が経過した。
魔力を自覚する修行も中々上達してきた。
完璧にとは行かないがある次の段階に進めるレベルには到達することができた
嬉しい限りだ。
さて、今日は次の段階へと進むために
鐙と一緒に居る。
いつも通りに修練場みたいなところに来て真ん中に立ち習ったことを復習する。
この一週間で呼吸を整えるだけで魔力を上手く自覚することができるようになった。
成長も著しいな
「しっかりと出来ているようだな、よし次の段階に進められるぞ」
「よし」
鐙の言葉に対して俺は軽くガッツポーズをする。
嬉しいな、一週間掛けてやっと出てきた成果だ
次も、頑張らねぇとな、魔術師にはなったとは言えないだろう
俺は、名目では魔術師となっているが俺はまだ魔術を使えないから本当に魔術師とは言えない
次の段階を上手く出来るようになれば晴れて魔術師になるというわけだ
これはただの予想というか妄想みたいなものなんだがね
「次は魔力吸収という技法だな、これは自覚した魔力を身体の内側に吸収するようなものだ」
「魔力吸収か」
「これは単純に自覚した魔力、君で言う灯を欲で集めるんだ」
「欲?」
ニヤリと開いた口が、彼女の言葉を紡ぐ
「人というのは欲で埋もれた生き物だ、魔術師もそう、欲望が想いが高まり現実化したのが魔術、そしてこの技法は魔力を欲しいという欲、獲得欲というのが魔力を集める一つの方法だ。垂涎するように欲しい取りたいという欲望、それを大いに出すんだ。魔力、魔力魔力魔力魔力魔力魔力ってな、そうすれば魔力は身体の中へと浸透していく」
魔力を欲するという欲望か
はて、それはどうやればいいのか、何かを糧にしなきゃ魔力は欲しいと思わない
俺の欲望ってなんだ。
「魔術師になりたい」
ふいに出た言葉、俺は魔術師になりたい
ファンタジーでよく見る魔術師になりたい
魔術師になるためには魔力が必要、だから俺が魔力が欲しい
そう思えば行けるのかもしれない
憶測だが、これで行けたら万々歳だな
一か八かやってみよう、そう思ったのならすぐ決行だ
「俺は魔術師になりたい」
「さっきも聞いたぞ」
「黙ってろ」
「急に口悪くなりすぎなんですが」
一回黙ってくれねぇかな。
まぁ、いい。俺は魔術師になりたい、そのためには魔力が必要
俺は魔力を欲する、魔術師になりたいから、そう魔術師になりたいから
家族を守るためじゃない、俺は憧れの魔術師になりたい
だから魔力が欲しい、魔力、俺は魔力が欲しい
俺は息を吐きそれだけの想いでそれだけの欲望で魔力を身体に吸収しようとした
吉と出るか凶とでるか、一度の試しだ。上手くいかなくたって次がある
そう考えているとき。すっと、俺の身体の中に冷たいものが入ったような気がした
「なんだ今の」
俺は驚きの余り声が漏れた、鐙はそれを見て小さく笑い拍手をした
困惑の表情が残る
「成功だ」
笑みを浮かべる鐙は俺に成功したと伝えた。
本当に成功出来てしまった、これぐらいで行けるとは思ってはいなかったがまさか成功するとは、第一段階よりもこれは意外にも簡単だったな
俺は満足げに掌を開いたり閉じたりしてみた
鐙はそんな俺を見てニヤケ面をしていたが、今はこの達成感を味わおう
「うし」
「(本当にこの少年は欲望の出し方が上手いね、いいことだが、逆に恐ろしいね、最悪の結果にならないことを祈るしかないか)少年、次に行くぞ」
「おう、」
これが出来たからと言って、魔術は使えた訳じゃない
俺は鐙と向き合い目線を交じ合わせた
これからが魔術の本番なのだ。