第五話
黒塗りの車に乗せられること数十分、かなり山の方へ来たみたいだ。標高も高い。
まさか、とある施設というのが山の中にあるとは、だが山の方に施設を作ったのには理由があるだろう。
例えば魔術というのは摩訶不思議な技を持つ人間であるから市内地での施設でやったら一般人の危険や、魔術師という存在がいるのを世に知らせないためとか、ざっとこれぐらいだろうか
余り人が来ないような山の中だったら安全だし、
魔術を使った所で誰も気付きはしないだろうからな
だから、山の中に魔術師たちを鍛える施設を作ったのだろう。
まるでゲームやアニメみたいな設定だ。
「あぁ、酔いが。」
「車酔いするのか少年。だが、あと少しだ我慢しろ」
「うい」
流石にずっと車の中にいると酔ってくる。
こういう時は社外を見る方が酔わなくなるらしいが、酔ってからじゃ遅かったな。気持ち悪。
車酔い激しいからな俺、でもあと少しだ我慢するしかないな
しかし、こんな鬱蒼とした山の道行かなきゃ無いってどれだけ遠い場所にあるんだよ
その施設、これから鍛えるたびにこんな山の中行かなきゃいけないのは結構嫌だな
それからまた車に揺られること数十分。
「ついたぞ」
「あー頭イテェ」
ようやく目的地に着いたみたいだ、長かった。
でも、車酔いで吐くレベルには行かなかったので少し安堵している。
着いた場所は結構でかめの体育館みたいな所だな、屋敷みたいなものを想像していたが現代感がある建物だ中々の値段掛けて作ってそうだな、中は色々と設備が整っており、それぞれの個人の部屋もありここで過ごすこともできるみたいだ
料理は頼むか、食材を自分で買ってきてここで作るしかないみたいだ。
そこだけ不便だな
火、水、電気は通っており、快適に過ごせる、そして家賃0円
もうここに住みたいぐらいだ
そしてこの体育館もどきの裏手側には結構広めの戦闘場みたいなところが広がっている
まさか、ここまで設備が整っているとはどれだけ金を掛けたのかが気になる。
「んで、鐙。俺はここで、魔術の特訓とかするのか?」
「うむ、そうだな、主にここで少年には特訓してもらう、特訓と言っても少年には魔術を使えるようにしてもらわなきゃ困るね」
「だが、難しいだろ、魔力を上手く扱えるかどうかわからんしな」
「それに関しては大丈夫だ、実はこの立地は土地の魔力総量が多く、魔術を扱うための練習場には持ってこいなんだよ」
確かに周りをも渡してみれば『灯』の数が、市内地に居た時よりも数倍視える、鐙が常に纏っている『灯』の量も多くなっているみたいだし、
どうやら、この立地は魔力がとても多い立地らしい、どうしてこんなに『灯』、魔力が多いのか教えて欲しいものだ。
だが、それは俺にはまだ早いようで教えてくれなかった。
そしてどうやらこのような施設は日本に四か所あるらしく、ここは四か所の中でも最も金を掛けたみたいだ。鐙がドヤ顔でそう言ってきた。
何故、最もここに金を掛けたのかというと、この場所はどうやら主要な場所であり、ここの管理のためにも金掛けたらしい、ついでにここは雄大な土地だからなんだとか
結果、莫大な金を書けたらしい
「しかし、お前はこれだけの雄大な土地を利用して何がしたかったんだよ?」
「ん?簡単だよ、魔術師を鍛えたい。それだけの事だ」
鐙はそれだけだときっぱりと言っていたが他にも思惑はあるように見受けられる。
色々何か鐙にとって辛いことが沢山あったのだろう。
だから、そのためにもこういう施設を作ったのだろうな
どんな奴でも辛い過去はあり、無くしたい秘密なのがあるのだろう
やはり、魔術師って言うのは闇深いのかもしれな。
「さて行くぞ」
「あいよ」
俺は鐙に促されるまま後に着いて行き、体育館の中の入って修練場みたいなところに来た。
中々の広さだ、まぁ、外から見たこの建物のデカさ的に見れば中の場所もでかいというのは理解は頷けるがな。
「さてと、これから魔術について学んでいこうか、とは言っても最初は魔術師の基本的な知識を身に着けてもらおう 」
「基本的な知識ねぇ」
ここでそれをやる必要はないと思えるが、黙っておこう
そしてこれから、俺の大嫌いな勉学の時間だ
お頭の足りない俺じゃ分からないかもしれないな。
まず、この世には魔術師という存在が確認されている限り数百人いるらしい。
そして、最も有名な魔術師のことを四大属性魔術師というらしい、これは炎、水、風、土この四つである。
その他にもこの四大属性からの派生で雷、氷、闇、光という魔術師もいるらしいが数は少ない
世界規模に見ても片手で数えられるぐらいらしい。
話がそれたがこの四大属性魔術師は日本に二人、世界には数十人いるらしい
日本には水の魔術師と、土の魔術師この二人みたいだ、二人は関東と関西で訳で日本に現る、欲に生きる魔術師を捕まえたり、殺しているみたいだ
殺すとかいよいよ物騒な事言い始めたな、基本的には捕まえるのが主流らしいが、と言っても絶対的な恐怖を与えて廃人状態なりかけまでして捕まえる。
そうしないと魔術を使って逃げ出そうとする輩がいるらしい。
過去に何度かそうしなかったせいで脱走する奴があとに堪えなかったみたいだしな。
その輩が逃げ出した後、またその魔術師が同じ犯罪を犯したら、今度はガチで殺しに行くみたいだ。殺すのはそういうことらしい
でも、悪事の多さによっては最初は捕まえはせず、殺す場合もあるみたいだ
物騒だね、魔術師は色々と
「お前も経験すればわかる」
「確かに経験したことない奴がこれを疑問視するとは愚問かもな」
「そうは言ってないだろ、まぁ、自嘲とかはそれぐらいにしとけ、魔術師としての基本的知識はこれぐらいだな、質問あるか?」
俺は首を振った。
「無いみたいだな、じゃあ魔術についてやっていくか」
さて、次はお楽しみのオタクが夢見た魔術の原理は現世ではどうなのだろうか。
聞いてみたが、全く違った。
ファンタジーでは属性魔術が低級、中級、上級みたいなのがある、誰でも使えるという夢のような世界が基本だとするが
現実は魔術というの、それぞれの血筋と欲望、体質によって魔術基本らしい
鐙は水の魔術師というが、それは水の魔術師の血筋だからこそ水の魔術が使えるらしい
ちなみに俺は魔術師の間に生まれたから、固有魔術があるらしい。
鐙が言うには俺の魔術はとても稀な魔術であり、魔術師ならぜひ仲間に欲しい魔術師らしい
なんか、優遇されるような魔術を俺は持っているらしい。
「それは、治癒魔術だ」
「治癒魔術?」
どうやら俺の固有魔術は治癒魔術らしい。
こういわれたときの反応は俺的には無だな、確かに治癒魔術とかファンタジーでは優遇されるような力みたいだが、今の俺に必要か、そして戦闘に役に立つのかと言われても答えはNOだ
確かに、仲間を癒したり出来るのは確かに誰しも重宝したがる魔術だが、攻撃力が皆無じゃ何も良さが分からない。
でも、鐙が言うにはこの魔術のメリットは極めれば実質的に不死身みたいになれる魔術なんだとか。
だが、その極めるまで何年立つのだろうか、俺はそこまでなるには何歳なのだろうか
不安だ。こんな力を手に入れたところでうまく使えなきゃ意味ないだろう
「そこのところは大丈夫だ、この世界の魔術の源、魔力というのは欲望から作り出されてるから、そう時間は掛からないと思うぞ」
「欲望?」
どうやら、魔力魔術の原点というのは欲望らしい、血筋の魔術は存在するが、ほとんどは欲望によって生み出された魔術らしい、人を癒し、助けたという欲望が強ければ治癒魔術を使えるようになったとか、そんな感じだ
だからこの世に生きる魔術師は欲望によって生み出されたものらしい
そう、そのせいで欲望が強すぎると魔術師となり、欲望を尽くす限りの悪事を働く魔術師になるらしい。
鐙が仲間に引き入れている魔術師は全員欲望に呑まれて魔術師になった奴、所謂後天的に魔術師になった奴が大半、らしい。血筋は珍しいみたいだ。
それにしても風華もそうだったのか
でも、悪に手を染めない魔術師はするなく、こういう魔術師討伐を生業とする我々の人数が少ないのもこういう理由があるらしい
傍迷惑なものだ。
それにしても驚いたものだ、魔力、魔術の根源が欲望だという事実に、俺の親は心底優しかったみたいだな、俺にこんな他人に優しくするような魔術を残して
お人好しだな
「さてと、少年。少年の固有魔術は治癒魔術だ、その力を扱うために今から魔力を集める練習をしようか」
これから、チュートリアルみたいだ、気を引き締めてこの魔力を集めることを頑張って行こう
だが、これが難題だった、
そもそも、魔力の集め方などは知らない、やったこともないし見たこともない
鐙は実際やってみてくれたが、どういう原理で集まっているかが全く分からない。
魔力を集めるにはこの『灯』を酸素を吸うような感覚と同じようなんだとか
今一、ピンとはこない
「まずは呼吸を安定させて、魔力の一つ一つを自覚するんだ。大まかでもいいここらあたりに魔力があるなとでも、魔力というものを自覚しなければ魔力を集めることは困難だぞ」
「魔力があることを自覚か」
最初は目を瞑り、瞑想をするように呼吸を一定にして、魔力を自覚していくらしい
確かに感覚的にはある気がする、まぁ気がするだけなのだ
俺は唸り声を上げながら首を傾げた
どうにも上手くいかない、魔力を自覚する。
その基礎が出来ていない、感覚的にはここにあるなそう思うが、それが絶対正しいということはないだろう
「まぁ、誰しも言う通りに最初っから出来たものはいないさ、ゆっくりじっくりやって行こうか」
鐙が言った一言で俺の感じていた気持ちが下がった。
良かった、どうやらこれは魔術師になるうえで絶対的に通る道みたいだ。
そうだよな、こんな芸当なった初日で完璧に出来る人はいないはずだ
何日、何週間の努力をへて出来る技なのだろう
それにしてもこれは難しい。
魔力は視ている分にはそこにあるというのは分かるが、死角の部分まで見通すことは無理だ。
魔力を自覚する、これは魔術を扱うための初歩中の初歩らしい
魔力を自覚した後、する行動は吸収という
吸収という行為は息を吸うような感じで身体に魔力を取り込むらしい
そのためには魔力を視覚ではなく触覚で感じ取り自覚することが必要らしい
俺がこの初歩で少し愚だっていると鐙が声を掛ける。
「念のためもう一度やるか、今度はゆっくりとな」
鐙がそう言ってくれたため俺は頷く。
鐙は一度目を瞑ると深く息を吐き、大きく吸う。
すると、この辺に浮かんでいた魔力が鐙の身体に張り付き消える
やはり、見ただけではどういう原理でこうなっているのかが分からない。
魔力を自覚したって、そう簡単に集まる訳がないだろうに
でも、一応次の段階に進むと魔力を集める方法があるのだとか、それも教えて欲しいが
「まず、少年は魔力というのを触覚だけで自覚することを重点的にやろうか、初歩が出来なきゃ次は教えないぞ」
御尤もな意見を言われてしまい、俺は押し黙る
そこから数時間、魔力を自覚する修練は続いたが、結果は振るわず
明日に繰り越しとなってしまった。
流石に難しいな、目視ではあると分かるが
眼で見ないとあるというのが全く分からなくなる
これは完全に視覚だよりだったっていうことは証明されたみたいだな
俺は大きく息を吐いた。
「今日は初日だったから難しかったな、そう焦る必要はないぞ」
「分かってるよ、んで、お前は乗らないのか?」
車に乗り、外に佇んでいた鐙にそう声を掛ける
「あぁ、少しここら辺りの魔力を消費させてくる」
「?、お、おう、そうか頑張れ」
ここら辺りの魔力を消費させてくるとかなんだ、
でも聞こうにも鐙のことだ、機密事項だと言って教えてくれなそうだ
「ちゃんと送り返してやれよ」
「分かりました」
俺が車に乗っていると鐙は運転手にそう言って踵を返す。
鐙と別れると車は動き出し、山を下りていく
車窓から外を覗くと夕日が山へと隠れて行くのが分かる
いつの間にこんな時間が経っていたのか
やはり、時の流れは速いモノだな
俺は無意識に落ちていく夕日を見ながら黄昏ていた。
———
「魔力を自覚する‥か」
ポツリとベッドに仰向けで倒れている時呟く
鐙の言っていた魔力を自覚する、細かく言えば魔力の一つ一つを自覚する
ということは一つ一つの『灯』を感じるということだろう
あの空中に優雅に浮いているあの光を身体全体で自覚する
どこにそれがあるのか、どう移動しているか。
『灯』を自覚するって言うのはこんなに難しいのか
俺はただ視えていただけだったんだ、
視えていただけで魔力の本質や全てを知ったわけではない
色々自覚するまで時間が掛かりそうだ
「ふぅ、一度ここでもやってみるか」
俺は起き上がり、気分で座禅を組んで目を瞑り呼吸を安定させる
魔力を自覚するには精神を安定させなければ、
そして、目視ではなく、触覚、身体全身で魔力という存在を感じる。
やはり、難しい
安定させるまではいい、でもそこからが問題だ
魔力を身体全身で感じる。
ファンタジーなら体内にある魔力だとか魔素を身体全体に流し込む
そんな感じなのだろう
だが、ここでは外気の魔力と自身の魔力を掛け合わせなければ出来ないという
面倒くさい仕様なようだ。
「駄目か」
数分間やってみたが出来なかった。
眼を開き、部屋の周りを見渡すと『灯』はしっかりと目視出来る
さて、これをどうにかして視覚ではなく触覚だけで感じるようにしなければ
「そうすれば、魔術を使えるようになるんだよな」
この高鳴る心。
俺は純粋に魔術という存在に、そして俺が魔術師という存在であることに心酔している。
この時は何故俺が魔術師になろうとした理由を忘れかけてしまった。
いかんいかん
自己的欲求のためになったわけじゃない
そうこれは
「今の家族に迷惑を掛けないため仕方ないこと」
そう区切りをつけて俺は明日の準備へと取り掛かった。