第四話
俺は魔術師になった。
まさか、俺があんな空想上の技を使えるような魔術師になるなんて思いも寄らなかったが、これは家族を守るため仕方なくだ。
でも、仕方なくと言っても内心ワクワクしている俺もいる。
夢物語でしか登場しなかった魔術師が現代に生き、魔術を使っている。そして、俺も魔術師だという真実。だが、俺が魔術師だということで家族に迷惑を掛けてしまうのも事実。
俺をここまで育ててくれた今の家族には迷惑掛けたくないし長生き̪して欲しい。
魔術の才がある俺を匿っていたせいで殺されるのは勘弁だ。
「うし、準備はこれでいいか」
俺は必要なものだけをポケットにしまい、部屋から出ていく。
あれから数日、俺はバイトを辞めて例のあの喫茶店で働くこととなった、身の安全を考慮して喫茶店で働くのを鐙に命じられた。
履歴書書かずにすぐに別の所で働くことが出来るなんて魔術師は様々だ。
だが、市利一害というのは世の中には沢山あるみたいだな、
どうやらあの店、店員は三人しかいないらしい、ちなみに三人共魔術師だとか
鐙と、ユメは分かるがあと一人は誰なのか今の俺には分からない
聞いてみると一人は出張で新潟まで出向いているらしい
三人しか働いていないのに出張に行かせるのは馬鹿だろと思うがそこは割愛
何故出向いているのか聞いてみると、前々から粉を掛けていた魔術師の回収と魔術師がかかわった事件が起きているらしく解決に行っているんだとか、
魔術師の他の魔術師が起こした事件で出張に駆り出されるのは結構あるらしい
魔術師って意外と多忙なのかも知れない。
多忙な理由は我々のような魔術師になる奴が余りにも少ないらしい。
―――
「注文だ、これ宜しく」
「了解」
ホワイトボードに張り付けられた、注文のメモ書きを手に取り注文の品を作るために材料を取り出す、下準備はしてあるからあとは作るだけだ。
下準備は店じまいのあと風華が作ってくれているらしい、意外と料理出来るんだな
喫茶店の分担では料理や皿洗いが俺と風華、注文受付会計なのが鐙が行っている。
一口言うと、鐙は壊滅的に料理が苦手らしい、簡単な料理でも黒焦げのダークマターが出来上がるらしく、風華が鐙に厨房に立つのをやめろと言われたぐらいだ
あの部屋の散乱具合からそりゃそうだなと思う。
そもそも料理やらが苦手なら喫茶店を何故営むのか疑問だが
鐙が言うにはやりたかっただそうだ、魔術師の仕事でも忙しいというのに喫茶店を営むとはな
「出来た、これ」
「あそこだな」
色々文句は言いたいが、なにも文句言わずテキパキと仕事が熟す、風華を見てグッと堪える。
風華はこの喫茶店の中枢であり、風華がいないと店が開けないという、大学生活もあるというのに喫茶店の主軸となる風華が今更ながら凄いと思える
この喫茶店土日祝日水曜日にしか開けていないみたいだが、それなりに人気みたいだな
それは風華の料理の腕前が凄いと言える。
厨房から見える景色では結構人いる、昼頃になると人の行き来も多くなり多忙になるな
注文も多くなり捌き切るのに結構な体力を消耗する。
でも、それを物ともせずテキパキと的確に行っている風華、これが完璧超人みたいなものだ。
まるでアニメの世界のキャラみたいだなと思う
「次これ頼んだぞ、私は会計行っているからな、注文されたとき頼んだぞ少年」
「あいよ、風華、作っといてくれ」
「わかった」
前のバイトが如何に楽だったかと思い知る。
そもそも、三人でやり繰り出来るものじゃないなあとせめて二、三人は欲しい所だ。
だが、こんなことでうだうだやっていられない。
こういう時こそ気合いだ、気合。
俺は頬をぱちんと叩いてやる気を出して昼をやり過ごした。
昼が過ぎれば客足は遠のき、余裕を持てる時間が出来る。
その時間帯にため込んだ食器なのを洗って布で拭き棚に戻す作業をする
「今更思うんだが、ここ喫茶店なのにメニュー多くないか?」
「そう?」
「ああ、多いぞ少年。なんせユメちゃんの料理はどれも絶品だからなそれをみんなに味わってほしくてこれだけメニューが多いんだ。」
はにかみ笑顔で厨房に顔を覗かせてきた鐙
てめぇの仕業かよ、確かに風華の料理は美味いがそれを入れたせいで注文が多くて目が回る。
レシピはしっかりとあるんだが、一つ一つ細かく書いてあり読み取るのも至難だ。
「喫茶店って一体何なんだよ」
「さぁ」
「私にもよくわからん」
作った張本人が分からないってどういう状況だよ。
やっぱりこいつは大雑把で後先考えずに物事決めるタイプだろうな、こういう上がいると下はあまり育たないって言うしな
「ほい、これ注文だ」
「コーヒー一杯か、これなら鐙一人でもできるだろ」
「駄目、師匠は厨房に立ったらここ消える」
「流石にそこまで言われると傷つくよユメちゃん」
コーヒー一杯作るの進めただけでこの言われよう、これはこの喫茶店の上下がなんとなく分かって気がするぞ。
それからして、必死に働き閉店の時間となった。
閉店時間は午後五時と早め、夕方頃に閉めるらしい
そのあと店内掃除、そして風華は明日のための下準備して、俺と鐙は終わりのためそれぞれの部屋に戻る。
風華一人に任せていいのかとは思うが、一人の方が集中出来るから厨房の下準備は風華一人に任せている。こんな子がこんな大雑把な大人の元で働いて良いものかとは思うが、風華も自分の意志で魔術師になり、ここの喫茶店で働きたくて働いているらしい。
「疲れた」
「初日の仕事お疲れ様、どうだったかな?」
「キツイ、あんな来るとは思わなかった」
「ここは結構人気な喫茶店で常連客も良くここを利用するからな」
「休みの日まで来るか普通」
「休みの日と水曜日限定でここの喫茶店開いているからな」
そう言えばそうだった、この喫茶店風華の学業があるせいで土日祝日水曜日しか開けないだった。
にしても多すぎだ、俺たちが休みの時会社行っている人も一定数いるが、それにしても多い
一日で結構な体力消耗した気がする。
「それにしてもすげぇな、風華の奴、あんな働いて息一つも上がってねぇなんて」
「そりゃぁ簡単だよ、魔力で身体能力と上げて疲れを軽減しているからね、私もそうだぞ」
「やはり、魔力か、なんていう便利なモノなのでしょうか」
魔力、やはり魔力か。
あの超人的身体能力も魔力で再現されているのか。
「魔力って便利なもんだな」
「魔術師は魔力が無きゃ魔術を使えないし、魔術師に戦闘で対応出来ないからな、魔力って言うのは魔術師にとっての要、力の原点だからな」
この周りにふよふよと浮かぶ『灯』これを魔力と言うらしい、今までなんなのかと思っていたがこれが魔力だとは思いも寄らなかった。
俺が『灯』という魔力は魔術師なら目をよく凝らせば視えるらしく、俺のように目を凝らさず視えるのは初めての奴らしい
ここに来て俺の特別なところが出てきて嬉しい所ではあるが、はっきり言ってこれは邪魔だ、確かに視えるのはいいことだ、でも、日常生活でこれが視えるのは本当に邪魔であり、迷惑だ。
「邪魔だ、これどうにかする方法ないか?」
「ないな」
断言された、俺はここに集まってくる『灯』を手を払い退けようとしながら悪態を付く。
鐙も匙を投げるほど、これをどうにかする方法はないらしい
この眼を持って生まれてきた自分を恨めだと、どうかしている。
とは言うものの、この眼がいつの日か役に立つときが来ると言われた。
確証はないが、この眼のおかげで戦局が有利になる場合もあるとかないとか。
曖昧だな、はっきりしてから行ってほしいものだ
「終わった」
「お疲れ」
「お疲れ様だ」
色々この『灯』について考えたり、鐙と話していると風華が戻ってきた。
喫茶店の指定服とは変って軽装でこの部屋に戻ってきた。
「何話してた?」
「色々とした世間話だよ、ユメちゃんが来るまで少年と時間を潰していたところだ。」
「そっか」
風華は相変わらず無表情で会話をしている。
少しでも表情表に出した方がいい気がする、ちょっと怖い
感情が読み取れない相手が一番人は恐怖するだろう。例えば幽霊とか虫とか
人が大体嫌悪する奴はみな感情が読み取れない気がする。
不思議なものだ。
「おし、俺はそろそろお暇するわ」
「気を付けろよ、いつ命狙われるか分からないからね」
「わぁってる」
本当に心臓に悪い言葉だ、だが、そうならないように鐙が一応手を回してくれているみたいでバイトして帰るときは安全に帰れている気がする
最も、気がするだけだがな。
「あと、明日から私の所に来い、魔術の特訓してやる」
「あいよ、明日行くわ、またここに来ればいいんだな」
「そうだ」
この部屋から出るときに短く会話をして明日の予定を口約束して、家へと帰る。
夕方ぐらいの帰り時刻だ、夕焼けが静かにビルの間に消えている
オレンジ色の光が少しの明かりを出しながら俺の影を作りだしていた。
―――
「ただいま、おかえりー」
独り言を言いながら、自分の部屋に帰ってくる。
靴を脱ぎ、背中を丸めながら疲れ切った表情でベッドまで歩き倒れる。
ボフッとシーツの中に入った空気が外に出る音が聞こえた。
「疲れる、ほんとー疲れた。」
久々かも知れないなここまで疲れ切ったのは
社会人は毎日こんな気持ちでベッドに倒れこんでいるのだろうか、社会人毎日ご苦労様です
今生きる、社会人に労いの言葉を思い浮かべながら俺は寝がえりを打って天井を見上げる
真っ白い天井、装飾品は何もなくあるのは明るい照明だけ
俺は照明の光が目に当たらないように小さな影を手で作り、息を吐いた。
ゆっくりと息を吐いて、ゆっくりと息を吸う。
俺は深呼吸をしている、気分を落ち着かせるためか、疲れを大きく息を吐いて流すためか
どちらにせよ、両方のためにやっている。
「明日は大学終わった後に鐙の所に行くのか、」
しかし、魔術か、
中学生や高校生の頃憧れていたファンタジー世界でしか有り得なかった魔術師がまさか現実で使えるとは、なんか妄想が捗るな
火を生み出して飛ばしたり、風を操って相手を切り刻んだり、水を操って水道代安く済ませたり、と妄想に耽るがそこまで現実は甘くないと思える
そもそも俺は今まで魔力が視えるだけの一般人だった
その一般人が、明日行って魔術がすぐに使えるようになることなんて起きない、なんせ、俺はアニメやらゲームの主人公ではないからな。
どうせ、この世界なら詠唱とかそう言うのはないだろう、中二病っぽいし
それに、風華と幸運の魔術師だっけか、その戦い見たところ今は肉弾戦が主流と見た。
魔術の戦いも無詠唱でイメージの戦いとそんなぐらいだろ、異世転生モノの作品は主人公が無詠唱魔術が使えて、強力な技が使えて仲間が驚くみたいな奴だ
現実ではたぶんないだろう、なんせ、ここは異世界ではない現世なのだから。
「そもそも、俺にそんな魔術が使えるとは思えないしな」
色々考えていると眠気が襲ってくる、だが、眠るわけには行かない大学の準備と風呂と晩飯の準備をしなきゃいけないのだから俺は身体を叩き起こして立ち上がる
それから、やることをやり眠りについた。
―――
そして次の日、大学を終わらせた後。俺は鐙の元へとやってきた、
鐙いる部屋は相も変わらず衣服などが散乱しているがもう気には留めない方がよいだろう
「んで、魔術の訓練するとか言うがどこでするんだ?」
「施設を借りてきたからそこに移動する、車で」
「車でって、お前免許持ってんのか?」
「持っているわけないだろ、こんなちびっ子じゃ乗れないからな」
確かにこんなちんちくりんが車を運転できるわけがないな、そりゃぁ他の人に頼むだろう
タクシー呼べばいいはずなのだが、タクシー代が勿体ないと言われた
意外と金に関しては紐は硬いんだな
「頼んだぞ」
「お任せください」
鐙に手招きされて喫茶店の裏口で止まっていた黒塗りの車、見た感じ高級車だな
鐙が乗り、それに続いて俺も乗る。
運転してくれるとはどうやら政府の人間らしい
「それじゃ、頼むぞ」
「分かりました」
俺と鐙を乗せた黒塗りの車はある目的地へと走り出した。
四話が増殖してしまいました、申し訳ありません