第三話
風華に呼ばれ、丁度暇だったと言う理由で言われるがままに着いてきた結果がこれか。
俺はどうやらまた面倒ごとに巻き込まれるようだ。
勘弁してほしいな、全く
「はぁ」
「なんだ、少年ため息なんかついて」
ため息はつくものだ、汚部屋に数十分待たされたあと水の魔術師と自称しているこの鐙と言うこの部屋の住人と話すことになるからな。
そして大体ここ俺を呼んだ理由は理解できる。
さてと、面倒ごとは最初に手っ取り早く終わらせた方がいいな
俺は固まった身体を解すために楽な姿勢を取り鐙の方へと視線を向けた
「で、要件はなんだ、水の魔術師、鐙」
「いきなり本題に入ってくるのか少年。意外とがめついんだな」
「面倒ごとは速く終わらせたい質なもんで、要件を早く言え」
「随分とまぁ、口調が強いな。初対面だぞ、もう少し優しく接してみたらどうだ、そんなじゃ女の子はなんて相手してくれないぞ?」
俺の精神を逆なでするような言葉だ。
今すぐそのニヤついた笑みに頬を張りたいところだが、これは治めておこう
「そんな御託はいい、さっさと要件を‥‥‥」
「そう焦るなよ、少年。お茶でも飲んでゆっくりと話し合おうじゃないか」
俺の言葉を遮るように鐙はそう言って立ち上がった。
キレていいかなこれ本当に頬を張りたいんですけど、言葉を遮らされるってこんな苛立つことなんですね。
だが、鐙はゆっくりと俺と話したいみたいだ。
ため息を付いて俺は肩の力を抜く、早く要件は済ませて貰いたいが鐙はそれは出来ないみたいだな。
「諦めは付いたのか、少年」
「ああ、もう急かしたところお前は話してくれないみたいだしな」
「そうだな」
と言って鐙は二人分のお茶を作り、元の位置に座った。
肯定はしないで貰たかったがな
こいつは、小さい見た目とは裏腹に大人の余裕を持っているみたいだ、つまりこれは俗に言うロリババという奴だ。
それにしても実物を見るのは初めてだな
「ん、なんだ?そんな下卑た面で私のことを見て」
「見てねぇよ」
少し無い胸を隠すような仕草をする鐙、そんな貧相な体に興味ある奴なんかいないだろうに、
それにあの揶揄するような目、自分で煽っていることを自覚している。
そのせいで余計ウザイ
だが、こんな些細なことで怒るのは無粋だ。
一回出されたお茶を飲んで精神統一、うん、美味いなこれ
「美味いな」
「そうだろ、少年、一級品の茶葉を使って作ったからな」
「こんな汚部屋には勿体ないなこのお茶は」
「ふふ、言うねぇ」
揶揄したがる奴ほど、揶揄返しには耐性ないと思ったが試してみたが、軽く受け止められた。
「さて、何を話すんだ?ゆっくりと話すと言ったが俺にはお前とする話題なんて持ち合わせていないぞ」
「分かっているさ、話題は二つ用意した、それらを話していこうか」
鐙は自分のお茶を一口啜り、コトン、と長机の上に置いた。
そして両手を顎の下に置いて少し口角を上げて口を開く
「まず一つ目だな、これから話すことは君の家族についてだ」
「俺の家族?」
開かれた口から発言に対して疑問の声が出た。
鐙はまだ言葉を続ける
「あぁ、言い忘れていたが、家族と言っても今の家族じゃないからな昔の君の家族、俗に言う君の本当に血のつながった家族の話だよ」
「は」
腑抜けた声が、漏れた。
何故こいつは今の家族と俺が血の繋がりがないことを知っている、そして何故鐙は俺の本当の血の繋がった家族のことを知っている。
これが魔術の力と言うのだろうか、
いや、魔術の力であっても両親の情報を知る術は無い
何故、こいつが知っている。
今の家族もそして俺自身も、あまり俺の両親のことは記憶に残っていないと言うのに
俺は目を白黒させながら、思考を巡らせた。
鐙はそんな俺を見て口元を隠して笑っていた。
「笑い事じゃないぞ、お前」
「フフ、いや、実に面白い反応だなと思ってな。まさかここまで反応するとは思いも寄らなかったよ」
「嘘か?」
嘘ならそれはそれでまた遊ばれていたのか、で、済む話なのだが
嘘なら嘘と言ってくれ、思考を巡らすのは大変なんだぞ
「すまないが、これは嘘ではないぞ私は少年の、本当の両親のことを知っているし、それに少年と私は一回会っている」
また、大きな核弾頭が投下された。
どうやら、鐙と俺は昔一度会っているみたいだ、嘘だと思いたいがあの眼は嘘をついているようには見えない。
それに、鐙は嘘ではないと断言している。
信じ難いがな、
「んで、運命の再会だから喜びを分かち合う会話でもしたいって訳か?」
「いいや、違うね。君の家族の最後について話そうと思ってね、さて、時に少年。嫌なことを思い出すだろうが君の両親はどうしていないんだい?」
「俺の本当の両親のことを知っているのなら、お前も知っているはずだろ?」
「まぁ、知っているね」
「じゃぁ、言ってみろ、俺の両親がどうしていないか、俺の両親と関わり合いがあるならな」
鐙は嘘をついているようには思えていないとは言ったが念には念をだ。
俺の血の繋がった家族のことを知っているなら、言えるはずだ。
何故俺の両親がいないのかを
「何故、君には両親がいないのか、それは殺された。いや、母親は殺され父親は首を吊って自殺っていうとこかな、違うかい?」
俺は少し俯き、答えたことに対して頷いた。
確かに合っている、俺の両親は母親殺され、父親は首を吊って家の中で自殺していた。
本当の家族の記憶がほとんど残っていない俺でも、鮮明に覚えている最後の両親の姿、母親は残酷に残忍に凶器に何度も刺され殺され、父親は後悔と苦痛に蝕まれたような顔で自殺していた。
「嫌な記憶だな」
「そうか、少年は第一発見者か、あの事件の」
「そうだよ」
そう、俺の両親が死んだのを最初に見つけたのは自分自身だ。
いつもと変わらない平穏の日々が親の死によって百八十度回転し地獄へと落とされる。
運命って言うのは非常に残酷なものだ。
「でも、もう数十年前の話だ、起こったことは仕方ない」
「意外と潔いんだな、犯人に復讐したいとかそうは思わないんだな」
「復讐?犯人はもう生きていないだろ。」
「犯人はまだ生きているぞ、少年?」
俺は鐙の言った発言に対して小首を傾げた、どうやら、俺と鐙に記憶違いがあるらしいな
俺は高校生卒業間近になって初めて警察からこのことを言われたんだ、警察の証言が正しいだろう
犯人はまだ捕まっていないという偽りはやめて欲しい
だって、
「は、犯人は父親だろ?警察が言うには親父が癇癪起こして母親を殺して、後悔の念で自殺したって、それに親父の体内から薬物反応が出たから、薬物が原因、薬物やっているところを俺の母親が見てそれを止めようとしたところ、親父がそれで癇癪起こして母親を殺した、中毒症状が治まり眼を覚ますと親父は自分のやっている過ちに気づいて自殺した。そうだろ?」
鐙は、そうか、と小さく呟いて黙りこくった
「なぁ、少年」
「なんだ?」
「警察はどんな見た目だったか覚えているか?」
「いきなりなんだよ、藪から棒に」
「いいから早く答えてくれ」
「お、おう」
少し必死な鐙に気圧されて俺は思考に耽る。
あの時俺の前に現れた警官の姿は確か
俺は四年前の記憶を振り絞って鐙の問いに答えるように考える
「よく日常生活で見る警官服着ていたのは覚えているな、年齢は結構若そうで二十台後半ぐらいの見た目をしていたな、あと特徴的だったのはあ紅い瞳をしていたのは覚えているな」
「バレていたか‥‥‥、これは好都合か、いや、これは今はいい、今重要なのは、少年その警察官と何を話したか教えてくれるか?」
顎に手を置いて小声で何か呟いている思ったら、急にまた何なんだ。
「さっきの事件の話と、あとは確か、何か不思議なことは聞かれたな、『最近変なの視ますか?』ってな」
「視えると言ったか?」
「いや、変なものなんて視える訳ないだろうに、その時はオカルテックなものなんて視えないから視えないて答えたよ」
そう言うと、彼女は静かに胸を撫で下ろしため息を付いた。
安堵した表情で座る鐙に対して、俺の頭の中では疑問が募るばかり、こいつは本当に何がしたいんだ。
「少し取り乱してしまった、すまないね」
「いいさ、気にしない。んで、これが一つ目の話題か?」
「一つ目はこれだね、かなり不躾な内容だったね」
分かっていたなら、こんな話題内容はやめて欲しかったのだが理由があるのだろう
最もまともな理由ではなさそうだが。
「これで二つ目、本題ってとこか?」
「いや、最後に一つ言いたいことがあるから言わせてもらうよ」
まだ、あるのか。さっさと今の話を終わらせて本題に話題を変えたいのだが
まぁ、これが最後だ、これを聞けば本題に移れるんだ。
急かす理由もないか
「その事件は警察は関与していないからな」
最後の最後でなに言ってんだこいつ。
「は、関与していないってそんな冗談はよせ」
彼女の発言に対して俺はハッ、と鼻で笑い、を否定する。
だが、鐙はそんな嘲笑したことを気にせず淡々と言葉を綴った
「今更冗談なんてつく理由がないだろ、魔術師が殺された事件を調べるのは魔術師の役目だからな」
「おい、ちょっと待て可笑しいだろ、魔術師が殺されたって‥‥それはまるで俺の両親が魔術師だったっていう言い分じゃねぇか」
「そうだが?少年の両親は魔術師だ。だから私とも関りがあるし、私と少年は一度合ってる、だが少年はあの事件で相当ショックだったようで記憶はほとんど忘れているみたいだがな」
有り得ない。
俺の両親が魔術師、あり得るわけがないだろ、俺が知る限りそんなこと両親が魔術師だと言った覚えはない、だけど忘れているという可能性がある。
そりゃそうだ、俺には血の繋がった両親の記憶はほとんどない
だから両親が俺に私たちは不思議な力が使えると言っているということも大いにあり得る
待てよ。
先ほどから奴のペースに乗せられていないか、
さっきの発言だって何かに誘導されるように、まるで俺は鐙の掌で転がされているような感じだ。
でも、彼女は嘘を付いてはいない、全て本当のことだろう。
随分と口八丁だ、嘘偽りのない言葉を並べて俺をある所まで誘導している様な気がする
「何が言いたいんだ、鐙?」
「なんのことだ?私は嘘偽りなど言っていないが」
「分かっている、お前が嘘を言っていないことなんか」
「それは有難い、信じてもら―――」
「それで、目的はなんだ?」
俺は彼女が言葉を喋り終わる前に、切り話を持ち出した。
さっきまで涼しい表情をしていた顔の奴が、
その言葉を言うとはにかんだ表情になり、急に口元を隠しながら笑い出した。
「何が可笑しい?」
「いや、凄いな少年、すぐ終わる予定の話だったんだが少し予定が狂って、焦りすぎてバレてしまったか、まぁ、仕方ないか、それで私の目的を知りたいのか少年?」
「だな」
そう頷くと、彼女は上機嫌に口角を上げて、横髪を人差し指で巻き取る姿を見せて、息を吐いた
此処までの会話は本題の回答をスムーズに行うための足掛かりに過ぎないのだろう
「私の目的は少年を魔術師にしたい、少年も分かっていただろ?」
「そうだな、そうだと思っていたよ」
やはり、本題はそれか
でも俺が聞きたいのはこれではない、それは彼女自身でも分かっているみたいだ
「でも、さっきの文言だと、これが正当と言えないな。少年が聞きたいのかは何故、私が少年の家族の話をしたのかだろ?何故ここまで遠回りをしたのかだろ?」
「そうだよ、何故こんな事した?」
何故話を遠回りした理由、俺は聞きたいそれだ。大半は理解は出来ているのだが、結論が分からない
なら、待っていれば聞けたのにと思うが、ここまで遠回りしてきたんだ、くどくどしい話はもう勘弁だ。
「結論から言えば君の一つの目標を出すためだよ」
「目標?」
小首を傾げて考える。
なんだそれ、と思うが理解は一応出来る
粗方、目標を持たなきゃ魔術師をやっていけないそんなとこだろう。
「そう目標だ、少年は両親を殺した犯人を捕まえるという目標を持ってほしいんだ、それか殺す?これは復讐心と言った方がいいのかなそれかを持って欲しかったんだ、そういう目標を決めとかないと魔術師はやっていけないからね、魔術師は才能や技能があっても目標絶対的な目標が無きゃやっていけない、だから、私は少年にその目標を引き出して魔術師に誘いたかったんだ、それなら最後の話がスムーズに行くだろう?」
「やっぱ結局それかよ」
鐙は緩んだ口元を見せながら指を一本立てて笑って見せる
やはり、掌で踊らされていたようだ、早いうちに気づいて良かったと安心した。
「で、返事は?」
「断る」
この返事に対して俺は即答だ、当然だ。
魔術師になって俺の平凡な人生が崩れたら嫌に決まっているだろう
俺は夢物語に憧れたオタクではあるが、それは昔の話だ
現実を直視したら、辛くなるだけ、今出ている甘い蜜はそれが本当に幸せ足りゆるものなのか、だが現実はそう甘くなだろう
「どんなこと言われたってこの決意は揺るがないぞ」
「そうか」
「んじゃ、俺は帰らせて貰うぞ」
俺はソファから立ち上がり、部屋から出ていこうとする。
こんな汚部屋に長居すれば風邪を患いそうだからな、どうせ要件も終わったことだし。
「待て」
とそう言われ呼び止められたので、ドアノブに掛けていた手を放し鐙の方向へ身体を向けた
「なんだ?」
「そう決断するのはこれを聞いてから決めてくれないか?」
「まだあんのかよ、用意周到だな。」
俺の揶揄するような目は彼女にはもう無意味らしい、能面みたいな顔を貼り付け眉一つ動かさない鐙は不気味この上ない。
これで本当に最後だなのだろう、俺はため息を付いてそのまま鐙の話に耳を貸す
「どうして、少年の父親と母親が殺されたのか、最後にこの真相を話そうか」
「いきなりなんだよ、どうせ、恨みとか買われたんだろ?」
殺しなんて誰かの私怨で起きることが大半だ。
社会不適合者みたいなこの社会で順応できなかった奴らが幸せな奴らに向かって牙を向ける、どうせ、俺の親もそんな理由なのだろう
「確かに正解だ。」
「やっぱそうかい」
「だが、我々も恨みを買われているぞ、ある組織にな」
魔術師やらとある組織、俺が生きているうちにこんな新発見が出来るとは
友達とかに自慢できるな。
「ある組織?」
「まだ、これは機密情報だから話せないが、少年の両親が殺されたのはある組織が原因だ。そしてこの恨みというのは少年の両親が魔術師だったからだね」
「は、魔術師だからって、理由になっていないだろ」
「そうだね、理由にはなっていないな」
魔術師だからって理由で俺の両親は殺された。魔術師って言うのは悪い存在なのか、ならなおさらなるのには嫌だ。これを言えばこうなると、鐙自身も分かっていたはずなのに何故この話をした。
この話をしてから鐙はまるでお人形のように表情を一切変えていない。
感情が表に出ないって言うのは本当に不気味だな。
「それと関係する話をもう一つ言おうか」
鐙がまた口を開く。
「その組織は、魔術師、魔術の才能があるもの、そして魔術師、魔術の才能がある奴と関係する人々を殺している、恐ろしい話だな」
「そんな脅しが通じるとでも?」
魔術の才のある人間を殺し、それに関係したものまで殺す。胡散臭いし、信じ難いな
でも、それが本当だとしたら。
「脅してなんかないさ。私はただ警告をしているんだ、少年は魔術の才能があることが発覚した。だから、命を狙われる危険もある。勘のいい少年ならもうわかるかな?」
二段構えとは本当に用意周到な事だ。
これはもう俺は断崖絶壁の最中にいるというわけか、俺が魔術師にならなければ自分の今の家族は身の危険に晒され、俺自身も死ぬ可能性がある。
ここまで高校生までお世話になった今の家族を守るためには俺が魔術師にならなきゃいけない。完全に脅しみたいなものじゃないか
結果、俺の決断はあっという間にひっくり返されてしまった。
「俺が魔術師になれば、今の家族は守れるんだな?」
「ああ、水の魔術師の名を斯けて守ると約束しよう、無論、私も君の今の家族を守ることに助力しよう。今までもそうだったしな」
「そうかい」
俺は鐙の手を握った。