表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、お題で書く。  作者: ヨリ(間内りおん)
3/16

ハンドサイン。

ここに一枚の写真がある。


血だらけの異国の兵士が

横たわっていて

微笑みながら弱々しく

ハンドサインをしている写真だ。


この写真は私が

フリーのジャーナリストとして

あちこち世界を飛び回ってきた時に

撮った一枚だ。


約束なのでこの写真を撮った時に

その場に居た人しか知らない場面だ。


この時の事はよく覚えいる。


当時異国の地に降り立った私は、


先の異国同士の争いで

戦場になった町の被害者の人々から

話しを聞いて回っていた。


真実を伝える、

それが我々ジャーナリストの使命なので、

この戦いから生きのびた人々話は、

とても貴重なものなのだ。


あの時も取材をしようと

この町の住民を探し、うろうろと歩いていた。


争いが終わったとはいえ、

異国から来た私は、

そうとう警戒されているので

取材も一苦労だ。


どれくらい歩いたか、

ボロボロの1軒の家屋から

怒号が聞こえてきた。


何事かと恐る恐る家のドアを

ノックしてみたら、怒号は止み


そこの住民が“何だ?”と言わんばかりに

ドアを開けた。


私はあの怒号が何なのか知りたくて


どうか取材をさせて欲しいと

通訳を通して伝えてもらったら


“悪魔がいるけどいいか?”


と返事が来た。


“悪魔”その言葉が一層気になり、

取材の許可をもらい、


私は、部屋の奥に招かれた。


中には、数人の若い男から

ヒゲをたくわえたおじいさんまで

10人以上は居たと思う。


部屋の真ん中には

明らかに、この町の住民ではない、

兵士らしき男が、一人横たわっていた。

彼は血だらけでもう虫の息だった。


ここにいる住民から

そうとう暴行を受けたんだと思われる。


その証拠に、ここにいる人々の顔は、

怒りとも何とも言い難い表情をしていた。

拳が赤い若者も何人もいた。


私は、こんな大勢で何をしているのか?と

通訳を通して聞いてみた。


この部屋にまねいた男は、


『こいつはこの町をめちゃくちゃにして、

大切な家族を奪った悪魔だ』


と言った。


『だから、我々で制裁をくわえているんだ』


目に涙をためながら

興奮気味にそういった男。


その時、私に気づいた兵士が

力を振り絞り、こっちに来てくれ。

みたいなジェスチャーをしたので、


男に許可をもらい、兵士に近づいた。


『おい、逃がしたりするなよ』


そんなニュアンスの言葉を

背中に浴びたが、

通訳を通さなければ、言葉は分からない。


兵士は、助けを請うわけでもなく、

私が首からぶら下げていた

カメラを指さした。


私はシャッターを切った。

今、彼を撮らなければならない、

そう思ったからだ。


シャッター音と共に

謎のハンドサインを

した腕が床に落ちた。


一瞬の事だった。


この時、彼は微笑んだ気がした。

現像してみないと分からないが、

彼は確かに微笑んだ。


何で、こんな酷い目にあっているのに、

彼は微笑んだんだろうか。


写真を撮った後

住民の男にカメラを取り上げられた


『何で悪魔の写真を撮った?

この写真で我々を脅す気か?!』


通訳を通して

『そんな事はしない、ただ、

私の個人的な記録として

撮っただけだ。

だから公表もしない』


と、伝えて貰った。


男はカメラをかかげ、

お金のジェスチャーをしてきた、

いくらか渡してようやく

カメラが戻ってきた。


このカメラには、そこに横たわる

ただの抜け殻になってしまった兵士の、

終わりの瞬間が入っている。


住民も分かっていたんだろう、

この兵士が悪いわけじゃ無い。


悪いのは他の所にある事を。



それから、

私は帰国をして、

あの時撮った写真を現像した。


現像した写真を見ると

確かにあの兵士は微笑んでいた。


そして後に、

あの謎のハンドサインの意味を知る。


“幸運を祈るよ”


兵士は自分の死をすぐ前にして

他者の幸運を祈っていたのだ。



この写真は今も私の中で

もっとも美しい瞬間をおさめた

写真だと思っている。





fin.

今回のお題は

【刹那】でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ