幼馴染天才子役にできない演技
天才子役諸星拓斗。
国民的弟として活躍を重ね14才に成長した彼は今日も私と晩ごはんを食べている。
「美味〜やっぱハナと作るご飯最高!」
「うん!」
「一生食べたい!」
「うん!」
「本当!?」
タクが勢いよく立ち上がる。
「へ? うん。タクとご飯作るの楽しいもん」
「あ、やっぱ気づいてねーか」
うなだれるタクを覗き込んだらデコピンされた。
タクと私は隣の家に住む幼馴染。
仕事で海外に行く機会が多い私たちの親は協力し合い小さなときから互いの家を行き来してきた。
家事ができるようになってからはふたりで過ごす日も多くなった。
21時。テレビをつける。
タクが出てるドラマが始まるのだ。
「いいなぁ」
ふと声に出る。
「これ?」
「うん。夢」
「夢!? んじゃ叶えてやるから風呂入ってこいよ」
「えっ!」
お風呂上がりの私の髪をタクがドライヤーで乾かしてくれる。
「叶った?」
「うん!」
私はソファの下からタクを見上げる。
「こうやって髪を乾かしてもらえるの夢だったの!」
「そっか」
髪を優しく撫でられて心地いい。
「他にもある?」
「へ?」
「してほしいこと」
「じゃあ、さっきドラマで言ってた『姉ちゃん』って言って!」
「『ねーちゃんっ』」
私は思わず拍手する。
「どうも。他には?」
「まだいいの?」
「特別な」
「じゃあ『元気にしてみせる』って」
「泣きながら言うやつじゃねーか」
「涙が綺麗だったから」
「まあいいけど。『元気にしてみせる』」
「すごい! 一瞬で涙!」
「天才子役諸星拓斗をなめんな。俺にできない演技はない!」
その言葉に、飲み込んでいた台詞が顔を出す。
悩んでいたらタクが屈託のない笑顔で私の顔を覗き込んだ。
「なんでも言ってみろよ」
「えと、じゃあ『好きだ』」
タクの動きが止まる。
「その演技はできない」
拒絶に、胸の奥が痛む。
「だよね」
視界がにじむ。
「そんな涙見たら、俺、自惚れるよ?」
「へ?」
気づくとタクの腕の中にいた。
「『演技』はできない」
私を抱きしめる腕に力が籠るのがわかる。
「お前には本気でしか言えねーもん」
顔を上げると、タクの困ったようにはにかむ笑顔と目が合った。
思わず背伸びをしてぎゅっと抱きしめる。
「わ! なに?」
「わかん、ない……わかんないけど、その顔は他の人に見せちゃやだ」
「あははっ。心配しなくてもハナしか見れないよ」
「なんで?」
「さあ、なんでだろーね?」
びろーんとほっぺをつままれる。
どうして胸の痛みが消えたのか。
私が理解するのはもう少しあとのお話。
お読みいただきありがとうございます。
『第4回なろうラジオ大賞』応募作です。
楽しませていただき、いつも感謝しています!
応援ありがとうございます!