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友達の妖  作者: 夜月シンヤ
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友達の妖

2話目です。よろしくお願いします。


「ヒマリはいつもここにいるの?」

「んー・・・。そういうわけでもないけど、なんか自然とここに来ちゃうのよねー」

「夜は家に帰ったりは?」

「しないわ。私は寝なくても大丈夫だし、家もないしね。」

「じゃあ、何時でも会える・・・?」

「そうね!」

話す内に結構色んなことを知れた。

基本的に人間と同じようにお腹は空くし、髪や爪も伸びるということ。

でも、体に傷がついてもすぐ治るし、病気にもかからないこと。

「ぽぽぽ」という声は笑い声だということ。

「八尺様」については知れたけど、「ヒマリ」についてはあまり話してくれなかった気がする。


─「久々にこんなにたくさんお話したなー!」


・・・かなり長い間話していた様だ。もう既に日が暮れかけている。


「そろそろ僕帰らないと」

「あら、もう夕暮れじゃない。ねぇ、また明日も話しましょ♪」

「うん・・・!」


手を振って家へ歩き出す。ひまわり畑を抜けた頃には一番星が見えていた。


─やっと家についた。遠い。マジで遠い。

奥から「おかえりー」という母親の声が聞こえる。


「随分時間かかったね。この辺何にもないのに良く過ごせたじゃん?」

「うん・・・まぁ・・・?」

「お風呂沸いてるからは入っちゃいな〜」

「はーい」


湯船に浸かりながら今日のことを考える。今思えば、本当に夢の中の話みたいだ。


「妖怪・・・か」


妖怪と友達なんて前例があるのだろうか。ヒマリは「ニンゲン君と話すのはいつぶりかしら」と言っていたから、僕が初めてではないのかもしれない。


「・・・」


この胸のモヤモヤは、きっと特別感が無くなったからに違いない。


─夜明けた午前8時。山の中だからか、とても涼しい。身支度をしてすぐに玄関へ向かう。すると、部屋から出てきた祖母が声を掛ける。

「おはよう。こんな早くからコンビニに行くんか?」

「あぁ〜、いや、ちょっとこの辺散歩しよっかな〜って」

「そうかい。色々と気ぃつけてな。」

「?、分かった。」


(やっぱ山だし、蛇とか熊とか出るのかな?)


意気揚々と外へ出る。今日も今日とて日差しは強いが、昨日に比べて全然過ごしやすい気温だ。

僕は迷わずあのひまわり畑へ向かった。


コンビニへ向かう時に通る並木を抜ける。そこには、1面黄色いひまわり畑が広がっている。少し進むと、昨日落としたアイスの棒にアリが集まっていた。

僕は辺りを見渡す。昨日と代わり映えしない景色が目に飛び込むが、1点足りないものが。


「・・・居ない?」


ほんの少しの焦燥感に駆られて足が走り出す。

すると、奥の方に山の入口が見えた。


(もしかしたらいるかもだし・・・ね)


山道を進むと、大きな御神木があった。静かに、堂々として立っている。僕はその荘厳さに圧倒されて木を伝うように下から上へ眺めた。


「・・・ん?」


何かが木の上に座っている。見続けていると、僕に気づいたのか、上へ上へと登っていってしまう。


(何だったんだろ?)


何せ全身真っ黒で、姿はよく分からなかった。でも、人型をしていたような気がする。


来た道を戻ってまたひまわり畑へ出る。すると、見覚えのある白いワンピースが風になびいていた。


「あ!トキワ君やっほ〜!」

「ヒマリ!」


別に消える訳でもないのに、話していることにほっとした。


「トキワ君はさっきまで何してたの?」

「ちょっとそこの山道が気になって・・・」


"ヒマリを探してた"なんて死んでも言えない。


「今日はまだ時間あるし、ちょっと冒険してみない?私この辺なら詳しいし!トキワ君あんまり来たことないんでしょ?」


正確に言うと覚えていないだけで、昔来たことはあるが小学校入学前の話だ。


「じゃあ、ヒマリに案内お願いしようかな!」

「任された!じゃあまずは・・・」


ヒマリと一緒に初めてひまわり畑を抜けた。コンビニの方でも家の方でもなく、さっきの山道のその先まで。すると


「ここは・・・池?」

「そう!とっても綺麗で涼しいでしょ?」

「ほんとだ・・・綺麗・・・!」


木漏れ日のおかげで水面が輝く。そのおかげか、ヒマリの姿が何割もまして美しく目に映った。心臓の鼓動が少し早くなるのを感じる。


「じゃ、次の場所行くよー!」

「わ、ちょ、待っt」

「あっ」


バシャン。急ごうとして足を滑らせてしまった。幸いこの池は浅く、水も透き通るほど綺麗だった。ヒマリが手を引いてくれて、同時に落ちてしまった様だ。


「うあぁビショビショ・・・トキワ君大丈夫?」

「うん、大丈・・・ぶ・・・ってうわぁぁぁ!ヒマリ!服!」

「?、服?あぁ、大丈夫よすぐ乾くから」

「そうじゃなくて!・・・その、す、透け・・・」

「っ!!」


瞬間的に背中を向ける。いや、僕も決して見てた訳じゃないし狙った訳でもない。ていうか実際そんなに見えてない。全然残念じゃないけど。


「・・・」

「・・・」

「あ、も、もう大丈夫よ!ほら!ほんとにすぐ乾くから!ね!この服も服じゃないみたいなものだし!ぽぽぽ!」


ヒマリの恥じらいが伝わってきてこっちも顔が熱くなる。あぁ、僕にも邪念はあるみたいだ・・・


「次・・・行こっか」

「うん・・・」


僕は遠くの方で濡れた服を絞りながら答えた。ヒマリは必死に気にしてない雰囲気を出して話す。


「次はあそこの山で・・・」


その後も色々な所をヒマリと巡った。かなり歴史のありそうな古い神社、魚の泳ぐ河川、甘いフルーツが採れる森・・・。どこも隠れた名所みたいだった。

気がつけばもう太陽が西の方で燃えていた。


「最後はこの先よ!」


少し高い山を登る。その先の開けた場所へ抜けると


「うわぁ・・・!すごい・・・!」

「ぽぽぽ♪でしょ?」


そこには言葉を失うほどの絶景があった。ひまわり畑が上から一望できる、まるで絵に描いたような景色がいっぱいに広がっている。


「ここね、私が1番好きな場所。自然と心が落ち着くし、いつ見ても綺麗だと思えるから。」

「・・・」


こんな光景を見ていたからか、ヒマリの言葉が感傷的に聞こえた。


「・・・僕、ヒマリについてもっと知りたい。」

「え・・・?」

「まだ出会って間もないし、未だに妖怪ってピンと来ないけど、ヒマリともっと仲良くなりたいって思ったし、もっと一緒にいたいって思った!だから、もっと「八尺様」のことじゃなくて、「ヒマリ」のことを知りたい!」

「ぽぽぽっ。ありがと。」


言ったそばから少し照れくさくなる。勢いで思っていたことがどっと口から出てしまった。

少しだけヒマリの方を見る。その時


「・・・っ、あれ、なんで私、涙が・・・」

「!?だ、大丈夫?」

「なんでだろっ、すごく、嬉しいのに・・・、止まらないよ・・・そんなこと、言われたの、初めてだから、かな・・・」


涙を堪えようとしながら笑顔を作るヒマリの顔を見て、僕も思わずもらい泣きしそうになる。


「・・・っ、」

「・・・」


池の時とは違う沈黙。僕たちは喋らないままずっと景色を眺めていた。


少し時間が経って


「私もトキワ君のこと、もっと知りたいな・・・」


ポツンと呟いたその言葉はすっと胸の奥を貫く。ヒマリの顔が夕日のせいか少し赤く染まって見えた。


「そろそろ戻ろっか。」

「そうだね。僕も。」


ひまわり畑へ戻って改めて挨拶を交わす。


「また明日ね、トキワ君!」

「うん。また明日。」


長い手を振って僕を送ってくれた。「また明日ね」。毎回そう言ってくれるのが嬉しかった。


その日の夜。珍しく夢を見た。



───とても悲しい、とある少女の夢を。




お読み下さりありがとうございます。


次回はもうひとつの物語が動き出します。

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