MISSION 6 :人工のイレギュラー
傭兵系美少女、大鳥ホノカちゃんは今、
谷を蹴りながら進んだ先の研究所にいる、ちょっとおいたしてしまったAI社の役員の粛清任務中なのですが、
<オルトリンデ>
『なんやマジで、このおっそろしい感覚……!!
怪獣でもいるんか……ちゅーか、ウチの頭覗いてくるみたいな感じまでするんやけど……!?』
頼りになるスワンとしては大先輩な歳下ちゃんのリンちゃんが、珍しいガチトーンで震えてます。
マジで、私も怖くなってきた。
<ジェーン・ドゥ>
『ネオの感覚か?
やはり、向こうにいるのはネオなのか?』
<オルトリンデ>
『なんか似てるけど、全然違う感じや……ウチがびびっとるって言えば異常なのわかるやろ?』
<アーク>
『個人の感覚で危険度を語らないでくれます?』
「いやいや、あのリンちゃんが怯えてるって結構重要だよ。
じゃあアークさんさー、いっそ威力偵察で先行でもしてくれないかな?
正直、私は前に出たくないかも」
やばいと感じたら下がりましょ。
これ、傭兵以前に現代社会の生きていく上で必要な知恵だから。
<アーク>
『……まぁ良いでしょう。あなた方に戦わなくても良いと言った手前、前に出ないのもおかしい話で』
<ジェーン・ドゥ>
『待てアーク!お前のローレライは装甲が薄い!』
<アーク>
『ご心配なく。不意打ちを避ければ良いだけです』
アークさんの乗っている4脚機、ローレライっていうんだ……
そんなローレライを先頭に、まもなく狭い谷を抜けて、ちょっと開けた研究所の下の断崖絶壁にやってくる。
<アーク>
『!?』
<オルトリンデ>
『まずい!!』
アークさんの息を呑む声と、リンちゃんのま、までの発声。
そこで私はペラゴルニスの蹴り1発で機体の高度を一気に上げた。
ヒュンヒュンッ!
───大正解。
多分スナイパーライフル!弾速が速いけど小さいからキャノンじゃ……ないよね!?
ついでにまだまだ飛んでくる!
<ジェーン・ドゥ>
『歓迎の準備は出来ているらしい!』
<アーク>
『随分と予測が上手い物です。
というより、レーダーや目視で当てていないのか?』
<オルトリンデ>
『なんや、コイツら……?
ウチと同じやけど……違う?』
機数は3、どんな奴らかはもう見える!
***
<AA>
『ウッソー!?初弾を避けるぅ!?
完全にコース入ってたのにーッ!!』
軽量逆関節、いわゆるアンテナ頭と呼ばれる遠距離線向け頭部、腕部はいわゆるアヤナミ式武器腕スナイパーキャノンとスナイパーライフルの機体構成のeX-W、
エンブレムは、ズバリ『②』そのままの機体の中からそんな感想が漏れる。
<アンジェリカ>
『な、なんか……なんか今まで戦った傭兵さんと違う気がするよ……??
なんか怖いよ……特に2機……ものすごく怖いのがいるよ……!!』
清々しいまでの重装甲ガチタンに、背中に二つの筒に似た巨大な武器、左腕にガトリング、右腕には4連装マシンキャノンという、とんでもない重火力のeX-W、
エンブレムは『①』の機体の中から、怯えがよく伝わる声でそう言葉が紡がれた。
<プリンシパル>
『大丈夫だよ、アンジェリカ。私達は負けない。
今までだって……だから今まで通りやろう』
白ベースに青が少々、そんなカラーの中量2脚型。
右腕にレーザーライフル、左腕には珍しく増設シールドを持ち、背中の武装スロットは珍しいウェポンラックに、レーザーブレードが二つ装備されたeX-W、
『③』のエンブレムを持つ機体の中から、透き通る声で冷静な言葉が出てくる。
<AA>
『オッケーいつも通り!
プリンちゃんよろしく!!」
<プリンシパル>
『ん、分かってるよ。援護お願い』
***
「盾なんてあるんだ!?」
<コトリ>
《レイシュトローム製『ガラハッド AK/ATS-9』か!
気をつけて、アレ運動エネルギーと熱エネルギーは盾が生きている限りは完全にブロックするよ!》
つまりライフルもレーザーも効かない!?
「じゃ、ミサイルか!!」
<コトリ>
《大正解!HEATには弱い!!
エネルギー切れ待つより先に壊せ!!》
ロックオン、発射!
フロートだった時から愛用の、垂直爆雷ミサイルだ!
───だったんだけどぉ、頭のすぐ上でミサイル爆発!!
「危ねっ!?」
とっさに避けたけどなんで!?ユナさんソラさんが整備不良とかはない!!
<オルトリンデ>
『ミサイル撃ち落とした!?』
<ジェーン・ドゥ>
『あの逆脚だ!!』
まって、スナイパーライフルで!?
味な真似をぉ〜……!?
<コトリ>
《なんて奴らだ……全盛期の私じゃないんだからさ……!》
間髪入れず、レーザーライフルが飛んでくる。
避けた場所に、スナイパーライフルの弾がペラゴルニスちゃんに当たる。
実防高めで良かったけど、連携が正確すぎない!?
<アーク>
『まずい!!主砲が来ます!!!』
とっさにチカッと見えたから谷を蹴り飛ばすようにその場を離れる。
バシュゥゥゥゥゥッッッ!!!!
なんかすっごい当たったら消し炭確定な光の奔流が谷を削ってるのが見えるし、そんな中でも弾とかレーザーやってくるし!?
<コトリ>
『AI社の対艦プラズマビームキャノンだ!
正式名称は長いから、みんな『クロスキャノン』って呼んでるやつ!!』
「お艦に対して、って言ってる武器をこっち向けないでよ!!」
そのeX-Wに向けちゃいけないキャノンを持ってるタンクもタンクで、超信地旋回って奴で上手くこっちに射線を向けてはマシンキャノンとかガトリングなんてもの放ってくるんだ!
ガチタン系アイドルのありすちゃん歓喜の地獄だね!!私は嫌!!!
「コイツらの連携、意外と戦いづらい!!」
ハイレーザースナイパーライフルで攻撃しても、盾の子が防いで、しかも後ろから不意打ちに近づいたリンちゃんのスカイヴァルキュリアを後ろも見ずにレーザーライフルだけ向けて発射して牽制する。
後ろにも目をつけてるのか……なんて感想も、その傍から武器腕スナキャに変形させた逆関節が私を撃ってくる!!
<ジェーン・ドゥ>
『並列処理でもしているのか!?
コイツらは……!!』
<アーク>
『なんと言いますか、まさかこれほどとは……という事態がくるとは……!』
もちろん、残り二人は下のガチタンちゃんが牽制している。
隙がない……しかも連携が異常だ。
「なんだろ、無線で喋ってない感じする」
<オルトリンデ>
『当たっとるでホノカちゃん!
アイツら、さっきからお互いの脳覗きながら戦っとる!!
いわゆるテレパシーみたいな……ウチもなんとなく聞き取れるのが精一杯やのに、なんて受信感度ええんやろか!?』
「なるほどね……しかもこっちもなんとなく手を読まれてる、か」
やばいな、シンプルに強くない?
4対3で押し切れないって言うのもかなり異常だよ。
このメンツ、これで案外お互い何すりゃ良いかは分かってるし、ちょっと怖いアークさんですら裏で邪魔にならない動き方している大変に良いチームワークなんだけど。
それで押せないか。
「まぁ、手を緩める選択肢はないか!」
新武器、こちらもアヤナミ式武器腕の変形をお披露目!
ライフル達を掴んだ腕が後ろに、そして私の操るペラゴルニスの両腕は速射レールガンに変形!
バシュンッ!!
レールガンは、レーザー並みに弾速が速い!
ようやく、相手が避けたり防御する前に撃てたし、かすりでも当たった!!
……ん?弾速速ければ当たるの??
まぁ、反撃は早いからちょっと考えは中断。
<オルトリンデ>
『中々やるで!!
レールガン決まった思ったら避けおったし!!』
「……ねー、リンちゃんって発射されたレーザーとかレールガンって避けられる?」
<オルトリンデ>
『んなもん、発射されるの分かっとっても避けるんはお祈りやお祈り!!
ウチらネオいうても生物やし生物以上の思考速度は………………あ、』
あ、その反応、
私の勘って、まさか大当たり?
<オルトリンデ>
『……ホノカちゃん、えげつな。
やるか』
<ジェーン・ドゥ>
『何をやる気だ!?』
<アーク>
『……なるほど。おバカそうに見えて中々勘はいいようで。
ではそのプランでいきましょう』
「やるよ。
ま、失敗したら死ぬだけだからよろしく!」
***
────外の戦闘は、タブレット端末と研究所の監視カメラ越しに既に映し出されていた。
「どうです、社長?
これが、シンギュラ・デザインド……!
あなたの見つけたイレギュラー2名、そしてあなたの姉妹と、あのクラウドの混成相手に圧倒している!」
浅見クルスは、そのシンギュラ・デザインド達の戦いに興奮した様子だった。
ただ二人、
タブレットを見る、クオンと、
同じシンギュラ・デザインドの赤い癖っ毛の少女、セラは険しい顔を見せていた。
「…………ダメだ。気づかれちゃった。
3人の弱点……こんな早く……!?」
「セラ!?」
「…………ま、たしかにそのことに気づける個体がいるだけ、まだ無駄ではない研究だったか」
「何ですって!?」
「この程度で勝てると錯覚するようなら、お前の研究は無意味になるよ、浅見クルス」
クオンは分かっていた。
この3人のシンギュラ・デザインドの弱点を。
***
「行くよ!!
まずは──────リミッター解除だ!!」
ジェネレーターのリミッターを解除。
アルゲンタヴィスから載せ替えた、解除前提のO.W.S.製ジェネレーターが、今から3分だけどれだけ動いてもエネルギー切れが起こらない出力になる。
これで、この厄介な相手を倒せる!!
─────かも!!!
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