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MERCENARY GIRLs/EXCEED-WARRIOR  作者: 来賀 玲
Chapter 4

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INTRODUCTION












『火星の皆様、私は地球から戻ってきた者として切に願っております。


 人種、陣営、種族やその生存の方法が違うというだけで差別されることのない世界を。


 我々は、この太陽系に住む同胞ではありませんか』









 ────その日、火星全土に放映されたのは、



 地球からやってきた使者、名を『フォルナ・ミグラント』と名乗る、まだ見た目こそあどけなさ残る少女による演説だった。





『皆様の生活を脅かしていたように見えた『自立兵器』も、理由があって侵攻した本来は我々の仲間であり、創造主なのです。


 決して、話が通じない相手ではありません。

 決して、相入れない存在ではありません。


 この火星には、他にも新たに見つかったもう一つの文明であるレプリケイターの皆様も存在しております。


 皆が皆同じ命。同じだけ大切な、掛け替えの無い存在である。


 ならばこそ、地球から戻ってきた私は、火星人の一人として、そして地球統合連邦政府の大使として、



 惑星間平和条約の締結を、この星のすべての陣営に求めます。



 あなた方の思想や考えを否定はしません。

 ただ、同じようにお互いの違いを尊重し、真の意味で平和のために手を取り合いたい。


 私が求めることは、それだけです』




 火星を駆け巡ったこの放送は、瞬く間にすべての話題をさらっていった。



 それは、はじめての地球という遠い故郷からやってきた新しい風。


 誰もが浮き足立ち、そして大いにその言葉を広げていった。



 ─────その真の意味を知らずに。





          ***







「そしてつまり、この条約のミソは一つ。


 分かりやすい『良いこと』であること

 そしてそれを無視する奴は全員の敵。そのための綺麗事というわけで」






 AI社の保有するリムジンの中、誰か曰く『いつもの悪人顔』でシャンパンを一口呑むフォルナ・ミグラント……いや、新美フォルナという方が今は正しい。


 低い身長とやや童顔気味な顔では酒を飲む姿が似合わないのだが、地球にいたもう一人の姉より生きている年月は長い。



「流石だな妹。

 どのみち、いつまでも博士たちクラウド・ビーイングには上から見ている超越者気取りをやめてもらわないといけない」



 そして、火星にいた生き別れていた姉の一人である新美クオンは、同じくシャンパンを片手にそう言葉を紡ぐ。



「でも、我ながら歯に浮くようなセリフの連続で疲れましたよおねーサマ?

 というか、この星も私の所の連邦政府でも抑えきれないヤツら同様、3大勢力でしたっけ?彼らが果たして私の言葉をどう扱うのか心配ですよ普通に」



「ふっ……3大勢力といえど、『錦の御旗』は必要さ。

 すでにユニオンは条約に賛同し、大声で広めている。

 彼らは、元よりクラウド相手も利益があると最初に声をかけた人間たちだ。

 自由と民主。こういう時には相性がいい」



「で、オーダーとかいう勢力はただ短く『賛同する』とだけ……


 まぁ、真意がわからない相手とは聞きますけど、ちゃんと反応しているだけマシですかね」



「元地球の『管理者』のお前が、管理者を名乗るあの勢力を不気味というか」



「私は小間使いでしかなかったですけど。

 それに、地球の管理者はもういないんですよ……何せあの歳下おねーさまが全てぶっ壊したので」



「聞いてるよ。それで今はその役割の一端を引き継いだんだろう?」



「……ま、私を中心に据えてくれたことは感謝してますけど。

 …………で、話を戻しますけど、となると出方が気になるのは、」



「インペリアルならば心配はないさ。

 まだ皇帝本人が皆に言っていないだけで、トラストには事前に条約へ署名しているよ」



「……クオンおねーさまの根回し、ですかね?」


「私は初代のインペリアルの皇帝に勉強を教えてやった間柄だぞ?


 まぁ、そうでなくても我々トラストは、インペリアルには財政的な借りがある。

 借りが多すぎて倒れてもらってもこちらが困るが、私のお願いを聞けないようなやんちゃな陣営でもない……おっと、噂をすれば」



 ───火星人(マージアン)として生み出されたクオンたちには、機械を操る力がある。


 だから、クオンが念じるだけでラジオをつけるのは、造作もないことだった。




『───インペリアルを治める者として、私は今一度問いたいことがある。


 我々の敵は、何故我々の生活を邪魔するというのか?』




 ラジオの周波数は、インペリアル領からの局だ。

 流れる若い声は、今の皇帝のもので間違いない。






『我々が領土を拡張した理由は、我が勢力であるインペリアルの為だけでもなければ、我々皇帝の血筋の野心でもない。


 我々人類の生活のため、我々の日々の糧を作るためである。


 敵である物は知っているのか?

 我らインペリアルの畑から採れたイモも、小麦も、コーンも、そのあらゆる穀物は、


 我々人類生存権に住まう人間の腹を満たすのに大いに使われている。


 我々の生産し輸出する食糧は、人類生存権の約4割の消費を支えている。


 それはどこで作られているか?


 そのほとんどは、人類生存権の外、バリアの外の我々インペリアルの手による開拓地である。


 火星の歴史の中で、我がインペリアルは外を開拓して来た。


 その邪魔をしてきた敵が、自立兵器。


 いや、クラウド・ビーイングという名の存在であった。


 我、現インペリアル皇帝、ミハエル・インペリアル2世の名において、クラウド・ビーイングと名乗る者達へ問いたい。


 何故、我々の畑を拡張するのを阻むのか?

 その理由を正式な形で問いただしたい。


 我らインペリアルと、この私と対話を望む。


 条約に署名するのは、それからだ。


 これは皇帝一人の意思ではなく、すべてのインペリアルの意思である』





「ここまで言われて何も回答もしないのは、悪手だぞ博士?

 それとも、この一つの国家級の相手にさえ、武力で黙らせるか?」



「インペリアルの資料、読みはしましたけど腐ってもゴリゴリ武闘派の軍事国家じゃないですか。


 トラストからこんなに金借りてまで……倒れても困るレベルじゃないですか」



「実際インペリアルの食糧が無ければ、このバリアの下の人類生存権の中の食料自給率だけでは即座に人類滅亡だからな。

 高いが必要な投資だよ。インペリアルも分かっているから我々から金を借りられる」



 と、そんな会話をしながら、クオンは服を脱ぎ始めた。


「あらま、何してるんです?」


「着替えが必要だ。

 もうすぐ、嫌だが必要なシーズンが来る」



 下着まで脱いでそのメリハリある身体をすぐにケースの中の特殊インナースーツを着る。



「シーズンって?」


「知らないのか?」



『続いてのニュースです。

 波乱の続く火星全土ですが、企業連合体『トラスト』より、『シーズン』の宣言がなされました』



 と、クオンがボディアーマーを装着する中、ラジオから流れる放送。




『────オートマティック(A)インダストリアル(I)社CEOの新美クオンです。


 今年の『シーズン』は、重要な局面と被りましたが例年通りの開催を宣言します。


 いえ、むしろ私の妹が地球から帰ってきたこのタイミングこそ、『シーズン』にふさわしい時期と個人的に考えております』



 聞こえるここにいる人間の声。

 録音……とは思えない。フォルナは影武者かあるいはAI社の等身大人型ロボット(ソレイユモデル)にでもやらせたかと勘繰る。



『私も傭兵(スワン)という、この星に必要な武力を司る仕事をする身であり、シーズンという『剪定と淘汰』の季節から逃げるわけにはいきません。


 まして火星が平和への道へ進むというのなら、この身が滅びるかもしれないこの季節に挑む権利と義務が、傭兵(スワン)であるならば存在すると言っても過言ではありません。




 ────只今を持って、この星に住むすべての傭兵(スワン)に、



 そのランクに問わず、

 トラストの決めた実力評価をもとに、



 『懸賞金』がかけられます。



 当然、全員『生死問わず(デッドオアアライブ)』の条件で』





 瞬間、フォルナは言葉の理解と共に、何か予感がしてリムジンなのについている座席のシートベルトを閉める。



 ズドォンッッ!!



 直後、凄まじい衝撃でリムジンが一瞬浮き上がった。



「シーズンって、『白鳥狩り』のかッ!?」





          ***




<マーベラスハント>

『こちらマーベラスハント。初撃は外した。

 闇討ちなのに避けるとは、マーベラスな奴だランク1!』




 ビルのヘリポート、高速道路を見下ろす形でスナイパーキャノンを構える4脚機体がいた。



<一式機動猟兵>

『じゃあオレの出番か!

 たかだか一般車の中の要人程度、オレの一式機動猟兵なら!』


 真横のビルを蹴って、武器腕のガトリング砲を煌めかせた逆関節機体が飛び出す。



<マーベラスハント>

『乗って無いならランク1でも殺せる!

 マーベラスに頼むぞ!』


<一式機動猟兵>

『オーケイ!

 ……いやまった!!』



 突然、高速道路の向こう側から、巨大なトラックが現れるのが2機のカメラが映し出す。


<マーベラスハント>

『オイ、あのトラックはeX-W(エクスダブル)輸送用だ!!

 襲撃予測か!?マーベラスな情報網!!』


<一式機動猟兵>

『あのアマ、勘もいいとはランク1なだけはある!!

 だがまだ殺せる!!

 起動前に機体ごと、叩─────』



 カァオッ!!!


 突然トラックの荷台を突き破って放たれた『プラズマの光』が一式機動猟兵の片腕を吹き飛ばす。



<マーベラスハント>

『マジか!?』




<クオン>

『────そこの傭兵、お前達は我がAI社最大の商品を忘れているらしいな』


 大型トラックの荷台が持ち上がる(デッキアップ)

 開いたカバーの向こう側、右腕のプラズマライフルを構えた丸い流線的なフレームが現れる。


<マーベラスハント>

『マーベラス……!無人機(PLeX-W)か!』


<クオン>

『その通りだ。

 で、どうする?戦う気はあるか?』



 左腕のマニピュレーターで、コア部分へ運ばれながら不敵に笑うクオンが見える。



<一式機動猟兵>

『冗談だろ……ここまできておいて、みすみす最高懸賞金を逃すか!!』



 再び現れた逆関節機体が、ビルを蹴って残った片腕のガトリング砲を撃ちながら飛ぶ。



<マーベラスハント>

『マーベラスだな相棒!

 ここまできて逃してはくれないだろ、ランク1!』




<クオン>

『まさに、白鳥狩りのシーズンだな』




 高速道路の上で、戦いが始まる。

 それこそ、傭兵狩り(スワンハント)のシーズン開幕の証だった。






          ***



 火星に人類が繁栄して300年。


 あらゆる勢力、戦乱の中、報酬次第でどちらにでもつく最も自由な存在があった。


 機動兵器、『EXCEED(エクシード)WARRIOR(ウォーリア)』、 略称eX-W(エクスダブル)を操る女傭兵達、



 彼女らこそ、スワンと呼ばれる存在。


 華麗な白鳥の名前を持つ、最も泥臭い渡り鳥の名を持った傭兵。


 これは、そんな傭兵の話……







「まーたー、傭兵相手ぇー??

 もーやーだー!!」


《しょうがないでしょそういう季節なんだし、ほら行く!!》





           ***

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