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MERCENARY GIRLs/EXCEED-WARRIOR  作者: 来賀 玲
Chapter 3

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MISSION RESULT : 帰るまでが遠征です






 ───ホワイトスペクターの一機が、地上に落ちる。



<アウローラ>

『はぁ……はぁ……っ、

 コンドル小隊……いや、インペリアル部隊全機……!

 生きている奴は……声を聞かせて……!』



 マシンガンを持った右腕以外全ての四肢に当たる部分の破壊された、インペリアル部隊用eX-Wが空にかろうじてという様子で飛ぶ。



<アウローラ>

『……〜ッ!!

 たった一機よ!?

 たった一機……たった一機落とすだけに!!

 こんな…………アンナ……イリーナ……ウリエラ……私たちの訓練は……何のために……!!』



<フィリア>

『────生き残るためさ、アウローラ・ローレンス一曹級騎士』


 その横に、同じぐらいの損傷の機体がやってくる。


<アウローラ>

『ブロイルズ二等尉官騎士……!』


<フィリア>

『辛いだろう。私もそうだよ。

 だが……我々は、生き残った。

 生き残った者は、その辛さを糧にまた……次の戦いに備えるしかない……

 帰還し、後進を育成する……そのためにも』


<アウローラ>

『…………だったら、いや……だからなんですか……?』



 機体のカメラがある方向を見る。




 ズシィンと地面に叩きつけられるもう一機のホワイトスペクターと、それを踏みつける逆関節脚。



<オルトリンデ>

『どぉぉぉうやぁぁぁぁ????

 なーにがランク9やボケェェェェ!!!

 前もタイマンでほぼ勝っとったやろジェーン・ドゥゥゥゥゥ????

 ウチが浪花の戦少女のオルトリンデさんやぁぁぁ!!

 空中戦で勝てるわけ無いやろゴラァァァァ!?!』



 弾切れのガトリングマシンガンとミサイルをパージしたスカイバルキュリアが、器用な操作で空いた右腕のマニピュレーターの中指を立てる。



<キリィ>

『お前ホノカに助けられたの相当根に持っとるじゃろ』


 さらにその横で、コアパーツの前後が貫通した綺麗な穴が見えるホワイトスペクターが落ちてくる。


<キリィ>

『まぁ、コイツはお前でも手を焼くけぇのぉ?

 素直にそんぐらい喜ぶのも当然か』


 片腕を完全に失い、コアの中からキリィ本人が見えるような穴の空いた軽量2脚機ブラックインパルスが、右腕の射突型ブレードの薬莢を排出しながら降りてくる。



<オルトリンデ>

『んん〜〜〜???

 なんや黒いのぉ??射突型ブレード(とっつき)当てるのに随分苦労しとるやん〜♪

 ウチよか損害デカいとか、修理費がインペリアル持ちで良かったなぁ〜〜???んん〜〜???』


<キリィ>

『バカみたいな安全策だけじゃ生き残れんからのぉ?』


<オルトリンデ>

『誰がバカやコラ三下スワン!!!』


<キリィ>

『あ!?三下かどうかここで白黒ハッキリさせるかゴラ!?』


<オルトリンデ>

『見て分かるわ!!白はウチで黒いの自分やろがボケェェェェッ!?!』







 ────ギャアギャア響く聴き慣れた無線。

 だが、呆れたとかふざけているという感想は、アウローラとフィリアにはわかない。



<アウローラ>

『強い……傭兵(スワン)、場数というべきか、死線が違うの、ですね……』


<フィリア>

『……常識的にいえば、正規軍の練度は日々の訓練と統制、規範によって支えられて決して低くは無い。

 我がインペリアルもそうだ。


 対して傭兵は、所詮使い捨てだ。

 正規な訓練はない。規範も薄く、報酬のみで動く。

 戦力として、普通は練度が上がるはずがない。



 ……それでもなお、今まで生き残ってきた。


 傭兵(スワン)…………我々も、生きていればああなれる、かもな』



<アウローラ>

『……かならず!』






 ───一方、無残な地上のハロウィンスコードロン達の瓦礫の中。



<シルヴィア>

『終わったのか。あっけないな。

 通常戦力も昼間に狩ったからかな?』



 ドシン、と転がるパーツの残骸を踏みつける重厚なる重量2脚機、エクレールメカニクス製フルフレームのキャッスルブラボーから響くシルヴィアの可憐な声。



<エーネ>

『追撃が来ないのは嬉しいけど、たしかに不気味だね……』



 近くに佇む特徴的な体型の軽量2脚、AI社ハードレインフレームのキュアフル・ウィッシュの中、エーネは心配の声を上げる。



<シルヴィア>

『まだ何かくる前触れかな、あるいは……』





<アンネリーゼ>

『素直に『私達が全員倒した』、って喜ぶのもありではなくて?』



 2機の間に赤い4脚、ブラッドハントレスを操るアンネリーゼがやってくる。



<アンネリーゼ>

『私たちの完全勝利、なんて浮かれられないなんて子どもらしくもないわよ?』


<シルヴィア>

『これはこれは。あいにくとボクは、そこまでおこちゃまになれないもんでね』


<アンネリーゼ>

『まぁ、釈然とはしないでしょうけど。

 でも、きっと相手は引いてくれたのよ。理由は分からないけど。


 なら、今のうちに回収する物回収して帰る準備をしないとね』


<シルヴィア>

『帰る準備か……ここにいないテレサ社長の私物で?』



 と、ゴゴゴ、と言う音が響き始める。



 突然、近くの地面を突き破り、ドリルがその姿を表した。

 まるで海の中から現れたクジラがジャンプして海面に落ちるように、ドリル付きの巨大な船が陸上に打ち上がる。




<アンネリーゼ>

『そう。あのお婆さまの私物、『ティタノボア』で』



 ────O.W.S.社資源採掘用地中/水中両用輸送艇『ティタノボア』は、早速その船体の脇のハッチを開いて、この場の部隊の回収を始めたのだった。





<テレサ>

『あーい、全員撤収準備!!

 遅れたら、蒼鉄かどっちか知らないけど道の国で過ごすことになっちゃうよー?』





           ***



 そして、ギフト2格納庫。


「派手にやられたねぇ。割と装甲厚あるって言っても、ブリザードはE防御偏重なフレームなんだけどさ、おねーちゃんや」


 回収したフォックスファイアから、這い出るクオンに腕を貸しながらソラが言う。


「知ってるさ。お前のマニュアルは分かりやすいから、全て頭に入れている。

 今回も助けられてしまったな」


「……そっか」


 そして、そのままお互いにハグする。


「こうして、直接会いたかったよソラ」


「私もさ。助けられてよかったよ色々」


「ああ……本当に感謝しているよ……」


 さて、と一度離れ、クオンは外を見る。



「大鳥ホノカは?」


「無事だよ、今向かって……あれ、アレは?」


 ふと、外に別の機体のストライクブーストが見える。



『ぅおーい!!

 ホノカちゃん、無事かなー!?』


 と、ドシンと音を立てて入り口付近に着地する重装型タンク脚(ガチタン)構成の機体が一機。


「ティタニスか。たしか、」


《ありすちゃんさんに貸していた物ですね》


 ホノカの私物、回収された機体ペラゴルニスの残骸から出てきた30cmほどのサポートAIロボ、ウェザーリポーターのイオがいつのまにかクオンの足元にいて代わりに答えた。


 クオンは、すぐにティタニスの中へ耳元のヘッドギアの無線を繋げる。


有澤(ありさわ)タカネ、大鳥ホノカなら生きている。心配はない」


『って本名禁止ー!!!

 社長さん、ここではありすちゃんはありすちゃんなの!!」


「あ、すまん間違えた。許せ。

 ありす、大鳥ホノカなら、」





『ここでーっす!!!』




 ヒィィィ!

 甲高い音と強い光、

 フレームの関節が特に白く発光する機体、

 UFO状態の中量2脚型───地球の大和重工本社の新型フレームで構成された例の機体がやってくる。




「……見ての通り、アルゲンタヴィスと共に無事だよ」




 ふ、とクオンは笑った。

 タイイングの良さか、終わりの安堵からか。




          ***





「……負けですわな、こりゃ」



 一方、トラスト所属船舶傭兵(バッカニア)所有の商業用空母『バーナード・フェリクス』。


 その上で雇われ艦長、陽気な黒人系の男エドワードは、派手に燃えるだけの輸送潜水艦を見て言ったのだった。


「…………あの、雇用主でもなく、この場を借りている私がそういうことを言うのは、とも思いますが……

 お仕事、なのですよね?報酬の方は……?」


 と、横にいた小さな銀髪の少女、ことグートルーンが割と恐る恐ると言った様子で訪ねてくる。



「…………優しいお嬢さんに心配されて感激だ……


 だからひとつだけ教えてあげましょうか。

 実は、ここが俺たち船舶傭兵(バッカニア)の本領でね」



 と、しゃがんで視線を合わせ、コソコソ話すようにグートルーンに耳打ちする。



「嬢ちゃんの身内でもある、ある意味上司のミス新美クオンに言われたとおりにユニオンと契約していた甲斐があった。


 俺達は『運び屋』であって、作戦の主体はあの景気の良い訓練中のユニオン軍と、アンタらクラウド……いや書類上はハロウィンスコードロン名義でね。


 運べさえすれば、作戦の可否に漏れず、報酬は……というわけだ」



「…………酷い人間ばかり……あの子も何で……」



 ハハハ、と呆れるグートルーンに陽気に笑って応えるエドワード。



「まぁ、お嬢さんほど良い人ではないわな。

 ……なぁ、差し支えなければ聞きたいんだが、なんで戦力を引っ込めたんだ?」


 その質問は、笑みは浮かべているが目だけは真剣だった。

 少し不可解だ。


「…………J-07ユニットの不調……と言えば良いのか。


 いや、ジェーン・ドゥという同胞の突飛な……だけどどうしても気になる意見を見るために……あえてこの場は見逃しますというべきですね」


「…………意見ってのは何だい?」


「…………イレギュラーの、観察と情報収集、とでも」


 ワオ、と思わず心の底からエドワードは声を出してしまった。


「……やっぱ、いるのか……!」


「え……?」


「いやね……噂程度さ……ただ、たまにいるっていうには俺も見てきてね……

 強すぎるやつっていうの?一人でも戦局変えちゃうようなの」


「…………」


「俺は会わないように祈るだけだな……」


 くわばらくわばら、とユニオンに伝わる魔除けの呪文を唱え、彼の信じる宗教らしく手を合わせて仏に祈る。



「…………分からない。今はまだ、地球から来た贈り物が強いだけなのかもしれない。

 けど…………」



 そんなことは知らず、ユニオン軍が燃やした輸送潜水艦より向こうを……



 正確には、クラウドとして意識を共有したデータリンク上の、衛星写真から見えるギフト2の横の着陸したアルゲンタヴィスを見る。





「……久しぶりではなくて?あなた方がほぼ無傷の単騎相手に4人とも堕とされたのは」




          ***





 宇宙船ギフト2が空へ浮かび、目的地を火星の人類生存圏へ定め進み始める。



「────で、密航者さんよ?

 一応船長なもので聞きたいのさ」



 ギフト2の操縦席、そこに集まる面々の中で一際異彩を放つ者、


 何せ、頭から角は生えて、目は3つで白目が黒、肌は文字通り青い色の多腕な人の女性型の別の生物……


 そう、レプリケイターの一人でもある、ク・レリックが、皆に見つめられて苦笑していた。



「と、言いますと?」


「落として言い訳?良くないわけ?」


「あー、落とさないでくださーい!」


「なんで?

 落とさないと何か私に不利益ある?」


「うーん……そうですね……じゃあ、」


 と、彼女の、いや彼かも知れないこちらでも軍用風に見える服のポケットから、一枚の手紙を取り出す。



「蒼鉄王国の大使、という大役を司ることになってしまった私でも一応あるのですが、これが理由にはなります?」




           ***



「───何故いるのですかな、一国の主人がこんな場所に」



 そして、O.W.S.社資源採掘用地中/水中両用輸送艇『ティタノボア』の艦内、格納庫。


 ダレル・グウィンドリンは、一人の女性……いや存在的には男かもしれない相手に問う。


 その床にあぐらをかき、『下の方の右腕』で頬杖をつく立派な角と白目が黒の3つ目を持つ赤い肌のレプリケイター。



「オレは捕虜だろう、隣人よ?」



 赤鋼帝国皇帝、ムルロア・ゼノバシアその人だった。



「なら解放しますが?あいにくとこちらも貴国との戦争状態続行は避けたい」


「そうかぁ……だが良いのか?

 オレ一人捕まえておいた方が後々色々と便利じゃないか?」


「何故?」


「……しかしこの船、デカいな?地中を潜ることも驚きだが、このデカさ!

 お前らこの船に一体どれだけ鉄を使った?

 どうやって作ったかも気になるがな」


「話を変えないでいただきたいが?」


「───なぁ、オレたちの国の鉱山から採れる鉄鉱石の量だとそのぐらいだ?

 お前らの持つ鉱山全部と比べてみたいな」


 ハッとなるダレル。

 何と、最初から話は何も変わっていなかったのだと、気付かされた。



「…………何が、言いたいのですかな?」



 とぼけるしかないが、黙ってなかった事を後悔するべきものを相手は取り出した。



「鉱山といえば、この硬貨を見てくれ。

 オレの顔だ。ふふ、当然500マルキー硬貨だ。

 オレの国の硬貨じゃ一番高い。

 そして高い理由は、使っている金属がな……ああ、もしかしてお前たちの場所じゃ良く採れる物か?」


 硬貨。

 それは、戦いや産業で良く使う金属を確保するために流通させる側面がある。

 電子マネーや紙幣とは違う、信用による価値がなくなっても価値を失わない物。

 何故なら、このゼノバシアが言う通りにそれ自体に価値がある鉱石でできているからだ。


 例え、ゼノバシアの横顔の彫られた硬貨の価値が、今のこちらで薄いとしても……




「…………悪いが、あなたを『捕虜』として扱うわけにはいかない」


 ダレルの答えは、決めざるを得なかった。


「赤鋼帝国皇帝陛下……あなたは『ゲスト』として扱わせていただく」


「…………脅したみたいですまないな。楽にしろ」




 この時、ゼノバシア自身大分ハッタリすぎて大丈夫かと思っていたが、マシな寝床で旅ができることが確定し喜んでいた。




          ***



「じゃあ、行きますか」


「というか、帰りますか」



 ギフト2が、朝焼けに向かって飛んでいく。


 帰還。


 そう、目的は果たした。

 後は、何事もなく帰る。それができて初めて、傭兵達は任務を終えるのだ。


 さぁ、帰ろう。

 ようやく、見慣れた場所へ向かう時がやってきた。



          ***

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