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MERCENARY GIRLs/EXCEED-WARRIOR  作者: 来賀 玲
Chapter 2

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MISSION 19 :逃げなきゃ恥だし命はない







 傭兵系美少女、大鳥ホノカちゃん最大のピンチ!

 一発当れば終わりの愛機で、挑んだけど勝ちきれない敵の名は、最強傭兵(スワン)部隊『ハロウィンスコードロン』!


 一機落としてもう武器は左腕以外弾切れ、頼れる関西弁の相方のオルトリンデことリンちゃんの機体、スカイヴァルキュリアは片腕と片脚がもう無い!!



 絶体絶命のその時、未だ暗い夜空に浮かぶは撤退の合図の照明弾!!





「全力で逃げようか!!」



 弾切れ武器をパージした左腕部でスカイヴァルキュリアを掴んで、本来の用途として|緊急脱出用大推力推進器ストライクブーストを起動!


 この私の愛機、ペラゴルニスは一発当たったらアウトの紙みたいな防御の代わりに、音速を超える速度でストライクブーストができるのだ!!


 なんなら、もう一機掴んででもっていう事実に今驚いてる!!


<オルトリンデ>

『なっ……!?

 ホノカちゃん、アンタきっといの一番に逃げてウチ置いてくタイプと思ってたわ!』


「私もそう思う!!

 そう思ってたんだけどね……!!」


 とにかく、エネルギー容量が保つ限りは直線でストライクブーストだ!!

 逃げるんだよぉ!!とにかく!!



<コトリ>

《ダメだ!あの白いの追いかけてきている!》


 後部カメラに視点を合わせれば、まぁなんとあの敵のリーダー機体のコアパーツが!

 背中のゴツくて四角いストライクブースト部分が、横に伸びてなんだか翼みたいに変形して凄い勢いでブーストしてる!!

 ストライクブーストのアレがなんか、光の翼みたい!!


<コトリ>

《O.W.S.試作型コアパーツ、F103-c “M-gui”、

 アレは空力特性を全力で考えた結果、あの変形機構でストライクブースト時の速度と安定性を確保するようにしているんだ!ティラノサウルスの学名が通例的につけられるO.W.S.フレームパーツでは、唯一ミクロラプトルの名前がつくのも特殊な変形機構ありだからさ……AI社や大和重工と共同開発っていう理由もあるけど。


 にしたってまずいよ!!

 こっちはフロートなんだぞ!?追いつかれる……改めて思うよ、あのフレームは最高傑作だ!!》


 こんな形の『身をもって体感する』なんてことしたくなかったな!!



「エネルギーもない!!

 私達の船までどれぐらい!?」


<コトリ>

《カモメちゃんの声が聞こえるレベルじゃなきゃまだまだだ……!》


 じゃあまだまだか!!

 あっちはもう弾丸飛んできて射程内なんですけど!!


<オルトリンデ>

『……死にたくない!ウチ死にたくないで!!

 離しぃや!!ウチはストライクブーストで先帰たせてもらうで!!』


 おいおい、リンちゃんそりゃないよ、急に暴れちゃって。


「先帰れるなら喜んで!!

 で?私よりスカイヴァルキュリアって足は速かったっけ?」


<オルトリンデ>

『ッ……!!

 そんなん知らんわ!!さっさと離さんかい!!

 ウチは心中なんぞごめんや!!』


<コトリ>

《君さ……今更悪い子ぶるなよ。

 さしずめ、離した瞬間君が減速してアイツを止める気だろ?

 ああ、心中はごめんってそういうこと?》


<オルトリンデ>

『……ッ!』


 あいにく、空中戦の天才ちゃんの思考は、まぁネオじゃなくても分かるさ……


<オルトリンデ>

『うっさいわボケ!!ウチより低ランクで弱い癖にカッコつけんな!!

 ウチはカッコなんかつけへん!!ほんまに逃げる気やし!!ホノカちゃんもそうすりゃ良かったんねん!!』


「…………意外と良い子だよねぇ。私と大違い」


<オルトリンデ>

『そんなんやない、ウチは……』


 バン!

 ……貴重な弾丸で、スカイヴァルキュリアの残っていた腕を撃って、そこで手を離す。


「私のペラゴルニス、一発でも当たったらアウトだし、だからこそ今無事なんだよね」


 落ちたライフルを空いてる右腕で掴んで、ストライクブーストを切る。


 反転。

 さぁ、もう敵の白い機体は射程距離だ。


「怪我人は逃げなよ!!

 後でなんか奢ってね!!」


<オルトリンデ>

『何やっとるんやホノカちゃァァァァァんッ!?!?』




 いや本当、何やってんだろうね。

 傭兵、辞めるために戦ってるんだよ私?



 ────まぁ私おバカだし仕方ないか!!



<ジェーン・ドゥ>

『味方の為に挑むか……だが!!』



「だが、ってなんだよ!!行かせるか!!」



 リンちゃんから奪ったライフルと合わせて、二つのアサルトライフルを斉射する。



 コイツ倒せば、確実に逃げられる。




 まー、相手は、さっきの黒い方の2脚と違って凄まじく速い!!全弾避けた……全弾!?

 ペラゴルニスも負けてられるか!!右に左に動いて無理やり当ててやる!!



<オルトリンデ>

『────ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!』



 リンちゃんが、ようやくストライクブーストで進み始めた。

 後ろの映像はその確認から、相手が回り込んだことを知る為に使うのに代わる。



 結論から言って、



<コトリ>

《クソ……パクリみたいなアセンのくせに速い!!

 いやあの子のパクリだし早いのも当然か!

 コイツ、やっぱりわかって使ってる!!》


 相手は速い。

 気がつけば視界から消えて、回り込むように残った右腕のライフルで死角から撃ってくる。

 ペラゴルニスが一発でも当たったらアウト……特に脚はそれは誇張じゃないから全力で避けていくし、相手もその死角っていうのが下からだから余計タチが悪い。


 シンプルに強い。的確で速い。

 ただ、この恐怖感……あのランク2のアンネリーゼさんに凄まじく似ている……!


<コトリ>

《イラつくけどランク9は伊達ではないか……!!

 このままじゃ反撃できない!!》


「そうでも……ない!」


 6度目の死角へ回る瞬間に、ライフルでサッとひと斉射して当ててやる。



<ジェーン・ドゥ>

『当ててくるか!?』


「なめんな!!もっと速いの見たことある!!」



 そう────悪いんだけど、ランク2のアンネリーゼさんの赤い4脚のが速い気がする。


 旋回も、裏へ回るのも……なんというか、技量で勝ってる気がする。

 4回の回避のうち一回。

 でもそこで確実に当てられる……!


<ジェーン・ドゥ>

『くっ…………やはりか……お前は……!!』


<コトリ>

《……ホノカちゃん……まさか、君本当に相手の動きを見切ったの!?

 すごい……本当に!?相手、ムカつくけど、強いのは私が認めてるとはいえさ!?

 ハハハ……いいじゃん!!君はやっぱ最高だよ!!》



 テンション高いところ悪いけど、私いうほど余裕ないからね!?

 まずい……エネルギー足りねぇ!!

 避けすぎて、当てるのに動きすぎて、エネルギー容量足りない!!回復早いけど、それよりも……!



<ジェーン・ドゥ>

『逃しはしない……奥の手を使う!』



「奇遇だね!」


 こっちも奥の手だ……そう、



<ジェーン・ドゥ>

『ジェネレーター、リミッター解除』


「そっちもか!!」



 どのみち落ちるなら……一か八かのリミッター解除だ!!


<コトリ>

《やっちゃいなよ、そんなパクリ機体なんて!

 ペラゴルニスの最高級ジェネレーターなら、たっぷり3分はリミッター解除できる!!》


「3分もコイツと戦えるわけないじゃん!

 もっと早く沈める気じゃないとこっちが殺される!!」


 だからこそ!リミッター解除した上で、コイツを倒す!



<ジェーン・ドゥ>

『…………コレ(・・)を使うまで追い詰められたのは、久々か』



 ところが、私の目の前でソイツは残った右腕のライフルを捨てて、相手は腰の格納してた、多分レーザーブレードに持ちかえる。


「ライフルを捨てた?」


<コトリ>

《……うそ、》




 瞬間、何か無性に嫌な予感が私にくる。

 そして当然のように、相手は何かを始める。



<ジェーン・ドゥ>

『ジェネレーターのリミッター『2段解除』は初めてか……だろうな。

 一撃で死んでくれるな……』



 相手の機体、各部の関節が白く光を放ち始める。


 ヒィィィィィィィィィィ……!!


 eX-W越しで聞こえるような甲高い音。


 ────やばい、何か知らないけど分かった。



 私は、ジェネレーターリミッター解除の恩恵のままストライクブーストを起動する。



 逃げなきゃダメだ!!なんか知らないけど!!!


<コトリ>

《やばい、高度をアサルトブーストで無理やり下げろ!!》


 ドヒャアとそうして瞬間、ペラゴルニスの全力のストライクブースト中の超音速飛行の真上を、何かが通り過ぎる。


 遠く見えたのは通り過ぎたから、

 通り過ぎたのは、あの白い機体。


 それが、ものすごい遠くで、白い線を出鱈目に空中に一瞬で描いて─────もう目の前!?


「なんだこれぇ!?!」


 ペラゴルニスのストライクブーストを追い抜き戻ってくる超加速。

 白い閃光そのままの色を放ちながら、空中にデタラメすぎる軌道を一瞬で描いてこちらにブレードを奮ってくる。



<コトリ>

《ジェネレーターリミッター、『2段階目』解除……!


 それが、関節やブースターの基礎技術であるヴァーディクトドライブの……慣性・重力可変機構の本来の性能を発揮できるエネルギーを生み出す……!》



「なにそれ!?」



<コトリ>

《UFO。

 Unlimited Flying Over-drive.

 無限飛行超加速状態……本来は、地球から火星まで三日でいくための技術!

 あのフレームだけが今のところ耐えられる、本当のリミッター解除……


 チートだよ、言っちゃえばね……!!

 何せ、かつて地球を滅茶苦茶にした『最終戦争』……その時代の兵器の再現品だ……!!》




 なにそれ……


 いや、マジでやばいかもしれない!!

 相手、相手の攻撃頻度がやばい!!

 速すぎる!!


 こっちはフロートで!!リミッター解除で!!


 今もストライクブースト全力なのに!!後ろから迫って回避したら追い越されるって!?!


 どういう事だよ!?!超音速のはずなのに!!


 これでもあのテストの時測ったんだ!!

 ペラゴルニスは本気出せば、マッハ2は出るんだ!

 コトリちゃん曰く地上では音速が速いから、マッハ1ぐらいだけどって。



 なのに、なんで追い越されるの?

 そしてすぐにレーザーブレードで切り付けてくる!!


 回避も難しい。上半身のレーザー耐性ないから、傷が増える!!

 一腕とかコアとか切り裂かれてもおかしくない!!



「コトリちゃん!あれこっちも使えないの!?」


<コトリ>

《こっちはジェネレーターもフレームも負荷に耐えられない!!

 この機体じゃ2段リミッター解除してUFO状態になっても、2秒後の関節とブースターがぶっ壊れる!!》


「2秒じゃだめか!!

 でも、1秒後生きてる自信な、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!」


 危ない!!

 コアの一部が切りさかれた!!


 というか、コックピットまで届いて私に掠った……リアル左腕取れた!?!

 痛い!!いや痛いで済んで良かった!?

 良くないけど……左目も見えないってかまさか……!


<コトリ>

《ホノカちゃん!!》


「コトリちゃんマジでありがとう!!

 強化手術して人間の体辞めてなきゃ死んでる!!」


 流れる私の白い血、人工血液は一瞬で硬化して金属のカサブタになる。

 血が止まった……痛いけど、動ける!!

 腕吹き飛んでるから、操縦桿で動かすならピンチだった!!


 まじめに、強化人間(プラスアルファ)な身体に感謝だよ!!


<コトリ>

《クソ……!!

 パクリ機体で扱いきれてない機能使っちゃってさ……!!》


「扱いきれてない……!?」


<コトリ>

《昔私は、試験であのUFOを使ったことが何回かあった。

 なんども壁に激突しかけたけど、全盛期の私なら……ちょっと鼻血出しちゃうぐらい神経負荷がやばいけど、君の周りクルクル回りながら数秒で蜂の巣にできたさ!

 それにもっと上手い操作ができる人間も知ってる。

 人間っていうのもアレな気がするけど》


「たしかに化け物じみてるけどさ、相手も十分じゃない?」



 もう今必死に避けて避けて進んでいる。

 ストライクブーストつけっぱなしだ!!じゃなきゃ切り裂かれる!!


<コトリ>

《充分か。ま、しゃべる余裕ないぐらい機体に振り回されそうな機動できるだけマシか!!

 あの線の見える旋回は無駄な動きの証さ!》


「その無駄な動きに翻弄されてるけどね!!」


<コトリ>

《でも、見えてきた!

 ……潜水輸送艦はまだ浮上している!!》



 たしかに!!

 ようやく帰る場所が見えてきたんだ!カメラアイで、光学情報で!!


 あー、これだけで心が軽くなるし、


「ぐっ……!」


 そこまでの『遠さ』が、余計に分かっちゃうんだ……!


 これ帰っても生きて帰れるかな……って?



「何アレ!?潜水輸送艦の上!」







 我らが帰投するべき潜水輸送艦の上、


 そこには、まぁ何ともふとましい2脚型の、なんか力士っぽい印象もあるようなデカいというか……ぶっといしゴツい機体がいたのだ。


 背中になんか、分度器みたいな形の奴左右に背負ったごっついのが!



<???>

『───聞こえるかな、大鳥ホノカ?

 ボクだよ、君に頭をわしゃわしゃされたシルヴィアちゃんだ』


「あのちびっ子!!」


 たしか、どっかの企業のテストパイロットとかいうちびっ子!




          ***


 エクレールメカニクス製標準機体、

 重量2脚型『MGN-01Z MAZIN』。


 そのコックピットの中で、長い銀髪の少女シルヴィアは、自社製の際どいパイロットスーツ姿で機体のチェックを終えていく。



「本当は、ボクは君を助けるために出撃したわけじゃないんだ。

 ただ、意外なことに君は同業者なんていう蹴落として当然な存在を護ったらしいね。

 いや、茶化すわけじゃなくて感動したよ。

 だから、ボクができる範囲で与えられる助かるチャンスをあげたくなったのさ」



 さて、と呟いて、シルヴィアは愛機をその場所へ向ける。



「ボクの機体、『キャッスル・ブラボー』は、今から『NGウェポン』を使用する。

 巻き込まれたら追撃してくる後ろのユニオン艦隊ごと消し飛んじゃうぞ!!

 発射まで30秒ぐらい。

 早くボクの後ろまでくるんだ!」



 操縦桿のスイッチを同時押し。そして戦闘モードだったeX-Wのモードが変わる。




<機体AI音声>

《NGウェポンモード起動》



 瞬間、背中の半月状の左右のパーツが持ち上がり、さまざまな部分が伸びて開く。



<機体AI音声>

《エネルギーライン、全弾直結。

 脚部ランディングギア射出。機体をロック》


 ふとましいフレーム脚部の装甲の一部が開き、立っている潜水輸送艦へ何かが射出されその張り付いた何かとの間のチェーンが張られて全身を固定する。


<機体AI音声>

《全Eシールド力場、前方へ収束。

 全エネルギー、前面のシールドへ流入開始》


 機体各部のEシールド発生器が開き、前へ向く。

 前方へ、バチバチ放電しながら光り輝く球が現れ、エネルギーが全てそこへと収束していく。


<機体AI音声>

《エネルギー、正常収束中…………》



「さぁ!後数秒もしないよ!!

 早く後ろへ来たまえ!!」




           ***


 なんか、やばそうなの撃つ準備してない!?

 後数秒!?ペラゴルニスのストライクブーストでも間に合わない!!



 数秒……数秒だって!?



「コトリちゃん!!」


<コトリ>

《どうせ死ぬなら、》



 私たちは、

 リミッター解除中の機体の中で、リミッター解除スイッチへ意識を伸ばす。



《「一か八かだ!!!」》



 スイッチ、オン!!


 2段階リミッター解除!!やばいのくるよ!!


 機体フレームから甲高い音が鳴り響いて、白く光り輝く関節やらブースター。


<ジェーン・ドゥ>

『まさか!?!』




 ボン、って音はさらに音速を数十倍上回ったせいか、とれた肩のアサルトブーストパーツの音か!?


 知るか!!今横切ったあの白い2脚も!!


 ペラゴルニスは、あちこち軋みを上げて、自壊しながら、凄まじい速度を叩き出し、文字通り未確認飛行物体(UFO)さながらの速度を叩き出した。


 翼が折れる!ストライクブースト基部のあたりが弾け飛ぶ!!

 片腕パージ!!


 その瞬間、フッと光が消えて、硬い地面とキスする。

 そう、そこは固い地面!というより潜水輸送艦の上!

 スライディングしながら、ボロボロのペラゴルニスは、あのちびっ子の乗るゴッツイ2脚の後ろまで滑って止まる!

 コアの空いた穴から、あのヤバい光を溜めた先で手を伸ばす白い機体が見えた。



「いまだ!!!」



 その時、無意識に私は無線に叫んでいた。




『ベクターブラストキャノン!!


 発射ぁッッ!!!!』






 ────すごい光が辺りを包んでいた。


 そして訪れる闇……闇みたいな光が私を包む。



 何が……何が起こったの……?

 音は聞こえない。鼓膜に当たる私の耳のマイクは危険な音を遮断しているはず。




《─────ねぇ、聞こえるかな?

 アレがNGウェポン…………


 |規格外巨大兵装《Non-standard Gigantic Weapon》。


 エクレールメカニクスの狂気……リミッター解除のエネルギー全てを使って放つ一撃必殺の兵器だ》



 コトリちゃんの声が聞こえてくると同時に、(やみ)が晴れて映像が戻っていく……私の視界が戻る。




 ─────海が大きく抉られていた。



 深海まで見えるぐらい水が消えて、いや舞い上がって大きな波を産んでいた。

 中心にあった光が消えた瞬間、まるで揺り戻されるように、大気が渦巻いてその場所へ凄まじい風を、嵐を巻き起こす。

 波が逆巻いて、海が渦巻きながら元に戻っていく。

 戻るというには凄まじい乱暴な戻り方だった……


 その中心の近くにあの白い機体がいた。

 必死にもがいて、でも光を失った機体では思うようにその渦巻く嵐から逃げられないみたいにもがいている…………


 やがて、諦めたようにくるくる回りながらその嵐へ吸い込まれていって─────


 後に残ったのは、すごい巨大な渦巻く雲と雷だけ。

 それだけだった。


 案外静かな……雨の降るところだけちょっと違う夜明け前が戻ってきた。


「……何、今の……!?」



《なんてことだ……Eシールドのエネルギーを攻撃に転用したブラストアーマー、それに指向製を持たせて一極集中させたブラストキャノン……

 それでも強力な火力なのに、リミッター解除したジェネレーター全てのエネルギー注ぎ込んで撃ったのか!


 炸裂した高エネルギー圧縮Eシールドが核弾頭並みの爆発を引き起こし、周囲を真空状態にしたんだ……その揺り戻しであらゆる物を吸い集めて、最後は気候が変動して雨が降る……


 なんていうか、eX-Wに戦略兵器を積むんじゃないの!

 火星まで来たのに、バカじゃないのかエクレールは?》



『ふっふっふ……バカと天才は紙一重なのさ。

 よく生き残ったね!君は運がいい』


 さっと差し伸べられた重量2脚型に腕に、なんとかまだ繋がって動くペラゴルニスの腕をギギと音を立てながらゆっくり掴む。



「…………ひどいもんだけど……生きてるよね、私……!」


『当たり前だろ、ボクが助けたんだ。

 さ、帰ってからお礼はたっぷり聞こうか』


「……いや、ここで言うよ。

 ありがとう……これで、しばらくは追ってこない……よね?」



 ふぅ……正直、ホッとしたよ。今は。


 死ぬかと思った。今回はマジで……



「あーでも…………強化してなかったらもう死んでるか……コトリちゃーん、ありがとうー。

 今ほど強化人間になって良かったって思う時……ないよ」


 まだ残っている腕で、コトリちゃんをなんとか外して抱き抱える。


《そう言う感謝のされ方はあれだけど……まどういたしまして。

 こっぴどくやられたもんだね》


「素直に強かったよ。

 ハロウィンスコードロン……もう会いたくない」


《そうも言ってられないだろうよ。

 まだ、始まる前さ》




 コトリちゃんの言う通りだ。

 まだ目的地前だもん。



「まぁ、今は生きてること喜んでていいよね……」


《それだね》




 これからの戦いを考えると、頭痛が痛いって感じ

 でも今はいいや。今は休みたい……腕もないしね。



 ともかく、これでまずは終わり。



 ────ここからが、本当の戦い。



 遠くに朝日が見える。

 でももう時間切れ。潜水開始。


 次にお日様を拝める日は……どうか平和な理由でありますように。




 戦いは、まだ始まってすらいない。





           ***

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