MISSION 6 : 一国のトップがなんでバーベキューに参加してんの??
「これは、私こと大鳥ホノカの勝手な主張だけどさ、
発想がデブっていわれるかもしれないし、実際そうかもしれないけど、
お肉食う時は、ごはん無いといけないし、
最初はカルビにたっぷりタレ付けて食べたいし、
で、ご飯かっこみたいんだよね」
将来お腹心配だけど、でもそうしたいんだよ。
「…………はっきり言って、同感です。
海の向こうも同じ考えの方はいるもので。
どうにも、動物性タンパク質をアルコールで流す趣味は、私には無くてですね」
そういうのは、まさかの一応敵国のトップの人。
カヨコさんだっけ?有言実行の特盛白米片手にカルビを甘口ダレで食べてるんだよね。
「アイドル抜きに語るけど、未成年って言ってももうすぐ20になるお年の人間が隠れて飲んでませんがいえないんだ。あ、これオフレコね?
でもね、やっぱ白米は太るし、私はサンチュ派」
後ろに数人のサンチュ派を待たせる、アイドルと思えない焼肉の食べっぷりなありすちゃん。
「何か勘違いしているようだが、焼き肉のためのビールじゃないんだ。
私達は、ビールその他アルコールを美味しく飲むために焼肉を食べている。ひっく」
そういう、我らが独立傭兵代表で、大体会う時毎回アルコール飲んでるクオンさん、すでに一瓶開けているのだった。
「そうよそうよー!!一人だけ素面とか許せないわよ敵国家の代表がー!!お前も飲めー!!ウブッ!」
なお、クオンさんの量の1/3ですでに出来上がってるヴィオラさん。哀れというか、飲み過ぎですよねー!ペースがねー!!
「えぇ、敵国の首脳がいる前ですでに酒で醜態を晒しますか?」
「安心しろ。まだ赤ちゃんになってないからそんなに飲んで無い」
「酔ってまへん!!」
「うん、ヴィオラさん、そのぐらいにしなよねー」
とか言いつつ、イカ焼き片手にまだ飲むしー。
「……で?」
「ああ、私は下戸なので飲みませんよ?」
「そうじゃ無い。わざわざなんでこんな場所で飯を食う気だ?
周りは傭兵か、酔い潰れてるこの領主の兵だぞ?」
おぉ、確かに気になる。
「私を殺したところで、プランが変わるだけです」
と、にべもなくご飯書き込みながら言うカヨコさん。
「そんなことより、私は手短にいるあなた、新美クオンも認める上位の傭兵の皆さんに、あのことを伝えてないか心配でしてね」
「あのこと?」
「……戦犯の件を今伝えるのか?」
え?せんぱん???
「別にいいでしょう?
このまま停戦交渉が進めば、この場のランカー傭兵の皆さんが『戦争犯罪人』、それもA級の物になるって話をいつ伝える気です?」
………………
『なんですって?』
綺麗にみんなハモったよね。
「ああ、今回インペリアルのトップとも停戦交渉がなされましてね。
こちらからもインペリアルの法で裁かれる必要がある人間がそこそこいたので、
交換として、非正規軍人でありながらこちらに多大な損失を与えた違法軍事犯罪人、にあたる傭兵のいく人か、特にトップのランカーのみなさんをこっちの裁判所に引っ張ることにしましてね」
「……うーん、私は死刑か無期懲役か」
「んな軽い調子で言うこっちゃないわエーネこのバカァァァァッッ!!!」
「こちとらお天道さんにそら顔向けできねぇ商売いうともなぁ!?!一応は合法でしかやっとらのじゃクソカス法律がゴラァァァァ!?!?」
「あー、それ引退したら無しにできませんかね敵の人?」
おかわり頼んできた神経がすごいけど、まぁ応じたよ流石にね。
「こっちの法律では無しにできないんですよね、残念なことに」
おかわりしても変わらない?ダメ?
「ちなみに、私って、何刑になっちゃいますぅ??」
「君?
……たしか、大鳥ホノカ……『灰被りの鳥』でしたか。
ふむ……そもそも法廷にたどり着けるかどうか……」
「えぇ??
てかなんですそのあだ名は?」
「ああ!知りませんか?
戦場に現れては、何もかもを焼き尽くすが如く我が方の戦力を撃滅する鳥のエンブレムの機体。
その機体は、まるですべて焼き尽くした後に残った灰の色。
それ以外残らない、圧倒的なまでの『殲滅』。
会ったものは死を覚悟せよ。
いや、最近は『逃げろ』と言われている戦場の恐怖。
それがあなただ、大鳥ホノカ。
正直、実際会ってみるとただの少女ですね。
発育は良いようですが」
「…………私そんなふうに呼ばれてるのぉ!?」
えー!?!
結構撃ち漏らしとかもあるよぉ!?
いや確かに、1機撃墜ごとに特別報酬とか、なんか突っかかってくる敵をコロコロしたりとかはやったけど!!
「お姉ちゃんも有名よねぇ」
「ちなみにそこの大鳥ルキも、近くに灰色の鳥がいることを知らせる不吉の黒鳥、『凶鳥』って呼ばれてますよ?」
「え!?カッコいい〜!!!
私はフッケバイン!」
何キリッと顔作ってんだよ、美人かこの9歳児は。
「え、じゃあじゃあ!ありすちゃんは戦場のアイドルとか、」
「『アリスチャンノファンヤメマス』」
「……は?」
「有澤タカネ、ことありすさん?
あなたもあなたで、ガチガチの重装タンクで、たまにライブ音源広域無線に流しながら戦うものですし、毎回我が方にファンになるよう強要していますね?
あまりの不条理に、皆が念仏の如く唱えてます。
『アリスチャンノファンヤメマス』と」
「……は?は??
はぁ〜???????」
ありすちゃん、アイドルと思えない顔してるよ。
「元気出してありすちゃん!私ファンになってあげるから!」
「まだファンじゃ無いのホノカちゃあああんんん?!?!?
ありえないよねぇ!!!私のファン辞めるってことは一回ファンになってるってことなのに敵さんもさぁ!??!」
いふぁいいふぁい、ほっぺたは辞めれ!
「……みんなカッコいいあだ名だね。
私は無いと思うけど」
「そこのエーネ・レイニー氏も『突然死』と言われてますよ」
「…………地味なのかな?」
地味に怖いんだよ、エーネちゃんは。
「まぁ、エーネやらそんなとこやろ?
まぁウチはなく子も黙る『浪速のヴァルキュリア』様やし」
「自称ってつけ忘れとるぞ、自称って。
で、『黒い閃光』様はなんと言われと、」
「ああ、初めて聴きました!
『死を呼ぶ漫才コンビ』の掛け合い!」
………………
「「え?今なんて??」」
「『死を呼ぶ漫才コンビ』のお二方が、偶然鹵獲できて色々助かりましたよ。
いやぁ、連行されるまで音声記録が面白いのなんのって、」
「テメェコラエセ関西ガキィ!?!
テメェのせいで変なあだ名でセットにされとるじゃろがボケカスゴラァ!?!!」
「どっちのせいや黒カス女ァ!?!
ウチのブランドに傷つけおってからにぃ!?!」
「こりゃ死を呼ぶ漫才だね。
コンビ解散はどっちかが死んだ時か」
「「今日がコイツの命日で解散日じゃアホンダラァ!?!」」
にしたってノリが良いんだよ二人ともね。
真面目に、漫才コンビやったら?
テレビで毎回見れそう。
「…………でもこんな勇ましいあだ名がつくぐらい、
私達、やらかしてたってことか」
ふと、エーネちゃんの諦め混じりのため息の声。
まさに、の一言に、みんな黙っちゃう。
「…………ケッ!
まぁこっちの黒いのよか年齢も若いし減刑貰えるやろうけど、ウチもシャバ出る頃は美魔女の年齢か、この銀髪が白髪言われる歳やろな」
「毎回ワシより撃破してる自慢しとる癖に死刑逃れできる思うとるんかワレ?
あー……ワシの代で実家の神社も潰れんのかぁ……」
「獄中アイドル、新しいかな?」
「レンくんに毎回手紙書かないとね。
あー、治療が終わっててよかった……」
「お姉ちゃん、結構感謝してるよ。
短いまともな生活だったけど」
「ま、私傭兵やめて足洗うから関係ないけど」
『んなわけねーだろ、お前も豚箱行きだよ!!』
「あ、やっぱそうなる〜??」
だめかー??あははー
「……意外ですね。さっきの勢いで、そちらのコンビの方々には胸ぐら掴まれるかと思いましたが」
「あんな敵の方?ウチらは正義のためにもお国のためにも戦ったことはないんや。
全部自分の都合、金の為。
卑しい職業、汚れ仕事人の傭兵なんや。
ウチら、トラストのお陰で捕まってないだけの犯罪人の自覚ぐらいあるんや。
碌でもない最後しか皆考えとらんやろ。
アイドルでも、家族のためでも、理由はなんであれ……」
「……殺しすぎとるからの。
いや、あわよくば酷い最後にもならず天寿を全うとも思うぐらいには、ワシら図々しくも思っとった。
ああ、それで最後はムショ行きけ。
ま、まだマシな方じゃろ。行ければ、の話じゃけど」
カヨコさんの言葉に、地味にこの中じゃベテランな傭兵の漫才コンビ二人が言う。
「どうせ刑務所とか死刑?になるなら、ありすちゃんファイナルライブやりたいな。
そのぐらいは許されるよね?」
「うわー、なんかネットで永遠に伝説になりそう……」
「…………暗いよね、全員」
さて、地味に後ろでむしゃむしゃ食べてた私ですが、ちょっとこの空気に耐えられなかったのでした。
「ホノカちゃーん?いくらホノカちゃんでも敵さんとはいえ司法の罰は受けるんやでー?」
「それでも私は普通の生活をするから。
この仕事がクソなのは当たり前だし褒められないことはしたけど、辞められるルールがあってそれ守ってもまだ足引っ張るとか言われても私は知らない」
え、ってなってるけど、みんなちょっと物分かり良すぎるんだよね。
「死んで償え?嫌だね。
そりゃ、私もおばあちゃんが死んで、色々あって身内が作った借金返済で自暴自棄だったよ。
初めて傭兵認定試験受けて思ったのは、私はこの仕事が嫌いだってこと。
撃ち殺す前は躊躇ったけど、撃ってみたらそこまでの罪悪感とかそんなもん無かったのは意外だったけど。
でも殺す殺されが日常の世界が嫌なら、相手を殺す時顔を思い浮かべて人生に想いを馳せて申し訳ないって思いながら長々とぶっ放す生活送るよりは、
悪いけどお前が死んでさっさとこの狂気の世界から私を解放してね、が先に来たのが私。
だから、もしそれらの罪で死ねって言うなら、私、
何がなんでも普通のドンパチ無しの生活のあるまぁ貧乏かもしれないしまた借金作るかもしれないような世界にさ、普通に逃げるから。
知らないね、これまで殺してきたヤツの顔とか。
邪魔すんなよ、以外に殺す相手に思うことある?」
…………
…………例えばここで全力で引かれるかなとも思ったんだけど、割と友達の傭兵の皆さんも「まぁ〜……確かに」みたいな顔するのは、逆にこっちが引くんだけど。
じゃあさっきまでの反省してるポーズ、半分嘘かーい!
…………だろうね。
「…………ここまで言い切るとは、まさに灰被りの鳥ですか。
くく……そうでもなければ、戦争犯罪人になるほどに我が方の優秀な兵を殺せはしませんか。
意外な気持ちですよ。侮蔑とか、もっと怒りが来るかのような内容なのに……
今、私は『納得』が強い」
「納得してくれたら、減刑ある?」
「それは行政代表程度の権限では。
…………なんてね。あなた、そもそも気づいてますね?
いえ、なんならば皆さん……黙って隅っこにいる新兵っぽい方々以外、薄々気づいてらっしゃる。
違いますか?」
ふとその細い目が、ちょっとだけ開いた気がする。
まぁ、うん。
何がってわけじゃないけど、ね?
「だってさ、こう言う時まず1番に説明してくれる、
ある意味でこのクソ職業の元締めの人が、さっきから酒の調整しながら話聞いてるんだもん。
まだ何かあるよね、クオンさん?」
ずっと黙っている、トラストの偉い人。
そう、新美クオンさんに、視線を向けて尋ねるのだ。
「……ああ。
まったく、付き合いは短い方だが、察しが良くて助かるな」
「クオンさん、良い人だけどここの中で1番の悪党だしね。
あ、でも悪党なりに筋通すって言うんだっけこういうの?
それがないのも変だなって」
「悪党か…………説明は、私より酷い黒幕から頼むよ」
再び、カヨコさんの方へ。
「……この場にはインペリアルの方もおりますし、改めて前提から。
この度の戦争を仕掛けたのは、まず私の計画です」
不機嫌に黙って聞いてたインペリアルの貴族で領主なヴィオラさんの片眉が上がる。
「理由は簡単でした。
これまで、人類生存圏の皆様とは裏の経済でやり取りがありましたがね、少々我々の経済活動の拡大に伴い裏の範囲を超え、トラストをはじめとしたいくつもの勢力の経済に影響を与えてしまう結果となり、
まぁ、なのでここらで少々強引ですがね、外交と長年閉じこもっていた我々の、優秀ながらも良識の狭い国民の目を覚まさせるためにも戦争を仕掛けました。
ああ、これだと意味が通じませんね。
本質は経済戦争です。肥大化した工業製品たちを使い道を見つけ減らしたり、兵器を作ることで一時的な雇用を生み出したり、
あと、いくつか開発がされてない大地を手に入れるため、あわよくばインペリアルも持て余している土地を手に入れるための戦争でした。
くだらない理由で申し訳ない」
「お前……ッ!!」
「当然、それを遂行するためにも私はいくつもの戦争犯罪を犯しています。
故に、この戦いが終われば私も司法で裁かれる。
ああ、待てないと言うのなら今殺しても構いませんよ?
すでに私の計画は、私がいなくとも動くようになっています。
私がここにいる理由も、悪党は悪党らしく矢面に立って見届けなければ、悪党の仁義というものが通りませんから、という個人の納得のためだけです。
ああ、でもそんな悪党の計画に、私達が最も苦戦させられた悪党の皆様に協力を申し込むのだけは、
どうか、言わせていただきたい」
「それで悪党さん?依頼内容は?」
「依頼はごく単純。
我が方のもうすぐ現れるクーデター軍の制圧と排除。撃滅。
報酬は、私の私財であるちょっと金一封と、
火星統一政府行政官の名の下に書かれた『免罪符』。
どうです?」
おぉ、と声が出ちゃう。
「……依頼受ければ、私は大手振って傭兵辞められるわけだ」
「なんなら、今までのよしみでトラストから格安で売るか?新しい顔を」
…………よし!
みんなで顔合わせて、にっこり!
『仕事の時間だ』
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