MISSION 4 : 三つ巴どころじゃない大混戦
<火星統一政府軍新型機体:隊長機>
『旧人類といえど、歴戦の傭兵ということか。
決めるつもりだったが欲を出しすぎたか』
なんで隊長機ってこの機体コンピュータはわかるのか、普通の機体と違ってツノが生えてるからなのか気になる傭兵系美少女、大鳥ホノカちゃんでした。
「……嘘つけ〜……!」
決めるつもりだった、とかいうけど用意周到だね。
さっき見た、あの黒い大型機体が7機もいる。
目に見えるほど強力な放電纏ってる球形のEシールド光らせながらね。
でもそんなのは問題じゃないんだよ。
<火星統一政府軍新型機体:隊長機>
『そこのタンク型、お前達がインペリアル勢力に加担する傭兵か?』
<ありす>
『そうだよー?お仕事で、そっちの特使をぶっ殺してあげないといけないの』
<火星統一政府軍新型機体:隊長機>
『フン、品がないな。
だが目的は同じか。
先走ったヤツは、お前達旧世代が憎いあまりそれ以下の行動をしたみたいだが、対局が見えなかったようだ。
どうだ?邪魔しないなら、お前達には撃たないでおこうではないか。
傭兵とやらは弾代を気にするのだろう?
こちらも、最後に殺し合う間とはいえ、こんな場所で一度に戦う数を増やすつもりもない。
悪い話ではないと思うが?』
ムカつく言い方だ。
ただし、中身がこっちにとってはまずい内容だけど……!
<ハルナ>
『そんな急に、』
<ありす>
『まぁ良いんじゃない?
前に出なければ私のハピ⭐︎タンは狙わないし。
何より、これで悲しいけど確実にホノカちゃんとバイバイ出来るね!』
ありすちゃんは真面目な子である。
真面目ってのはね、意外にも傭兵らしく弾代節約ちゃんとしてるし、こうやって敵でも使うもんはなんでも使う!
「敵の援軍とは卑怯だぞこんにゃろー!!」
<ありす>
『そっちも援軍呼んで良いよ?
呼べる相手がいればだけど!!』
そしてここでもイヤな真面目さをありすちゃんは発揮するのだった。
射程外にいる私でも、無人起動中の愛機でもない!
輸送機に攻撃を始めた!!!
<火星統一政府軍新型機体:隊長機>
『各機!敵の傭兵に気をつけつつ、裏切り者共の始末をしろ!!
和平などという日和を我らと同じネオツー・デザインドがするなど言語道断!!』
相手も、こっちじゃなくてあくまで輸送機狙い!!
バカにしてるけど油断はしてない!!
「……カモメちゃーん!!
ごめん一回来て!!」
<カモメ>
『了解!』
ちょっと距離があることを利用するために、一回今乗ってるオルニメガロニクスの戦闘モードを解除!!
『ちょ、ホノカちゃーん!?
何しとんねや忙しい時に!!』
『てめぇ!?!狙撃支援機乗っ取る癖に何支援やめとんじゃ芋スナアホ女ゴラァ!?!』
「もっと忙しくなるから準備してるの!!
あーもう私も急いでんだからさー!!
後で巻き返してあげるから、それまで耐えて!!」
無線補正無くても、二人はどっちがどっちか分かりやすいな。
そして、バラララ、と聞こえるヘリの音を聞きながら、作業のためにハッチオープン。
『ホノカさん、お待たせしました。
例の物です!!』
カモメちゃんヘリの格納スペースが開いて、いよいうおパーツとご対面!!
「セヤナちゃん、武器は頼んだ!!
ジェネだけは、自分で交換しないとだし!!」
《システム、アセンブリモード起動や。
動力をジェネレーターからフレーム内蔵コンデンサに移行やで!》
相方のAIに武装変更はお任せ!!
私は、届いたばかりのジェネレーターを、自力で交換しないと!!
ボッ、って誰かが撃った弾が近くの地面を抉る。
あー、やっぱ狙いますよねー、なんて考えても手は止めない!!
オルニメガロニクスのコアパーツのジェネの位置は、前側!ハッチ開けて……
「あっづ!?!」
強化済み機械のおててじゃないとさわれないぐらい今まで使ってたジェネが熱い!!
これもいい奴だからなぁ……でも今日は……!
「あっづぅ〜!!!!」
ジュウ、って音立ててるそれを引き抜いて、上の絶妙なホバリング操作中のカモメちゃんヘリのワイヤーにジェネを差し替え!!
で、今からやること専用のジェネと交換……!
カンッ!!ボッ!!!
「やっべ、いま装甲あたった!?」
あの射撃はルキちゃんか?
ほっとけばいいのに、ほっとかないあたり私の教えがうますぎたかな〜?
『ホノカさん!!そろそろ私のヘリも被弾してきています!!
飛行は可能ですが、ここにとどまり続けるのは限界が近いです!!』
「もう大丈夫!!離脱してカモメちゃん!!
こっちはあとはこれ刺すだけ!!」
オプションパーツのコンデンサ (大容量)を刺して!!ジェネ入れてハッチを閉めて!!
「おっ、しゃいッ!?!」
ボォン!と爆発が真上でして、危うくコックピットから放り出されるかと思った。
まさか、と思ってみたら、煙を上げて錐揉みしながらカモメちゃんヘリがどこかへ!!
「修理費依頼主持ちで良かったァァァァッ!!!」
『私も心配して欲しかったんですぅ〜!!!』
「カモメちゃんも女の子ロボなんだから修理費かかんの!!!」
ひぃん!なんて可愛らしいけど悲壮な鳴き声と一緒に、遠くの丘の真ん中辺りに転がりながらカモメちゃんヘリが着陸……墜落っていうんだよね。うん。アレは間違いなく墜落。
あのヘリ、買い換えんの高いんだぞ〜??
修理費依頼主持ちで良かった〜〜〜!!!
なんて、思ってる暇もなく。
ドスン、と脇に影。
ああ、あの黒いでっかい新型兵器……!!
『これが、かの噂の『灰被りの鳥』か?
戦場で装備を変更とは、バカか、それともこちらを高く評価した故の行動か?』
「…………まずいなこれ」
今からオルニメガロニクス起動しても、動く前にやられる!!
『旧人類如き、とは思うが……
いや、お前は我が同胞を灰塵に帰してきた『例外』だ。
油断などせず殺す!!』
油断してくれってぐらい、的確に腕で持ったビーム的なの出すライフルをこっちに向けてチャージ中!!
そのチャージ光やめて!!
バシュゥゥゥゥ!!!
光に、包まれた。
────のに生きてる!?
目を開けると、相手の武器が眩いレーザーで斜め上から撃ち抜かれてる!!
爆発!!
急いで身を屈めて爆風と破片回避!!
『何が!?』
相手が、全周波数無線開きっぱで上を見上げてるのが見えた。
私も知りたいよ、って内緒でオルニメガロニクス再起動スイッチ入れて空を見る。
『────緊急に付き、交戦開始前の武器使用を事後報告。
だが、間に合ったようだ……!』
上空を飛行機雲を伸ばして飛ぶ無数の影。
あれは……なにあれ、戦闘機に手足ついたみたいなみたことない逆関節機体!!
『あれは『イスラフィル』!?まだ試作のはずだぞ!?』
『その通りだ。だが、護衛に追いつける機体はこれしかなかった』
見た目通りクソ早い機体の一機が、ブォンとレーザー刃を展開した槍みたいなのを構えて横のでっかいのに突っ込んでいく!!
『貴様!!味方だぞ!?』
『味方だ。平和の使者の』
回避した相手と通り過ぎたイスなんとかが巻き起こしてくれちゃった爆風に耐えて、なんとかコックピットへ入ってハッチ締め!!砂入った!!
<システム:リブーティング>
<1…23…57…89…100%>
<機体チェック開始
機体フレーム:全箇所正常
ジェネレーター:正常
武器システム:正常
武器本体:正常
無線システム:正常 以後通信相手を文字表記>
いつもの画面表記。
そして、お外の映像が視界いっぱいに広がる!
<機体制御AI:セヤナ>
《メインシステム、戦闘モード起動やで!
てかすぐ避けなあかんで!?》
「どわっしゃぁ!?」
瞬間、こっちに飛んできたビーム攻撃を、アサルトブースト回避!!
「あっぶね!!
オルニメガロニクスに熱光学兵器はやめろって!!」
一気にエネルギーゲージが減る。
あー、このジェネだとオプションパーツのコンデンサ込みでこれなの!?
<火星統一政府軍新型機体:隊長機>
『流石というべきか。
有能な部下が苦戦する旧人類たちの、そのトップたる実力者は運もいいか』
<火星統一政府軍未確認機:隊長機>
『つまり助けた相手は、ちゃんち味方で良かったというべきか』
いつのまにか、あの戦闘機みたいな機体が隣に降り立った。
他の機体も、あの護衛対象の輸送機の周りへ。
<火星統一政府軍新型機体:隊長機>
『貴様。誰かは知らないが、なぜ我が同胞でありながら裏切り者を守る?』
<火星統一政府軍未確認機:隊長機>
『見解の相違だ。行政官代表は、正しい。
何より軍人が政治へ介入することの意味、分かっているのか?
事実上のクーデターだ。
お前達は、仮にも民主主義を掲げる政府の意向を踏みにじった』
<火星統一政府軍新型機体:隊長機>
『裏切り者を我々とするか?
フッ…………ふざけるなァァァァッ!!!』
勝手に盛り上がって、勝手に戦い始める。
……楽な仕事になりそうだな。
左腕のハイレーザーキャノンをチャージ。
右腕のレールガンも用意。
で、まずは……ミサイル発射!
ただのミサイルじゃない。
シンセイスペースインダストリー製の、大型高速ミサイルだ!!
<火星統一政府軍新型機体:隊長機>
『ガッ!?!』
コックピットどころか、機体制御のオートバランスシステムも強制的に揺らして黙らせる衝撃でしょ?
そこに、ハイレーザーキャノンフルチャージでブチ込む!!
Eシールドを消し飛ばして、ちょっとずらしたタイミングでレールガンをぶっ放す!!
<火星統一政府軍新型機体:隊長機>
『何が……なんでこの一瞬で、』
機体の片脚を破壊して、泣きを入れたらもう1発の精神で、グレネードを叩き込む!!!
ズドンッ!!!
断末魔も聞けないような爆発で、粉々だ!
<火星統一政府軍未確認機:隊長機>
『……こんな短時間で、アズライルが……!?』
「悪いけどね、あんたらの機体、自慢のやつほど弱いよ。
高水準なバランスのいい、なんてどれか上回った能力で殴れば一瞬だよ。
しかも、オートバランスシステム貧弱でさ!
スタッガー取り放題だよ!」
<火星統一政府軍未確認機:隊長機>
『……耳が痛いな』
さて、と残りも片付け……
<オルトリンデ>
『なーに場外乱闘で盛り上がっとるねんボケホノカちゃんがぁ!?
とっくの昔に、護衛対象お届け完了やぁ〜!?!』
よう、と思ったら……マジか。アセン時間かけすぎた。
<火星統一政府軍新型機体:一般機>
『クッ……隊長までやられて、おめおめと引き下がれるか!!』
<火星統一政府軍未確認機:一般機>
『無駄な事はやめな。
敵国領内ならともかく、中立国の大使館敷地で暴れる気かい?』
<火星統一政府軍新型機体:一般機>
『裏切り者が何を言うか!?!』
<火星統一政府軍未確認機:隊長機>
『裏切り者は、国際法がこの星にまだあるかは分からないが、
行政官代表の意思を無視して、勝手に戦い出したお前達だ。
事実上のクーデターは失敗した』
一瞬、戦闘続行する気の動きをした機体も、すぐに悔しそうに武器を下げた。
「…………ミッション終了!!
ま、勝ったのこっちか!なら良し!!」
これ、無線で言っておかないと、面倒臭い追加試合あるからね。言うしかないよね。
<ありす>
『ぎょえええええええええ!?!?
弾薬費赤字ぃ!!!赤字ィィィィィィィ!!!!』
<エーネ>
『恨むよ、ホノカちゃんたち』
あー、良かった向こうも傭兵らしく無駄な戦いはしないようで。
嘆いているだけマシよマシ。
「……んでさ、この騒動起こした向こうの外交使節団ってやつ?
一体誰が来てるのさ?」
誰にともなく呟く。
あー、護衛は面倒臭かったなー、っていう疲れから来る愚痴みたいなもんでさー、答えなんて来ると思わなかったのよねー
<火星統一政府軍未確認機:隊長機>
『……そうか。詳しい話は聞かずとも、金次第で依頼はこなすのが傭兵だったな』
まさか、隣にいた機体の中の人が答えてくれるとは。
<火星統一政府軍未確認機:隊長機>
『今回の外交使節団には、なかなかのVIPが来ている』
***
人類生存圏3大勢力一派『インペリアル』所属地域ハンナヴァルト領内、蒼鉄王国大使館範囲内の土地
人類とは別の火星の知的生命体『レプリケイター』の王国、蒼鉄王国とインペリアルは国交があり、大使館は作られている。
同時に、蒼鉄王国と火星統一政府にも国交があった。
「……ヘーリクス王、来ました」
「うむ」
そして、大使館には、蒼鉄王国は国王、ヘーリクス2世の姿があった。
青い肌に大きな一本角、その下の額にある目と、さらに下の人間のような二つの目、全てで火星統一政府の輸送機から降りる外交使節団を……
いや、もっと大物を見る。
「おや。ヘーリクス陛下!
まさかこんな短い期間で会うことになろうとは」
彼女は、やや背の低い普通の女性にも見える。
しかし……ヘーリクス王はこの大胆な一国の選ばれた長、火星統一政府行政官代表、カヨコ・ヒーリアには恐らく英雄と同じ資質があると感じていた。
「恐らくは、ただでは終わらないと思ったものでな。
代表殿、しかしそれだけではなく、謝らねばいけない事がこちらにもあってな」
「謝らねばならない事?」
ふと、視線を横にするヘーリクスに続いて、横を見る。
そこには、優雅とはいえない茶会が開かれていた。
目当ての、企業連合体『トラスト』の理事の一人、と言うより事実上代表の新美クオンの姿があるが、
その向かい側のテーブルに、こちらを睨む若い男の姿があった。
傍に控える、古風な鎧に似せたパワードスーツの護衛の視線より、なお鋭い目の男が。
「……ご紹介しよう。ミハエル・インペリアル2世殿であらせられる。
この星の、」
「あなたの弟様がいなければ、唯一の皇帝家が一人」
「それも、歴史で言えば、わがムルロア家より長い」
「……謝るほどと言いますのでもっと暴力的な事になると思えば、随分といい状況ではないですか、ヘーリクス陛下?
ここまでお膳立てしていただくとは、中立国ながら頭が下がります」
「違うのだ。彼が直接私に頼んできた。
入れるべきではないかもしれないが、断れなくてな」
そして、ティーカップを置いた皇帝ミハエルが立ち上がり、ゆっくりと護衛を引き連れてカヨコの前へ歩いてきた。
「───本来、トラスト相手との条約交渉の場に、
不躾に来たこと、まずは謝罪する」
そう、カヨコを見下ろすミハエルが、改めてカヨコの前で立ち止まる。
「俺が、インペリアルの皇帝。ミハエル・インペリアル2世だ。
ハンナヴァルト領は騒がしかっただろう。許せ」
「初めまして皇帝陛下。私が、火星統一政府行政官代表のカヨコ・ヒーリアです。
刺激的な場所でしたよ、さすがはバリアの下をよしとせず、外に領土を広げた歴史を肌で感じました」
意外にも、ミハエルから右手を差し出してきた。
カヨコは、いつもの笑顔のまま握手に応じる。
「戦いを続けるか、続けないかは今後決まる。
しかし、いつまでもお互い一方的な通信では面倒だろう。
トラストとの和平次第だが、休戦を考えてもいいと俺も俺以外の諸侯も考えている時期だ」
「こちらから仕掛けておいて、と言われるでしょうが、
私もそろそろこの戦いを終わらせたく思いましてね」
ぎりり、とミハエルの握る手の力が強まるのをカヨコは感じた。
「それは、そちらの努力次第だ。
我らインペリアルは、土地を奪われ荒らされた身と覚えておけ」
逆にミハエルも、手の力をつい強めてしまったと同時に妙な感覚を覚えた。
力が入っていない。
握ってはいるが、まるで最低限の力以外全て脱力し、こちらの力を適切に逃すような感覚。
一筋縄では、いかない。
そう思わせるカヨコの握手に、逆にミハエルは冷静になれた。
「では、同時に交渉とはどうです?」
「まずは、そこの企業を納得させてみるといい」
手を離し、いよいよ始まる。
戦いを終わらせるための、交渉と会議が。
***