MISSION 8 :とうとう本当に身体を売ることになりました
強化人間への手術にはレベルがある。
神経接続装置のみを取り付ける「Lv.1」
内蔵や眼球などを人工物に変える「Lv.2」、
全身を機械化する「Lv.3」
そして、eX-Wの性能を最大に引き出す為に各種の改造と調整をされた「Lv.4」
私こと大鳥ホノカは、先輩スワンの人格が元らしい高性能AIのウェザーリポーター「コトリちゃん」に、この強化手術のLv.4を勧められた。
怖いけど、住んでるヨークタウンの中の大きめの病院で、その人も強化人間の女医さんにそのことを伝えたら、意外な『利点』の話を聞いた。
「なるほど、そちらのウェザーリポーターはタイプ13……なら強化手術のことも全て知っていて当然ですか。
結論から言いますと、Lv.4手術は強化人間の最高レベルの性能とは別の利点があります。
Lv.3にも言えることですが、手術費用が事実上タダです」
「え!?タダな、んですか!?!」
はい、とクールな美人強化人間の女医さんは言う。
というか、触れてないのにタブレットになんかカルテ的なの書いてる?
「知らないかもしれませんが、今現在生の臓器提供元は、事故死や脳死の人間より、強化人間の方のものが多いのです。
何せ、ほぼ健康な臓器が確実に手に入りますので。
今の時代生体クローニング技術も遥かに進んでおりますが、大抵の本当に臓器が必要な患者は遺伝子での欠陥から上手くクローン臓器が作れません。
作れたとしても時間がなく、そこで従来通りの他人の適合した臓器を、と言う訳です。
そして大抵は強化手術には耐えられず、人工臓器もそれを移植するまでも後も手間は大して変わりません。
酷い話に聞こえますが、言わばあなたの身体全て、使える臓器のほとんどを売ってしまえば、強化人間の身体へ改造する費用にお釣りがきます」
「私は、死ににくい体に、
死にそうな体の人は命を長らえる……
まぁ綺麗な話って言うにはなんかこう……」
「私としても、知人の医師が担当する臓器を待つ難病人患者を思えば、さっさとより強力な人工臓器を差しあげるのでその生身の臓器を寄越せ、という本音はあります。
重ねて言いますがそう言う難病者は、あなたの受ける強化手術には耐えられないことが多いので。
本来はこう言う相手のための技術のハズが、本末転倒ですね」
「……」
結構とんでもない女医さんだな……いや、なんかアレだね。らしいよ。ここらしい。
下手に取り繕わない辺りがさ、傭兵相手に手術してる医者らしい。
「…………じゃあ、正直怖いですけど、私最初の任務みたいなのがまた、と言う方が怖いので、やります」
「ではサインを。そうしたら今から手術を始めます。
すでに、強化内容はそちらのウェザーリポーターから案をもらっており、こちらも可能と判断しているので」
「手が速い……!」
恐るべしコトリちゃん。
そんなことを思いつつも、私は同意書にサインした。
強化手術は、二つの段階に分けられた。
まず、血液を全部人工血液に取り替える。
この作業も今は半日、寝てればいいらしいので私は楽だった。
白い人工血液は普通の血液と違って、酸素効率だのが良いとかナノマシン?とか言うので血液自体が高性能ロボットなのだとか聞いたけどまぁそれはいいや。
問題は次。改造手術じみたヤツ。
そんな人工血液で満たされた中で、意識だけある状態で身体をバラして機械に置き換えるの。
なんでそんなエグいシーンを意識ありで、と思ったけど、どうも神経と機械の接続を試すのが目的らしい。
身体が次々なくなって、私そっくりのメカボディになっていくのはびっくりしたけど痛みはなかったよ。
曰く、残ってるのは脳と、舌と、脊椎の神経、乳腺、女の子の臓器ぐらいだそう。
そんな訳で、2日目には私の身体が機械化していた。
「どうも、気分はいかがですか?」
女医さんの前で、私は割とあられもない姿だったけどそれ以上に、
「足、装着するものになったのがやっぱり変な感じです」
私は、足を太もものあたりで装着しながら立っていた。
いや本当変な感じ。機械の身体って。
そのくせ、手足とかは自然と動くし。
「なかなか、適性があるようですね。
意外と、人によっては立つまでリハビリで1日追加入院するものですから」
そうなんだなぁ……さっきまで円柱状のなんか白い人工血液に満たされた中にいたから、渡されたタオルで体拭きながら思ってた。
「では早速ですが、あなたの新しい部位を渡しておきます」
と、ブラが割と少ないお胸のサイズなので入らないか不安だったけどなんとか入れられた中、何かヘッドセットのようなものを渡される。
「これは……?」
「こめかみと耳に接続端子がありますので、服を着た後に付けてください」
言われた通りにしてみる。
すると……あれ?
一瞬、視界がなんか変わった気がする。
私の目ももう目みたいなカメラだけど……あれ?
目を瞑る。見える?
ちょっと視線が高いような……あ目が動くね、上に下に視線を……
真横が見えた。左右に別々に。
後ろも。
「うぇ!?」
慌てて目を開いたら、前も後ろも見える。
「あなたの身体は、陸戦用特殊戦対応ボディです。
20mm耐久防御、0〜4気圧まで対応、9時間の無酸素活動、人工筋肉の最大馬力は900ですね。
その新しい眼は、あなたのウェザーリポーターからの提案です。
元々歩兵用装備でもある視野を広げる装備なので、たしかあなたのパイロットスーツでも同じ効果と端子があるので、それは普段使い用にでも」
「普段使いでこんな機能いるんですか?」
いや、慣れれば便利だけど……何に使うんだこれ……!?
「そのうちに、スワンとして活躍するなら背後も気をつけた方がいいですよ。
もっとも、今のあなたは高周波ブレードや30mm級の砲弾、レーザーでなければ傷つきませんが」
「まさしく改造人間だ……」
「一応定期検診はしてください。
食事は普通の量でいいですよ。特別にする必要はありません。
それと、強化後のeX-Wの操縦は、あのウェザーリポーターが指導するそうです。
あなたは運がいいですね、タイプ13は強化人間のプロの人格データですから」
いや本当に、改めてその事実を頭じゃなくて心で理解したかもしれない。
いくつかの脳と神経のお薬三日分貰って、久々に外に出たら、目の前に携帯電話のあのコール画面が見えた。
《────やぁ。元気?》
「あ、コトリちゃん」
相手はコトリちゃんだった……にしても、もう脳の中に携帯電話入ってるのか私。
《言っとくけど、こっちの声は君にしか聞こえてないよ。
どうせだから、口閉じて電話するのやってみようか》
何、そんなこともできるの?
じゃあやってみようか……目を瞑って集中、集中ー……
『───あーあー、もしもーし、聞きますかー、聞こえますかー?』
《聞こえてるよー。
才能あんじゃん、じゃあ家まで目を開けて帰ってきなよ》
『バレとるんだ』
《前世みたいな生きてた頃の私もそうだったよ、最初はね。
でもすぐ慣れたよ》
なるほどね。
まぁ、やってみますか。
《改めて強化された身体はどうだい?》
『なんて言えば良いのか、私は私なんだけど色々性能上がってる感じ』
甲板に続く長いエスカレーターの中、そんな会話をヒナちゃんとする。
《そりゃ強化人間って名前なのに性能下がってたら嘘だよ。
人間より便利だよ、その身体は》
『そう言えば気になってたんだけど、食事は普通にできるんだよね?
私さ、入院前はワカメ買ってたから、お味噌汁にしたい気分なんだよ』
《いけるいける。
まともな飯食えない時代は300年以上前だよ。
むしろ、その身体だいぶ燃費悪いかもね》
『そっかー!お味噌汁鍋一個毎回かな?』
《もう太らないからって、それは油断しすぎ》
『ふふふ……私、生身の時から胸とお尻にしか脂肪いかないから大丈夫!』
《将来、太るぞ、生身に戻ったら》
『ま、それまではこの機械の身体のお世話になりますよっと……お、私の部屋見えてきたね……』
長い甲板の廊下を進みー、見えたよ私の1LDK。
「ただいまー!」
「おかえりっすー!お邪魔してるっす!」
「あらユナさん!」
と、マッコイ商店のマトモな方、ユナさんが何故かいたのだった。
「いやぁ、本当に強化人間になっちゃったんすねぇ!」
「これでお揃いってヤツー?いぇーい!」
「いぇーい!」
ハイタッチ、シェイクハンド、かーらーのー、何故か腕力勝負!
「うぉ……このパワー……!
第6世代の陸戦歩兵ボディじゃねぇっすか……!」
「うぉ……まって、もしかして本気のパワーなの!?」
握って力込めてたお互いの右腕が、すっごいプルプル震える。
すぐ力を抜いたけど、もしかして今のユナさんの本気のパワー?
すっごい力を感じた……
「オイラもこれで900馬力出るんすよ、4つとも!
いやぁ……まさかガチ改造じゃないっすか」
「私も今……マジでなんで腕折れないのかビックリです……」
《そんぐらいの方が、多少食らっても生きられるし、最悪機体を放棄しても生き残れるでしょ。
それに、そんぐらいの身体の方が、戦うにしろ前向きにできるってもんだよ》
へー。まぁコトリちゃんの言うことも一理あるか。
「とりあえず、ご飯炊くけどユナさんも食べる?」
「マジすか、良いんすか!?
ゴチになるっす!
いやぁ、オイラマトモなメシ久々っすよー!
なんせ整備室籠りだと、3食全部合成食料なんで味とか皆無なんで!!
栄養だけの味なんすよマジで!!」
《未だあの味なのか合成食料。
生きてる頃お世話になったな》
「あ!
そうそう、どうせですし、このヒナちゃんに頼まれて、ホノカちゃんのアルゲンタヴィスを弄ったんすよ!
米研いだら、点検お願いしゃす!
あ、手伝いますかなんか?腕4本でよければ」
「あー、良いよ良いよ。試したいことできたしさ。
じゃ、お米研げたら、見に行こうか」
───凄まじい人間を超えたパワーを得たけど、ちゃんと漫画みたいな家具破壊とかはなく、お米も遂げたし早速外へ。
「あー、一昨日もらった頭に変わってる……」
「うっす。リトロナクス、ことO.W.S.製狙撃専用頭部パーツ、『F103-h“L-argestes”』っす。
説明は、マッコイさん曰くコトリちゃん力説してたから良いっすね」
《コイツは良いものだ……!》
「らしいねー。
あれ、背中のレーダーは無し?」
「ええ。ぶっちゃけ、レーダー範囲はこの頭部とそんな変わらねぇっすし。
対ECM性能は落ちるっすけど、強化済みならコイツの真価発揮できるはずなんで別に平気なはずっす」
「これの真価?」
《ちょうど良いや。
試運転に乗りなよ。強化済みの身体の凄さ教えてあげるから》
「あ、じゃあ着替える?」
《いや、今日は脱ぐだけで良いよ。
背中の端子、挿せるようにしておいて?》
あー、そういえば私の腰の辺りとか、背中がなんかメカめかしい背骨っぽいの浮いてたっけ。
なんか挿せる部分あったね、じゃあ……
そんな訳で、私Tシャツだったし、背中だけ大胆に開けて、ついでにブラの背中部分は外して背中の邪魔しないような格好完成!
コックピットに入ってコトリちゃんをセット。
《じゃ、座席の端子カバー外して、中のやつ刺して》
「おっけー!」
じゃあ早速カバーを外して……結構痛そうで長いなぁ、端子!?
ええいと装着。ちょっとひんやり。
《メインシステム、パイロットデータの認証開始。
認証完了。通常モード起動するよ》
ふ、とヒナちゃんの声と共に、視界が一瞬完全に光を感じなくなる。
《網膜投影スタート》
途端、今まで見たことない景色が広がる。
あんだけ狭かったコックピットの中のはずが、まるで周り全部外の景色になったみたい!
「うわぁ……どう言うこっちゃこれ!?」
<コトリ>
《いやぁ、新鮮な反応だよ。
カメラアイの本来の映像を脳に直接映した気分はどうだい?》
「あ、コトリちゃん!」
ふわりと腕組んだ姿勢で現れたコトリちゃん。
猛者っぽいななんか……
<コトリ>
《君は今、アルゲンタヴィスと一体化している。
これが、今のアルゲンタヴィスの視界ってこと》
「一体化!?」
<コトリ>
《強化人間はね、一番の強みは機体をほぼ思考だけで操作ができるってところだよ。
今までは、反動のある武器は背中側で撃つのは難しかったけど、今は君のバランス感覚を機体が反映して撃てるようになった。
なんなら細かいロックオンも君の意思で決められるし、今はないけど背中の武器とか肩の武器を付けてたら、今までみたいに武器切り替えしなくても同時に発射できる。
君の脳に内蔵され、直結して、並列しに思考するコンピュータがそう言う君の曖昧だけど繊細な操作を可能にしている。
長いから先に結論言ったけど、もう一回言おうか。
この機体は今君と一つになっている。
感覚でわかるだろ?》
マジか……マジじゃん!
顔を右に、機体頭部も右に。
旋回する脚部の感触が、私の足みたいに伝わる。
持っているライフルの重みを感じて……てかこの機体左にちょっと重いのかな??
クルリと身体を回したら、
ドヒャァッ!!
「うぉっ!?」
なんか、両肩のアサルトブーストが起動しちゃった。
するか……するよね。
ちょっと浮いたから、ブースト。
ゆっくり、今度はゆっくり回って……元の位置!
「……ふいー」
<コトリ>
《ドジっ子め。
だけど君、もう慣れたのかこの操縦に?
才能あるよ……強化人間にさせて良かったよ》
「そう?
ふぅ……いやでも言うだけあるよ。
今までと操縦が全然違うし……なんかすごい直感的」
<コトリ>
《ま、すごい機能はいくらでもあるけど、今日はこのぐらいにしようか。
お昼食べたら?》
「おっけー!」
再び暗転。
今度は座席に戻って、コックピットのあるコアの上が開いた……
短い動作だけど……すごいな強化人間!
《あ、どうせだから飛び降りてみたら?》
「え?
あ、できんだ……じゃ、早速!」
そんな訳で、ここからジャンプして、華麗に甲板に着地!
「おぉ!才能あるっすね、ホノカちゃん!」
「そうー?えへへー♪」
《───身体の方は完璧っぽいけどさー!》
後ろから、と言う食えから聞こえる声。
もしやと思って新機能、ヘッドセットっぽい複眼お目めで後ろをみたら……
《私を忘れちゃダメでしょ?ドジっ子め》
コックピットに取り残されたコトリちゃんがいた。
「…………ごめんて……」
こりゃ、慣れるまでが大変っぽいなぁ……
***