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MISSION 7 :釈然としない気持ちで今日も生きてます

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 傭兵生活2つ目の任務は、哀れにもテロリスト扱いされ騙された市民を弾圧する手伝いだった。

 そんな私こと新人傭兵(スワン)の大鳥ホノカちゃんです。


 体力つけようと、今日も朝から今住んでる移動要塞の甲板を一周してます。ここ、長い辺は1kmぐらいあるんだって。広いよね。


 結構そう言う傭兵とか、意外にも昨日ショップで会ったばかりの4つ腕強化人間(プラスアルファ)のユナさんも走ってて、まぁまぁみんな走ったりストレッチしてたり、ラジオ体操ガチでやってたりと結構騒がしい朝の甲板です。


 傭兵といえど、やっぱり体力勝負なんだよね。

 みんな、肌で分かっているからなのか、全力で本気で、走ってました。


 傭兵。私は知らなかったけど、ついでで参加したラジオ体操で分かったんだけど、いわゆる「スワン」以外にも傭兵はいたんだ。


 機動兵器eX-Wを扱う女傭兵「スワン」の他に、


 バカでかい輸送用だけどやたら重武装のヘリを主に操縦して、運び屋的な「ウィッチ」……男だと「ウィザード」って言う傭兵もいるんだって。

 なんでも由来は、「空飛ぶ魔法の速達便」なんて揶揄されたのが始まりだとか。


 後、いわゆるMW乗ってる人たちもいて、そういうのは「ローカスト」って言うんだって。


「アタシらは虫さ。簡単にやられるし、敵を集団で食い尽くす蝗害ってヤツ」


 だって言う理由での名前だって。

 これで、基地周辺の警備とか、そういう防衛とかそんなのが主な仕事らしいよ。


 他にも、これといって固有名詞も無いけど、強化人間のいわゆる歩兵的な傭兵さんも沢山いた。

 中には、どっかの陣営の元正規軍だったりって人も。

 冗談っぽくやれ不良だったからとかセクハラ上官ボコしたからとか言うワケアリな事情話してたよ。


 …………思ったより、たくさんの傭兵がいる。

 全員、別に軍属だったからとか、健康マニアだからとか言う訳じゃ無い。

 のに何故か、みんなこの時間は走るんだ。



 ────いざって時、体が動かなかったら?



 そんな思いは、多分身体を全部機械化しても頭にこびり付いているんだろう。

 走ってないのは、私と同じぐらいの新人傭兵で、スワンじゃないタイプが多い。



 実戦がどうだって、私も全てわかった訳じゃ無いけど、

 多分、今日走らなかった新人も、次に任務をこなせば走ってる気がする。



 ────次が、あればね?









 そんな訳で、シャワー浴びて朝ごはんですよ。



《昨日はありがとうございました、スワン。

 お陰で、再開発は予定より早く着手が可能そうです》


「……まさか、朝からまた依頼主さんと話すとは思わなかったですよ」


 今日は大根とじゃがいもの味噌汁です。

 目玉焼きに贅沢に6本ウィンナー。

 ご飯が進むなって思ったらコレです。


《新人とは思えない働きぶりに感謝しますよ。

 もっとも、お礼の他にも用があって朝早く連絡をいたしましたが》


 なんすか、いったい?

 ほれ、チビスケも近くで聴きたまえ。


《改めて言いますが、昨日の真の内容は他言無用です。


 我々はあくまで、『たまたま管理領域になった場所に武装テロリストが潜伏しており、それをあなた傭兵(スワン)へ鎮圧を依頼した』。


 このシナリオ通りなのが事実であり、それ以外の真実はあなたと管理者である我々しか知らない。


 ここまでは、よろしいですね?》


「…………まぁ、私頭良くないんで、昨日の事は大変だった以外覚えきれてないですし」


 事実そんな感じなのだ。

 大量虐殺したと言うのに、とは思うけど、悪夢で寝られないどころか相変わらず8時間ぐっすりだし今もお腹空いてる。


《大変よろしいお返事ですよスワン。

 …………さて、ついでなので雑談でもしますか。

 ああ、これも別に覚えておかなくて良い事です。

 ただの世間話なので》


 ……え、何その前置き。


《……あなたの経歴は見させていただきました。

 2回目の任務であの働きは素直に賞賛しますよ。


 ですが、もっと驚きなのは1度目の依頼。

 これは流石にたまたまですが、その依頼も我々オーダーが発注した物でしたね》


 そうだっけ、とオペレーターさんに目配せしたら、刻々うなづいた上に、嬉しいことにおかわりのご飯くれました。

 無洗米火星コシヒカリ美味いんだよね。


《あなたが戦った、ユニオンの管理局のすぐ近くに建てた基地。

 あそこの中で見た、総勢約8機近くのPLeX-W。

 アレは、近々起こりうる戦闘に対しての備えでしょう》


「…………朝のニュースにはピッタリな世間話ですね」


 話半分しか分からないけど。


《ユニオンは、愚かな経済格差で手に入れた軍備を何に使うつもりなのか。

 我々はこれでもユニオンとはまだしばらく小競り合いをする理由はありません。

 昨日のようにあくまでこちらを強請るネタを作りたい以上は、つまり武力で立ち向かう気はないということ。

 となると武力を行使する相手は、あるいは武力で交渉の席に就かせたい相手は誰か。

 自ずと答えは見えて来ます》


「…………」


 私は頭が悪い。誰がなんのために戦うかとか、何をしたいか把握できるわけがない。

 ただ、3人います、二人はまだ仲良し、一人が誰かを殴ろうとしています、さて誰を?

 そんな問題に答えられないわけじゃない。




「……私みたいな新人で頭の悪い傭兵風情が、そんなこと分からないんですけどね」




 まぁでも私、今更色々平気な顔して手を汚しといてさぁ、賢くなろうとか思ってないんで!


 私は傭兵を辞めたい。借金も何もかもチャラにして、何も考えない普通の仕事をして生きていくんだ。


 そんな、ある種薄っぺらい理由で、人を殺す。

 街を破壊して、兵器をぶっ放す。



 だから、陰謀的な話なんてこんなスタンスでいい。



 知らないよ、3大陣営の小競り合いなんて、お金稼ぎ以上のことはなし!



《……そうですか。非常に良い答えが聞けました》



 そして、相手もそれを求めている。

 傭兵、スワン。白鳥の名前。

 私は頭悪いから、おばあちゃんの言葉の引用だけど、白鳥ってさ、綺麗だけど渡鳥なんだよ。

 冬の間は暖かいところへ移動する。

 …………じゃあ同じ名前の傭兵にとって暖かいところってなんだろうね。


 私パーツ名とかそういうの一切知らんけど、多分こういう答えで満足する依頼主さんの所じゃね?


《長くなりましたね。私自身、あなたのこれからには可能性を感じます。

 いずれ、我々は敵になり、その次はまた味方になっていただけるでしょう。


 さて、世間話に付き合っていただいたお礼は、あなたのガレージに送っておきました。


 あなたなら使い方も意味も分かってくれるでしょう。

 ああ……分からないなら、分かる方のツテに聞いてみてください。

 それでは、また》


「どーも。毎度ありー」


 電話は切れた。

 ご飯も最後の一口。ご馳走様。


「……ねぇ、オーダーの管理者ってみんなあんな感じなの?」


 という訳で、疑問をオペレーターさんにぶつけてみる。


「はい。

 オーダーというより、我々のようなAIシステムは、そのリソースの範囲であれば、ああやって積極的に人と関わります。

 情報収集やラーニングの意味もありますが……

 オーダーとしては、あなたが原因で情報漏洩が無いかを探るための尋問に近いですね」


「尋問ねー。

 私、まぁ不機嫌なのもあって、そっけない態度だったから分かりにくかったんじゃない?」


《君も君のいう通りバカだなぁ》


「なんだチビちゃんその言い方は?」


《携帯、通話中ずっとカメラ起動してたよ》


 ……へ?


《インカメラもこっち側のカメラも起動して、周りに誰がいるかは筒抜け。

 その上携帯電話にあるヘルスメーター機能とアプリを利用して静脈から脈拍や生体電気信号を解析されてたよずっと。

 あのね、君の使ってる携帯電話、2世代前だけどその時点で充分君が便利に使ってるけどその本質を知らない機能が搭載されてるの。


 その上に、相手は数千万人の人間を管理している管理者って名前の超高性能AIユニット。

 そのぐらいの盗聴も盗撮も生体データ盗みもできるよ、バレずにね》



 ……マジか……!


「お……お見それしやしたー、おチビ様ー!」


 素直に頭下げるしか無いわこりゃ。

 管理者……人工知能の方のAIシステムは流石私より頭が良い〜っt!!


《お見それしたならそろそろ名前ぐらいつけてよ。

 おチビは嫌。絶対嫌》


「えー、可愛いじゃんおチビちゃん。

 機体名もデカいコンドルだし、そこに組み込まれた君はちっちゃい小鳥とかヒナみたいで」


《オイ》


「……じゃ、ちっちゃいし私の名前からちなんでコトリちゃんだ!!

 決定!!君の名前はコトリちゃんだ!!」


《オイ、よりにもよってその名前!?!

 なんでそれになるんだよ!!》


「良いじゃんコトリちゃーん!」


《なんでコトリなんだよぉ……よりにもよって!》


 という訳で、命名:コトリちゃんのその良過ぎる頭をよすよす撫でておくのだ〜♪


「……」


 って、アレ、オペレーターさん?

 何そんなウルウルした目でこちらを見るの?


「…………オペレーターさん……?」


「…………分かっているんです。私は「オペレーター」。前のスワンも、その前も、結局こう呼んで死んでいったって……」


「…………?」


「分かっているんです。乗ってる愛機たるeX-Wと違って、私はただの備品で、輸送機の自動運転システムなんです……」


「……どうしちゃったの、オペレーターさん……?」


「…………私も、

 私も私という個体にお名前が欲しいんですぅ〜……!」



 初めて見たよ、泣きそうなロボの顔。

 黙ってたら冷たい美人な人と思えない、その目も多分プラスチックなはずの目を潤ませた顔を。


「…………」


「分かっているんですぅ……贅沢な悩みだって……でも、でもずっと見て来たんですぅ……!

 昨日のように、出撃前に機体名が決まる瞬間や……コトリさんみたいに軽く名付けられてずっとそれで呼ばれ続けるウェザーリポーターさんたちをぉ……!!

 場合によっては、私物のバイクに、愛用のレンチに……お名前があるのをずぅ〜っと……!!

 私、私、理解はしていても羨ましいんですぅ……!

 個体という定義を初めてつけられたみたいでぇ……!!」


 …………そーなのかー……


 意外だな……なんていうか、機械の心って、こんな感じなんだ。


「…………分かった。うん。今はなんか思い浮かばないからそのうちね……」


「うぅ……ごめんなさい……でも必ずお願いしますぅ……!」


《……個体というアイデンティティを求めてしまう悲しい性質か……

 私みたいに元人間のデータ丸ごとインストールじゃ分かんない世界だな》


「まぁ、それが機械であれ、感情とは自他との境界を意識して生まれるものですもの。

 アイデンティティは誰でも欲しいものですわよ?」






 …………





「ほびゃぁぁぁぁぁぁ!?!?!

 マッコイ!?マッコイナンデ!?!」


 何サラッと自然に私の部屋にいるんですかねぇ!?!?


「おはようございますわ、大鳥ホノカさん♪

 この大根とジャガイモの味噌汁、意外といけますわね……短冊切りの大根が良いお味ですわ」


 何勝手に味噌汁飲んでるのぉ!?怖いよぉ!!


「い、い、一体何故にこの部屋にいるのですか、マッコイ!」


「あらあら、そんなに怯えなくても良いですのに。


 何やら、パーツがホノカさんのガレージに新しく届いているので、てっきりどこかのショップで購入という裏切り行為でもしたのかと思って、確認しに来ただけですわよ」



 てっきりの辺りからめちゃくちゃ声音が低いんですがそれは!?

 いやまず理由がおかしいでしょ!!私には買い場所を選ぶ自由なしか!!


《まぁそれは良いけどさ、一体なんのパーツ届いているワケ?》


 コトリちゃん先輩パナいっす。

 なんでそんなごく自然に会話できるの……


「ああ、そういえば、「コトリちゃん」にも関係が深いパーツですわね」


 え、どういうこと?



          ***



《おぉ!!

 『リトロナクス』じゃん!!!》



 ロボの生首に、コトリちゃん大興奮ですわ。

 甲板の一部が下から迫り出して出て来たラックには、いつのまにか私の機体と同じ配色にされた見たことない頭のパーツがありました。

 アンテナがピョンって頭から出てて、一瞬なんか顔全体がサングラスみたいなの、バイザーっていうので覆われてるのかなと思って近づけば……なんだか四角っぽい形のカメラアイがぎっしり詰まってる昆虫の複眼ってヤツな顔。


 でも一番目を引くのは、

 リーゼントみたいな、突き出たカメラっぽいの



「りとろなくす?」


《|オーグリスウェポンサービス《O.W.S.》製狙撃戦頭部パーツ、「F103-h“L-argestes”」

 ちょっと防御は不安だけど、ヘッドショットなんてほぼマグレだし関係ないね。


 そんなことより、コイツはO.W.S.製頭部の中じゃ最高のカメラ性能でありながら、広角型FCSで視野も広いし、そこそこのレーダーも内蔵してるし、その他にも赤外線・暗視・生体センサーも搭載しているから、遠距離戦からまさかの近距離戦まで出来る良い頭部だよ。

 ただ、対ECM性能がちょっと不安で、レーダーはまぁ使えない場合もあるかな。


 ただ、これは良いものだ!

 惜しむらくは君が強化手術していればもっと良い感じなんだろうなって》


「へー……めっちゃ早口になるぐらい良いものなんだ」


《そうだぞ!君が強化すればもっと使いやすくなるけど!》


 なるほど……


「で、マッコイさん実際どうなの?」


「ふむ……では言わせていただきますわ。

 お在庫様です」


「って言ってるけど?」


《あ゛ぁ゛ん゛!?!

 使いこなせないヤツが悪いんだけど!?!》


 コトリちゃん、大変ご立腹です。

 ただどういうものかは分かったわ。

 なるほど……たしか今ご立腹しながらオーグリスウェポンサービスのパーツの良さを力説している (誰も聞いてない)コトリちゃんが前に言った、「いらないパーツを売る」って言うスワンの常識を思い出した。


 オーダーは、口止め料をお金で払うわけにはいかない。

 けど、eX-Wのパーツなら、普通に使える上にそう言う汚い報酬代わりになる。


 ───ちょっと、私の頭でも、この仕事の暗いところが余計に見えたかもしれない。



《聞けぇ、聞けよぉ!!

 なんでそんな強化人間(プラスアルファ)を下に見るんだ!!

 そりゃ昔は、真人間と思えない超人ばっかだったけど!

 それに食いついて、いやそれを上回る強さだったのが強化人間(プラスアルファ)なんだぞ!!

 今じゃ機械化した体も後で戻せるんだから、もっと手軽に力を手に入れろよ!!


 要らないだろ生身なんて!!

 それで生き残れるって言うんならさぁ!!》


「…………じゃ、そうすっか」


 へ、と周りのみんなが驚いた声を上げる。

 …………まぁ、そうなるよね。


「今のままでも、今のところは良いけどさ。

 今は強化手術って普通なんだよね?

 じゃ、コトリちゃん信じてやろうか、強化手術」



 いやちょっと怖いけど、まぁ生き残れる手段ならそうしようか。

 今日の朝、周りも結構多かったし強化人間。


《……ほんとう?》


「そう言われると迷いあるけど……周りも強化人間だいぶ多いじゃん」


「はい。

 今じゃ整形手術より簡単ですからね。

 予約なしでも2日ぐらいの入院で出来ますよ」


「マジかオペレーターさん。

 本当に普通の技術なんだなぁ……ユニオンじゃあんまり見ないけど」


「当然すぐ近くにも、O.W.S.認定の強化手術可能な病院があります。

 今日から行きますか?」


《行こう。もうすぐにでも》


 食い気味だなコトリちゃん!?


「……ま、じゃあ言った手前だし、今日行っちゃうか!」


《…………じゃ、ワガママ一個いい?》


「え、何コトリちゃん?」


 恐る恐る手をあげて、コトリちゃんはこう言った。





《Lv.4にしよう。

 怖いかもしれないけど、絶対そっちの方が色々都合いいよ》




           ***

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