MISSION 12 : 生きてりゃ良いけど、辛い時もある
『まさか入院する羽目になると思わなかった……』
開幕で、普段は傭兵系な美少女の私こと大鳥ホノカちゃん、今ちょっと特殊な液体に満たされた円柱形のカプセルみたいな中で色々あられも無い姿というか、内部メカ的なの露出状態で浮いてます。
「ごめんねホノカちゃん!!!!」
そして、この場所から見えるガラスの向こうで聞こえる声。
床も透明素材なので見えるけど、中学までの幼馴染の親友で、実は傭兵だったツナコちゃんが、
自分も左腕と右足にギプスはめてる上に全身包帯で左目眼帯に点滴までやってる大重症スタイルなのに、
まぁなんとも見事な土下座をしているであった。
『いやあの、ツナコちゃん?
良いから病室に戻って!!!』
O.W.S.系列の、普通の病院としても大変に腕のいい医師が揃うここの患者で、ぶっちゃけ私より重症のツナコちゃんは、当然と言うか強化人間のナースさんに丁寧に抱えられて病室に戻されたのだった。
《君の幼馴染、キャラが強烈だね》
相棒のコトリちゃんが、無線でそう声をかけてくる。
『実力も強烈でしょうよ』
ごぽごぽ特殊な薬液の中で言いながら、私はまぁツナコちゃんだしなって納得せざるを得なかった。
簡単に言うと、私は依頼を失敗しました。
ンァー!修理費と弾薬費が揃って40万自腹だァァァァァ!?!?
うぐぐぐ……!!
……依頼自体は、簡単な護衛任務だった。
ひらけた土地で、新型パーツの護衛をね。
相手は、ランク3『安綱』機体名『童子切』。
そう、ツナコちゃんが相手だったんだ。
結果は、見りゃ分かるけど、
私はぶった斬られ、ツナコちゃんはギリギリ勝った。
まぁ、私は強化済みのおかげでこの通り生きてて、ツナコちゃんは生身だし大怪我だけど元気。
…………そ、お互いこの通り生きている。
『はー…………でも案外悔しいとか思わないもんだね。
それよか……生きてて良かったって思うんだ』
《こっちは悔しいけど。
生身で強い奴に負けるってのが、なんかやっぱ昔から嫌だったし》
『……まぁ、でもツナコちゃんは強かった。
気がついたら、ハーストイーグルぶった斬られてたんだしさ。
逆に半身吹き飛ばせたの奇跡だよ。
生きてるのも奇跡かも……生首になったじゃん?』
本当、あんな経験はもう嫌だね……
《…………その負け方は余計嫌だ。嫌ーなやつ思い出すからさ……
次は勝つよ、絶対に》
コトリちゃんはなんだか悔しそうだけど、まぁ私は出来れば次はないことを祈りたい。
『そっちも大変だね』
『あ、起きたかいエーネちゃんや?』
ふと、隣で似た様な状態の小さな同業者、エーネちゃんが似た様な姿で浮いている。
『いやいや、生身ほぼ無くす事にしたエーネちゃんよりはマシだよ。
これで強化Lv.5だっけ?』
『うん。まぁ、元から内臓は全部強化済みだったし、今更全身機械化してもねって感じかも。
血液も人工血液だったしね』
なんて、小柄な体をさらに小さくしてしまった手脚にない上に色々見えてる状態でも笑うエーネちゃん。
元々、ちょっと強化はしてたけどほぼ生身だったエーネちゃんだけど、どうやら完全に人の身体辞めるらしい。
『そんなもんか。
でも家族は反対したんじゃない?』
『そりゃあ、ね。
でもさ、私も、ようやくレンくんの治療費とか稼げたし、あとは元の生活に戻るためだもん。
ホノカちゃんと同じだよ。死ねない気持ちは分かるでしょ?』
そう、エーネちゃんは傭兵になった理由が結構泣ける話なんだ……
体に障害のあるお兄さんのレンハルトさんの為の治療費を稼ぐため。
難病で、こう言う強化手術も難しく、生の適合する臓器移植しかなかったらしいとはよく聞いている。
高いんだよね……生の臓器ってさ、調べてみたら。
傭兵稼業でもしなきゃ、無理だよ。
そしてそれも終わって、エーネちゃんは今度は自分の傭兵稼業を辞めるためにこうやって準備中なわけだ。
『実際そこのホノカちゃんみたく、最新型のLv.5ボディでも身体切り飛ばされる世界っすしねー。
エーネちゃんの判断が正解と思いたいっすよ』
『しっかしお前も強化済みけ?
これでいつものメンツで生身なのあの白いのぐらいじゃけぇの』
そうそう、まだこのカプセル並んでる病室には、いつもの頼れる褐色整備士のユナさんと、同じくユナさんより濃度濃い褐色な同業者傭兵のキリィちゃんも似た姿で浮かんでたのであった。
強化手術祭りだな。
『そうだよねー。
まぁ、リンちゃんは、ネオ・デザインドだし、要らないんじゃなかったっけ?』
『アイツも、案外よく生き残ってるのぉ。
アレで、あった頃まだチビだった上に、本人曰く落ちこぼれなネオだった言うとったんじゃ』
『あら以外……!
リンちゃん、少なくともこの中じゃランクも実力も低い私より強いのに……』
『エーネちゃん何気にランク17昇格してるじゃん、もうトップランカーじゃん?』
『胸を張れ、エーネ。お前何やかんやGあったじゃろ』
『結構デカいじゃないすか!ちっちゃくても油断できないっすね、げへへへ』
『メートルおっぱいのみんなに言われてもアレだからね!!
しかも二人とも私より上じゃん!!何一般傭兵サイズみたいに言ってるの!?お胸もトップランカーじゃないのもう!!』
わははは、と元気な笑顔で、無線会話を楽しむ。
病院って暇だしねー……
『でも最近なんか物騒っすよね。
オイラ、考えてもみたら再強化手術する事にした理由、買い出しで爆弾テロやられて腕飛んじゃったんすよ。
強化済みで良かったっすけど、このヨークタウンでテロ頻発するってのも珍しいっすもん』
ああ、そういえば。
そんな理由かユナさん……お互い生きてて良かった……
『ここら辺、周りがトラスト所属の傭兵だらけな上に、インペリアルの軍も命より大事な畑もある場所じゃけんど、こうもやられるとなんだか穏やかじゃないのぉ?』
『そうだね……私も強化レベル上げた理由もそこだし。
ホノカちゃんみたいに死にかけてしまうことも普通だからね……首だけでも生きられる身体っていうのもアレかなでも』
『やめとこうよ、死ぬほど痛いぞ!
死なないことが一番だよ。まぁ、当たり前だけどね。
……人の身体のままじゃ生きられない、か』
『嫌な話じゃのう。
ま、ワシこれでも生身の頃死にかけて強化した身じゃけ、死ぬほど痛いほど分かる』
『笑えないっすよ……』
《それにもっと強化した身体には魅力があるでしょ!?
なんだよ、人間じゃない人間じゃないって辛気臭い!!
昔はね、寿命の短さとか強化済み故の感情機能の消失とかもあったのを、誰よりも私の生前が命を犠牲にして今の性能の原型を作ったんだからさ!!
もっと有り難がれ〜!!性能を喜べ〜!!
何よりそっちで強化済みの身体を喜んで欲しい!》
『それももちろんあるけどさ〜、やっぱ生きてて良かったって思う方が一番なんだよな私たちは』
ブーブー言うコトリちゃんではあったけど、まぁそっちでも感謝はしてるけどさ……
ま、いつか日常生活に戻る時までは、堪能するさ。
***
なんだかんだで3日後、
みんなで退院の日です。
「邪魔するでー!」
「邪魔すんなら帰れエセ関西」
元気よく、意外とかっこいい私服を背が高いしメリハリあるモデル体型で包みながらも、背負ってるのはリコーダー刺さった赤いランドセルというアンバランスな銀髪美人が登場!
そう、同業者の傭兵でネオ・デザインドっていう人工生命な12歳児のリンちゃんことオルトリンデである。もちろん傭兵名で本名は……
「なんやねん、黒いの。3日たっても口悪いんは治っとらんのな。
てか表札相変わらず笑えるな、桐野花蓮ちゃぁん?ギャハハハハハ!!!」
「花蓮で悪いか本名カレンで!!
お前みたいな織田 鈴って、そっからオルトリンデもじっとるの分かりやすすぎじゃバカ!」
「お、喧嘩買ったろか?」
「んな度胸あるけ??」
うん、本名が分かったところで、二人はいつも通りだったね。
「二人とも、病院ではめっ!」
「「フン!!命拾いしたな!!」」
エーネちゃんに可愛く諌められて、キリィちゃんとリンちゃんはいつも通りそっぽを向くのでした……
「あれ、リンちゃん先輩なんか元気になったわね」
と、扉の奥から登場するめっちゃ綺麗すぎる顔の銀髪ツインテちゃんは、我が家のシンギュラ・デザインドビーイングのルキちゃんだ!
私より手足長くて背が高くておんなじぐらいおっぱいおっきいけど、9歳だぞ!人工生命体の成長は早いらしい。
「ちゃうねん!この黒いのが沸点低いだけや!」
「なーんじゃ寂しかったんけー、おーまえ可愛いとこあるの〜??」
「やーめーやー!!懐くなドアホ!!」
「ルキちゃん来てくれたのか!お姉ちゃん嬉しいぞ!!」
「そりゃ来るわよ、保護者のおねーちゃん?
本当に戸籍上、姉になるとは思わなかったけど」
やっぱり赤いランドセルと、『大鳥ルキ』って書いてある持ち物の名前の欄が、なんかアンバランス。
「なによ、可愛いランドセルなのにアンバランスって」
心を読まれたか。
「まぁ良いや、退院したし、良い加減ご飯作ってあげないとね。
カップ麺生活とかしちゃいそうだし」
「そーなのー、はやくご飯作ってー!!
もうレトルトいーやー!!」
「あ、ウチもホノカちゃんのご飯食べたいわ!
ちゅーか、退院祝いやし、パーッとタコパやらん?」
「お、ええのぉ!」
「あー、それ良いっすね!!」
「もー、どうせ私がご飯作り担当なんだからー」
「「「「「「ホノカちゃんのご飯食べたーい!!」」」」」」
はいはい、行こうね行こうね……無言のおとなしいコトリちゃんもだっこして持って出発!
てなわけで、受付で退院手続きを終えて、じゃあ帰るかってなりましたー。
「大丈夫です!退院します!!」
「あのですね!!!常人が!!!生身の人間が普通全治1ヶ月の怪我を!!!
3日で治るわけがないんです!!!
全身何箇所骨折したと思ってるんですか!?!
骨の再生治療でもそのぐらいかかりますから!!」
ちなみに横で、3日前まで包帯ぐるぐる巻きだったツナコちゃんが受付の看護師さんとさらに先生と揉めてた。
「あ、安心してください!
もう全部繋がっていますので!!」
「逆に検査ー!!!どんな身体しているんですかあなたはァーッ!!」
……ひきづられているツナコちゃん、多分だけどかすり傷ひとつない。
主に、感覚の鋭い人工的に調整された命であるリンちゃんとルキちゃんが、
化け物を見る様な目で、ツナコちゃんを指さしていた。
「まー、ツナコちゃん大抵の怪我は3日で治っちゃう子だしね」
まぁ昔からこうなんだよね、うん。
ってオイオイ全員あの子に化け物を見る目向けるんじゃないのー。
***
てなわけで、超弩級歩行要塞、ヨークタウンのいつものマッコイ商店にみんなで顔出しに来ました。
「マッコイさーん!ソラばあ〜!
オイラことユナちゃん復帰っすよー!!」
「あらやお帰りなさい。
ソラがお待ちよ?」
何か書類まとめてた和服黒髪美人の300歳、ある意味で本物の火星人の一人、店の主人マッコイさんがお出迎え。
「ソラばあが?」
「ユナちゃぁぁぁぁぁん!!
帰ってきたなら手伝ってぇぇぇぇぇぇ……!」
店の奥から、綺麗な金髪を煤だらけにして、ツナギを半脱ぎにTシャツ一枚で上半身守ってるだけの美人さん……どこかマッコイさんに似ている顔の、そう実は実の妹のソラさんがやってきた。
まだ20代前半に見えるけど、これで86歳なんだ。火星人だしね。
お婆ちゃん自称するぐらいには長生き。
「ソラばあ、なんすか?
まさか昨今の影響で、整備の仕事増えたヤツっすか?」
即座に、故あって水着というか下着同然の上半身になって、近くの愛用のサブアームを背中のスロットに装着するユナさん。流石は頼れる整備屋さんだ!!
「いや、この店利用してるの、こちらのホノカちゃんと愉快な傭兵達だけだしそれはない」
「ムッキー!!」
真顔で答えるソラさんに、ご立腹のマッコイさんがいつの間にか取り出したハンカチを噛んで引っ張る。
「けどもっとヤバいヤツ!
『アプデ』だよ。商品は終わったけど、ちょうどこの子らの預かったパーツが残ってる」
「げ!?
そっか、『アプデ』かぁ……!!
例の新機能っすか!?
武器と頭どっちのが!?」
「……二人揃って盛り上がってるけど、アプデって何?」
とりあえず、私たちにも関係ありそうだし、聞いてみよう。
「ほら、私も地球からきて色々新製品とか持ってきたじゃん?
そもそも火星のって、70年前のままの設計にちょっと改修入ったぐらいのeX-Wパーツだったじゃん。
地球もパーツのラインナップ事態そんな変わらない70年だったけど、でも中身は大分違うんだよ?」
「ていうと?」
「『近代化改修』入ってるってこと。
ほぼ全パーツね」
あー。
じゃあ、事実上ほぼ全部新しいパーツにってコトか!
「てなわけで、新機能とちょっとややこしい新パーツカテゴリできたし、ごめん悪いけどみんなも『アプデ』に付き合って!!」
そりゃもちろん!
商売道具だし知っておかないと!!
***