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MERCENARY GIRLs/EXCEED-WARRIOR  作者: 来賀 玲
Chapter 4

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104/172

Chapter 4 :ENDING










 この火星は、その中の人類生存圏は、


 少なくともある一種の秩序が保たれている。






 ユニオン、オーダー、インペリアル


 思想の違う3つの勢力の対立、それは人間の多様性と思想信条の違いのせいで起こる当然の対立を、


 企業という名の『全員の味方で全ての敵』という中立の立場で、常にコントロールをしてきた。



 それがトラスト。企業複合体。


 トラストの内部の諍いは当然ある。


 だが、企業という枠組みである以上、その諍いの理由は利益と打算。お互いの落とし所は必ずある。


 だからこそ、本当の敵であるクラウドビーイング……火星人類を作った、電気信号の情報になった『かつて人間だった何か達』と戦えた。


 なんならば、打算と利益とをもって今はかつてこの星の命を作った神気取りの幽霊データ共とも交渉の席につける段階に来た。



 正規軍に頼らず、なおかつ正規軍並みの戦力としての傭兵を推進したこともある意味で良かった。

 

 いわゆるかつての地球にもあったらしい多国籍連盟軍の形にしてもよかったが、3つも勢力ができるような人間の理念と善意に頼るぐらいなら最初から金のみで動く連中の方が、こう言った中立的な戦力としては安定するものだ。


 何より、正規軍では『イレギュラー』が生まれる確率は減るだろう。見つけられる確率ももっと減る。


 イレギュラー……人間の、生きとし生けるものの可能性、以上な戦闘力を持つ特異な生物、全てを焼き尽くす力。


 今は、彼女らを見つけ傭兵として確保している。

 大部分は、イレギュラーの『近似値』かもしれないが。




 そう、全て予定通りの世界。

 まるでオーダーの管理者のような言い分だが、



 その予定通りを疑うべきだった。




 私は、今は新美クオンと名乗る者、


 オートマティック(A)インダストリアル(I)社のCEO、代表取締役社長。


 トラストの理事の一人、火星の人類とは違う、クラウドに……あの博士に作られた『火星人(マージアン)』。


 300歳というだけで、影のリーダーの真似事をしていただけの…………無能だ。



 真の有能は、言われる前に動く。

 順調を疑し、決して油断なんかしない。



 今、我が社の不祥事の後始末をするでもなく、

 我々火星の企業の集まりであり私も運営の一人であるトラストへの明確な攻撃の最中も、


 正直、ストレスで心がつらすぎて、我が社の商品の女性型ロボット(ガイノイド)であるソレイユモデルの秘書にあやされて、


 毛布で包まれておしゃぶりを口を塞ぐ『赤ちゃん』になっているような無能ではない。



「よーしよし、良い子良い子♪」


「……ぶー」



 私は、酒で酔い潰れて赤ちゃんになるどうしようもない趣向の持ち主だ。


 正直いつだって責任から逃げたいし、自分の仕事はとにかく終わらせてサボるような人間だ。火星人だがそういう意味での人間じゃないぞこの場合は。


 私は、親のような博士曰く最高傑作だったらしい。


 そんなつもりは300年生きていて一切思わなかった。

 私はちょくちょくサボっていたし、本当は甘えたかったが、妹がもっと甘えん坊で私より甘え上手だったので出来なかった。


 姉も姉でしっかりしているが、手厳しいところもあるので、気が付けばこんなダメ人間、もといダメ火星人が出来上がっていた。


 困ったことに、このダメ火星人が親の博士が消そうとしたかつての人類の救世主だったと言うところだ。



 人間は基本ダメなヤツらだ。

 集団を好みながら対立するし、敵のいる時は敵がいない状態を望んで敵がいないと敵を作る。


 捻れた生き物。

 …………私と同じだ。


 救ってやろうという態度が傲慢だと言われるだろうが、救ってやらないと自立もできない。


 300年前の火星の真の文明開化は、私のおかげではあるが、正直それをいつまでも恩にきてほしくはないし、実際事実として記された影の歴史という以外の価値はもうない。



 今の私は、たまたま生き別れた有能な妹がくれたこのAI社をなんとか守っているだけの存在で、

 本来人間たちだけで築く人類の自由を、まぁいつも通り本人達の良いところでもあるがこの場合はダメな部分のせいで足の引っ張りあいになるところを調整する立場も兼任していたにすぎない。



 人は、人だけの管理で生きていくことはできない。

 だが、同時に自らの自由の侵害を許せない。


 人間の捻れたこの特性を、私は怠惰で無能だから忘れていたのだ。



 いつのまにか、このトラストが、

 ある人類の勢力にとっては、『自由を奪う者』となっていたらしい。





 ────申し訳ないな。こちらの管理不足だ。


 思えば、シンギュラ・デザインドビーイングという遺伝子操作の結果生み出した我が社の役員でもあった浅見クルスという男も、私がもう少し話を聞いてやれば死なずに済んだかもしれない。


 アイツは私の管理不足のせいで、殺さざるを得ない事をしでかしたんだ。


 私が正式に予算と、まぁ私の生の体内のナノマシンサンプルはやれないが、似たものを作るリソースを分けてやれば…………


 自社の管理者としても失格だな、新美クオン(わたしは)



 生まれたシンギュラ・デザインド達は悪いことはしていないが、結果としてこんなデリケートな時期の生まれのせいで『誕生罪』を与えてしまった。


 まぁ、生みの親の理屈が正しければ、生きてその力を認めさせることも可能だろう。



 だが今の段階では無理だ。


 イレギュラーは、強すぎる。


 私は、傭兵(スワン)として、便宜上はランク1を保っているが、いずれ抜かれるだろう。


 いや、何度も抜かれた。


 もう一度言うが、イレギュラーは強すぎる。

 天然物が至高などと言いたくはないが、

 人造のイレギュラー程度が、どこまで通用するか。


 地球の全てを管理していた巨大な人工知能、地球の『管理者』が、かつてイレギュラーを発見次第始末していた理由もわかる。


 私は、常に恐怖している。


 シンギュラ達にとっては時代が不味い。

 恐らく……今までで一番イレギュラーとしての質が高い傭兵(スワン)達が揃う時代だ。


 ……今日だって、恐らく素質だけなら最強のイレギュラーに一人殺されている。



 …………やはり、殺してやることが慈悲だったか?


 まぁ良いだろう。シンギュラデザインド達は決して敵ではない。


 それに、彼女達のお陰でもある。

 先程通信がきたが、AI本社が襲撃を受けたそうだ。

 私や主要な人員は、本当に偶然の今回のシンギュラの件で皆本社を秘密裏に離れていた。

 お陰で生きている。敵に反撃ができる。




 このかつて赤い星と言われた太陽系第4惑星は、

 きっと地獄の方がマシな戦乱が起ころうとしている。


 人類同士の戦争は、タチが悪い。

 歴史が証明しているだろう?




 ────ならば派手に地獄の業火を燃やすべきだな。




 中途半端が一番長く苦しむ結果になる。


 最悪一つの勢力が消えるような、何もかも焼き尽くすつもりで戦おう。



 …………敵が誰かは、この無能な火星人にも既にわかっている。



 奴らは、クラウドビーイング側との停戦交渉中に背中を刺すつもりだろうが、そうはいかない。


 お前らが、なぜ生きていたかは殺し尽くす辺りで聞いておこう。

 しかし、お前らが生まれた原因の無能な私が悪かったともその時に謝っておこう。




 だから、全て殺す。粛清だ。



 今までどこでどうやって生き延びて増えたかは知らないが、私にはお前達の手口と規模で正体を推測できた。


 証拠がないように思うだろうが、私はシティーガードのような優しい存在じゃない。


 企業……利益のためなら手段を選ばない存在の、一応は長だ。

 推測で動く。そして殲滅する。




 ……だが、今の私はメンタルに来ている。

 明日からは、お前たちトラストの敵を殲滅すべく迅速に動くが、


 今日は…………赤ちゃん以上にはなれないから、勘弁しよう。


 もしも、逃げたり許しを乞うなら明日二日酔いで最悪に目覚めをするまでが期限だ。


 首を洗って待っているが良い。


 …………待てないから攻めるとでも言いたいなら、お前らが出鼻を挫かれていることぐらい分からないほど無能じゃないと密かに言っておくさ。



 今は、少し赤ちゃんにならせてもらう。

 出鼻はくじいてくれたが、こちらも心労があるからな…………







 …………なんで今なんだ、


 『財団』ども。







          ***













「…………はい、これ」


「お?」



 傭兵系美少女の大鳥ホノカちゃんこと私ですが、

 戦いもひと段落していたら、帰ってきたヨークタウン本体の整備場で、私の生き別れたお母さんを知るナイスボディな9歳児のルキちゃんが円柱形の壺を渡してきましたとさ。


 これは、間違いない。



「骨壷か。

 ……お母さんの?」


「そう。タマコの」


「死体、あったんだね」


「無かったら、行方不明って言うわよ」


 それもそうか。


 ……骨壷は7寸サイズ。人1人分。

 …………飛んだ再会だな、お母さんや。


 事情を聞いた以上は、恨みで無碍にするわけにもいかないから、そっと受け取る。


「……おかえりって言いたいけど、家無くなっちゃったよお母さん。

 そっちも命まで無くすなんてね……」


 と、つい漏れた感想と共に、ルキちゃん一枚の写真を渡す。


 ちょっと前髪の長い、片目隠れちゃったロング黒髪美人さん。


 ああ、分かっちゃった。


 分かっちゃったら、気持ちとかそう言うのとは別に、涙出てきちゃった。



「…………案外、私より美人だねお母さん。

 …………お婆ちゃんとも少し似てるよ……!」


「………………そうなのね。

 …………そうなのよ……ええ、そう……アンタ、案外似てるのよ……似てないけど、そっくりで……!」


「…………お墓に、入れて良いかな?」


 ルキちゃんも泣き出す中、私はそう尋ねた。


「お墓に……?」


「…………あの世で、おばあちゃんに叱ってもらわないといけないでしょ?

 私は、ちょっと休暇に入りたいし、お墓参りついでに、お母さんを納骨しよう。


 家の何もないけど、お墓だけはまだあるからさ」


「…………そう。良かったわ、いい加減機体に乗せとくのも……手狭だし」


「それじゃ、成仏もできないか。

 せめて死んだ後は機体から降りたいでしょうし」


「…………降ろして、あげたい……!」


 ……ルキちゃん、やっぱ羨ましいよ。

 なんでかはもう語られることも無いかもだけど、私と違ってお母さんに愛されてたんだな。

 ……だったら、余計に骨はルキちゃんのためにも、そして同じ墓のお婆ちゃんのお叱りのためにも埋めてあげないとね。



 ……じゃ、傭兵系美少女大鳥ホノカちゃん、


 明日からは、しばらく傭兵業お休みするね。

 解約金集める前に、人として、娘としてやらないといけないこと出来ちゃったから。





          ***

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