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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ひとりかくれんぼ




 ひとりかくれんぼしてたんです。


 あ、知りませんか? ひとりかくれんぼ。あれー、結構有名だと思ってたんだけどな。映画とかにもなってますよ。ほら、ちょっと前まで、ええと、コスメのCMに出てた子居たでしょ? 最近結婚したひと。あの子可愛いですよね。あの子がヒロインで、ほら、こんな絵柄のマンガが原作のドラマに出てた子が相手役で……。

 ああホラー嫌い。はあ。

 じゃあわたしの話は聴かないほうがいいんじゃないかなあ。多分、ホラーですよ。

 多分。ええ。


 はあ?








 あの。別にいいですけど。こうやってお話ししてるの、別にわたしにはなんにも得はないですし。それはわかりますか。

 あんまり、失礼なこといわれたら、わたし帰っちゃいますよ。わたしは本当なら、……。

 はあ。じゃあいいですけど。でも、ちゃんと見せてくださいね。本にする前に。ほら、こういうのって、いってもないことをいったって書かれたりするって聴くし。

 まあましだけど。まったくの想像で下らないことを書くより。

 それだからこのお話うけたんですよ。


 だからお金は要りませんってば。


 でもわたしが喋ったことだけでも、ちゃんと訂正できるようにしてください。そういう約束なの、忘れてないですよね。


 (溜め息)


 ええ、まあ。

 じゃあ続きを。……そんなに怯えなくてもいいですよ。別に、殺したりしませんから。


 (笑い)


 いやだ、目がまんまる。

 はい、すみません、脱線しちゃって。わたしあの映画好きなんです。ヒロインの子も。可愛いんだもの。あのコスメもつかってました。プチプラでパッケージも可愛くて。

 ごめんなさい。また脱線しちゃった。


 ええっと、どこまで話しました?

 ああそう。そうですね。そう。


 いえ。はい。

 ひとりかくれんぼっていうのは、降霊術の一種です。用意するのは、ぬいぐるみ、刃もの、お米……。

 (笑い)

 え?

 (ひとしきり笑い)

 いえ。違いますよ。生米です。お食事じゃないんですよ。炊いたお米はだめです。

 (笑い)

 なにか書くものあります?



 ……はい。

 ええっと。これが用意するものです。手順はこっち。簡単でしょ。


 ええ。そういうふうに、簡単なんですよ。やろうと思えば簡単にできるし。けっこう、ありますよ。ネットで拾えば。やってみた! って。

 ほんとにやってるかどうかわかりませんけど。

 動画でも編集ってできるし。ワンカットなら本物かなって思うけど、カメラにうつってないとこで誰かがなにかやってたり、可能性はありますよね。


 ホラー嫌いなんですよね?

 うん。やるのはおすすめしません。

 くわしく書くのも辞めたほうがいいと思いますよ。軽い気持ちで真似するひとが居たら、わたし責任とれませんもん。




 ……はい。そうです。

 この紅茶おいしいですね。最近、好きなんです。紅茶。




 えっと、近所のお店で。ぬいぐるみ以外は。

 ぬいぐるみは、ネットで買いました。ハンドメイドのやつです。素人さんだから、目の位置とか耳の位置とか甘かったけど。ちょっととぼけた顔してて、可愛かったんです。名前はへぐちゃん。

 わたしホラー好きで、映画のヒロインの子も好きだし、ひとりかくれんぼはずっとやってみたかったんですよ。


 全然。


 信じてないとかじゃなくて、手順をしっかり踏めば安全なんです。そういうものでしょ。神事もそうじゃないですか。

 (溜め息)


 とにかく、前々から計画してたんです。

 あ、今の、変なふうにつかわないでくださいね。


 (笑い)


 包丁とかもその辺で買いましたよ。

 知ってるでしょ。




 次の日がお休みだったからあの日にしたんです。よなかにやるものだし、次の日はお昼まで寝てようって。

 それで、始めると、なんていうのかな。思ったよりもリアルっていうか、けっこうこわかったんですよ。それでも、はじめたから最後までやらないと、ほら。さっきもいいましたけど、手順をまもれば安全ってことは、破れば危険ってことなんです。

 わたしはおしいれに隠れてました。間取りは知ってますよね?




 ああそうこれ。そう。こっちのおしいれです。うん。ここ昔おじいちゃんがつかってて。そう。あの四年前に亡くなったんですよ。すっごく健康だったのに、お友達とお食事に行った帰りに飲酒運転の車に。

 ほんとやりきれないです。


 そう。

 それもありますよ。おたくの出版社、飲酒運転事件の本沢山出してるじゃないですか? あれ、好きなんです。


 ……それってわたしの口からいわないといけません?


 じゃあいいますけど。

 両親は、親戚の女の子が危篤になっちゃって、それで病院を離れられませんでした。父が主治医で、母はそのヘルプです。

 姉は友達と旅行に。はい。どこだっけ? 北のほうですよ。暑いから脱出するっていってました。

 弟は彼女の家に。はい。その時は高校生ですよ。ちゃんとあちらのご両親も許可してましたから。夏休みで、一週間泊まる予定で。彼女ちゃん、ちょっと田舎の、農家のお嬢さんなんですよ。

 だから、わたしはひとりでした。姉も弟もその夜の間に帰ってくる訳ないし、それはパパとママもそうだし。


 全然。だって誰も来る筈ないですもん。


 はい。

 おしいれにずっと。

 ほんとにあしおととか、気配とかしますよ。ほら、ひとの気配ってあるでしょ? あれがするんです。窓もなにも、全部きっちり施錠してたのに。

 凄いんですよ。ひとりかくれんぼ。


 はい。


 いえ全然。こわいですけど、手順を踏まないと辞められないですから。

 だから、そろそろ辞めようかなって、へぐちゃんをさがしに出ようと思ったんです。塩水、口に含んで。


 そうしたら、玄関から音がしたんですよね。


 ほら、間取り見たらわかるでしょ? この部屋って、玄関のすぐ隣なんです。わたしの部屋はほんとはこっち。うん。

 でもおしいれいっぱいいっぱいですから。

 ぬいぐるみですよ。たくさん。


 もしかして家族が戻ってきたのかなって、パニックになったんですけど、さっきも説明したみたいに姉と弟は絶対にありえないし、両親だとしても電話で報せてくれる筈なんですよ。

 うちの一家って、報連相きっちりしてて。

 それに、あのタイミングでパパでもママでも戻ってくるとしたら、きがえとりにとかそういうのだから。わたし、連絡うけたらそういうの全部準備しとくんです。ふたりともひまじゃないから、ちょっとでも手間は省いてあげたいし。

 はい。

 姉と弟のどちらかだとしても同じ理屈ですよ。

 よなかだからって連絡しないなんてことないです。

 それに姉に関しては、鍵を持ってなかったんですよ。小学生の頃に、一回なくしたことがあって、そのあと玄関ごととりかえたり大騒動で。だから姉は鍵を持つの禁止なんです。今も。

 だから、もし姉だったら連絡があって、ごめんね鍵あけてくれる? って。それがないとしても、帰ってきたらチャイムおすなりしてわたしを起こそうとする筈で。


 ええ。


 そうですね。


 うん。だから、あ、これって家族じゃないなって。それもなんとなくわかりますよね。ずっとあの家に暮らしてたから、わかったんですよ。玄関のドアを開ける時の癖もだし、弟だったら自転車の筈だから、自転車の音が先にする筈だよね、とか。


 だから他人だって。わかりました。




 すみません、ちょっと失礼します。




 ……ごめんなさい。はい。大丈夫です。ここクーラー効き過ぎだわ。




 ええっと、よなかなんですよ、説明しましたけど。ひとりかくれんぼなので。

 よなかに来て、それはまあ百歩譲って、近所に住んでるパパとかママの患者さんが、病院よりも近くてこっちに駈けこんできたって、そういうこともあります。実際、あるんです、年に二回くらい。でもそれだったら、先生助けてください、とか、声がします。

 そいつはなんにも喋らないで、こっそりはいってきたんです。

 わたしはじっとしてました。

 わかったんです。


 はい。

 そうです。

 ストーカーだって。


 その半年くらい前から、駅から家までつけられたり、変な手紙が届いたり、してたんです。




 ああ調査済み?

 ですよね。


 はい。間違いないです。大学の構内で視線を感じることもありました。

 最初は気のせいだと思ってたんですけど、帰り道で弟が追ってきて、今ねえちゃんの後ろにずっとついてる変な男がいたって教えてくれたり。

 はい。

 しましたよ。

 記録残ってないんですか?


 ……ああ、あった。

 へえ。破棄されそうになってたんですか。

 ふうん。

 でも相談はしました。相談員のかたが居て、被害届は姉が。はい。姉は鍵はなくしても、あの時は弁護士の勉強してましたから。わたしの頼みだし。

 今? ちゃんと資格とれましたよ。




 ああ、疲れちゃった。

 ええ。

 はい。無視しました。こわいし、わたしはひとりなんですよ。じゃないとひとりかくれんぼはできません。

 はあ?

 それは知りません。

 だってわたしはストーカーにつけまわされてたんですよ。しかも、あいつ、警備会社の社員だったんですよね。そこで合鍵を盗んで。しかも会社が、表沙汰になったらまずいからって、パパにも連絡しないで。そんなのありえないでしょ。わたし、殺されるところだったんですよ。


 被害者です。


 判断が間違ってたとは思いません。絶対。

 ストーカーが男だっていうのはわかってましたから。わたし、か弱い女なんです。力でかなわないでしょうから、おしいれに隠れておくのを選びました。

 それは当然でしょ。

 わたしと同じ状況になったら、大概の女性は隠れ続けると思います。わたし、おひとよしじゃないので。


 はあ。

 ……それで、わたしは隠れてました。しばらくしたら、なにかに驚くような声がして、その後に悲鳴がしました。


 いえ、それ間違ってます。悲鳴の後にじゃなくて、驚いたみたいな声は悲鳴の前。ええ。

 悲鳴が二回か三回かな、それくらい聴こえてきて、まったく静かになりました。

 はい。

 ええ。

 でもルールですから。

 それで、静かになったので、へぐちゃんが動いているところを見て驚いたのかなって。ぬいぐるみですもの。

 はい。

 物音がしなくなってから、二十分くらいして、あしの痺れがどうしようもなくなってきたので、おしいれを出ました。


 へぐちゃん。ぬいぐるみはすぐに。はい。

 それで、手順をまもってひとりかくれんぼを終えました。

 こわかったし、すぐにお庭に出て、準備してたので。はい。ぬいぐるみを燃やしてしまって。

 (笑い)

 大丈夫ですよ。人絹だから。すぐに燃えます。可愛いからちょっと、おしかったです。あの作家さん、最近は上手になっちゃって、へぐちゃんみたいなちょっと不細工な子は売ってないんですよ。あの子じゃなくて、別の子にしてたらよかったなって、最近はよく思います。可愛かったから。

 いやなにおいを我慢して燃やしてしまって、お水をかけてちゃんと火の始末をして、戻りました。寝ようと思って。いつ、パパとママが、きがえ準備して、っていいだすかもしれないし。

 それで自分の部屋に戻ったら、死んでたんですよ。

 そう。ちまみれ。




 うーん。だからまあ、わたしとしては、へぐちゃんがやったんだって、それしかいえないです。

 実際、わたしはなんにもしてないですから。

 弟が、ああ、わたしがどうしようかなって思ってたら、戻ってきたんですけど、弟はわたしの話を真面目に聴いて、110番してくれて。

 それで、弟とか、朝いちの便で戻ってきた姉が、色々やってくれました。鑑定してほしいとか、そういうのですよ。

 わたしはなんにも触らなかったので。

 はい。

 血の跡って、調べたらわかるらしいです。

 へぐちゃんを燃やしたことは怒られました。

 でもわたしは体にも服にも血なんてついてないし。

 はい。

 勿論、家族にはアリバイが。

 はい。

 弟は彼女ちゃんのお父さんの車で。自転車、折りたたみだから、トランクにはいるんです。弟は帰りたくなかったんだけど、彼女ちゃんと喧嘩して、それで一旦頭を冷やそうってことになったみたいで。

 今はなかよしですよ。九月に結婚します。

 渋滞にはまっちゃって、だから、アリバイは完璧ですよね。監視カメラとかにも映ってたし。

 姉もそうです。旅行先だったので。両親も、みえちゃ……親戚の女の子につきっきりで。


 わたしは疑われてましたけどね。


 物的証拠はひとつも。


 はい。


 はい?


 それは不可抗力ですよ。

 わたしは駅から家の近くまでつけられてるとは思ってましたけど、合鍵を持ってるなんて知りませんもの。ひとりかくれんぼをどう利用するんです?

 そもそも、オカルトっていうのはそういうのじゃ……。






 ……いいえ。

 犯人、っていうか、被害者かな。あのストーカー、スタンガンとかロープとか持ってたんですよね。わたしが被害者だった可能性もあるんですよ。だから同情はあんまり。


 そうですね。知ってます。仲間割れで、不詳の人物が殺して逃げた。そういう結論にするしかなかったんだと思います。迷宮入りってやつですか?

 自分達で迷宮をつくったようなものでしょ。

 わたしちゃんと、刑事さんにはひとりかくれんぼの話をしたんです。へぐちゃんがあいつを殺したんだっていうのが順当なところですよね。燃やしちゃったから調べられなかったみたいですけど。全然とりあってくれなくって。

 みえちゃんの退院祝いのパーティーにも参加できなかったんですよ。ケーキ焼いてあげたかったのに。




 ……ああ、へぐちゃん赤いんです。気付きませんでした。くらくて手許もよく見てないし。

 わたしの手から血は出なかったし、へぐちゃん上手に避けてたのかな。




 え?

 試したひとが居たんですか? あの家で?

 それで?


 なにもない。

 はあ。

 本当かなあ。

 手順を間違って、降霊できなかったんじゃないですか。それとも、鈍いひとで気付かなかったとか。ああ、もしかしたら失敗して、ぬいぐるみからそのひとに魂が移っちゃったのかもしれませんね。




 もういいですか。そろそろ戻らないと、お夕飯の準備あるんです。今日はハンバーグだから、お肉叩くところからしないといけなくて。あたらしいお家のキッチン、広いから、お料理楽しいんですけど、姉も弟も沢山食べるので用意するのが大変なんですよ。

 お姉ちゃんはお料理できないし、弟はもうそろそろ新居に移っちゃうから、好物食べさせてあげたいんです。

 はい。

 はい、目玉焼きとベーコンのせます。弟はそれが好きなので。姉が食べたがるから、大根おろしもつくらなくっちゃ。売ってる大根おろしは味がぬけてて、おいしくないんです。

 お大根買わなくちゃ。




 あの、ほんとに、ひとりかくれんぼは凄いですけど、おすすめしませんよ。タイミングはしっかり計らないと、わたしみたいに殺人の汚名を着せられそうになりますから。


 (笑い)


 あ、いえ、大丈夫です、歩きで。はい。スーパーで配達頼めるので。はい。


 原稿、できたら、見せてくださいね。

 それじゃあ。





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― 新着の感想 ―
[一言] なにか主人公に得体の知れなさを感じるのです。 本当にひとりかくれんぼの結果で遺体ができあがったのか、この聞き手が本当に出版するのか、会話がきちんと噛み合っているのか、すべて如何様にも読み取れ…
[一言] 一人称の語りかけ、キター!怖いやつだ、怖いやつだ!と思って読んでいて、『塩水』でじんわり止めを刺されました。手順ってなんだよと怯えながら。 何かを見落としているような、すべてをきちんと語られ…
[良い点] ストーカーは怖いですね……
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