高嶺の花の同級生の弟助けたら、別に家族じゃなかったし何だったら男の子ですらなかった
公園にある木の下で、子どもが三人いた。
一人は半袖短パンの、短髪の少年。
日焼けもしていて、元気そうな印象を受ける。
俺の勝手な想像だが、意味もなく冬も半袖で外を走り回っていそうな感じの子だ。
二人目は眼鏡をかけて、不安そうな表情を浮かべた少女。
少年は木に向かって跳び上がったり、蹴りつけたりしているのに比べて、うろうろしては二人をちらちら見ている。
内気な感じの子だし、少年ほど何かアクションを起こす様子もない。
最後のどこかつまらなそうな顔をしている、三人の中で一番髪を伸ばした少女。
精神年齢が誰よりも高そうだ。友達だから一緒にいるだけで、二人のやることには参加しないらしい。
木に背中を預け、読書している。
あの三人がずっと木の下にいるのはきっと、その木の枝に引っ掛かっている二つのランドセルを取るためだろう。
大人びた子のランドセルは横に置かれているし、きっと少年と眼鏡の子のもの。
それを取るために少年が奮闘しているようだ。
俺はそれを遠くから見て、助けてあげるか悩んでいた。
俺は高校一年生の佐藤 ユウキ。
高校生の俺とランドセルを背負うような子どもの間には、面識なんてない。
あの子達と俺は別に近所に住んでいるわけではないので、それも当然だ、年齢が大きく違うとそもそも機会がない。
ただ面識がないだけで、俺は少年を知っている。
知っているといっても、名前も聞いたことがないのだが。
少年は同じクラスの高遠 アカリさんの弟だったはずだ。
高遠さんはクラスどころか学校一の美少女で、誰もが振り替えるような容姿をしている。
少年も目鼻立ちがはっきりしているし、将来は大分格好よく成長しそうだ。
高遠さんとは若干系統が違う気もするが、それも性別の違いからだろう、美形には違いない。
二人の関係を俺が知っているのは、一週間前に、近くのスーパーで彼等が笑顔で手を繋いで歩いているのを見たからだ。
きっと姉弟で買い物をしていたのだろう。
だから俺は少年が誰か分かるが、彼等からしたら知らない高校生が、いきなり話し掛けて大丈夫なのだろうか。
一向に取れそうにないランドセルに、少年は必死に取り戻そうと頑張っている。
けれど悲しいかな、まだまだ小学生の少年ではてが届かない。
取ってあげてもいいのだが、それが事案として周辺に噂されてしまうのは恥ずかしい。
制服を着ているし、ネクタイの色で学年もばれそうだ。
その上で特徴まで出回ってしまえば、しばらくは友達にからかわれそうなのも嫌だった。
そうして迷っていたのだが、眼鏡の子と目があってしまった。
彼女はさっきから、少年のやることを不安そうに、大人びた子には手伝って欲しそうにキョロキョロしていた。
その流れで俺と目を合わせてしまったのだ。
やってしまった。
眼鏡の子は俺をじっと見ている。
これはもう、今助けない方が嫌な思いをしそうな空気だった。
俺は観念して、公園の自販機の隣にあるベンチから立ち上がり、彼等に近付く。
眼鏡の子はまだ俺をじっと見ている。
少年はかなり近寄ってから、俺の接近に気付いたようだ。どこか警戒気味で俺を見る。
大人びた子は少年が静かになったことで顔を上げ、そこで俺を初めて認識し、俺の存在に少年よりも注意を払っているようだ。
けれど彼等のそんな心境なんて、俺には関係ない。
やるべき事をさっさとやるだけだ。
「チビ達、木から離れろよ。あれ俺が取ってやる」
別の日、学校からの帰り道の途中にある、子ども達と出会った公園に差し掛かった辺りで、公園の入り口から飛び出してくる影が3つ。
一番に俺の前に現れたのは、少年だった。
「ユー兄! やっと来たな! 早く遊ぶぞ、自転車停めろ!」
それを追うように、眼鏡の子と大人びた子も来て、俺が遊びに参加するのを待っている。
ランドセルを取ってやって以来、俺は彼等にすっかり気に入られてしまった。
帰り道がこの公園の前を通るのだが、彼等は結構ここで遊んでいるようで、ここで俺を見かけると走って追いかけ、遊びに誘ってくる。
それを俺は3回に2回のペースで付き合っていた。
少年、名前はスバルというが、スバルは俺がランドセルを回収するとあの警戒はどこへやら、キラキラとした目で俺を見始めた。
眼鏡のヒカリちゃんは俺に視線で助けを求め、実際に助けてあげた時点で、俺に思うところは何もなさそうだった。
意外だったのは、大人びたハナちゃんだ。
彼女はランドセルを取った俺をよくやったとか言いたげな感じで、どこか認めたような口調で話し掛けて来た。
それも何回か遊ぶと完全に俺に気を許したようで、足の速さでスバルが俺を一番に出迎えそれに遅れてしまうが、帰りになると一番嫌がるのが彼女だった。
「今日はなにやってたんだ」
「鬼ごっこ。帰りにやっちゃん達がやってたの見て、やりたいなーて」
やっちゃんとやらについては俺もマジで知らないが、友達なんだろう。
その影響で彼等も今日は鬼ごっこにしたようだ。
公園の邪魔にならないところに自転車を押していき、そこでストッパーをかける。
そんな俺のすぐ近くに、笑みを押さえきれないハナちゃんがいた。
「タッチ! ユウキが鬼!」
そう宣言すると、子ども達は公園に散らばっていった。
きっと彼女が鬼で、不意打ちで俺にタッチする機会を伺っていた。それを抑えきれなかったのだろう。
しょうがないと俺は鍵をかけてから、彼等に聞こえるよう10数え始めた。
「スバル。俺もう帰るな」
「えー、もう?」
「もうて時間見ろよ。お前も帰る時間だろ」
「そうだけどさ」
日が暮れ始め、良い時間になってきた。
俺は彼等に帰るよう促す。
そして俺は帰りの準備のために、停めていた自転車を回収しに行く。
それを子ども達はわいわい言いながら、付いてくる。
そこで、今日はいつも口にしていた台詞を、今日は言ってなかったなと思い出した。
「お前ら。ちゃんと親や兄姉に、優しくて格好よくて、頭がいい兄ちゃんに遊んでもらっているって報告しとけよ」
「面白い友達と遊んでるっていつも言ってるよ!」
「う、うん。変なお兄さんと一緒に遊んでるのちゃんと言ってる」
「そうそう、今日もお兄さんと遊んであげるって言ってでてきた」
「ク、クソガキども……」
上からスバル、ヒカリちゃん、ハナちゃんと答える。
俺は彼等の遊びに付き合うに当たって、予防線を張るようにしていた。
つまり保護者に、俺の存在を彼等から伝えさせるようにしたのだ。
俺の行動を本人達から聞かせれば、保護者は少しは安心するだろうし、そうでなくとも俺を不審に思い、子ども達に公園で遊ばないように言い付けたりして遠ざけてくれないかと思ってのことだった。
けれどこの様子だとちゃんと伝わっているか怪しい。
正確に伝えるように言い含めていたのだが、こんなに事実が歪められて届けられるとは。
「あ。そう言えば、今日兄ちゃんが来るって言ってた」
彼等と会うたびに、どこかのタイミングで言っていたことを今言ったからか。スバルは自分の兄がやって来ることを思い出したようだ。
「お前の兄貴て何歳なの」
「たしか18とかだった気がする。姉ちゃんが二十で、その二つ下だったし」
「お前のところ四兄弟だったのか、結構多いな」
「? うちは三人だぞ?」
「え」
それはおかしい。
こいつには、俺と同い年の姉がいるはずなのに、スバルの中では影も形もない。
スバルが何か勘違いしているのではと思い、再確認をしようとして、そいつは来た。
「お前がユウキってやつか」
そいつは180cmに届きそうな大きさの、ヤンキーだった。
がっつりの金髪に、一つも留められていない制服とワイシャツのボタン。
どこかヤニ臭いし、何が何でも関わりたくないようなやつだった。
「……そうだけど」
「お前、うちの妹に近寄るな」
なんだこいつは。
スバルの兄貴かと思うのだが、変だ。
というか、何か会話がどこかで噛み合っていない。
この違和感に、少し黙ってしまったのだが、それを相手は俺が不服に思ったから反抗的な態度と受け取ったようで、寄ってくる。
どすどすと歩いてきて、肩を怒らせている。
その険悪な雰囲気に、子ども達は不安そうに俺の制服を摘まんだ。
スバルの兄貴?は俺の目の前に立つと、胸ぐらを掴んできた。
「聞こえてねえのか」
「聞こえてる。てかお前だれだよ」
例え相手がヤンキーであろうと、この態度には俺も苛ついてきた。
何より、俺の後ろで震えるヒカリちゃんとハナちゃんの手前、ビビっているところは見せたくなかった。
「聞こえてんなら、そういうことだ。金輪際うちの妹に関わるな」
「兄ちゃん、どういう」
「スバルは黙ってろ」
どうやらこれは、こいつの暴走か何かのようだ。
スバルは納得がいかないが、俺を本当に友達として家族に伝えていたようだ。
それをこいつは言葉通りに受け取らず、俺をスバルに近寄る変質者と思って釘を刺しに来たようだ。
はっきり言って、うざい。
俺はまあ、別に子ども達と遊ぶのはそこまで何とも思ってはいない。
たまになんで俺は同年代と遊ばないで、小学生と全力で走り回っているのだろうと思うことはあるが、全く楽しくないかと言われると嘘になる。
俺に絡んでくる子ども達も楽しそうだし、彼等が飽きるまでは付き合ってやるつもりだった。
そして俺はそのために、彼等が楽しめるように、多少は気を配って接していた。
彼等の保護者に俺の存在を報告させていたのもその一環だ。
ちゃんと保護者に聞かせて、その上でなんと言っていたか、俺は彼等から聞き出していたのだ。
彼等の保護者は、俺に、少なくともマイナスなイメージは持っていないようだった。
なんというか、新しい友達できて良かったねというようなニュアンスだった。
彼等の保護者があまり悲観的な考えをしないタイプなのか、それとも俺の配慮を受けて信じてもらえているのかは、正直分からない。
兎に角言いたいのは、俺は想像以上に彼等の今の楽しみのために、いろいろ考えているということ。
「お前、馬鹿かよ」
「てめぇ。本性表したか?」
「本性も何もねえよ。子ども達がビビってるんだよ。わざわざ目の前でやることなかったろ」
俺の発言に、考えが至ったようで、そいつは少し怯んだ。
ヒカリちゃんとハナちゃんの様子から、きっとこの二人はスバルの兄貴と知り合いではない。
そんな二人をいたずらに怯えさせたのは、彼にとっても本意ではなかったのだろう。
「場所変えようぜ。もうこいつら帰る時間だし、俺だけでいいだろ」
「それは、そう、だな……」
俺の言葉を受け入れてくれたようで、彼は手を離し、俺についてこいと顎をしゃくる。
それに頷き、振り向いて子ども達に言う。
「悪いな。スバルの兄貴と少し話があるから、今日はバイバイだ」
「あ、うん……」
「なあ、俺は!」
「スバルも帰っとけ。時間だろ」
そして俺はスバルの兄貴に付いていった。
子ども達に見えないところまで連れていかれると、そこでいきなり殴られた。
「くっ!」
「いきなり悪いな。たださっきから俺はムカついているんだ」
スバル達が俺よりだったからか、それとも俺の態度にかは知らないが、スバルの兄貴は俺にその怒りをぶつけた。
そして俺はそれをおとなしく受け入れる程気が長くない。
「上等だ! こっちの方が話が早い!」
「!?」
俺は中学以来の本気の殴り合いに挑んだ。
結果からいうと、スバルの兄貴は見た目とは裏腹にめちゃくちゃ弱かった。
俺自身あまり喧嘩なれしていない自覚はあったのだが、それに負けるほどこいつは弱かった。
「落ち着いたか」
「く、くそ……」
横たわるそいつの隣に腰をおろし、事情を聞こうと思った。
「で、なんであんな事をしたんだよ」
「お前が変態だからだ」
「ふざけんな」
俺はもしかしたらスバルから正確な話を聞いていないのではないかと思い、スバルの兄貴に彼等との出会いから一応説明する。
すると本当にあまり話が伝わっていなかった。
改めて俺からの説明に、心なしか少しだけ俺に対する見方が変わった気がする。
少しは俺と話をするつもりになったようで、自分の知る内容を話してくれるようになった。
スバルから聞いたことと言えば、新しい友達に遊んでやっているというような内容。
彼の聞いた内容だと、まるで俺が小学生に取り入ろうとする変態だった。
「クソガキめ。今度あったらおぼえてろよ」
「おい。スバルに手を出したら」
「お前みたいに殴ったりしねえよ。てかお前喧嘩弱すぎないか」
「それは……」
どうやら普段は大人しい奴のようで、喧嘩なんて小学生の時にすらやっていなかったようだった。
そんな奴であったが、変態から妹を救い出すために、人生で初めて髪を染めて、制服を着崩して雰囲気をだし、俺に会いにきたという。
タバコ臭いのは、バイト先の喫茶店で喫煙席に出入りするからそのせいらしかった。
そして緊張であまり考えが回らず、それでヒカリちゃんやハナちゃんに迷惑をかけることになり、申し訳なさそうだった。
「あの子達には怖い思いをさせてしまった」
「お前明日からこの公園に来いよ。そこで謝って、お前も明日からあいつらと遊べ」
「は?」
今回の騒動の一因は、俺の信用のなさにある。
それを解消するために、こいつにいてもらうことを天才の俺は考えた。
男子高校生二人が小学生と遊ぶなんて、知らない人に見られたら今までよりもっとヤバそうだが、こいつらの家族に変に思われるよりずっと良い。
ヒカリちゃん、ハナちゃんの家族も、友達のスバルの兄ならば、この前であったばかりの俺よりは安心できるだろう。
何より、子ども三人と遊ぶには、体力が持たない。
「……わかった。お前が妹から離れるつもりがないなら、見張ることにしよう」
「帰り道の途中なんだよここ。それであいつらに帰りに見つかって、付き合っているだけだ」
「信じられるか」
こうして、とりあえずは事態は収束したのだった。
翌日。
俺はヒカリちゃん、ハナちゃんにめちゃくちゃ心配された。
「あ、あの! 守ってくれるのは良かったんですけど、お兄さんが怪我するのは良くないから、えと、その」
「格好つけすぎ。ちょっと良かったけど、でも危ないことは良くないから」
そして少し怒られてしまった。
「スバルはどうした」
「なんか昨日の人と一緒にくるみたい」
ハナちゃんは知っていたようで、あっさり答えてくれる。
まあ兄貴があんなことしたら顔合わせ辛くなるのもしょうがない。
その兄貴は、学校が俺より遠いところらしく、来るのに少し時間がかかるようだった。
彼等が公園に来たのは、俺が到着してからだいたい一時間程後だった。
スバルは兄の後に隠れて、あまり目を合わそうとしない。
それは俺だけでなく、友達の二人にもだった。
スバルの兄貴、名前はリクというようだが、そいつの第一声は謝罪だった。
「まずはいきなり殴って本当に悪かった。服とか怪我とか、痛むようなら言ってくれれば弁償する。本当にごめん」
そういってリクは頭を下げる。
一晩置いて、改めて自分の信用の無さもしょうがないと思い直したことと、リクが弱すぎて、怪我も服に汚れもなかったことから、彼のことは許した。
そしてそのことをあまり彼を刺激しないように伝えると、今度はヒカリちゃんハナちゃんを見る。
「ごめん二人とも。スバルの事が心配で、昨日は暴走してしまった。本当に怖い思いをさせて申し訳ないと思っているんだ。そして、俺のことを許してくれなくてもいいけれど、これからもスバルとは仲良くして上げてほしい」
その言葉に二人は。
「まあ、スバルちゃんは友達だし……」
「許してあげる。けど、今度変なことしたら、お兄さんがぼこぼこにするから、覚悟してね」
と特に悩んだ素振りもなく許した。
リクは安堵していたが、そんなものだろう。
三人揃ってリクに怯えていたのだ。スバルも仲間と思っていてもおかしくない。
そして一番気にしていたのはスバルだった。
自分の兄が突然やらかした立場なのだ。俺や二人と会いづらかっただろう。
謝るにしてもどう謝ればいいか分からないようで、会話もままならない。
ここは俺から切り開くべきだろう。
「あー、スバル、本当に悪かった。ごめん」
俺の突然の謝罪に、全員が訳が分からないようで、困惑の表情を浮かべる。
それを無視して言葉を続ける。
「俺、お前のこと男だとおもってたわ」
スバルは、その言葉の意味を理解すると、だんだん震え、顔も赤くなっていった。
「ふざけんなー!!」
さらには俺に突撃かましてきて、ぽかぽか殴ってくる。
「だから悪かったって!」
「許さない! 俺、あの時、いや、絶対に許さない!!」
そうして。
俺の発言に有耶無耶になり、スバルはなんだかんだ元の輪に戻れた。
俺は相変わらず子ども達に遊びに誘われ、参加したりしなかったりしている。
変わったことは幾つかある。
一つは公園にふらっとリクが来るようになったこと。
そしてリクとは小学生組がいなくとも遊ぶようになったこと。
もう一つは。
「佐藤くん、すっごい格好良いんだね」
高遠さんとよく話すようになったこと。
妹を助けてくれてありがとう、とあの日のことを見ていたようで、それ以来話し掛けて来るようになったのだ。
「あーんな怖い人から子ども守るために、立ち塞がって、すごい尊敬しちゃった」
「見てたの?」
「うん。妹とお友達を家に送って、すぐ戻って警察呼ぼうかと思っていたら、あの金髪の人、佐藤くんがぶっとばしてたんだもん。びっくりした」
「見てたんだ、なるほどね。ん、ていうかあそこに妹いたの?」
「知らなかったか。私の妹、眼鏡かけてた子なんだけど、ヒカリちゃんて言うんだよ」
連載しているざまぁ系というか、見返してやる系のハイファンタジーの中では出来ないこと書きたくなった。
完全にいれ忘れていましたが、スバルが迷子だったのをアカリに助けてもらったところを主人公に見られていただけです。




