近くの森
翌日、学校で配るマフィンをいくつか袋にいれて貰い、風魔法を練習しながら登校した。
「レイラ先生、これ良かったら食べてください。マフィンっていいます」
「あら、マフィン? 聞いたことないパンの名前ね」
やっぱりパンという認識だ。もちろん、パン屋の娘が持ってくるものだから、パンだと思われるだろう。レイラはすぐに一口食べて、目を丸くした。
「甘くて、美味しいわ! これ!」
「昨日からうちのパン屋で販売している新商品なんです! 良かったら、先生も買いに来てくれると嬉しいです!」
「ええ、是非買いにいくわ!」
レイラはマフィンを気に入ってくれたようで、あっという間に食べ終えた。
授業の開始時間は過ぎているが、私は記憶がない分の授業が遅れている為、まだまだクラスには入れないのだ。なので、今日の実習授業もレイラと2人だけで近くの森に薬草採取に行く。
「今日は近くの森に行きます。準備はいいですか?」
「はいッ!」
回復魔法が使える人には不要なことも多いらしいが、使えない人にとっては、薬草での薬作りというのも必要だという。黙々と机で勉強するよりも外に出ての勉強は楽しい。
近くの森でも魔獣は出るが、ほとんど小型の魔獣らしい。でも、時々他の森から強い魔獣が入り込むこともあるので、子供は1人での立ち入りは禁止されている。
私は事前に森で採取したものを持ち帰れるか確認していたので、今日は近所のおばさんに作って貰った大きめのマイバッグ持参している。
色々採って、新しいお菓子を作るんだ!
森に入ると、すぐに木の実がたくさん落ちていた。
「レイラ先生、この木の実ってなんですか?」
「これは、タトルの実よ。種の部分を焼いてから食べると美味しいのよ」
レイラはクルミのようなタトルの実を割って、種を焼いてくれた。
―これ、アーモンドの味がする!
私はポケットに入れていたマイバッグを取り出し、タトルの実を詰め込み始める。その姿を見たレイラが笑いながら、教えてくれる。
「タトルの実は、この森のどこにでも落ちているから、後から拾った方がいいんじゃない?」
「そうなんですか!」
私はマイバッグをひっくり返し、すでに入っていたタトルの実をドバっと落とした。まだ森での採取は、これからだ! もっとすごいものが手に入るかもしれない! 私はワクワクしながら、マイバッグを折りたたんで、ポケットにしまった。
しばらく歩くと、小さい池が見えてくる。近づいてみると、その池の周囲にだけは植物が生えていない。
「レイラ先生、どうしてこの池の周りには植物が生えていないんですか?」
「ここの水は、ものすごく甘いから、植物はすぐ枯れてしまうのよ」
覗いてみると、水が透き通っていて、底の部分が茶色になっている。タトルの木が多いところは、池ができやすく、タトルの樹液が土に染み込み、池の水を甘くするそうだ。
ちょっとだけすくって舐めてみると、ものすごく甘い。そして、土でろ過されているのか、タトルの樹液特有の味がほとんどなく、砂糖水になっていた。
― ほ、欲しいッ!!!!
だが、今日は持って帰れない…なんで私は液体の入れられる入れ物を持参していないんだ! 自分の頭の回らなさにアーーッ! となりながら、泣く泣く諦めることにした。
レイラが先に進むというので、タトル池に後ろ髪を引かれる思いで、森の奥に進んでいく。しばらくすると、少し開けた場所にでた。ここには、薬になる薬草がたくさん生えていて、レイラから確認してもらいながら、薬作りに必要な薬草をマイバッグに詰め込んだ。
正直、薬草じゃなくて、お菓子の材料になるものがいいんだけど…
薬草を探しながら、お菓子の材料になりそうなものを探していると、木の根元にキノコが生えていた。
まさかの…マツタケ!?
私はすぐにレイラを呼んで食べれるかどうかを確認する。すると、レイラがキノコに手をかざし、呪文を唱える。
「ルシェール……これはダメね、毒があるわ」
博識なのかと思っていたが、食材情報がわかる魔法があったのだ。
「レイラ先生、そのルシェールの魔法、どうすれば使えるようになりますか?」
「魔法店に売ってあるわよ。そんなに高い金額じゃなかったと思うけど」
「やっぱり、買わないとダメなんですね…今、うちにはお金がなくて…」
「そう…なら、マフィンと交換しましょう!」
レイラは、マフィン10個と《ルシェール》の魔法を交換することを約束してくれた。
元気になった私をみて、レイラは学校に戻る準備を始めた。戻る際中も色々食材になりそうなものを探したが、結局タトルの実をマイバッグいっぱいに詰め込んで戻ることになった。
学校に戻ると、採ってきた薬草で薬の作り方を習い、今日の授業が終了した。
私はパンパンのマイバッグを地面に擦りそうな状況で持っていると、トトルが半分持ってくれる。
「姉ちゃん、こんなにタトルの実、集めてどうするの?」
「ふふふ、楽しみにしててね!」